堕天使の事件が解決した。まだほとぼり自体は冷めていないものの、もう毎日背中を心配することはしばらく無いだろう…そうにも関わらず俺は最早日課になりつつある朝トレを、いつもの森林で続けていた
「ふうぅぅ…」
グレモリー達と教会で別れた次の日、俺は一睡も出来ずに朝を迎えた。所謂ヤケクソでトレーニングを始めたんだ。それでも、今は精神も安定しているので、しっかりと練習に励んでいる
「…っ!はあっ!」
で、今は何をしているかだが、魔力戦闘を鍛えている所だ。そんでたった今俺は片手に力を集中して魔力を集め、手頃な岩にぶつけた所…だけど一発で壊れず岩にヒビしか入れられなかった
「ダーメだ!魔力が効率的に使えねえよ!っ!?いっつつつ…!」
この前の戦闘で気付いた事があった。攻撃に使う魔力制御がまだまだお粗末だということだ。力任せに魔力を出せば確かに相応の威力もあって問題ないだろうが、それだと長期戦、多対一の場合だと即行ガス欠でお陀仏になる。この篭手があればガス欠は心配無いだろうけど、それを待つ程敵だって馬鹿じゃないはずだ。もっと魔力を少なく効果のある使い方をしないといけない。堕天使の脅威が無いとはいえ、それなりに今後ちょっかいは掛けてくる奴らだっていないことも無いだろうし、何事も警戒すべきだ
「くっ、それでももう限界…魔力すり減らし過ぎて怪我の補助に回す魔力が…クソぅ」
ちなみに言っとくが俺は人間だ。血反吐垂れ流して昨日今日で治る訳が無い。今も病院に行かず最低限の処置を加えた上で魔力補助を使い、ようやく普通の生活が出来る位に回復してんだ。おかげでボクシング以外の体術でもやろうにも出来ない始末、せめて魔力だけでもってやってた結果、今に至る
「あ、いた」
「っ!…あ、お前」
すると俺の背後からもう察し慣れた魔力を感じて振り向くと、案の定昨日まで敵対していた堕天使、レイナーレがいた。今回はきっちり私服を着て
「悪いわね、修行の邪魔したかしら」
「いんや、もう終わる所だった。体に響くしな」
「そう…」
レイナーレはそれだけ言うと、地べたに座り込んでいた俺の隣に座り、ただ遠くを見ていた
「私、一度アザゼル様の元へ行こうと思う。罪を全て明かして、自ら償いたいって言いたいから」
「…おう」
「あなたがくれたチャンスは、絶対に無駄にはしない。生きる事で苦しみ続ける事になるでしょうけど、私はあなたが指し示した希望を進みたい」
「そうか」
真剣な話にあんまりな答えだとは思うけど、俺がこいつに生きろって言ったのは罰を受けろってことに変わりない。その後の事は自分で決めろって言ったのであって、こいつの言う希望ってのはもっと先の方にしかない
「…アーシアとは話したのか?」
「ええ、最初は怯えられたけど、話を着けてきたわ。あの子は、自分を殺した私を笑って許してくれたわ。聖女と呼ばれていただけあって、本当に慈悲深いと思うわ」
「あいつは聖女じゃない、アーシアだ」
「っ!…ふふ、そうだったわね」
互いに口数の少ない会話だったけど、彼女は言いたいことを全部言い終えたのだろう。立ち上がり、俺に背を向けた
「ありがとう、近衛剛…いえタカシ。誰よりも平凡でお人好しな人間さん?」
「勘違いだぜ、俺は臆病なだけさ。高い所に手を伸ばしたから、勝手に自分で気に病んでる道化みたいなもんだ」
「生きる者なんて皆そうだとは思わない?欲しいものを何が何でも手に入れたいという願望に忠実なのは、本能と言うべきよ。あなたは力という自信をつけ、願望に手を伸ばしたに過ぎないわ。私もそれに失敗して、今に至るのだけど」
「はっ、経験者に言われちゃ説得力あり過ぎだっての」
こいつは何でも良い方向に持って行き過ぎだとは思うけど、言いたい事については理解出来る
「あなたが私にしてくれたことは凄いことよ?少し間違えれば悪魔全てから敵対視される危険だってあったの。普通なら、私はあそこで消えていた…失敗が許されない禁忌を犯した私に命を与えてくれた。これを感謝せず何と言うの?」
「結果論じゃねえか?俺は失敗を一生引き摺る奴なんだ…ま、感謝はもらっておくよ」
もうこいつと話す事もない。俺もレイナーレから背を向け、歩き出した
背中に柔らかく衝撃を受けるまでは
「失敗が怖かったら、強くなればいいじゃない」
「っ!?レ、レイナーレ!?」
何故だし!?いきなりレイナーレに後ろから抱きつかれたんだけど!あれ、俺こんなラブコメ想定外ですけど!?
