もしものネギ先生   作:...

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英雄の謎

 ネギは生徒である彼女たちを途中まで送ると、カモを連れて父の別荘までやってきた。

彼女たちは迷子になり、夜くたくたになったところを拾われ一晩世話になった、ということになっている。龍宮真名には迷子を捜しに行って迷子になった、という申し訳ない理由を押し付けてしまったため、今度何かお礼をしなければいけない。

 

「……ここが、父さんの」

 

 草木が生い茂り、建物を見え辛くしているが、それが寧ろ秘密基地のような趣きを出していい雰囲気になっていた。

事実、この別荘は魔法的処置によって外部から人が認識できないようになっているため、あながち秘密基地というのも間違いではない。

 中へ入ると、壁一面が本や書類で満たされている。

魔法で保護されているからか、ほこりなどは被っていない。

 

「こりゃぁすげぇ本の数だな。兄貴、どれから調べるんで?」

「全部だよ。暫くは休みだし、此処に滞在する」

「麻帆良に戻らない気か?」

「戻っても療養ってことでやること変わらないよ。一々長を訪ねてここに来るのも面倒だし」

 

 そう言いながら、眼鏡に魔法薬を塗って速読を開始する。

元々ネギの持っている魔法具の殆どは、魔法が使えない状況(・・・・・・・・・)を仮定されて設計されている。

魔弾は元々魔力を込めてあるし、携帯だけでなく眼鏡にだって小型のバッテリーを積むことで魔力でも電力でも起動が可能になっている。

特に電力で動かせる携帯と眼鏡には大分世話になった。魔法学院の書庫に無断で忍び込み、速読だけでなく記録するのにもこの二つを役立てたものだ。

 

(日記とかは、まぁあるはずないか………………………ん?)

 

 暫く読み進めていると、いきなり別種の本が飛び込んできた。

今までは魔法や魔法世界に関する本、主に歴史書などだったのだが、急に天体の本が出てきたのだ。

魔法世界を救った英雄ナギは、天体……宇宙に興味を持っていた?

 

(………全体を把握してないからまだ何とも言えないけど)

 

 今は情報を溜め込む時間だ。整理するのは後でいい。

スイッチを切り替えると、ネギは黙々と書物を漁っていった。

魔法を使わなければいいのだから、と変な都合を引っ張り上げ「氣」で眠気を誤魔化し、一日3時間ほどの睡眠と片手間の食事に時間を取られる以外、残りの時間を全て読書へとつぎ込んだ。

 

 そして……謎が残った。

 

「………んー、どういうことだろ?」

 

 ここに来れば英雄の、父のことが分かるだろうと思っていた。

父だけではない、村の誰も知らなかった母のことも何か知れるかも、と少し期待していた。

だがここにあったのは魔法に関する知識書、魔法世界の歴史書、それに麻帆良に関する書類と、少しの天体に関する書物。

 

(麻帆良に関する書類が出てきたのにも驚きだけど、気になるのはこっちかな……火星に関する本が比較的多かった。火星に行きたかった……?)

 

 英雄ナギは過去、大戦後に人々を救って回っていたという。

行方を眩ませるその日まで……そんな日々を送っていた彼が、宇宙に興味があったなんて言う話は聞いたことが無かった。

 人というモノは、見知らぬ他人に夢を話すことはまずないだろう。

だが村や親戚に素振りすら見せないというのは、少しおかしくは無いだろうか。

興味があったが、手を出さなかった。もしくは出せなかった、または出す必要が無かった?

 

(理論的には魔力や氣でコーティングすれば、宇宙空間でも活動は可能……普通は無理だろうけど、英雄と呼ばれる程の達人であればロケットさえあれば行けるはず。いや、ロケットなんて無くても転移で……違う、そうじゃなくて)

 

 論点がずれたのを自覚し、頭を振って戻す。

大戦で活躍し、困窮していた人々をその手で救い続けた男は、別の星に関心を抱いていた。

本を買い、読み集める程度には興味があったその理由は……不明。

宇宙旅行に行きたい、なんていう程度のモノではないことは、専門書を見ればわかる。

 

(誰かに笑って話せる類の、気楽なものではなかった……?)

 

 英雄ナギは、子供を作る程に愛する誰かがいた。その子供を窮地から救う程度には、認知していたはずだ。

そもそも、家庭を持った男がその家族を放ってしなければいけない(・・・・・・・・・)こととはなんだ?

 

(………)

 

 失踪理由不明、婚姻相手不明。分からないことだらけだが、一つだけわかったことがある。

大戦に飛び込み、駆け抜けた英雄はヒロインと結ばれハッピーエンド……ではなかった、としたら?

