もしものネギ先生   作:...

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 ……さらに一話続いてしまいました。感想って凄いデス!


魔法使いネギ

 3年になったA組のネギに対する評判はかなり良かった。

授業は分かり易く、バカレンジャーにも根気強く、優しく教え少しずつ成績を伸ばしていった。

怒る時は怒るが、基本的に優しい上に時折微笑むその姿ときたら、中学生女子には甘い毒の様に効くようで既にファンクラブの人数は五桁を超えているとか。

 

「……フン」

 

 そんな姦しい噂話を鼻で笑う少女がいた。

彼女はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、訳あって麻帆良学園に軟禁されている吸血鬼だ。

 

(完璧な先生?あの(・・)ナギの息子が?)

 

 ネギの父であるナギ・スプリングフィールドのことを彼女はよく知っている。

粗野で乱暴で魔法学校中退で、魔法は5,6個しか覚えていないなんちゃってサウザウンド・マスター……確かに実力は化物レベルだったが、そんな奴の子供がまさかの先生として大成功している。一体どんな皮肉だろうか。

 

(今に見てろ、化けの皮を剥がしてやる!)

 

 彼女は力を封印されている身ではあるが、戦えないわけではない。

吸血鬼の莫大な力は意外としたことやちょっとした些細なことである程度取り戻せるのだ。

今回はちょっとしたこと……生徒からの血液収集である。

万全には程遠いが、一般の魔法使い程度なら少しの血液と薬品、そして何より従者がいれば十分だ。

 

「行くぞ、茶々丸」

「はい、マスター」

 

 茶々丸(従者)を従え、夕暮れの屋上を立ち去るエヴァンジェリン。

そしてその日から、桜通りの吸血鬼の噂が立ち始めることとなった。

 

 

*

 

 

 ネギが吸血鬼の噂を知ったのは犠牲者が数人出たところだった。

未だA組に被害は出ていないし、死傷者が出ているわけではないせいか大きな噂にはなっていない。

だが女子とは特に噂話が大好きで、少し耳を澄ませると色々な話が飛び込んでくる。

 

(……吸血鬼、か)

 

 魔法使いの界隈での事実として、吸血鬼は存在する。

だがその数は少なく、弱点もそれなりに存在する為意外と滅殺されたり封棺されるケースが多い。

それに魔法先生や魔法生徒が多く在籍するこの麻帆良学園で、そんな大それた真似が出来るというのは少しおかしい気もしていた。

 

(タカミチは未だ留守だし、学園長に話を聞いておくべきかな)

 

 今日の補習は中止にし、書類仕事を手早く片付けるとネギは学園長室へと向かった。

 

「学園長、ネギ・スプリングフィールドです」

「ん?ネギ先生か、どうぞ入って構わんよ」

「失礼します」

 

 ノックをして入室する。相変わらずぬらりひょんの様だと失礼なことを考えつつ、吸血鬼の件について打診した。

 

「あぁその件か。ウーム……」

「何か心当たりが在るんですか?」

「………まぁ無関係でもないじゃろうから、話してもいいか。実はの……」

 

 そこから聞いたのは、一人の吸血鬼の少女とネギの想像する父親とは全く別人のような人の話だった。

吸血鬼を落とし穴にはめてごり押しの魔法をかけて学校に登校させ続けている……それも、もう15年以上。

 

「それは、なんというか……」

「ふぉっふぉっふぉ、信じられんかの?」

「いえ、まぁ英雄譚と事実が違うっていうのはよくある話ですから……ただやることがえげつないというかなんというか」

 

 吸血鬼ということは見た目通りの年齢ではない。

とっくに成人を越えているであろう中身が大人の女性に女子中に通わせ続けるというのは、かなりクるはずだ。

肉体的に死に難い者を相手にこれほど効く精神攻撃は中々ないだろう。

 

「その呪いを解く方法はないんですか?」

「ふむ……解く方法は、まぁ意外となくもないんじゃよ」

 

 英雄の力押しの上に出鱈目の呪文(オリジナルスペル)とはいえ、15年も時間があれば呪いの解呪方法など幾らか思いつく。

 

