もしものネギ先生   作:...

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影なる自分

 フェイトをネギが、月詠を刹那が抑えている間に小太郎が接近、少し離れた場所から龍宮真名の長距離スナイプで援護、出来ることなら主犯である天ヶ崎千草を撃つ。

 主力二人さえ押さえてしまえば、天ヶ崎本人ではこの二人を止められることは難しい。

近距離だけでなく中距離もこなす小太郎を遠距離から彼女が援護するだけでも効果は高いのだ。遠くから狙い撃てなくとも、近距離戦闘を苦手とする天ヶ崎の元まで小太郎がたどり着けば詰み――そのはずだった。

 

「クソッこんなんありか!?」

 

 小太郎が瞬動で土煙を上げ目立ちながら一気に、見つからない様に龍宮が天ヶ崎を射程に収める距離まで慎重に接近していたその時だった。

天ヶ崎が器用にも呪文を詠唱しながら、捕えていた木乃香の魔力を使い大量の悪鬼羅刹を召喚したのだ。

 

「マジで百鬼夜行……いや、億鬼夜行やな。反則やろッ」

 

 この数を小太郎一人では対処しきれない。急遽龍宮と合流し二人でカバーしながら鬼を滅していくがこのままでは儀式が終わってしまう。

 

「どうする?」

「どうって―」

 

 選択肢は三つ。

一つ、このまま二人で押し切る――無理だ。儀式が先に完了するだろう。疲弊した自分達ではリョウメンスクナと呼ばれる存在に太刀打ちできるか微妙である。

一つ、龍宮を置いて、無茶だが連続影転移で近づく――無駄だ。儀式場の近くにもわんさか鬼が居る。邪魔されるだけでなく、連続転移の無茶によって小太郎は疲弊、龍宮も一人では厳しいだろう。各個撃破され、終わる。

一つ、どちらかが応援を呼びに行く。これが一番理想的だが、そうなると今通って来た道……フェイトと月詠が居るである場所を通らなければならない。それに、この方法では龍宮が危ないだけでなく、儀式は完了してしまう。

何より、今から援軍を呼ぶとなるとすぐ来てくれるのは長瀬楓という忍者くらいだろう。刹那から実力は龍宮真名とほぼ同格、少なくとも隔絶してはいないらしい。焼け石に水だ。

 

(アカン、詰んどる)

 

 それでも諦めないのは依頼の為か、それとも男の意地か。

黒狼状態に変化しつつ鬼をなぎ倒しながら、少しでも前へ進んでいく。

だがやはり間に合わない。

 

「クソ、クソ、チクショォオオオオオオ!!!!」

 

 悔しがる小太郎の眼前には、鬼が広がっている……そしてその奥、儀式場からは巨大な光の柱が発生した。

光の柱から現れたのは、二面四つ手の巨大な鬼……ビルにも匹敵するであろうその巨大な姿から発せられる妖気は、正しく鬼神である。

 

――儀式が、成された。

 

 その光景は離れて戦っていたネギ達にも見えていた。

 

「余所見かい?」

「まさかッ」

 

 ガギィンと魔力の刃と岩の刃がせめぎ合う。

不敵に笑うネギだが、その内心は荒れていた。

 

(どうする?どうすればいい?)

 

 リョウメンスクナを甘く見ていた。

間に合わなくとも如何にかできると何処かで考えていた。

だがそれは違った。少なくとも、小太郎と龍宮の二人だけでは不可能だろう。

特に龍宮は今回修学旅行という事もあり、最低限の武装しか持って来ていないという。

斃し切れるはずがない。

 

(何かあるはずだ、何か手が……――)

 

 手段を模索する。思考を緩めずフル回転させる。

選択肢がネギの脳裏に山ほど浮かぶが、その殆どが不可能だと結論着いてしまう。

何故なら、今のネギには目の前の敵すらどうにもできないのだから。

 

――下手くそ。

 

 フッと辺りが暗くなった。

フェイトの動きが止まり、声の掛かった背後には……色の反転したネギが居た。

 

――戦う事しか能がない癖に、その戦法がど下手なんだよキミは。

「煩い」

 

 彼は、加速したネギの思考に割って入ってきた。心象……闇の魔法(マギア・エレベア)の核意識とでもいうべきだろうか。

日頃暗示で抑えているネギの本来の姿。否、もっとどす黒い、ネギの本性とでもいうべきだろうか。

 

――何を躊躇している?何をこんなところでもたついている?