 

(何かある。自分の幸せというモノを手にしておきながら、それを手放さなければいけなかった何かが……)

 

 脳裏に、白髪の少年が浮かんだ。

自分を無知だと言ったあの少年……あの時は何を言われているのか分からなかったが、こうして自分の両親のことすら知らなかったことを自覚した。

英雄の息子と呼ばれるにしては、何も知らなさすぎる(・・・・・・・・・)

 

「―――………ぁーそっか」

「? 兄貴、何か分かったんで?」

「いや、うん。何でもないよ」

「??」

 

 横で雑誌を読んでいたカモを撫でながら、今更ネギは自覚した。

親元から離され親戚へ預けられ、何も知らされず、送られることもなかった。

村襲撃の際には、ナギ自身が救けに来たが、きっと村を襲撃されることが無ければ、普通に(・・・)()()()()()()はずだ。

 

(………僕は、護られてるのか)

 

 英雄が近くにいては守り切れないと判断したナニカから、遠ざけられている。

今の自分では途方もない程に巨大な何かを、その日ネギは偶像した。

何も分かっていないながらも、未だ英雄は戦い続けているのだと、彼は知った。

 

 未だ未だ力不足だと、痛感した。

 

「帰って修行しなきゃなぁ」

 

 明日は麻帆良に戻ることになる。

丁度休みだし、溜まっているであろう雑務をエヴァの所でさっさと片づけて修業をしよう。……いや、今直ぐ帰ってやろう。

 

「ってことでカモくん、帰るよ」

「うぇ?!明日の予定じゃ!?」

「もう読み終わったし、記録もした。長に挨拶したらそのまま帰る」

 

 さ、レッツゴーと少年姿でカモを引っ掴んで去るネギ。

明日までは魔法禁止だが、麻帆良に戻り次第エヴァの別荘で過ごせば一日待たずとも魔法が使えるようになる。

エヴァの住んでいる場所は校舎や寮からは少し離れているから、この姿で向かっても目立つことは無いだろう。

 

 その日のうちに麻帆良に戻ると、エヴァから呆れた視線を受けながら雑務をこなした。

別荘での一日は外界での一時間。よって、既に魔法は使ってもいいということになる。

勿論、普通は精密検査をした方がいいだろうが、ネギはそこに時間を使うつもりはなかった。

 

「そういえば、まだ皆さんは授業中ですよね?サボりですか?」

「貴様に言われる筋合いはないぞ?全く、幻術なしで帰ってきたと思えば行き成り別荘に押し入った上に雑務処理しだすし……というかその書類はどこから出した?」

「カモくんに取って来てもらったんですよ。彼、こういうの得意なので」

 

 過去に下着泥棒として名をはせたオコジョは伊達ではない。

これが下着ならばもっと素早く盗ってきただろう。

 

「まぁ何にせよ随分やる気じゃないか?」

「えぇ、力不足を痛感したので」

「確かにボロボロだったもんなぁ~」

「うっ見てたんですね」

 

 遠見の魔法だろうか、エヴァは修学旅行の戦闘を全て見ていたらしい。

 

「あぁ。随分無茶をしたものだ……が」

「っ!」

 

 ぐいっと腕を引っ張られ、袖を捲られた。

そこには起動状態のまま(・・・・・・・)闇の魔法(マギア・エレベア)が浮かび上がっていた。

 

「なるほど、成果はあったようだな。まだ多少刷り込みが甘いが、無意識状態での発動、その維持か」

「えぇ。魔晶液で限界値が上がった分の自己回復の上昇……やれることはいくつかありましたけど、直ぐに出来ることはこれくらいだったので」

「魔法禁止だったのだろうに」

「既に発動している魔法を解け、とは言われなかったので」

 

 そう、魔法を発動することは禁止されたが、既に発動……というよりも、活性化していた魔法を止めることは禁止されていない。まぁ幻術で隠して見せていないので、いわれるはずもないのだが。

それになにより、これの止め方をネギは知らない。

 

「全く、馴染み過ぎだ。身体の回復速度も異常だな。腕取るついでに罅入れたのに、もう治っているではないか」

「痛いと思ったら、何してくれてるんですかエヴァさん……」

「ハッ、元から痛んでいたくせに何を言うか」

 

 異常な闇の魔法の力でネギの身体は魔力的にも身体的にも充実している。

だが、その負荷はやはり大きい。強いものではないが、それなりの苦しみがネギを襲い続いていた。

 

「でも今はこれしかありません」

「……坊や、何を焦っている?言っておくがな、今のままでも貴様は十分強者の部類に入っているんだぞ?」

「僕の憧れには程遠いでしょう?」

「むっ」

 

 ネギの憧れ、英雄ナギの強さはエヴァも知っている。

確かに、アレと比べるとまだ未熟だろう。

しかしそれは比べる相手を間違えている。あの馬鹿は文字通りの怪物だったのだから。

 

「ハァ。そこまで言うのなら仕方ない……明日は学校が休みだし、坊やもやることがあるんだろう?」

「えぇ、そうですね。魔法を教えることになってます……って誰からそれを?」

「魔法関係者だとわかるやいなや、色々聞かれたり話されたりしただけだ。全く、あのぬらりひょんは孫だからと言って甘やかしおって」

「あー、なるほど……もしかして僕がいない間に魔法に関してご教授を?」

「あぁ、もちろん断ったがな。弟子は一人で十分だ……さて、それじゃぁデート(授業)の頃にはもう少しマシになるように仕上げてやろう。クックック、音を上げるなよ?」

 

 契約の瞬間も見られていたのだろう、やけにニヤついたエヴァに半ばからかわれながら、修業を開始した。

 そしてその日、ネギはぶっ飛ばされた回数を更新した。

不死身の吸血鬼相手にそこそこ回復力が上昇しただけのネギでは、やはり未だ勝ち星は上げられそうになかった。




闇の魔法浸食深度増加・定着率上昇中――……。

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