ダンジョンにアイドルを求めるのは間違っているのだろうか 作:KINTA-K
おかしい。どうしてこうなった?
さっさとダンジョンに潜ってPに背中をなぞられて恥ずかしがる卯月たちを書きたいだけなのに。
シャクティの言葉使いとかはよく分からないんで適当です。やたら台詞多いけど、出番は多分これっきりなんで。
次回はP側の話。
P達が連れて行かれたのは、巨大の象の頭が門になっている神殿――ガネーシャ・ファミリアの本拠地だった。
(象の口が入り口とか、趣味悪いな)
P達はそんなこと思ったが、さすがに口にはしなかった。ガネーシャだけでなく、彼の護衛の者も似た様な仮面を被っているのだ。彼らにとって象が神聖な物なのは容易に想像できる。迂闊なことを言うべきではない。
ガネーシャは象の口の前――扉の前に立ち、声を張り上げた。
「今帰ったぞ!」
「……お帰りなさいませ、ガネーシャ様」
しばらくして門が空き、一人の長身の女性が恭しく礼をしながら出てくる。油断のないたたずまいと、さり気なく周囲を探る理性的な切れ長の瞳は、彼女が只者ではないことを感じさせた。それもその筈、彼女は巨大ファミリア、ガネーシャ・ファミリアの団長を務めているLv5の冒険者だ。名をシャクティと言う。
「おおっ、シャクティよ、出迎えご苦労!早速だが頼みがある!」
「何でしょうか?」
「しばしの間、この3人の娘達を預かってくれ。この娘たちはオラリオの事に疎い見たいだからな。その間、この都市のことを説明してやると良い。ああ、そうだ。目立たない様に普通の服も与えてやれ!」
「承知いたしました」
結構な面倒事を頼まれたのだが、嫌な顔一つせずに二つ返事で引き受けるシャクティ。しかし、その内容に卯月たちが慌てた。
「ま、待ってください。プロデューサーさんは一緒じゃないんですか?」
「うむ。我らがこれから向かう所は、人間は連れて行くことができぬのだ。悪い様にはしない、しばし待っておれ」
「人間って……プロデューサーとちひろさんも人間だと思うけど」
「いや~、確かに人間離れしているところはあるけどね」
未央がつい余計な突っ込みを入れてしまい、凛に睨まれて慌てて引っ込む。いや、Pが人間離れしていることには凛も異論は無いのだが。
その言葉に、ガネーシャは不思議そうに首を捻った。
「ふむ、お前たちはこの二柱の付き人では無かったのか?」
「いや、この3人は俺のアイドルなんだが……」
Pは先のやり取りから、ガネーシャが自分を神と思っていることに気付いていたが、本人には全く自覚がないため困惑するしかない。
「偶像(アイドル)?普通は彫像などを作るものだが、人間にやらせるとは中々新しいな!だが、それなら男の方が良かったのではないか?」
「いや、俺は女性アイドルのプロデューサーなんで……」
「まあまあプロデューサーさん、とりあえずここはガネーシャ様に従いましょう」
今一かみ合わない会話を遮って、ちひろが口を挟む。
「確かに俺はここオラリオで巨大派閥を築いているが、元は同じ神。敬語は不要だぞ?」
「いえ、恐らく私はガネーシャ様よりも位が低いので」
「むう……よく分からんが、まあ良かろう。ならばそろそろ行くぞ!着いてこい!」
返事も待たずに先に行くガネーシャに、護衛が慌てて着いて行く。Pは訳が分からず、混乱の極致だった。ちひろが何か知っていることだけは察せられたが。
「ちひろさん?」
「質問は後でお願いします。卯月ちゃん、凛ちゃん、未央ちゃん、それ程時間は掛からないと思いますので、ちょっとだけ待っていてくださいね」
「は、はあ……」
「ちひろさんが言うなら……」
ちひろに言われて引き下がる3人。ちひろは3人を満足げに眺めた後で「では行きましょう、プロデュサーさん」とPを促してガネーシャの後に付いて行った。
「(……ま、なる様になるか)3人とも。ちょっと待っててくれ。なるべく早く戻るから」
