瞼を閉じると、鮮明に思い出してしまう。
焼けた村、石化した村民……襲ってきた存在を消し飛ばす、男の背中。
恐れて、助けたくて、助けられて、憎らしくて、救われて……憧れた。
如何にかしたくて、近づきたくて、どうにもならない毎日を送っている。
「……ん、寝てた、かな」
ふっと意識を戻したその少年は、真っ黒な隈を携えたままそんなことをのたまう。
明らかな寝不足にも関わらず、彼の周囲が一瞬光ったかと思うと彼は伸びをして作業に戻ってしまった。
「よし、出来たぁ!」
造っていたのは掌サイズのそれ……携帯電話である。
正確には改造していた。何をどう改造したかというと……魔法を使えるようにしたのだ。
「魔法の一矢っと」
バシュンッと軽く少年から一本の光る矢が放たれた。
光線の様に夜空を横切っていくのを満足げに眺めて、よしっとガッツポーズをする。
「完成かな」
少年、ネギ・スプリングフィールドは魔法使いである。
そしてそれ以上に天才少年であり、魔法使いなのに科学技術にまで手を付け始めているのだ。
「………あ、学校」
忘れてた、と呟いた時間は深夜4時。今日は休日で魔法学校は休み……そして昨日どころか彼はここ一週間まるで魔法学校に行っていなかった。
「まぁ、なんとかしよう」
魔法学校で習う程度のことは既に体得しており、科目を落とさない限り問題はない。時間割や残り時間なども考え、分身魔法を改造するか、と携帯を弄りだした。
この携帯は魔法をプログラムに編み込んだネギ特製の物だ。
ネギの知りうる限りの魔法を先にインプットしておき、何時でも発動可能。電池も電力と魔力の両立を実現させている。
容量だけが問題だが、分身や矢程度ならどうにでもなる。
プログラムを弄り、自分の思考パターンを入力した分身魔法を起動する。
あとは分身がどうにでもしてくれるだろう。分身の体験した記憶は携帯から抽出すれば問題ない。
「さて、久しぶりに寝たら、……特訓、しなきゃ。ふぁ~」
そうしてネギは一人の時間を確保すると、一週間ぶりの睡眠をしたネギはある場所に行き、修練を始める。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル」
まずは詠唱有の魔法で結界を作り、人払いを徹底的にする。
次に無詠唱魔法の練習、さらに魔法使いでありながら本やネットで得た知識から格闘術の練習も始める。
(……違う)
思い出すのはもっと昔に観せてもらった、滝割りの光景。
タカミチと自分が呼んでいる男性は100mの滝を拳で割って見せた。
魔力を鍛え、魔法を鍛えるだけでは足りない。強くなるには、あの人のようになるにはこれでは足りないと思い、滝割りと
肉体を鍛えれば、おのずと自分の「氣」も自覚する。
そうして氣を使ってみたのだが……いまいち、滝割りをした本人が使っていた力とは違うと感じた。
「……んー、分かんないけど、間違っては無いはず」
魔法使いとしては落ちこぼれと言ったタカミチは素手で滝を割れる領域に居るのだ。
魔法も使えるなら……今から頑張れば、きっともっと凄くなれる。
(そう、凄く……あの人みたいに、すご―――)
――どんなに凄くなっても、僕では誰も治せやしないけど――
脳裏に浮かぶ石化した村民……幼い自分を構ってくれた、家族のような人たちを思い出した。
そう、ネギ・スプリングフィールドは天才である。……だが、彼には誰かを癒す才能は無かった。
結界を張れる、弾幕を張れる、ぶん殴り、蹴っとばし、吹き飛ばし、消し飛ばすことはできる。大得意だ。
でも、彼には圧倒的に人を癒す才能が無かった。
どんなに頑張っても、傷を治すのが精いっぱい。石化や呪いを癒す才能は、彼にはない。
「………っ」
そんな考えを振り払うように鍛錬に打ち込む。
石化の解呪を諦めたわけではない。魔法の会得だって頑張っている……いっこうに成功する気配はないが。
「………」
そうして今日も少年は淡々とスケジュールをこなしていく。
