転生するらしいのでチートを頼んだら自分で手に入れろと言われた件。   作:ゆらぎみつめ

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斯くて物語は開演せり、杖を手にした少女は何を望む。

 

 

 

 

 

 私はその日、運命に出会った。

 

 お父さんが事故で入院し、大変になった家族に迷惑をかけないよう一人ぼっちでいた私は、いつものように一人で公園にいたら、知らないおじさんに襲われた。

 

 私がいい子じゃなかったからこうなったのかな。

 

 そう、諦めながら思った瞬間、横から凄い助走をつけて跳び蹴りをおじさんに当てた女の子が現れた。

 

 その女の子は白く綺麗な髪に、まるで宝石のような赤い瞳をしていた。

 

 その女の子は倒れたおじさんに馬乗りになると、一言二言何かを話しかけた後、あっさりと解放した。

 

 また襲いかかってこないかと心配したけど、女の子はお話ししたからもう大丈夫って言ったの。

 

 大体の奴は一発かましてお話すれば聞いてくれると女の子は締めくくり、その通りに起き上がったおじさんは私に謝った後警察に行きました。

 

 その時私の頭の中に閃いた事は決していい子の考える事じゃなかったと今になっては思うけど、その時の私はそれしかないと思い込んでいて、女の子の名前すら聞かずに家に帰ったの。

 

 そして、出迎えたお兄ちゃんに走った勢いのまま突っ込んで、何もないところで躓いて、そのまま頭からお兄ちゃんにぶつかってしまいました。

 

「かっはッ!」

 

「恭ちゃんの恭ちゃんが!?」

 

「なのは!?」

 

 お母さんとお姉ちゃんが何だか焦った声を上げたけど、私は気にも止めずに叫んだ。

 

「お兄ちゃん!私を鍛えて!」

 

 

 

 

 それから五年。

 

 私は、運動音痴を克服し、並みの大人なら素手で制圧出来るようになっていた。

 

 周りからは聖祥の白い悪魔とか魔王とか呼ばれているけれど、私はただお話をしているだけ。ちゃんと話せば皆分かってくれるから、私はなんと言われようとかまわない。

 

 だから、

 

「お話ししようか、アリサちゃん?」

 

「ま、待ってなのは!」

 

 アリサちゃん。小学校に入ったばかりの頃、周囲に馴染めず、同じようなすずかちゃんにちょっかいをかけて困らせていたところをお話しした女の子。以来親しいお友達の一人だ。

 

 そんなお友達と私はお話がしたい。

 

 うん。お話。お話だよ。別に怖いことはないよ。だってお話だもの。だからお話しようよアリサちゃん。

 

「まずは話を聞こうよ、なのはちゃん。それからでも遅くはないよ」

 

 そう言って、アリサちゃんをかばうように立つのはすずかちゃん。アリサちゃんにお話して以来、仲がいいアリサちゃんと同じ親友。

 

「すずかちゃん」

 

「すずかあ……」

 

「私もお話ししたいもの」

 

「すずかっ!?」

 

 裏切られたとばかりに大袈裟に反応するアリサちゃんだけど、裏切られたのは私の方かなって思ったり。

 

 ……どうして私がアリサちゃんにお話をしたいのか、その理由を語る前に一人の同級生についてお話ししようと思うの。

 

 うちはカエデ。

 

 綺麗な白髪に、赤い宝石のような瞳の美少女。みたいな姿をした男の子。

 

 私の親友の一人、はやてちゃんと同じ家に住む不思議な男の子で、私をあの日助けてくれた人。

 

 最初はあの日のお礼を言おうと思い、再会してすぐに話しかけようとしたけれど、初対面の時から何故か私の名前を知ってて嫁だのなんだの言ってくる山田くんと田中くんに邪魔されて話せず断念。はやてちゃんとは親友になれたけど、カエデくんに話しかけようとすると山田くんと田中くんが邪魔して上手くいかない。はやてちゃんにお願いしてカエデくんと話せる機会を作ってもらったりしたけど、どこで知ったのか山田くんと田中くんが現れてカエデくんを連れていき失敗。幸い、カエデくんは無事だったけど結局話せず、それがもう一年近く続いている。アリサちゃんとすずかちゃんにも相談したり協力してもらったりしたけど、やはり上手くいかず。最近ではアリサちゃんとすずかちゃんも山田くんと田中くんの邪魔でカエデくんとまともに話せなくなったと聞き、もはやお話しかないと考えた日の次の日の朝の事である。

 

 いつもははやてちゃんと登校してくる筈のカエデくんが、同じくいつもは私達と一緒に登校するアリサちゃんと二人一緒に登校してきたの。

 

 カエデくんはいつものややぼんやりとした感じだったけれど、アリサちゃんは違う。カエデくんの袖をちょんと摘まんでしおらしくしていたかと思えば、カエデくんの顔を見ると頬を赤く染めて俯く。そんな事を延々繰り返していた。

 

 うん。何かあったね。

 

 まさに火を見るより明らかだった。

 

 一体何があったのか。

 

