もしものネギ先生   作:...

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正体

 スペックで追いすがるネギだが、その他もやはりフェイトの方が上手(うわて)である。

戦闘慣れしてるというのだろうか。死角に回り込んでの決定打が上手いことズラ(・・)され、威力を殺され、いなされてしまう。

 

(残り時間も少ない……どうにかするんだ)

 

 身体が悲鳴を上げている。呼吸をするだけで激しい痛みがネギを襲っていた。

暗示や薬の副作用で幾らか感覚が鈍り、自覚が少ないために表面に出ていないだけだ。

 魔力は同格、格闘術は相手の方が一枚上手。

魔法は障壁を貫通するための威力を準備しなければいけない。そもそも中るのか……。

 

(いや、中てる。それに、僕がフェイトに勝っている唯一がある)

 

 拳を握りしめ、準備を始めた。

同時にフェイトの背後に見える巨躯の大鬼(リョウメンスクナ)を見据える。

アレもどうにかしなければいけない。

 

(やり直しは出来ない。問題は、タイミングと……)

 

 フェイトだけを釘付けにするだけならともかく、大鬼まで攻略するにはネギの力だけでは難しい。

不可能ではないが、やはり勝算が低すぎる。

 

(頼みます、刹那さん)

 

 どうにか木乃香を救出し、その際に起きるであろうコンマ数秒の隙をネギは刹那に任せ、フェイトとの戦いに集中する。

 

 

*

 

 頭の中で声がする……心の底から愉しそうにくすくすと嗤っている。

 

――大きかねぇ。こうして戯れるのも一苦労やわぁ。

 

「くっ」

 

 最初の斬撃は確かに鬼神に傷を負わせた。

だが、致命傷には足りない。未だピンピンしているリョウメンスクナは六もある巨椀を振り回し、虫でも払うように刹那に猛威をふるっていた。

時折狙いすましたように一直線にとんでくる拳や掌は刀の妖気を引き出し、斬撃を当てることで一瞬、()を作って避けるということを繰り返していた。

 

――あぁ、ほら危ないぇ?もっと使わんと。

 

 妖気の探査だけではなく、刹那の感覚と同調しており、呑気に観戦している声。

もっと力をと刹那を誑かすが、その一線を中々刹那は越えられないでいた。

 この妖刀からの浸食を抑えて居られるのは、日頃から自分の力を抑えていて慣れているから。

……だけではない。元々持つ刹那の素養。彼女の妖気の容量(キャパ)が関係していた。

日頃使っていない刹那の妖気が妖刀の氣に圧され、顕現しようとしていた。

 

(これ以上は、私が――)

 

 自分の妖気と妖刀の妖気。暴れるその両方、どちらかしか抑えきれないと確信した刹那。

この角も、斬撃の禍々しさも、剛腕も……今なら、妖刀のせいにしていられる。

だが刹那自身の力は別だ。鬼なんて関係ないあの力。みられてしまえば……――。

 

「―ッ!!」

 

 一瞬の躊躇を狙って鬼神の腕が振るわれた。

横なぎに襲ってくる腕に刀を振るい、自分自身を上空へ弾き上げる。

 

「……ぁ」

 

 鬼神の剛腕の力もあいまって一瞬だが鬼神の顔まで吹き飛ぶ刹那。

その視線は……手足を縛られ、呪文を邪魔されない様に札で口を封じられた木乃香の姿を捉えた。

 

(何を、やっているんだ私はッッ!!!)

 

 身体は重力に従い、木乃香が遠くなっていく。

 

(違う、違う違う違う!!私はお嬢様を助けるために此処に来た。救うために駆けだしたんだ!)

 

 なのに戸惑ってどうする、怖がって(・・・・)どうする!!

 

「童子斬安綱、解放――酒呑童子(しゅてんどうじ)!!」

――あいあい、ご指名ありがとさん♪

 

 妖刀に秘められた氣が噴出する。

刹那の腕を多い、その身を赫紫色の紋様が奔る。

全身を妖気が包みこみ、内側も満ち……溢れた。

 

「ッ」

 

 バサッと……刹那の背中から白い翼が現れた。

更に変化はそれだけに収まらない。黒髪に染めていたが、妖気によって塗料が剥がれ真っ白に……カラーコンタクトも消滅。銀色にも思える煌びやかな白い瞳が露わになる。

 

「……」

 

 烏族(うぞく)と人のハーフ、有翼人。……本来なら黒い翼なのだが、彼女はどういうわけか白い翼を持って生まれた。

彼女は烏族にとって異色であり、異端であった。人の血を引き、反対の色を持った彼女は追放され……近衛詠春に拾われることになった。

 

――■■■!!