追いつきたくて、救いたくて……諦めと葛藤しながら、未だ9歳の少年はその身をイジメ続けた。
*
「……えぇー」
魔法学校卒業の日、9歳の子供が行うにはいき過ぎた毎日を送っていた彼の手には一枚の紙切れが存在していた。
そこには「日本で先生をやること」と書かれている。これは最後の課題ともいえるもので、これをクリアすると「
別になくてもいいのだが、自分を育ててくれた姉やそのお爺さんが通わせてくれた学校の最後の課題……こなさなくては、不義理というものだろう。
「仕方ない、行こう……」
荷造りをしながら、目線が自然と大きな杖へと移った。
アレは魔法媒介としてはかなり有能で、子供が持つにしては色々と大きすぎる物だが、託されたものでもある。
「……持って行こうっと」
携帯電話の
ついでに携帯の魔法媒介にしている杖の破片と共鳴させて、魔力の浸透と負荷の軽減をよくしておいた。
これで魔法媒介も兼ねていた携帯が、超有能魔法媒介へと早変わりだ。
(さて、と……寝よ)
本来魔法は隠匿さなければならない。これから先の修練をどうしようかと頭の片隅で考えながら……彼は眠った。
*
「さて、と………何で学園長室が女子中にあるんですかねぇ」
麻帆良学園に到着した彼、ネギ・スプリングフィールドは送ってもらった地図を見ながらそう呟いた。
「ねぇあの人――」「わぁカッコいい」「美形ね~」
ネギの姿を見て近くの女子生徒が騒ぎ出す。
何故なら、今の彼は9歳児の姿ではない。魔法で20歳ほどの姿になり、言動も自身に暗示をかけることでそれに近づけているのだ。
「あのー、ネギ・スプリングフィールドさんですか?」
「ん?」
今まで遠巻きに見られていただけだったが、二人の女子生徒が話しかけてきた。
長い黒髪が綺麗な子と、オレンジ色のツインテールに蒼と翠のオッドアイの少女だ。
「はい、そうですけど、何かご用でしょうか?」
「あの、うち近衛木乃香いいます。おじ……学園長先生がお迎えにって」
「そう、ですか」
初耳のことに少し戸惑うネギ。
少し
(……え?)
横のツインテールの少女に視線を移したが……何も
ネギの眼鏡は魔法が掛けられており、魔法に関係する者なら所持しているであろう魔法媒介や、危険物、ついでに重心エトセトラを視ることができる。
(視えない、どういうこと?)
だが彼女は見えない。木乃香はちゃんと視える為、これは彼女には魔法が効いてないということになる。
魔法関係者、にしては態度が一般女子のそれだ。早く済ませて欲しいのか、ちょっとイライラしているように見える。
「あ、彼女は神楽坂明日菜いいます。うちの同居人なんです」
「ちょっと木乃香、別に私を紹介しなくても」
「えーやん別に」
「っとそういえば、挨拶が遅れました。ネギ・スプリングフィールドです。麻帆良学園で教師をやらせていただくことになっています。よろしくお願いします」
「あ、いえご丁寧にすいません」
「よろしゅうな、ネギ先生」
挨拶を交わすと、早速学園長室へと案内してもらった。
「失礼します……」
ノックをして入ると、学園長席には頭の長いまるでぬらりひょんのような人物が座っていた。
一瞬悪魔や妖怪かと思ったが、案内してくれた二人が何の反応もないのでこれは人なのか、と思わずまじまじと見つめてしまった。
「始めまして学園長。ネギ・スプリングフィールドです」
「ふぉ?……確かじゅ―」
『年齢は幻術で誤魔化しています。数えで10歳が先生では、色々おかしいでしょう?』
学園長が生徒二人の前で
なるほどと頷くと、学園長も挨拶を返した。
「さて、まずは教育実習として3月まで頑張ってもらうからの」
「はい」
まず、というのに少し引っかかったが、一般生徒の前では新任教師の振りをしなければいけないことを思い出した。
まずは、と言ってこれから先も考えていますよ、というフリをしておいたほうがそれっぽいだろう。
(……?まて、そういえばこの修行って何時まですればいいんだろ?)