 昨日、放課後に別れるまではこんなじゃなかった。つまり別れてから何かがあった。

 

 知りたい。

 

 それと同時に、胸の奥から溢れそうになるこの焼き焦がさんばかりの熱が思考を鈍らせる。

 

 この感情は何なのか。

 

 分からない。カエデくんと話せばこの熱の正体も分かるのだろうか。分からない。

 

 だけどまずは、アリサちゃんとお話しようと思うの。

 

 

 

 

 ……アリサちゃんの話をまとめると、昨日私達と別れた後、カエデくんと校門前で偶然会い、鮫島さんが少し遅れているのもあってしばらく楽しく会話していたら、そこに田中くんが来て、いつものように色々訳の分からない事を言ってカエデくんに突っかかってきたらしい。それをアリサちゃんは止めようとしたけど、いきなり後ろに引っ張られたと思ったら、知らない車に乗せられて連れ去られた。そして見知らぬ廃墟に連れてこられ、誘拐犯に変なことをされそうになった時にカエデくんが現れて助けてくれた。というのが昨日の話。

 

 その後はカエデくんが鮫島さんに連絡してアリサちゃんは無事家に帰れて、ついでにカエデくんもアリサちゃんに頼まれてその日はアリサちゃんと一緒にいてあげたらしい。

 

 カエデくんはやっぱり凄いなとかアリサちゃん大丈夫なのとか、色々言いたいことはあるけれど、とりあえず私はこう言いたい。

 

「田中くん、山田くん。少し、お話ししようか」

 

 

 

 

 放課後。結局カエデくんとは話せなかった。山田くんと田中くんにお話するのに忙しくて気が付けば放課後だった。カエデくんははやてちゃんの機嫌を直しに忙しく、気が付いたら二人して先に帰っていた。

 

 結局、いつも通りアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に帰ることになったのだけれど、帰り道で傷ついたフェレットを見つけたので近くの動物病院に連れていって診てもらった。幸い、大した怪我じゃなくて、すぐに良くなると言っていたので安心したけど、あの子は野良なのかな。あんなところで傷ついて倒れているなんて、飼い主がいるならお話ししないといけない。

 

 そう、思っていた私はその日、運命を変えるような事件に巻き込まれるなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 夜。

 

 そろそろ明日に備えて眠ろうとしていた私に頭の中に声が聞こえてきた。

 

『……誰か……聞こえていますか……』

 

「誰?」

 

『……助けて……僕は……』

 

 声が途絶える。

 

 何かが起きた。誰かが私に助けを求めている。

 

 考えるよりも先に体が動き、私は家を飛び出していた。

 

 何処にいるかは分からない。でも、なんとなくここにいるんじゃないかと走り続けていると、昼間フェレットを預けた動物病院に辿り着いた。

 

「ここは……」

 

「伏せて!」

 

 考えるよりも先に体を伏せる。

 

 すると頭上を黒い何かが通り過ぎ、轟音と共にブロック塀が砕かれる。

 

 背筋に冷たいものが走り、声が聞こえてきたほうを振り向いた。

 

「君は昼間の!大丈夫だったかい!?」

 

 そこにいたのは、なんと昼間に助けたフェレット。そのフェレットが言葉を発し、私に駆け寄ってきた。私は急いでその子を抱き上げると、すぐにその場から離れた。

 

「何が起きてるの!?ていうかフェレットが喋ってる!?」

 

「ジュエルシードの暴走体が暴れているんだ!何とか封印したいけど今の僕じゃ出来なくて。だから助けを呼んだんだけど、君は魔導師かい?」

 

「魔導師?何それ。そんなの知らないよ!」

 

「そんな!だけど念話が聞こえたのなら素質がある筈だ。僕に協力して、あの暴走体を封印してほしい!」

 

「どうやって!?」

 

「僕の首にかかっているデバイスを手にとって、僕がいう言葉を復唱して!」

 

 フェレットの首には赤い宝石のペンダントがあった。

 

 私はそれを手に取り、足を止めて暴走体と呼ばれているものに向かい合った。

 

「いくよ!」

 

「うん!」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」

 

「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」

 

『stand by ready, set up.』

 

 瞬間、桃色の光が私を包み込んだ。

 

 そして、気が付くと、私は白い衣装を着て、機械的な杖を手に持っていた。

 

「これは一体?」

 

「その身に纏っているのがバリアジャケット。その手に持っているのが魔導師の杖。デバイスだよ。それよりも、早く封印を!」

 

「どうやって?」

 

「レイジングハートが教えてくれるよ!」

 

「え?レイジングハート?」

 

『yes.my master. Sealing mode, setup.』

 

「これで封印出来るの?」

 

『stand by ready.』

 

「うん。いくよ!」

 

 ジュエルシードの暴走体という、黒くて丸い塊に向けてレイジングハートを向ける。

 

 そして、桃色の光が杖から放たれて暴走体を撃ち抜いた。

 

「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21。封印!」

 

『sealing. receipt number XXI.』

 

 暴走体が消え、残ったのは青いひし形の宝石。

 

 それがレイジングハートの赤い宝石部分に吸い込まれるようにして消えた。

 

「これで、終わり?」

 

「うん。そうだよ。これでようやく二つ目だ」

 

「そう。よかった……」

 

 そう、安心して息をついていると、遠くからサイレンの音が近付いてきた。

 

 慌てて周囲を見渡すと、ジュエルシードの暴走体が暴れたせいでボロボロになってしまった動物病院とその周辺。

 

 これはまずい。

 

 私はフェレットをやや乱暴に掴み上げて、全速力で逃げた。

 

 今なら神速が使える気がする!