Pは3人を置いていくことに一瞬躊躇したが、すぐに切り替えて一言残し、大人しくちひろの後に付いて行った。
「さて、それでは客室に案内しよう。着いてこい」
「「「は、はい」」」
P達を見送った後、シャクティは卯月たち3人を促して神殿へと入って行った。
入った途端、視界に飛び込んできた豪華なロビーの内装を見て、未央が目を輝かせる。
「わぁ、凄いよしまむー、しぶりん!なんかRPGのゲームの中みたい!」
神殿の中は外観の期待を裏切らず凝った装飾の施された白亜の柱に、大理石の床と未央の言うようにファンタジーRPGさながらの造りだった。ところどころ象の彫刻が飾ってあるのはガネーシャファミリア故か。
因みに、未央本人はテレビゲームはほとんどやったことが無いのだが、弟が好きだったためそこそこ知識がある。逆に卯月と凛は時間つぶしにスマホのゲームをたしなむくらいで、ほとんどゲームとは縁が無い。それでも現代日本人として未央の言っていることは理解できた。いや、凛に至っては海外の遺跡の前で撮影を行った経験があるくらいだから、むしろ未央よりも詳しかった。
「未央、あまり騒がしくするのは良くないよ」
それ故か、内装に対する感動も未央程ではなく、逆に窘める余裕があった。
「あ、ご、ごめん……」
気まずそうにしゅんとする未央に、先を行くシャクティが気さくに笑いかけた。
「ははっ、構わないよ。ガネーシャファミリア自慢の神殿だからね。楽しんでもらえるのなら、こちらも嬉しい」
ぱっと見取っ付き悪そうな冷たい印象を受けたが、意外にも話の分かる相手だったようだ。むしろ無邪気な未央の様子を見て嬉しそうに目を細めている。
「え!じゃあ色々見て回っても?」
「見張り付きなら構わないけど、それは話が終わった後だね。まずは客室に案内しよう」
「は、はい」
シャクティの言葉にかしこまったように頷く未央。話の分かる相手であるのは理解できたが、それでも素直に言葉に従ってしまうようなオーラが彼女にはあった。こう見えても未央とて魑魅魍魎跋扈する芸能界で生きてきたのだから、威厳のある相手と話す経験は何度かあったが、それらとは一線を隔てた雰囲気が彼女にはあった。
(ねえねえ。なんかさ、シャクティさんって、こう……凄くない?)
(う、うん。私もうまく言えないんですけど、何か逆らえない様な雰囲気を感じます)
(うん……この感じ、やっぱり只者じゃないね)
この会話はシャクティに聞かれない様にと小声だったが、耳の良いシャクティにはばっりちり聞かれていた。
卯月たちが感じているのは、正に生き物としての格の差だ。一般にレベルが上がることは、それだけ神に近づくと言われている。卯月たちはそれを無意識に感じ取っていたのだ。
(……勘の鋭い娘達だ。意外と成功するかもね)
オラリオは冒険者の都市だ。さすがにLv5の自分に届くことは難しいだろうが、強くなる見込みがある冒険者が増えることは大歓迎だった。
別に彼女たちが冒険者になると決まった訳ではないが――何やら複雑な事情があることだし、そうなると冒険者を選ぶ可能性は非常に高い。
前途有望な冒険者が増える可能性を感じて、シャクティは少しだけ顔に喜色を浮かべた。
通された客室の造りも、神殿のロビーに負けず劣らず豪華だった。
卯月たちは質のいいソファに恐縮そうに腰を下ろし、シャクティからこの都市――オラリオの説明を受けていた。
特にドワーフやエルフと言った異種族の話はファンタジーRPGにそこそこ詳しい未央を興奮させた。リアル猫耳とか、みくが羨ましがるだろうなーとPと同じようなことを3人とも考えたのはご愛敬だが。
そして、当然の流れとして、迷宮都市オラリオの中心部に位置するダンジョンの話に辿り着いた。
「私達冒険者はこのダンジョンの探索をすることで生計を立てている」
「ダンジョンを探索することで、ですか?」