課題には日本で教師をすること、としか書かれていない。
ということは……。
(もしかして、本当にまずは扱いで、最低でも卒業生を送るまでやらなきゃなのかな?)
色々本腰入れないと、と気合を入れ直す。
どうにも長丁場になりそうだと考えていると、学園長が爆弾発言をした。
「そうそう、木乃香、明日菜ちゃんネギ先生を暫く二人の部屋に泊めてくれんかの?まだ部屋決まっとらんのじゃ」
「「え?」」「ええよー」
木乃香以外、ネギと明日菜の声が被った。
いやいやいや、何を考えてるんだこの人はっ。
「学園長、自分が此処に来ることは前もって伝えられていたはずでは?」
「そうなんじゃがの、部屋が足りなくての。今準備しておるところじゃ」『10歳のキミを独り暮らしさせるわけにもいくまい?』
『別に大丈夫です。それも含めて修行では?』
『しかし』
『これでも野宿経験もありますから』
それに部屋を増築している間までとのことだが……流石に今の姿のネギが彼女達と部屋を同じにするのはマズイだろう。
というか、木乃香は何故OKをだしたのだろうか。ノリが良すぎないか彼女。
「はぁ……それなら暫く近くのホテルにでも泊まります。幾らか換金してきてますから、今月はそれで。来月からは給料からなんとかします」
「む、それは悪いの」
「そう思われるんでしたら、後々給料に追加しておいてください」
「分かった、そうしよう」
どうにか学園長を説得し、ネギはホテル通いとなったのだった。
『あ、後で魔法関係者に関して資料を貰っても良いですか?名前だけでもいいので』
『あいわかった、用意しておこう』
『ありがとうございます』
*
「新任教師として3学期の間このクラスを受け持つことになりました、ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」
ネギが配属されてA組の第一印象は、元気がいい、だ。
黒板消しを扉に挟んでおいたり、足元には縄が掛けられていた。
上を見れば下がおろそかになり、下を見れば上から降ってくる……意外と効果的なのが驚きだったが、黒板消しを受け止め、縄を避けて挨拶をした。
幾らか感心の声が上がり、その人たちの顔を覚えておく。悪戯の注意人物だ。
「「「「「キャーッ!!!」」」」」
「わ!?」
挨拶をすると喜声が響き渡った。
ネギの外見が若々しいイケメンということもあり、クラスはかなり熱気だった。
(これは、大変だなぁ)
近寄ってきて歳や住んでいたところ、何の科目を担当するのか、本当に3学期だけなのか等々、様々な質問を捌きつつ、苦笑いを浮かべた。
(………頑張ろ)
この元気なクラスが、元気なまま過ごせるように。
二度とあんな思いをしないために、自分のできることをするのだと、少年は誓った。
*
あの情景を彼は生涯忘れない。
故に彼は自分を磨き続け、周りを護ろうとし続ける。
例え、その身がどうなろうとも――。
「魔法先生」ネギ・スプリングフィールド
実年齢9歳 外見年齢20歳
魔法の眼鏡と魔法の携帯を所持しており、身体能力も高く、魔力と氣力の扱いも上手い。
独自の格闘術を会得しており、瞬動術も体得している。
精神年齢も暗示で底上げし、気配りや魔法の隠匿も原作以上に行う。
授業も分かり易く、バカレンジャーと呼ばれる5人にも如何にか理解し憶えてもらおうと四苦八苦するのだが、それはまた別の話……。
トラウマを酷く引きずっており、誰かを護ったり救うことに躊躇が無い。父親から受け取った杖がさらに責任感を強くしており、良くも悪くもタガが外れているが、今は先生の本分として生徒を導き護ることを目標としているため、生徒に悪影響のあるようなことは極力避ける。
原作と違い色々フラグが立ったり折れたりしているが、彼の未来は一体……?