 

「ごめんなさいーー!」

 

 

 

 

 

「……大体は原作通りになったか。まあ、邪魔者(転生者)がいないんだ。そうなるわな」

 

 夜空を貫く桃色の光の柱を遠目に眺めがら、俺は誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

 足下には二人の転生者。山田と田中が倒れている。毎回毎回突っかかってくる少々、いや結構うざったいクラスメイトである。

 

 原作キャラに近付くと一々妨害してきて、地味にイラッとくる。いやそれはいいんだが、学校のちゃんとした用事ですらも妨害するからなあ。うん。気持ちはよく分かるが。なんだかんだと原作キャラと何かしら関わっているし。テスタロッサファミリーに八神はやて。……月村すずかも。警戒するのは仕方ない。お陰で入学から今まで、高町なのはとは一度も会話出来ていない。単なる好奇心だからあまり気にしてないが。少しくらいは会話してもいいと思うんだよ。うん。あいつら暇だよなあ。……いや、確か山田は隣のクラスの文系少女と最近青春していたな。ふむ。何かイベントでもあてがって仲を深めさせてみようかな。中々面白い事になりそうだ。

 

 ーーそれに引き換え、田中はないな。あいつの癇癪に付き合っていたせいでアリサ・バニングスの救出が遅れた。「アリサを助けるのは俺だ。お前は手を出すな」とか言って結局見つけ出せずに諦めているし。自分の発言には責任を持とうぜ。他の転生者に連絡して協力を仰ぐ事も出来ただろうに。本当に何を考えているんだろう。……まあ、俺もそれに気が付いたのはアリサを助けた後だったのだが。なんてこったい。田中の事を悪く言えないわ。お陰ではやてに怒られたし。図らずもこれで転生者人気上位の原作キャラ、高町なのは以外とは何かしら関係を持ってしまった。高町なのはとも関わればコンプリートだ。

 

 ……ま。今はそんな事どうでもいい。

 

 それよりもこの阿呆二人が倒れている理由だ。こいつらは別に俺が天誅したわけじゃあない。見つけた時には既に倒れていたのだ。管理局の転生者達に負け、連れていかれそうになっていたのを助け出した。連れて帰って情報でも吐かせるのか、それとも力を奪うのか。どちらにせよ、管理局の転生者がこの世界にやって来ているのは火を見るより明らかだ。そしてやっている事は原作遵守。介入しようとする転生者を阻止したり、周辺にサーチャーを大量にばら蒔いている。そこまで派手にやったら嫌でも気が付く。お陰で敵の転生者は見つけやすかった。山田と田中の倒れている場所から少し離れた場所にはそんな転生者が十数人は倒れている。

 

 管理局の転生者。やはり管理局の奴等は転生者について理解し、手下に加えているらしい。だがあまりに弱すぎる。俺の足元に倒れている阿呆二人以外ならばまずやられはしないだろう練度の低さ。それがほとんどだった。管理とは名ばかりの杜撰さだ。こんな有象無象が我が物顔でこの世界に干渉するのは、控えめにいって不愉快極まりない。

 

 だがそんな不愉快も今だけの話。既に手は打ってある。

 

「原作は最早壊れ尽くし、オリ主は未だ現れず。あるのは変わり果てた世界と転生者のみ」

 

 テスタロッサファミリーは見えざる帝国で保護。

 

 闇の書は夜天の魔導書に修復された。

 

 最早原作(シナリオ)はない。完全アドリブの群像劇。

 

 最後に待っているのは悲劇か、それとも喜劇か。

 

 ……未来視で視た未来は気になるが、少なくともそれに辿り着く要素は全て排除した。八神はやては変わらず元気にいるし。

 

 ……とりあえず、足元の奴等をどうにかするか。いつも通りの処置はするとして、正直すぐに黒幕含めて処理してもいいが、崩壊した原作の代わりに転生者に宛がう方がずっと面白そうだ。期待外れとはいえ、イベントとしては十二分に機能する。他の転生者にもいい刺激になるだろう。これで俺に近付く転生者が現れてくれれば更に良しだ。ある程度のイベントがないと介入派の不満が爆発しそうだしね。傍観派の転生者には悪いが、これも転生者の宿命だと諦めて世界と向き合ってくれ。

 

「斯くて物語は開演せり、杖を手にした少女は何を望む」

 

 ……。

 

 流石に気障か。

 

 ……しかしなんであんな脳筋になったんだろうな、あの(魔王)

 

 

 

 

 


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