転生するらしいのでチートを頼んだら自分で手に入れろと言われた件。 作:ゆらぎみつめ
屋上にて、なんか覚悟を決めた感じに立っていたテスタロッサ姉妹とそのペットを発見。転生者関連の厄介事と判断し、過去視を用いて問題の把握。速やかに解決し、彼女達を連れて見えざる帝国の部屋の一つに招いた。ちなみに初対面時の姿であるトビの姿だ。
「また助けてもらったわね……」
「気にするな。たまたま目についただけだ」
「それでもよ。本当にありがとう。この恩は必ず、一生をかけてでも返すわ」
「使い魔である私も、出来る事ならなんでもしますから」
「あ、あの、私も」
「姉さん……。私も、なんでもします」
「フェイトが言うならあたしだって」
ん?今なんでもするって言ったよね。
そうネタに走りたくなるような事を言うテスタロッサファミリー。まあ、流石に空気を読んで飲み込んでおくとして。
「しかし、管理局か……」
予想より数倍ヤバい勢いで原作が崩壊しているな。まさか、
まあ、それについて今考えても仕方ない。考えるべきはテスタロッサファミリーについてだ。俺が転生者から助けた後、彼女達は辺境の世界で家族皆、仲睦まじく暮らしていたらしい。そこに管理局を名乗る奴等が現れ、彼女らを拘束。ジュエルシードを集めながら地球の転生者。特に何らかの組織に所属しているであろう俺を探し出し、組織について情報を得てこいと命令。この地球に連れてきた。プレシア・テスタロッサとリニスは人質として管理局の牢に繋がれていただけで、特に手を出されていなかったのは不幸中の幸いである。
「それもこうして助け出して、家族皆無事に再会したわけだが。これからどうする?俺達の組織で保護する事も可能だ。好きに選ぶといい」
そう。既に終わった事だ。
事情を知ってすぐにプレシアとリニスを助け出し、そのまま彼女達を連れてきた。プレシアとリニスの代わりに本物と寸分違わぬホムンクルスを置いてきたから、管理局にすぐさまバレることもないだろう。バレたとして、俺が守る以上あちらは最早手を出すことは叶わない。
プレシア・テスタロッサが口を開く。
「……一つ、聞きたいことがあるわ」
「なんだ」
「
「……転生者が何か、か」
あらら。管理局側の転生者がバラしたか。それともあの時に聞いちゃってたか。ふむ。どうするか。記憶を消すか。それとも全部暴露するか。記憶を消せば余計な事を知らずに、これまでのように暮らすことが出来る。だが転生者は彼女達を放ってはおかない。いずれまた、転生者が彼女達の前に現れる。どんな手段を使っても。たとえ俺が守っても、それは変わらないだろう。その時にまた記憶を消すのは、彼女達にとってどうなのか。しかし転生者について暴露するのも、あまり気の進まない話なのだが。
「話してもいい。だがあまり気分のいい話じゃない。転生者について忘れ、俺達の組織に保護下で普通に過ごす道もある。改めて考えて、答えを出してくれ」
うーん。原作崩壊だな!まあ、とっくの昔に壊れているようなもんだから仕方ないか。他の転生者にも事後報告で知らせればいいだろう。反感を買うだろうが、悪いのは俺じゃない。管理局側の転生者だ。決して責任転嫁ではない。
テスタロッサファミリーは互いに目を合わせて一言二言言葉を交わすと、腹を決めたのか背筋を伸ばして聞く体勢になった。
「……答えは出たようだな」
「ええ。話して頂戴」
「転生者とは、一度死を迎えた人間が、神の手によって転生させてもらった人間の事だ」
「神……。いきなりオカルトね」
「だが事実だ。転生者は神に転生させてもらう際、三つの願いを叶えてもらえる。それは膨大な魔力であったり、容姿であったり、物であったり。それらを持って転生者はこの世に転生する」
俺の特典はそんな生易しいものじゃないけどね!