「じゃが、彼女は吸血鬼じゃ。それも悪名高い、の」

「つまり立派な魔法使い(マギステル・マギ)として解呪するわけにはいかない、と?」

「そうなるの」

「英雄とはいえその偉大な魔法使い(マギステル・マギ)の一人が、卒業する頃には解くと約束したのにも関わらず?」

「それを言われると、弱いんじゃが」

 

 本当に弱ったような雰囲気を作り出す辺り、この人の歴の長さが窺える。

幾ら暗示をかけているとはいえ、腹の探り合いでは自分は幼子以下。練度の差が知れる。

 だけど考えることはできる。学園長はこの麻帆良を代表する魔法使いだ。そして本人は別に解呪しても良さそうというニュアンスでこちらに伝えてきた。

学園長自身が解呪しないのは、恐らくできないから。悪名高い吸血鬼を解放したとなれば信用は落ち込み、学園長ではいられなくなってしまうかもしれない。

それに恐らく魔法先生や生徒の過半数以上が反対しているのだろう。幾ら英雄の約束事とはいえ、所詮は口約束。強制力が無い以上、こう言うのは認知の差で決まる。

 

「………分かりました」

「ん?」

「学園長、自分に桜通りの警戒を任せてください。それと、その際に吸血鬼に出逢った場合、裁量(・・)は好きなようにしてもよろしいですか?」

「………うむ、そうじゃの。好きにするとよい。幾ら儂でも流石に見聞きしておらん場所で何があってもどうしようもないからのぉ~」

「ありがとうございます」

 

 深く感謝を述べる。学園長は自分にこの件を一任してくれた。中心人物が父親と自分のクラスの生徒だからというのも大きいだろう。

今の言葉からして何があっても自己責任ということになり、少なくとも学園長の手助けは無い。その代り、生かすも殺すも自分で勝手にしても、御咎めは無い。

ネギはそう解釈し、早速桜通りの見回りへと躍り出た。

 

 

*

 

 

 そうして早3日が経っていた。

ここ暫くは天気が悪かったからか、吸血鬼も態々襲いに出かけたりしなかったらしく、この日漸くネギは彼女と出会うことになった。

 

「………来た」

 

 探査魔法、探知魔法、それを隠蔽する魔法。そして自分の気を抑えることで隠形し、ついでに軽く辺りを魔法の携帯でハッキングして魔力のウィンドウを宙に開いて監視していた。

軽く自分でも歩きつつ、夜7時過ぎ。ちょっと門限厳しいくらい……つまり、生徒が慌てて危ない道でも走って帰ろうとする時間に彼女は現れた。

 

「さて、どうするかな」

 

 未だこちらには気付いていないが、それも時間の問題だろう。

とにかく装備の確認をする。携帯と眼鏡の起動確認、持ってきた魔法道具(アンティーク)それと幾らかの魔法薬。弱点になりそうな聖水等も少々。

 

「よし、行こう」

 

 彼女の標的であろう人物が襲われるよりも早く、その人の目の前に現れる。

急ではなく、少し前の角から現れた風を装って歩いていくことで、小走りで走ってくる生徒ではなく、吸血鬼の方に警戒させた。

 

「こんばんは、もっと速く走らないと時間ヤバいですよー?」

「ね、ネギ先生?! こんばんはー、ありがとうございまーす!!」

「気を付けてくださいね」

 

 にこやかに見送りつつ、その姿が小さくなったところで無詠唱で魔法を使う。

使うのは認識疎外と人の立ち入りを禁じる隔離魔法、それに魔力や魔法を隠蔽する電力を使った特殊な結界も携帯からONにしておいた。

 これで見聞き出来ない(・・・・・・・)空間の完成である。学園長も言い訳しやすいだろう。

 

「――初めまして、ネギ・スプリングフィールド?」

「貴女は……」

 

 何と言おうか迷った。初めまして(・・・・・)ということは、相手は吸血鬼として立っていることになる。

日頃から変わった雰囲気の生徒だと思っていたが、こうして堂々と前に立たれると中々良い悪い(・・・・)感じだ。

 

「私は、悪の魔法使いさ」

 

 黒いコートも様になっており、綺麗な金髪と相まって綺麗だとも思う。

そんな彼女の横には、更に変わった風貌の少女がいた。体はどう見ても作り物だが、決してネギは彼女を()扱いしない。

 