「あなたは強くなれる。タカシのものでなくても、タカシには『赤龍帝の篭手』がある。そして魔力の才も持ち合わせている。人の身でありながら、あなたは高みを目指せる可能性がある。欲せば与えられん…そんなものよ?」
「…信じていいのかな?お前の言うこと」
「あなたが信じるならば、私は協力を惜しまない。これでも実力は悪くないのよ私」
「はは、昨日まであれだけ罵倒しあってたってのに、今じゃ励まされてるたぁ…何とも数奇なもんだねえ人生」
ここまでしてくれる彼女を感じると、俺があそこで戦った事にも、意味があったのだろうかと思ってしまう。アーシアを死なせてしまったが、今はきっと悪魔としてグレモリーの元で生きているとなると、今までの運命から解放されたと考えても良いのだろうか
「最後に!あなた魔力を形にするとき、イメージが曖昧なんじゃないかしら?今まで受けてきた私らすると、タカシは魔弾や伸びる手みたいな抽象的なイメージのものを活用していただけに見えるわ。今の修行も、丸い玉を小さくして放ってるようだったから、アドバイス!」
レイナーレが俺から放れると、俺に向けて指一本立ててウインクしてきた。不覚にも可愛いと思ったのは黙っておこう。元々容姿はかなり美人なんだけど
「じゃ、またね!」
「先がどうなるかなんて分かんねえから約束しねえよ。でも、会える努力はしとくよ」
「素直じゃない奴!」
レイナーレが羽を広げて魔法陣に入ろうとしていたが、俺は目を逸らした。何か気恥ずかしくて顔が熱いし
結局、レイナーレはこの街を去り、俺はレイナーレが去った所から背を向け、帰路に立つ
「今日の飯は~、卵使い切るか。後米もそろそろ無くなるし、使って帰り際買うとしよう」
今日一日の飯事情を考え、俺はコンビニで適当に買った野菜と肉を持ってアパートに着いた。コンビニってマジ万能、欲しいもんがすぐ買えるから
「はあ…疲れたし包帯変えて怪我の具合でも見、て…」
ドアを開けて、言葉が詰まった。俺の視界に人がいたからだ。第一、家主の俺がいない家の中に人がいることに疑問を感じたが、それ以上に目の前の人物がいることに驚きを隠せなかった
「アーシア…?」
「っ!あっ、タカシさん。そ、その…おはようございます!」
緊張しながら挨拶してきた彼女は、間違いなくアーシア・アルジェントだった。ただ着ている服は修道服ではなく、駒王学園の女子制服であり、恐らく駒王に通う事になったのだろうと予想出来た
「え、なん…で」
本当はここで白々しく何してんのと言うべきなんだけど、どうしても色んな所で言わなければならない事があり、何も言えずにいた
「あら、帰って来たのね。お帰りタカシ」
「…タカシ先輩、お邪魔してます」
「や、やあタカシ君。ごめんね勝手に」
「あらあらお帰りなさい。ご飯が出来てますわよ?」
「……ふぅ」
そう…当然のように寛いでる連中を見た瞬間、俺の第一声は決まった
「何処から沸いてきたてめぇらああああああああ!!!」
まずは不法侵入について問いただす必要がありそうだ
「ぜえ!ぜえ!てめえら国家舐めてんのかコラ…庶民にも人権とかプライバシーやらがあんだよボケ!管轄か知らんが人間の常識弁えて行動しろ!」
「「「「すいませんでした…」」」」
「あらあらうふふ!」
十分程怒鳴り散らしてようやく懲りたらしい、ただいま正座中のグレモリー他一同。若干一人全く堪えてなさそうだけど
「はい、粗茶です」
「あ、ども…じゃなくて姫島さん!あなたも同罪!てかあなたこのやんちゃ姉さんのストッパーかと思ってたのに何一緒に犯罪に加担してんすか!」
「それが面白そうだったからですわ」
そこに山があったからみたいな返答に軽くイラッとしたが、この人相当図太いぞ
「ちょっとタカシ!やんちゃとは何なのかしら!」
「自分の行動を思い返してよ~く考えろ!つか、なしてあんたらこんなに来た?用があんなら呼び出しゃいいものを」
「あ、それについては後でいいわ。それよりも…アーシア?」
「あ、はい!」
するとアーシアが正座から立ち上がり、俺の方を見た。でも足が痺れてまた座り込んだ。何してんだか…
「うぅ…!あ、あの!タカシさん…こうしてお話するのは初めてですね」
「え?あ、あぁ!そうだな、てかアーシア日本語話せたんだな!発音も綺麗じゃねえか!」