 

 幼い頃に受けた迫害(トラウマ)が脳裏をよぎる。罵詈雑言を烏族全員に言われ、両親は心を病んだ。最後は親からすら見放されて……でも、それでも刹那は自分を不幸だとは思わない。

 

(……お嬢様)

 

 詠春に拾われてからも不安で一杯だった。

烏族に嫌悪された上に、人間にも嫌われてしまえば――そんな、考えたくもないことをずっと思い続けていた。

髪を染め、瞳を偽って、嫌われない様に慎重に臆病に。

 そんな彼女に笑いかけてくれたのが、一緒に遊んだのが……一緒に過ごし、楽しい、嬉しいを共有してくれたのが木乃香だった。

詠春も傷付いた自分の手を引いてくれた、厳しかった剣の師匠だって丁寧に教えてくれた。

 

――私は、十分幸せ者だ。

 

 そんな自分にしてくれた人が危機に陥っている。

自分を見られるのは恐怖が伴う。それでも、行かなければいけない。

ここで恐れに負けてしまったら、ここで救えなかったら、きっと自分は一生後悔する。

 

「今、そっちに行くからね……このちゃん」

 

 決意を小さく呟くと、妖力と氣力を爆発させた。

生半可な一撃は効かない。全てを、一刀に掛けて――放つ。

 

 

――神鳴流・極大黒光剣(きょくだいこっこうけん)

 

 

 真っ黑な稲光(いなびかり)が、巨大な鬼を斜めに断ち切った。

 

「な、ぁ……!?」

 

 天ヶ崎千草には何も見えなかった。一瞬で空から降ってきた黒い光に鬼を両断され呆然とする。

捕えていた筈の近衛木乃香は、斬られる寸前に白い翼を生やした刹那に攫われ、抱きかかえられていた。

 

「うそや…――」

 

 呆然とした彼女は、直後青い光に飲み込まれた。

 

 

*

 

 

 鬼神が断たれた瞬間を、彼らも見ていた。

そしてそれは勝負を決するきっかけとなる。

 

「これは……」

「ッ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬フェイトの意識が刹那達へ逸れた。

彼にとってもあの結果は想定外だった。鬼神に翻弄され、吹き飛ばされるのがオチだと、そう想定していたのだ。

そうして出来た隙に、ネギが全力を持ってして彼を押し込む。

 

「ォオオオオオオオオ!!!」

「!?」

 

 とっさに石の剣がばら撒かれるが、致命傷以外を無視して彼に密着、真っ二つに斬られた鬼神へとその身体を押し付けた。

まずは無詠唱で捕縛魔法、懐に持ちこんでいた銃で障壁破壊弾を撃ちこみ、邪魔な防壁を減らす。更に携帯から空間を圧縮するタイプの超小規模結界魔法を起動、ついでに闇の魔法の浸食を自ら悪化させ、生やした尾(・・・・・)でフェイトを拘束した。

 

(これで―)

 

 ネギがフェイトに唯一勝っていること。それは、手札の多さ(・・・・・)だった。

その全てを切り全力で彼を拘束する。これでも数秒と持たないだろうが、数秒あればいい。

さらに内包している魔法を解放する。

 

解放(エーミッタム)・雷の暴風、奈落の業火――術式統合(ウニソネント)

 

 これが現在のネギ・スプリングフィールドの正真正銘の全力全開。

奥の更に奥の手、切り札ならぬ鬼札。

 

――蒼炎の暴嵐(アイオーン・テンペスト)!!

 

 超高温の嵐がフェイト、鬼神、そして天ヶ崎千草を巻き込み焼き尽くそうとその猛威を振るった。

鬼神は消滅、天ヶ崎千草は鬼神に護られたのか傷はそこそこの様だが、衝撃で気を失い湖へと落ちていった。

そしてフェイトは……。

 

「なる、ほど」

「………ハハ」

 

 思わず笑みがこぼれる。

あり得ない、ゼロ距離で、邪魔な障壁は出来るだけ数を減らした。

何故、どうやって……いや、それ以前に。

 

「キミ、一体何者なんだ」

 

 その身は確かに火傷を負い、嵐によって刻まれた深い切り傷から白い血をダラダラとこぼし続けるその有様は重症に見える。

だが、それでも彼は微笑を崩さず、その場に佇んでいた。

 

「無力と言ったのは、訂正しよう」

「っ」

 

 逃がさないように、傷を負っているとは思えない力で腕を掴まれた。

既に魔力の殆どを使い、身体の外も内もボロボロのネギには逃れる術はない。

 

「だが、無知に変わりはないね。仕方がないのかもしれないけど、やはりキミはまだまだだ」

「何を言って」

「任務は失敗だけど、この勝負は僕の勝ちだ」

 

 笑みを浮かべた彼が呟いた次の瞬間、ボッと音を数瞬置き去りにした拳がネギへと叩き込まれる。

勢いよく吹き飛んでいき、魔法の衝撃で焼けていた木々を粉々にしながらネギは地へ沈んだ。

 

「さよなら、ネギ・スプリングフィールド」

 

 水の転移で消えた彼の眼には、そしてその拳には、確かにネギが致命傷を負ったのを認識していた。

 

 

*

 

 

 ネギが吹き飛んでいった場所に、大急ぎで刹那達が集まった。

刹那の姿を見て龍宮が驚いたりもしたが、それより今はネギだと考え駆けつける。

 

「「「ネギ、先生!?」」」

「おい、無事、か…?!」

「兄貴!」

 

 駆けつけた全員が驚きの表情を浮かべる。

唯一カモだけが龍宮の肩から降りて安否の確認を行い始める。

 彼女達が驚くのも仕方がない。

なぜなら吹き飛んだ先に居たのは、身体を血に染め口から血を溢し続ける……赤毛の少年(・・・・・)だったのだから。

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