「煩い、黙っててよ」

――ハッ、黙れ?バカが。黙るのはキミだろ?(ボク)を生み出し、覚醒させ、力を与えたつもりか?ボクが闇の魔法による副産物だとでも?

 

 違う。

 

――分かってるだろ、ボクこそがネギ・スプリングフィールドだ。英雄に憧れ、貪欲に力を欲し、その矛先を求め、そして戦う。それこそがボクだ。自分の正義(偉大な魔法使い)を貫く為、魔法という暴力を振るう。それがボクらが憧れた、英雄達(殺戮者)だろう?

「ッ」

 

 言い返せはしなかった。あぁそうだ、その通りだ。英雄譚なんて相手からすれば只の虐殺劇に過ぎない。

視点や立場によって物語はひっくり返る。善や悪なんてものはあやふやである。

 

「でも、だからこそ自分を律することが大事なんだ。確かに僕は英雄に憧れてる。焦がれている。力を否定する気はない、けどだからと言って、暴力を許容するつもりは毛頭ない」

――で?お綺麗な理想論は好きなだけ語ればいい。問題は、それを為す力があるかどうかだろう?

「……」

――今必要なのは力だ。相手を叩きのめす暴力だ。違うか?

「違う、必要なのは場を収める力、理不尽に抗い、理想を叶えるための尽力だ」

 

 同じことだ、と(自分)は嗤う。

分かっている、とネギは自嘲する。

それでも、それだけはハッキリさせないといけなかった。

 

「君は僕で、僕は君だ。でも、僕がやりたいことは君には叶えられない」

――そうだね、ボクは力だ。恨み、辛み、妬み。それらを晴らすためにキミが産んだ君自身。

「でも、君が居なければ僕はボクでなくなってしまう」

――だからこそ。

「あぁ、つまり」

 

 

 (キミ)には(ボク)が必要だ。

 

 

 モノクロの世界が終わり、世界が元の時間を動き出す。

そして、目覚めたネギ(・・・・・・)と拮抗していたフェイトの岩の斧剣に罅が入った。

 

「なに?」

「おぉおおおおおおおおおお!!!!!」

「グゥッ!?」

 

 斧剣が砕けると同時に、魔力の刃が破裂、フェイトは傷を負いながら少し吹き飛んだ。

 

「悪いけど、直ぐに終わらせる」

 

 ネギの姿は数瞬前と違っていた。疾風は黒く染まり、炎熱はその身を焦がすほどの高熱を発し蒼炎へと変貌している。

 

――闇の魔法(マギア・エレベア)同調200%(オーヴァー・ドライヴ)

 

 更にネギは懐からあるものを取り出した。

それは、魔石を溶かし液状にしたもの。本来魔法具を造る際に回路として扱う特殊な液体。

それを……飲み干した。

瞬間、只でさえネギの膨大な魔力が魔液によってその圧を増す。ビキビキとネギの身体を駆け巡り、侵し、力を与える。

 

「なるほど、その魔法では考えられなかった急な魔力の濃さはそれか」

「質で上回るには、こうするしかなかッタからね」

 

 会話しながらも気を逸らせば獣になってしまいそうなほどの狂気が、ネギを襲う。

だが怖がることは無い。この狂気は自分自身。これがあるからこそ、自分は戦っていられるのだ。

腕が壊れようが、脚が折れようが、心が挫けようが、ネギ・スプリングフィールドは止まらない。止まれない(・・・・・)