確かに、アーシアとこうしてキチンと会話するのは初めてだ。日本語で話してもソプラノ調で綺麗な声だと思う…どもりはしたが、アーシアが悪魔とは知らない風に話せてるとは思う。この子と向き合うには、こうでもしないと…俺が保たない
「…タカシさん、知ってますよ?あなたがレイナーレさんから私を助けてくれたこと」
「っ!?へ?な、何のことだよ。俺、あん時お前が連れ去られてから気を失って朝まで起きてなかったんだぜ?助けに行ける訳が」
「嘘を付かなくても知ってます。私、神器を失ってからもまだ少し意識があったんです」
っ!!…マジかよ
「……そっか、なら知ってるよな?俺はお前を助けられなかった情けない野郎ってこと。アーシアを悪魔にしちまった原因が全て俺だってことも…」
言えば言うほど虚しくなる。アーシアはきっとそんなことを気にして俺に会いに来た訳じゃない。きっと…
「いいえ、タカシさんは救ってくれました。私を、敵であるレイナーレさんをも。これを恨みで返すだなんて恩知らずなこと、誰が出来ましょうか…」
レイナーレと同じで、感謝を言いに来たんだ。俺の右手を取り、両手で包んで微笑み掛けてくるアーシアは、そういう子だって…もう分かってるじゃないか
「…ごめん…ごめんなアーシア…ホントに、っ!助けきれなくて…ぅっ、ホンドにごめ"ん!」
「謝らないで下さい…私は…幸せなんです。あなたがくれた平穏な暮らしは、私の夢で…最高の幸せなんです…」
涙が抑えられなかった。アーシアが握ってくれる手に、生きている温もりを感じて、思わず両手を握り返して泣いた。その姿は、正しく跪いて懺悔する人を優しく包むシスターだった。そのシスターも、とめどなく涙を流して、俺を抱き締めてくれた
「俺達…友達だから。誰もお前を認めなくても、俺はアーシアの友達だから!二度とこの手は離さないから!今度こそ…お前を守りきってみせる。その為にもっと強くなるから!」
「タカシさん…はいっ、ずっと友達です!」
ボロボロ泣いてる俺とアーシア。でもお互いの顔を見ると何故かおかしく感じてしまい、笑ってしまった。俺にとっての平穏はアーシアの幸せ、か…何を平穏と感じるか、何を幸せと感じるかはその人次第なんだよな。きっと
「さて、話に区切りがついたのなら、早速新入部員の歓迎会をしましょう!私の手作りケーキだけど、朱乃の料理の後に食べましょう!」
「うふふ、私がよりをかけて作った料理ですので、召し上がって下さい」
「…お菓子もたくさんあります」
「おい、それ家にあった菓子だろ!」
だとしたら、ここにいる奴らが当たり前のように側にいることも、俺にとっての"今の平穏"であり、"幸せ"なのかもしれない
「同じ男子部員として、改めてよろしく!タカシ君」
「よろしくイケメン、せめて仲良くやろうや」
なら俺は、こいつらを常に前に出て守れる位強くなり続けなきゃいけない。もう、無力で失う事が無いように
「あ、それと!タカシ、あなた今日から駒王学園に転校する事になったから」
「…は?」
あれ?おかしいな、俺の耳が雑音を拾ったような
「それと、住居も学園に近い一軒家に引っ越してもらって、そこにアーシアも住むことになってるから、よろしくお願いね?」
「……はああああああああああああ!!!??」
待て待て待てい!聞いてねえぞ?何勝手に決めてんの?俺に決定権は無いのか!?
「あの、タカシさん!不束者ですがよろしくお願いします!」
「その意味合いヤバいから止めなさい!てかグレモリーこらあ!半日もしない間に何しとんじゃてめぇ!」
「あら、言ったじゃない。オカ研に入るなら相応の環境を提供するって?」
「何を今更みたいな顔してんじゃねえ!そんなホイホイと話が上手く行く訳が」
「公爵家の力を舐めないで頂戴?それに親類の方々には既に話をつけてるから、今からでも引っ越し業者(悪魔関係)が荷物を運んでくれるわ」
…交渉の前から詰んでいるだと!?
「さて、ではあなたの駒を決めるとして」
「待てグレモリー!転生だけは止めろ!入部以外は口にしてないはずだ!俺はまだ人を止める気は無い!」
「…分かったわ、無理には言わないわ。ただし!私には今後敬語で、後グレモリーや先輩ではなく『部長』と呼ぶように」
「……くっ、ぐあああああ!!畜生!俺の平穏があああああ!!」
……やっぱり、こいつらといたら平穏なんてありゃしねえよ!
ようやく一部完結…話をまとめれない作者の力が伺える…
次回は一度閑話としてグレモリー視点から今までを振り返ってみます
それでは次回