「ああ。どういう仕組みかは分からないがダンジョンからは常にモンスターが生まれていてね。彼らの核になる魔石はこの都市の生活の基盤を支えるエネルギーでもあるんだ。そのため、ギルドが魔石を管理して冒険者から買い取っている」
卯月達の暮らし現代の話に例えるなら、魔石は電気と同じようなものだ。それ故に需要は尽きないし、それを定期的に確保するためにダンジョンに潜る冒険者が必要となる、と言うシステムだ。
「おおっ、ますますRPGっぽい!」
「でも、危険じゃないんですか?」
「無論、危険だ。それこそ、毎日のように命を落とす冒険者が現れる。見返りが大きい分、当然リスクも大きい」
「あの……神様が居るのなら、生き返ったりとか……」
「多少の怪我……いや、生きていれば大抵の怪我なら奇蹟の力で治せる可能性はある。だが、死んだらそれまでだ」
「「「…………」」」
思ったよりも過酷な世界に押し黙る3人。その様子に、シャクティは先ほど感じた期待を少し下方修正しつつも、それでも3人に伝えた。
「私はあなた達がどこからどのようにしてこの都市にやって来たのか知らない。報告によると、街中に突如として現れたと言う話だから、何かしら複雑な事情があるのだろう」
「「「…………」」」
沈黙で答える3人。そもそも、3人ともどうしてここに来たのか理解していないのだから、答えようが無かった。
「もしも、元の場所に戻りたいと考えているのなら、冒険者となってダンジョンを攻略するのが一番の近道だと思う」
「……なぜ、ですか?」
「ダンジョンの最深部には何があるのか誰も知らない。まだ、そこまで到達できた冒険者は一人もいないからね。そこに何があっても――どんな願いでも叶えることができる神秘の道具があったとしても、不思議ではないんだ。ダンジョンは、それだけの力を秘めている」
「それは……その通りかもしれないけど……」
「もっと現実的な話をすると、あなた達はこの都市でどうやって生きていくつもりだ?」
「どうやってって、それは――」
言いかけて言葉に詰まる。元の世界ではアイドルをやっていた。そのような娯楽産業で生活できるのは、元の世界が豊かであったからだ。死の危険を賭してまでダンジョンに向かう冒険者が生活するこの都市で、果たしてそんな余裕があるのだろうか。そしてもっと単純に、この世界でアイドルをする方法が分からない。
「私たちも慈善事業じゃないからね。さすがに、あなた達の生活の面倒まで見ることはできない」
「「「…………」」」
3度、彼女たちは沈黙した。元の世界ではSランクアイドルと言っても、この世界では何の肩書きもない少女に過ぎないのだ。
「でも、プロデューサーさんなら……」
しかし、そこで彼女たちは不意に思い出した。誰よりも頼れるプロデューサーの存在を。今まで問題の大きさに圧倒されて失念していたが、誰よりも頼りになるプロデューサーが彼女たちには付いているのだ。それは、現実逃避に近い想いではあったが、確実に彼女たちの心の支えになった。
3人の瞳に力が戻ったのを感じて、シャクティは内心でほっと安堵の息を吐く。少々脅し過ぎたかと後悔していたのだ。
「そのプロデューサーと言うのは、もしかしてあなた達と一緒にいた二柱のことか?」
「柱、ですか?」
「卯月、神様のことを呼ぶときに、世界を支える柱と言う意味を込めてそう呼ぶの」
「プロデューサーとちひろさんが神様ってのは信じられないけど、この状況を見る限り間違いなさそうだよね」
それを聞いて、シャクティは満足したように頷く。彼女たちはある意味運がいい。神の恩恵を受ける当てがあるのだから。
「それなら、あなた達はそのプロデューサーと言う神の『子』になって『恩恵』を受けるといい。それだけが、この都市で冒険者になるための唯一の条件なのだから」
不思議そうに自分を見つめる3人に対して、シャクティは神の眷属――ファミリアについて説明を始めた。