「マクダウェルさんに、茶々丸さんですか」

「クックック、あの男の息子とは思えない程見事だったぞ。まさかここまで徹底してくるとは――まて、茶々丸(・・・)さんだと?」

 

 ネギは基本丁寧語で、相手の呼び方も大体苗字だが、一部そうじゃない人が居る。

まずタカミチ。これは昔馴染みという事もあり、私生活で会えば丁寧語ですらなくなっている。

次に刹那。彼女は学園長の孫の近衛木乃香の護衛役らしく、魔法について何も知らされていない木乃香への対処について話し合ったり、格闘術の鍛錬でもお世話になっている。

そしてその木乃香。刹那と木乃香は幼馴染で仲が良かったのだが、今は護衛役もあり距離が離れている。……そのためか、最近仲が良いネギに相談しに来たりして、ちょっと対応に困ってもいる。

 もちろん全員職務中は苗字呼びだが、放課後などには名前で呼んでいる。公私を分けているのがネギであり、そして今はその放課後でしかも魔法使いとして立っているのだ。

 

「お前、コイツと交流があったのか?」

「はい、何度か人助けや猫の餌やりを共にしました」

「ハァ!?この………いや、まぁいい。今は良い。取りあえず、用事を済ませようか」

 

 薬品をその手に持つエヴァンジェリンを見て、待ったをかけるネギ。

 

「用事というのは、呪いのことですよね?」

「あぁ。お前の血液が大量に必要だからな、力ずくでも吸わせてもらうぞ!!――氷結・武装解除!!」

「っ風盾!」

 

 吹雪を風で防ぐと、巻き起こった砂煙と共に茶々丸の姿が消えた。

 

「すいません、ネギ先生」

「っと」

「え」

 

 言葉と共に繰り出された拳を受け止め、流して投げとばした。

体術が出来ることが意外なのか、あっさりとエヴァンジェリンの元へ投げられる茶々丸。

 

「ほぅ、坊や(・・)は体術が出来るのか」

「まぁ幻術は見破られてますよね、当たり前ですけど。…話し合いませんか?」

「フン、その手に乗るか!貴様は立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指し此処に来たのだろう?ならば、私に協力などするまい!?――氷爆!!」

 

 攻撃してくるが、薬品を投げつけてくる動作がある時点で挙動は見切れる。

これなら刹那の剣捌きやタカミチの拳の方が数十倍速いだろう。

 

「いえ、まぁそうなんですけどねッ!」

「……」

 

 氷爆に紛れ、文字通り飛んでくる茶々丸は意外と手練れだった。

ただ動きは基本通りというか、機械的で捌くのに苦労はしない。自分の分身相手に徒手空拳は散々やっているので、気や魔法で強化されていない分少し遅い気もするが……。

 

「っと、危なっ」

 

 時折ロボの身体を活かした特殊な攻撃が織り交ぜられ、集中を切らせば一撃貰ってしまう。

 

「やりますね、ネギ先生」

「それはどうも、称賛ついでに――終わりです」

「あ」

 

 ガッと両手を掴み、組伏す。その際に無詠唱で戒めの矢をきつめにかけておく。

ロボの身体は意外と頑丈で無軌道だ。人の裁量で魔法をかけても力づくで解かれてしまうかもしれない。

 

「茶々丸!?」

「おっと」

「!」

 

 動こうとしたエヴァンジェリンに対し、骨董魔法具(アンティーク)の魔法銃を向けた。

骨董とはいえ手入れも能力向上の改造もしてある。それに魔力弾は自家製だが、籠っている魔法は戒めの術の他にも妨害魔法弾や魔力発散弾等取り揃えている。

 

「魔法具……それに無言呪文に体術、か」

「降参して話を聞いてください」

「……では一言だ」

「は?」

「一言で私の興味を引いて見せろ、面白い事なら尚いい」

「お、面白いって」

 

 愉しんでいるのだろう、銃を向けられても微笑すら浮かべている。

この少ない時間での対面でエヴァの性格を思案する。

ギャグを言えというのではなく、珍妙なことを言えということだろう。意外と捻くれている所があるように思えた。

 

「………では、ここだけの話ですが」

「うむ」

 

 すぅっと深く息を吸って一言告げた。

 

 

「僕は別に立派な魔法使い(マギステル・マギ)に興味はありません」

「………ハ?」

 

 