「随分と都合のいい神様ね」
「神にもそれぞれの理由があるからな。退屈しのぎに転生させ、その姿を見て楽しむもの。間違いで死なせてしまい、そのお詫びに転生させるもの。前世に同情し、情けで転生させるもの。とかな」
「では
「それも知っているのか。ふむ。お前達は物語の中に入りたいと思ったことはあるか?」
「私はあるよー」
「わ、私も」
「子供の頃はあったかもしれないわね。……まさか。そういう事なの?」
「ああ。そのまさかだ」
「馬鹿げてるわ。この世界が物語の世界なんて、信じられるわけないわ」
「そうだな。そしてそれは正しい。この世界は現実だ。物語の世界では決してない」
なんでか転生者は勘違いしてるけどな。神様の説明をちゃんと聞いていないのだろうか。
「この世界はあくまでも、物語に酷似しただけの世界だ。酷似した登場人物、酷似した世界観、酷似した歴史。ただそれだけの、現実だ」
「じゃあ転生者達が原作と呼ぶものは、これからこの世界が辿る未来。少なくともそれに近い物。そういう事ね」
「ああ。だが最早それもあまり意味を成さないがな」
「それはまたどうして?」
「既に原作は始まる前から転生者達によって崩壊している。アリシア・テスタロッサの蘇生。闇の書の修復。そして管理局の変貌。原作のシナリオの根幹を成すそれらが何らかの形で既に改変されているからな」
「……アリシアの蘇生」
「闇の書?」
「管理局……」
尚内二つは俺が下手人である。酷い話だ。
「今回のジュエルシードも原作のストーリーの通りだ。このロストロギアをフェイト・テスタロッサともう一人の魔法少女が奪い合うのが原作の第一部の物語だ」
「だから私達はジュエルシードを集めるよう命令されたんだ……」
「転生者は大まかに三つに分類出来る。原作に介入し、より良い未来、又は利益を得ようと行動する原作介入派、原作を傍観、又は関わりたくない原作傍観派、そして、原作を原作通りに進行するよう監視し、管理する遵守派。お前達を狙ったのはこれだろう」
いや、アリシア・テスタロッサが見逃されているという事は原作介入派も噛んでいる?……管理局は転生者をどう管理しているのだか。
ーーだがまあ、お陰で
「……それで、どうする。プレシア・テスタロッサ」
「そうね。もう一ついいかしら」
「どうぞ」
「貴方も転生者ね。そして貴方が所属する組織も転生者の組織」
「ああ。そうだ。俺は転生者で、俺が所属する組織も転生者の組織だ」
「どういう組織か、説明してもらえる?」
……どういう組織かって?実質一人で運営しているボランティア団体です。と言ったらどんな顔をするだろうか。いや、流石に言わないが。
「始まりは一人の転生者だ。未来を見通す力を持っていた彼は、いずれこの世界が滅ぶことを知った。転生者達の手によって。原作どころじゃない。全てが台無しになる未来。それを知った彼は、その力をもってこの世界の転生者全てを選別し、管理する組織を作った。そして一万人はいた転生者を二千人ほどにまで減らし、世界に平和を取り戻した」
「随分と過激ね。その」
「その転生者は今陛下と呼ばれている。彼がそう名乗ったわけではないがな。実態は力を奪い、記憶を奪い、この世界に生きる普通の人間に戻す。それがたとえ、どんな外道であっても。これほど慈悲に満ちた対応はない」
「……そうね。その陛下は、どちらかしら?介入か傍観か、それとも」
「基本は傍観だな。介入しなければならない事態が起きればそうするが、そうでない場合は傍観だ」
尚原作ヒロイン二人に接触してる転生者の主張である。
「そう。なら私達家族皆の保護をお願いします」
「よろしいのですか。プレシア」
「他に方法はないし、彼は信用出来るわ。私達家族を助けてくれた恩人だもの」
「……そうか。なら今日はもう遅い。明日また改めて細かい事を話し合おう。この部屋はこのまま使ってくれてかまわない。食事も直接運んで貰えるようにしておくから、好きなときに頼んでくれ」
「あ、あの!」
「ん?どうした。アリシア・テスタロッサ」
「貴方のお名前を聞いてもよろしいですか!」
「俺の名前か」
「はい!あ、でも駄目なら駄目で、大丈夫です」
「……ふむ。そうだな」
そういえば名乗っていなかったな。見た目にちなんでうちはオビトかトビって名乗るか。信じるといった相手にアレだが、うちはカエデと名乗るのも不味い。うむむ。流石に八神はやてに続いてテスタロッサファミリーと関わってると思われると、なあ?それにうちはオビトの姿は対転生者の時に使う戦装束みたいなもんだし。仕方ない。
「うちはオビト。またはトビと呼んでくれ。本名ではない偽名ですまないが」
「偽名、ですか……」
「ああ。すまない。俺の名前は知られると問題になるからな。本当にすまない」
俯くアリシア・テスタロッサの頭を撫で、俺は部屋を後にした。
「ほう。何やら新しい女の匂いがするのう。それも複数」
「そこに直れ。その首切り落としてくれる」
「まってまってちがうんです。はい」