 

――さぁ、理性の為に本能のまま暴れよう。

 

「ガァ!!」

「!?」

 

 腕脚が鋭利になったネギの手刀がフェイトを襲う。

結界に阻まれるが、更に捻り(・・)を加え追撃を与え打壊し、フェイトに叩き付ける。

フェイトは素手で受け止めるが、蒼炎によって焼き焦げ疾風によってネギの勢いは増すばかり。

 

 そうして、ネギに圧しこまれる形でフェイトは鬼の大群の向こう、リョウメンスクナへと叩き付けられていった。

 

「な、なんや!?」

「痛た……やぁ天ヶ崎千草。悪いけど、邪魔はしないでくれるかい」

「は?アンタ、え?」

 

 突如吹き飛んできたフェイトに目を白黒させる天ヶ崎。

その視線は、傷つけられたフェイトの裂傷から滴る白い血に向けられていた。

 

「アンタ、一体」

「後にしてくれ、今良いトコロ(・・・・・)なんだ」

「ハ?――キャァアアア!?」

 

 何を言っているのか理解できない天ヶ崎を、更に理解しがたい暴挙が襲った。

フェイトに目掛けて黒い疾風が飛び込み、蒼炎を爆裂させた。その威力はすさまじく、リョウメンスクナに護ってもらう形になっていた天ヶ崎にも影響を与えるほどだ。

 

「グゥウッ」

「はっ!!」

「ウガ?!」

 

 とんでもない威力を受け流したフェイトは、そのままネギを蹴り飛ばした。

飛んでいくネギを追いかけていくフェイト。彼らは、少し離れた森林で争い始めた。

 

「な、何なんや一体……」

 

 白い血を流すフェイト。化物のような風貌のネギ。

リョウメンスクナを封印から解き放ち召喚した天ヶ崎だったが、その鬼神が可愛く思えてしまう程の衝撃を受けていた。

 だがそれだけでは収まらない。

今度は億鬼夜行の大群を大きく二分にするほどの斬撃が放たれたのだ。

 

「あぁもう次から次へとッ!?」

「お嬢様ァ!!!」

 

 妖怪の大群を無視するように現れた刹那。

その黒刀からの妖気に浸食されながらも放たれた()の一撃は、確かにリョウメンスクナに届いていた。

 

「何やあの刀!?」

「ネギ先生、刹那……」

 

 驚愕する小太郎と、心配そうに見つめる龍宮。

今、ネギと刹那は限界を超えた無理をしている。二人とも長くは持たないだろう。

 人外と人間、鬼神と剣鬼。最後の死闘が始まった。

 

 

 二人の臨界まで、あと数分――!




『影ネギ』
 ネギの本心であり、裏の顔。誰もが持っている二面性、その一面である。
暗示や先生プログラムによって自分を偽っていたということ、それに加え闇の魔法会得により、心の奥底でくすぶっていた病み(闇)の自分に人格が形成されてしまった。
彼はネギであるが、その本質は獣に近い戦闘本能の塊。争いを良しとし、殺戮と英雄を同一視している。
ネギの焦がれる英雄像に近く、それでいて一番遠い。そのため、ネギは肯定しつつも受け入れ、堕ちるつもりはない。
『疾風怒濤・闇』
 闇の疾風によって火力が上がり、蒼炎となった。
本来の疾風怒濤以上の攻撃力を持っているが、その身を焼き焦がすほどの炎は今のネギには文字通り過ぎた代物である。
『魔晶液』
 魔石を液状にしたもの。本来は魔法具を造る際、魔力の通りを良くし、効率よく魔力を回すためのモノである。
ネギはこれを闇の魔法の応用で自分に組み込むことで、魔力の回転率を無理やり底上げした。その代償は如何程か……。
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