 暫くの間、沈黙が流れた。

立派な魔法使いとは現代社会における全ての魔法使いが目指し獲得する称号だ。

なのだが、この称号は魔法界の政界で発行されている……つまり、こう言っては何だが……別に持っていなくても良い蛇足なのだ。

 

「偉大な魔法使いと呼ばれる父を尊敬していますし、憧れてもいます。でも別にそう呼ばれて持て囃されたいかと言われると、特には」

「じゃ、じゃぁ何故ここに来た……?」

「行かなきゃ魔法学校に通わせてくれた人たちを裏切るようで悪いなぁと。卒業できたのは両親不在の僕を受け入れてくれた学園長のお蔭ですから」

 

 暫くポカンとしたかと思うと、エヴァンジェリンは大声で笑いだした。

 

「は、アハハハハハハ!!!……信じられんな、どうやったらあのバカからお前みたいなのが出来るんだ!?」

「父が粗野で乱暴でなんちゃってサウザウンドマスターだっていうのは、僕もつい最近知ったんです。多分、英雄譚の影響を受けたんですよ」

 

 英雄譚のナギはそれはもうカッコいいヒーローのようなものだった。

幼心に憧れたし、今でも英雄譚のナギ(・・)も、あの時村を救ってくれた()にも憧れている。

ただ知るのが遅かったためか、そこ(性格)らへんはこの通りというわけである。

 

「いや、愉快だ、あぁ本当に愉快だ……少しは話を聞こうじゃないか。それと、茶々丸を解放しろ」

「あ、はい。すいません茶々丸さん」

「いえ」

 

 戒めを解き、そっと手を差し伸べて立たせる。

その紳士的な姿を見て、更に笑みを深めた。

 

「クックック、やはりあり得んなぁ。先生の姿は借り物だと思っていたが、素だったか」

「この姿は暗示と他の先生を参考にした人格プログラムを並行処理してるんです。対応に関しては、義姉のお蔭ですかね」

「あぁなるほど。通りでA組のおかしな雰囲気に対処できるわけだ……にしても、5,6個しか使えなかったアイツの息子が、なぁ」

 

 攻撃や盾だけではなく結界、隠蔽、拘束、魔法具、暗示に他にも何かありそうだと感心する。

 

「お前の方がサウザウンドマスターらしいんじゃないか?」

「千も呪文はしりませんよ……さて、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん」

「なんだ?」

「一つ、契約を結びませんか?」

 

 取り出したのは契約書。口約束などではない、正真正銘拘束力のある魔法具だ。

 

「ほう、この私に契約?」

「はい。内容は僕の修行に協力すること。報酬は――その出鱈目な呪いの解呪です」

「プッアハハハハハハハ!!!」

「今度はなんですか……」

「お、お前、英雄の息子が、悪の魔法使い(吸血鬼)と取引、しかも内容が、救済だと?」

「本気ですよ?血が必要なら毎日死なない程度に必要量集めますし、そもそも解呪は難しいですけど出来なくはないです。基本は同じ魔法ですし、解析や開発は得意です」

「そうかそうか……いいだろう、どうせ今のままでは勝てないしな」

「でしょうね、というか本当はこの魔法具だっていくらでも対処できるんでしょう?」

「まぁな。魔力が足りないくらい、幾らでも補えるさ。ただ今日は愉快だ、興に乗ってやってもいい」

「それはありがたいです。では契約を」

「ああ」

 

 お互いの血印を押し、契約を果たした。

 

「あぁ、それと私のもとで修行するのなら、私のことは師匠(マスター)と呼べよ?」

「む、協力関係は対等のはずでは?」

「ほぅ、10歳の若造がよく吠えるな?」

「僕にも少しはプライドってのがありますから。……まぁ、今日からよろしくお願いしますね、エヴァンジェリンさん」

「長いし言い難いだろう、エヴァでいいぞ坊や」

「ネギでお願いします、エヴァさん」

「いーや、師匠呼びが嫌ならこっちは実力が付くまでこのままだ。譲らんぞ?」

「む」

「ふふふ」

「……マスターが楽しそうで何よりです」

 

 こうして、彼らの契約は成った。

後に特殊な魔法球の中で魔力が仮復活したエヴァに修行という名のもとボコボコにされるのだが、それは余談である。


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