総本山へと帰ったネギたちは、応援部隊からの治療を受けた。
特に無理をしたネギと刹那は一晩掛けて治療を行われることとなった。
このかの異常な回復能力のおかげもあり、ネギの外傷はほぼ治っていたが刹那はそうはいかない。
酒呑童子と同調したため妖気が少なくとも今までの倍に膨れ上がっており、その影響もあって髪と瞳の色が白から変えられなくなっていた。これからの学校生活を考えると……いや、あのクラスなら簡単に受け入れられるから問題ないだろう。
「以上が今回起きた全てです」
「ありがとう、ネギ君」
「いえ」
ネギは今回起きた自分の知りえることを纏め、資料を渡し説明もした。
礼を言われるがネギとしては当たり前のことをしただけであり、それ以上に今回は自分自身が知らないことが多すぎたため、寧ろ申し訳なくすら思っていた。
「にしても……」
「違和感、ありますよね」
重度の魔素に侵されたネギは、一週間の魔法禁止を言い渡されていた。
本来なら絶対安静を言い渡されてもおかしくはなかったのだが、これも応援部隊の腕がよかったからだろう。
しかし、一週間はネギは魔法が使えない。つまり、今のネギは年相応の子供の姿なのだ。
「いやいや、そんなことはない。寧ろ違和感なくてびっくりしているくらいだ」
「そうですか?」
子供がスーツを着て資料を作って渡して来たら、誰でも戸惑うものだと思うが。
「私の仲間たちはもっと濃い奴らがいたからなぁ。相当なことじゃない限り、驚くことはないよ」
「はぁ……なんかすいません」
どう考えても破天荒だったという父もその一因だろう。そう思い当たったネギは思わず謝り、詠春はその姿に苦笑いを浮かべた。
その父親の子供がこんな真面目なのだという事実にこそ、彼は驚いているのかもしれない。
「では、僕はこれで」
「あぁ、お疲れ様……そうだネギ君、近くにナギの別荘があるんだ。その姿じゃ旅館には戻れないだろうから、寄って行ってみたらどうかな?」
「そう、ですね……そうさせてもらいます」
今回ネギは体調不良で麻帆良に帰宅したことになっている。
先生方には申し訳ないと思いながらも、父の別荘に気兼ねなく行けることに喜びも感じていた。
「改めて、失礼しました」
別荘の場所を聞き、鍵を受け取り部屋から出る。
向かう先は刹那がいる部屋だ。その部屋からは刹那を含め、数人の声が聞こえた。
「すいません、ネギです」
「あ、どうぞ入ってください」
「失礼します」
入ると真っ白な髪と瞳になった刹那が制服を着てホワイトボードの傍らに立っていた。
どうやら、このかや明日菜、そしてのどかに魔法に関して教えているようで……。
「って、何してるんですか!?」
「? 魔法について知りたいということでしたので」
「あの……このかさんはともかく、二人は一般人ですよ?」
「明日菜さんは記憶処理が効かないようですし、ある程度は知っておいた方がいいかと……それと、のどかさんの意思は固いです」
「意思って……」
「……ぁぅ」
ネギと目が合い、真っ赤になって俯くのどか。
彼女はネギたちが総本山に戻った際、いの一番に駆け寄ってきた。
その時、ネギの姿を見て彼が実は子供だったと知って……それでも、無事でよかったと泣いて喜んでくれた優しい人間だ。
裏切りに怒らず、説明され理解し飲み込み、何も言わずネギをこうして気にかけてくれる。
俯いたのどかを見て、ネギは一つだけ確信があったことを聞いた。
「……僕が、魔法使いだからですか?」
「! それは、その……それだけじゃ、ないです」
ビクッとのどかの肩がはねる。図星であるが、しかしそれだけではないと否定の言葉を上げた。
「ネギ先生のことは、その……凄く、驚きました。魔法使いで、ホントは私より年下だったり……」
「えぇそうです。僕は貴女を……いえ、貴女
「それは、仕方ないこと、なんですよね?」
「………僕は、飛び級したという証明書を持っています。教師になるための試験もパスして、本物の教育者の免許というものもあります」
