もしものネギ先生   作:...

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激突

 (ネギ)の笑顔を見る度に、何かが頭をよぎる。

誰かによく似ている、でも違う。(あのバカ)はこんな綺麗に笑わなかった。

そう、バカ。バカばっかり(・・・・)、楽しい人たち。

 暖かくて(赤毛の人達)兄の様な(白髪の人)父の様な(煙草の匂い)姉の様な(元気な少女)母の様な(綺麗な人)真面目な人(剣士さん)おかしな人(大きなバカ)変な人(本の人)見守ってくれていた人(小柄で白髪)――それに、それに?

 

(……――?)

 

 違う、誰だっけ。

そっくり、でももっと、何か決定的な何かが欠けている。

短い期間だったけど、それでも隣に居てくれた―――。

 

「さん?――明日菜さん!」

「へ?!な、なに本屋ちゃん!?」

「ぼーっとしてらっしゃたので……どうかしましたか?」

「えっと……なんだっけ?」

「え?」

「あ、アハハ。何か思い出してたんだけど、忘れちゃった」

 

 なんだったかなーと頭を捻る明日菜。

だが、何を考えていたのかすら思い出せないでいた。

明るく笑いながらも只一つ思うことがあった。

 

(私、何を忘れてるんだろ?)

 

 小さな疑問は、未だ晴れることは無い。

 

 

*

 

 

 一方、リョウメンスクナを蘇らせようとある湖で儀式を行っている者達が居た。

 

「……にしても、上手くいきましたねぇ」

「そうだね」

 

 天ヶ崎千草が解呪の詠唱をしている中、暇そうに護衛役の二人が会話を始めた。

 

「一人で乗り込んでどないする気ぃや思いましたけど、まさかホイホイっと攫ってくるとは」

「まぁ相手が隙だらけだったからね」

「ほぉ。あの近衛の総本山相手に、よぉいいますねぇ。自分の手に掛かればちょちょいのちょいやーってことです?」

「………いや、そう簡単なことでもないみたいだよ」

「?」

 

 会話をしながらも余念なく探知魔法を使用していた白髪の少年は、少し斜め上を見つめた。

同じように目線を向けると、そこには飛翔して来るネギ・スプリングフィールドの姿が。

 

「……諦めが悪いね」

「あらあら、また来たんですか~?まぁうちは斬れればええんで別にいいですけど♥」

「彼の相手は僕がするよ。キミは、そっちを頼む」

 

 少年が指差す方には、地を駆ける刹那と小太郎が視えた。

刹那の片手にはいつも持っている夕凪という太刀を……そして、もう一方の手には見たことのない黒刀(・・・・・・・・・)を手にしていた。

 

「あらあらあら、これまた斬りがいがありそうなものを……」

「それじゃ、頼んだよ」

「えぇ……。?」

 

 ふと、神鳴流の少女が不思議そうな顔をする。

思えば、今まで徹頭徹尾無表情だった彼の微笑んだ姿なんて、見た覚えがなかったような?

 

「まぁええ。うちはうちのお仕事しましょ♪」

 

 切り替えた少女は楽しそうに刹那へと斬りかかっていった。

 

 

*

 

 

 飛翔していたネギの前に、少年が立ちはだかった。

諦めが悪く、魔法に長け、重い拳を放つ。その真っ直ぐな瞳はどうしてもあの男を思い出す。

幻術とは言え成長したその外見も合わさり、思い出(デジャヴ)し、想い(湧き)出す。

 

(あぁ、そうだ。僕はこの昂揚感を知っている……)

 

 何と言えばいいのだろうか、どう言い表せばいいのだろうか。

任務は大事だ、重要だ。だが、それはそれとして(・・・・・・・・)この感情を無視することはしない。出来ない。

 

「ぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

「フッ」

 

 頬が少しだけ緩んだ。白い少年に少しだけ浮かんだその色は、(ネギ)の拳を両の手で受け止めた瞬間には元の無表情()に戻っていた。

任務は行う。依頼もこなす。そのうえで、今この感情(瞬間)模索(体感)しよう。

 

「さっきとは様相が違うようだね……」

「ッ!」

 

 さっきのネギ(疾風迅雷)に加え、その両腕と身体からは焰が轟々と噴き出している。

速度上昇に加え、攻撃力と防御力を上げて来たらしい。

それだけじゃなく、他にも何か施したのだろう。さっきと違い魔力が濃い(・・)

 

「それでも、未だ届かない。キミは無力な存在だ」

「だからって諦めるわけにはいかないッ!」

 

 あぁ、やはり彼は彼の息子という事だろう。

そうと分かれば、もう只の無知で無力な少年だと格下に侮ることは止めにしよう。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

「ッラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 

 拳を払い払われた二人は詠唱を始める。

少年、フェイトは魔法を警戒し少し離れたネギに向け、放った。

 

「――冥府の石柱」

「ッ雷の暴風!!!」

 

 超大の石の柱を複数本。全てを打壊すことは不可能、ネギは自分に中る柱だけを破壊した。

砕いた際に起こった土煙に紛れ、石柱を足場にして得意の瞬足でフェイトへと迫る。

 ネギがフェイトに勝つには、遠距離攻撃を全て防いでしまう多重障壁を如何にかするしかない。

だが、その障壁を遠距離で破壊することは今のネギには不可能。

 

(ゼロ距離なら対攻勢障壁の殆どを無視できる……零距離戦闘(インファイト)、これしか勝機は無い!)

 

 『雷の暴風(疾風迅雷)』に加え、『奈落の業火(獄炎煉我)』の異なる魔法を二重装填したネギ(疾風怒濤)

下準備と詠唱が居る為、急な戦闘では未だ使えない。だが使えば大幅な戦闘力アップになる。

それに加え、あるドーピング(・・・・・・・)を処置した。

今なら、この戦闘の間だけなら、目の前の存在と闘える。

 

(後は頼みますッ)

 

 ネギの役目はフェイトを釘づけにしておくこと。

木乃香を助ける役目は刹那達に任せ、戦闘を激化させていく。

 

 

*

 

 

「ざんがーんけ~ん!」

 

 間延びしたふざけ半分かとも勘違いしそうになるが、その剣筋は鋭く(はや)い。

外見は最後に分かれた時のままの仮装という、本当にふざけているとしか思えないのに、性質が悪くこの少女は強い。

 

「あぁそうやウチ月詠言いますぅ。以後よろしゅう~」

「貴様のような輩とよろしくするつもりはない!」

 

 二本の刀で防ぎながら、小太郎に目くばせを送る。

頷いた彼は影に潜り、先へと転移していった。

 

「あらら、やっぱり裏切りなはったんですか」

「疾ッ!」

「おっとっと」

 

 二刀になったことで刹那の手数と速さは上がったが、その分重さに欠ける。

幾ら氣を使って強化しようとも、相手も同じ氣の扱い方、技を会得した同門。

やはり勝つのは困難。

 

「それでも、お嬢様の為に負けるわけにはいかない!」

「んン!?」

 

 ガギィンと行き成り威力を増した刹那の剣閃。

見れば黒刀から邪気が発され、黒刀を持つ刹那の右腕を侵している。

あの邪気が刹那の軽い剣に重さと威力を与えていた。

 

「妖刀、ですかぁ。フフ、急にそんな刀手に入るなんて都合がえぇですなぁ。うちとしては愉しめるんでえぇですけど~」

「うっ」

 

 黒刀のことを言われ、思わず赤面する刹那。

この黒刀を手に入れたのは、ほんの数分前。ネギの相方でもあるオコジョ妖精、カモの提案によるものだった。

 

「兄貴、此処は戦力アップの為に仮契約(パクティオー)といきましょうぜ!!!」

「カモ君、この緊急事態に何言ってるのかな突然?なに?頭冷やしたい?」

 

 カモが言い出したセリフにツッコミついでに冷気を物理的に醸し出すネギ。

彼は師匠であるエヴァが闇と氷が得意属性ということもあり、必然と貪欲にその魔法も会得していた。 

 

「ちょちょちょ、タンマ、兄貴タンマ!エヴァンジェリン直伝の凍結魔法は死ねる!!」

「ハァ……言いたいことは分かるよ。勝率を上げる手っ取り早い手段だけど、僕は生徒と契約するつもりは」

「あ、あの」

「「ん?」」

 

 パクティオーがなんなのか、魔法生徒として学園に通っていた刹那は知っていた。

契約を結ぶ事によって発生する恩恵は凄まじく、木乃香を助けるためにも必要だと彼女はそう思った。

 

「私は、負けるつもりはありません。ですが相手は同門。先の戦闘から戦い方は双方知って、苦戦が予想されます。時間が勝負のこの状況で戦闘が長引くのは私としては承知しかねます」

「ですが……」

「お願いしますネギ先生。私に、お嬢様を救わせてください!」

「……」

 

 思考は数秒。だが、様々な意見がネギの頭をよぎった。

彼女を自分(英雄の息子)という面倒な存在に巻き込んでいいのか、今を生き残った先にあるのは厄介事ばかりかもしれない。

でも、だけど……その直向(ひたむ)きな姿と思いは、とても好感が持てる。

 

(………あぁ、もぅ)

 

 ガシガシと頭を掻いて浮かんだ感情を引っ込める。

改めて今一番重要なことを思い出す。

それは、木乃香を救うこと。自分の不甲斐なさ、敵の強大さを知っている。この少数で挑んで勝算がどの程度あるかなんて、正直分からない。

月詠がお遊びで使った式神召喚(ひゃっきやこー)のこともある。今度は戦闘用を使われれば、数は圧倒されかねない。

 