ネギは子供の姿のまま先生が出来た。免許も何もかも、本当だ。
「年齢と外見を偽ったのは自分の意思です。魔法使いという異質を隠すために、その方が効率がいいと判断しました」
子供先生なんてものをやっていたら、良くも悪くも注目が集まる。
何かを隠すのならば、人の視線は少ない方がいい。
「仕方のないことではなく、コレは僕の意思です」
「………」
「のどかさん……」
刹那やこのか、明日菜の視線が黙ったのどかへと集まる。
彼女が提示した薄っぺらい免罪符を自分で打ち消し、堂々と自分は裏切者で詐欺師だと言ったネギは罵倒されてもおかしくはない。
そんな言い方無いだろう、と明日菜に至っては軽く怒りが沸いているような状態だ。
少しの沈黙の後、口を開いたのどかは――緩く、微笑んだ。
「ネギ先生は、ネギ先生ですね」
「はい?」
天才と言われてきたネギが、初めて全く理解が出来ない言葉が出てきた。
彼は姿を偽り、
その全てを今だけでなく、部隊が来るまでの間にも説明したのに、だ。
「だって私の知ってる、私が知った、ネギ先生です。いつも頑張ってて、一生懸命で……そんな風に、私の
「……………」
「私は魔法に興味があって、同時にそんな大好きな貴方の、隣に、居たい……それが、私の意思です」
のどかの真っ直ぐな気持ちに何も言えなくなるネギ。
このかの信念と同じ『絶対に曲げられない意思』というモノにネギは弱い。
それに加えてネギはのどかの想いの回答を、未だに見つけられないでいた。
「うひゃー、本屋ちゃん凄いわね」
「ほんまやねー、なんや暑ぅなってきたわ」
「これは、何と言えばいいか……」
明日菜やこのかはニコニコと見守り、刹那は同じ異能者の立場としてコメントできずにいた。
「………はぁ。分かりました、好きにしてください」
「ネギ先生……!」
「それと僕は貴女の、のどかさんの気持ちへの応えが見つかっていません。ごめんなさい」
「いえ、その、私も急なことだったので……はぅ」
告白の時を思い出したのか、顔を真っ赤にするのどか。
今も友人である三人に聞かれているのもあり、顔を俯かせて尚身を縮ませている。
「それで待たせるお詫び、というわけではないですが、理由の一因が僕にあるなら魔法に関しては僕に教えさせてもらえませんか?」
「ぇ……え!?!?」
ガバっと顔を上げたのどかに、微笑みを返すネギ。
元気になってくれたなぁなんて思っているネギだが、のどかからすれば思いを寄せている相手と親しくなるチャンスでもある。
「い、いいんですか?」
「はい。こう見えて魔法論理には詳しいつもりですから、安心してください」
「はい!」
ネギは元々自分が秘匿できなかったのが原因と考えているため、ネギにとって寧ろ教え、護るのは当たり前のことだった。
純粋に喜ぶのどかを見て決意を強くするネギ。
いい雰囲気なその空間に、ぴょんっと現れる一つの影。
「兄貴ー!今こそ
「へ?え、えっと、オコジョ……喋って?」
「はぁ。あのさ、カモくん」
「兄貴、このお嬢ちゃんに修行着けるんでしょう?ならお嬢ちゃんは兄貴の関係者どころか、兄貴の一番弟子じゃないですかい!」
カモに驚くのどかと、相変わらずなカモに頭を抱えるネギ。
いつも通り断ろうとしたネギだが、彼が何か言う前にカモがたたかけた。
「このかお嬢ちゃんや刹那姉さんとも交わしたのは状況が状況だったが、今回は嬢ちゃんの意思に兄貴が折れたわけだし、それにカードがあれば色々便利ですぜ!何より、護身にも繋がるじゃねぇですか!」
「えっと、ぱくてぃおーってなんなんですか?」
「えーあー、もぉー」
今のネギは暗示を使用していない。何だか面倒になってきたという意思が表に現れ、分かりやすくカモを握りつぶそうか悩みだした。
カモはのどかの背後に周りうまいこと逃げつつ、彼女に仮契約について教える。
「き、キス」
「のどかさん、別に断っても……」
「い、いえ!ぜ、ぜひ、お願いしま、すっ!」
言葉を噛みつつも強い意志を見せるのどか。
ネギには確固たる意思表示をした方がいい、と日頃弱気な彼女はこの日学んだ。
その結果が友人たちの目の前での
「そんじゃ、パクティオォー!!」
もうネギに何も言わせないつもりのカモは、全速力で魔法陣を描き、二人を光で包んだ。
仮契約の魔法陣には特殊な副次効果がある。お互いの繋がりを強める行為でもあるからか、この魔法は何だか気持ちが安らぐのだ。
「な、なんだか暖かいですね……変な気分です」
「あはは……あ、そういえばこの姿で大丈夫ですか?少しくらいなら変わりますけど」
「大丈夫です。どっちの姿も、私のだ、大好きな先生です……から」
「……ありがとうございます」
カードが出現するまでの間、僅かな時間唇を交わすこの瞬間を、のどかは忘れないだろう。
キスをする二人を見てニヤニヤする明日菜にこのか……そして、思案顔の刹那。
(……10歳であの強さ。英雄の息子ということを除いても、異常だ)
そもそも英雄ナギ・スプリングフィールドは行方不明になって長い。
ネギは父親に何も教わっていないにも関わらず、異常な強さを自力で得たことになる。
それだけではなく何より異常なのが、自分が死にかけるほどの重傷を負ってもブレない精神。
(何となく、カモさんが先生に仮契約を勧める理由が分かった……この
小さな少年から垣間見えたナニカを刹那は感じ取った。
この日から刹那との修練の時間が少し増えたのは言うまでもない。
「……これが、私の」
「仮契約のカードですね……えっと、
黒い縁取りがされたカード、そこには大き目のフードが付いた白いワンピース姿ののどかが描かれていた。
カードの彼女の胸元には、六方陣の中心に瞳が描かれた銀色のペンダントが存在している。恐らくこちらがアーティファクトだろう。
「効果は今度確認しましょうか。修学旅行が終わって、僕が魔法を使えるようになってから開始しましょう。それまでは理論の方を教えますね」
「はい!」
「……ネギ先生」
「はい、何でしょうか刹那さん」
刹那が挙手をし、一つ頼みごとをした。
「出来ればこのかお嬢様にも魔法を教えていただきませんか?」
「え、うち?」
「このかさんは学園長に教わった方がいいと思いますが……」
「おじーちゃんも魔法使えるん?」
「学園長は魔法も使えますが、基本は氣の方が扱いが得意な方ですし、先生に教えてもらったほうがお嬢様も気が楽かと」
確かに、潜在魔力が高いこのかは魔法に長けている人に教わる方がいいだろう。
ネギは自分が学園にいる魔法使いとして高位にいるとは思っていない。
理由として、他の先生の実力を知らない為である。仮にもあのエヴァンジェリンの監視を任されている学園の魔法先生だ。かなりの実力者が揃っているだろうとは考えているため、このかに教えるのは自分でなくてもよいと思っていた。
「僕より実力がある人は大勢いると思いますけど、それでもいいのなら……のどかさんも大丈夫ですか?」
「なんかごめんなぁ」
「い、いえいえ!よろしくお願いします!」
「ええこやなぁ、よしよし」
「え、あ、ぁぅぅ」
いい子イイ子とのどかを可愛がるこのか。
ちなみに刹那はネギを見て、何を言っているんだろうこの人は……という目を向けていた。
(我流であそこまで近接戦闘が出来る上に、あの特殊な魔法……貴方より実力がある人は、学園でも少数ですよネギ先生……)
自分がいったい誰に教えを乞いていて、誰を基準にしているのか、ネギは自覚を持った方がいいと感じた刹那だった。
お久しぶりです、長らく間が空きました……展開が浮かばなかったのと、のどかのアーティファクトが思いつかなかったのです。
散々悩んだ結果、サードアイに。元ネタとしては某覚り妖怪です。細かい能力は違うと思います。
他にも考えたのですが……やっぱりこの子には読心、サポート系が似合うなぁと。同時に戦闘も出来るようにしたかったのですが、戦闘だけに振るとこれじゃない感があって結果こうなりました。