「………分かりました」

「! ありがとうございます!」

「礼なんてやめてください……こうなったのは力不足が原因だっていうことを思い出しただけです。非力な僕らには、力はいくらあっても足りない」

「はい……それで、契約はどのように?」

「あー……カモ君、よろしく」

「既に準備は出来てるぜ!!」

 

 気合十分なカモは既に魔法陣を書き終えていた。

刹那の手を引いて魔法陣の中心に立つ。

 

「ぇぇと、ですね……仮契約の必約はその、キスなんです」

「え……えぇ!?」

「すいません、専用の書物とか持っていなくて……血でも可能なんですけど、その場合魔法陣を描く道具(チョーク)に馴染ませなきゃいけなくて」

「い、いえ!時間がありませんし、私が言い出したことですから!謝らないでください!」

「そう言ってくれると助かります……では、失礼します」

「は、はぃ……ンっ」

 

 強者でありながらもか細い刹那の華奢な肩を掴み、繊細なものに触れるように、慎重に顔を近づけ……口付けを交わした。

唇を合わせるだけのバードキスだが、初めてという事もあり顔を真っ赤にする刹那。

魔法陣の効能のせいで気分が高揚していることもあり、フワフワした不思議な気持ちになる。

 

「刹那さん、どうぞ」

「……あ、は、はい」

 

 暫く蕩けた様にぽーっとしていた刹那だったが、ネギに出現したカードを渡され我に返った。

 

「えぇと……妖刀、ですね」

「ですね……多分、僕のせいです」

「い、いえ!心強いです!」

 

 カードには黒衣の和装をした長髪を結ばず流した刹那が、真っ黒な刀を持っている絵が浮かんでいた。

名称は『妖刀・童子切安綱』と表されていた。

 

「刹那さん、貴女は大事な人の為に戦える強い人です。だからこの刀をきっとちゃんと扱えると僕は信じます」

「はい、任せてください」

「えぇ、頑張りましょう」

 

 力……そう、これは木乃香を救うための力。

 

(お嬢様、ネギ先生……――グっ)

 

 黒刀……童子切から湧き出す瘴気(妖気)が刹那を侵し、強化する。

本来なら契約しているだけでネギの魔力供給を受けられるが、今ネギ自身難敵と戦っておりその恩恵は受けられない。

自分の氣力と気合で妖刀を振るう刹那。

 

(お嬢様を救うために妖刀だろうと何だろうと、扱いきって見せ――

 

――健気なえぇ娘やなぁ。

 

 脳裏に、ナニカ言葉が過った。

何処から?そう考えた瞬間には妖刀に意識が向いていた。

 

――ウチ(妖氣)を扱うのがどんないけ好かない奴か思ぉたら、随分と純真な子が振るっとるんね。

 

 ググッと力が増していく。

同時に額に違和感、言われずともわかる。恐らく、角が生えているのだろう。

 

(まず、いっ浸食、され)

「隙あり」

 

 苦しむ刹那に迫る白刃。

だが、突如スローモーションになり、脳裏にまた女性の声が響いた。

 

――あぁ、焦っちゃアカンよ。ゆっくり馴染ませな。アンタは同類(・・)なんやから、よく馴染むはずやえ?

 

 その言葉に、冷静になる。

そう、抑えることは慣れている。常日頃から、この力(・・・)を使わないように生きてきたのだから。

 

――そうそう、じょーずじょぉず。無理はあかんえ?これからもっと大物を斬るんやから。

 

 大物?一体何のことだと思考が過るが、それ以上に刹那の動きが急変した。

苦しそうな表情と少しぎこちなかった動きが流錬なものとなり、角が生えた瞬間に起きた隙は無くなっていた。

月詠の白刃を童子切でいなし、完全にキメ(・・)にかかっていた月詠の裏をかく形になった。

 

「雷光剣!!!」

「ぐ、ぁあああああああ!!!?」

 

 夕立に込めた氣が炸裂し、月詠を吹き飛ばした。

 

「はぁ、はぁ……今のは、一体?」

 

 角と妖気の収まった刹那が妖刀を見つめるが、先ほどの声が響くことは無かった。




『二重装填・疾風怒濤』
 雷の暴風と奈落の業火の魔法を掌握した状態。
雷の暴風の効果で身体的かつ思考、動体速度等があがり、奈落の業火の効果で攻撃力と防御力が増している。
二つの魔法、それも異なる属性を掌握する無茶を為すためには下準備が必要であり、今のネギでは戦闘中に発動することは難しいが、発動すれば格上の相手にもスペックだけなら追いすがれる離れ業である。

『アーティファクト 妖刀・童子切安綱』
 ある英雄がとある鬼を斬ったと言われる刀。それを模したレプリカだが、中に籠っている妖力は本当の刀から抽出し分け与えられた本物。
持ち主に力を与えるが、妖刀は自分の主が気に入らないとその身を妖気を持ってして斬り刻むという逸話がある。
刀に人格があるという話は今の所聞かないが……?

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