もしものネギ先生   作:...

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京都へ

 修行に課題に先生にとやること満載のネギだったが、そんな彼の唯一の休憩時間ともいえる少しだけの憩いの時間がある。

のんびりコーヒーを飲みながら魔法に関係ない書物を読みふけるのは、彼が最もまったりする時間で……。

 

「兄貴兄貴!」

「…………ハァ」

 

 時間、だったのだがそれは一匹の白いオコジョによって中止となった。

 

「どうしたのカモくん?あ、下着ドロとかしたらダメだよ?物理的かつ精神的にぶっ飛ばすからね?」

「兄貴、ホント俺っちにたいして毒っすね……」

「日頃の行いが行いだからねぇ~」

 

 この白いオコジョ、猫の妖霊(ケットシー)に並ぶ有名な妖精なのだが、いかんせんこのオコジョは性欲に忠実すぎるというかなんというか……。

 何故そんなオコジョを連れているかというと、昔義姉のネカネの下着ドロをした際に捕まえて、説教したことがある。

その時にもうやらないことを条件に逃がしたのだが、それを何故か漢らしいと思ったようで、気にいられ勝手に付いてくるようになってしまった。

 まぁこのちょろちょろと動く小動物が気に入っているのはネギもだから、出て行けとは言わない辺り甘いのかもしれない。

 

「ッとそうじゃなくて!契約(パクティオー)ッスよ契約(パクティオー)!」

「はいはい、しないってば」

「何で!?」

「だーかーらー、僕は今先生なんだって。パートナーを選ぶってことになると相手は同じ先生か生徒ってことになるでしょ?」

「って言っても魔法(・・)先生でしょ!?兄貴ー、そりゃ10歳でパートナーを決めろっていうのは早いかもしれないっすけど」

 

 オコジョ、アルベール・カモミールこと通称カモくんがこんなにもしつこく迫ってくる契約(パクティオー)とは、魔法使いとしてのネギをサポートしてくれる存在なのだが、ネギにはいない。

元々ネギが目指しているのはあの夜に出逢った父の様な戦いながら魔法を使うという魔法拳士であり、純粋な魔法使い(重火力砲台)ではない。

それは居れば良いかもしれないが、今必要という事ではない。

 

「急務ってわけじゃないでしょ。A組が卒業するまでの一年は先生と修行をメインにしないと」

「急務ッスよ急務!!あの闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)がいるんでしょ!?」

「エヴァさんね。そりゃいるけど封印されてるから問題ないよ」

「修行でボコボコにされてるじゃないっすか!それも三対一で!!」

「そりゃ修行だし、厳しくするやり方って言われてたからね」

「そもそもその封印もいずれ解いちまうんでしょ!?」

「そう言う契約だからね」

「兄貴、自分が何言ってるかホントに理解してる?ねぇ?ちょっとー!?」

 

 もう聞かない、とそっぽを向いて知らん顔するネギ。

カモ君の心配も分かる。修行はともかくとして、いずれ封印を解いたエヴァンジェリンが何をするかわからない。

きっと悪さはしない、と思うが周りはそうではない。悪と決めつけ攻撃をすれば、反撃をするのが彼女だ。きっと血生臭いことになる。

 そしてそうなった時、真っ先に責任の標的になるのはネギだ。

分かってる、そうならない様に無血でエヴァだけじゃなく、彼女を狙う人達を抑える力が必要なことは。

分かってる、どれだけ力をつけようがそれが一人では到底できないことだっていうのは。

 

「大丈夫、わかってるよカモ君」

「兄貴ぃ……」

 

 微笑んで優しくカモミールを撫でるネギ。

それが余計にカモミールを不安にさせる。まだ10歳の少年が、何をこんなに思い込んでいるのか。10歳の魔法使い、否、魔法使い見習いはこんなにも成熟しているはずがない。

ネギより様々な魔法使いを見てきたカモミールだからこそ今の彼が危うく見えるのだ。

 

(分かってない、わかってないっすよ兄貴。アンタには絶対パートナーが必要だ、急務なんすよ……)

 

 そうしてカモミールに心配されながらも、彼の日常と化した鍛錬と先生の二重生活が続いて行ったある日のこと。

 

「おい、坊や」

「何ですか?」

 

 修行がひと段落して休憩に入った時のことだった、エヴァが改まって話しかけてきたのだ。

 

「今度修学旅行があるよな?」

「えぇ、京都だそうですよ。なんでも中止になりかけてたみたいですけど、コレ(封書)を届けてくれればいいとかなんとか」

 

 京都の関西呪術協会は関東魔法協会と仲が悪く色々いざこざがあるらしい。

まぁと言っても魔法先生が封書を持って行くだけでいいというのだから、実際はどうかわからないが。

 

「それがどうかしました?」

「あのな、私は麻帆良(ここ)から出られないんだ……言いたいことは分かるだろう?」

「って言われましても、修行始めたばかりですから」

「始めたって言ってもこの魔法球の中でもう半年は修行しているだろうが!!少しくらい私の呪を解いてくれてもいいんじゃないか!?」

 

 うーんと考えるネギ。

まぁ出来ないことは無いのだが……。

 

「まぁそうですね、出来ないことは無いですよ」

「ほんとうか!?」

「はい。要するにエヴァさんの行動を縛っている精霊を欺く、もとい説得できればいいんです。今回なら、修学旅行は学業の一環であり、必ず麻帆良に戻ってくるので問題はない、みたいな感じに。ただその場合、修学旅行中の修学旅行先の自由だけですけど」

「十分だ!!麻帆良以外の景色をいい加減見たいんだよ私は!!」

「じゃぁ条件に一つだけいいですか?」

「む、なんだ?」

 

 ピンッと一本指を立てたネギに嬉しそうに聞き耳を立てるエヴァ。

嬉しそうだなぁと苦笑いをしつつも条件を述べる。

 

「何か新しい魔法を教えてください」

「ふむ……新魔法、か。とはいえ私が教えられて尚且つ坊やの属性に合う魔法、となると………アレくらいだな」

「何かいいのがあるんですか?」

 

 正直かなり適当に言ったのだが、心当たりがあるらしい。

 

「あぁ坊やにはきっとよく馴染むだろうさ」

「馴染む?」

 

 スッとエヴァの小さな掌がネギの顔に添えられた。

彼女の瞳に映る好青年……その幻術の奥に見える少年は、年不相応に沈んだ瞳を浮かべている。

暗い闇の中を彷徨う様な、それでいて希望を無くしていない……いや、縋ろうとしている滑稽で愉快で……少しだけ既視感を覚えるその姿。

 

「あぁ。ただちょっと時間がかかるがな」

「明日明後日は休みですから、フルで使えば現実時間で今から50時間以上ありますよ」

「そうか、2ヵ月近くもあれば、まぁ何とかなるだろう」

「ありがとうございます!」

「とはいえ、まずは私の解呪からだ!やれるんだろうな!?」

「あぁその辺は日頃眼鏡(コレ)で解析してますから、その位いじるのは今すぐにでも」

「本当か!よし、やれ!」

「はいはい、じっとしててくださいね」

 

 こうしているとワクワクしている少女なのだが、吸血鬼とは不思議なものだ。

エヴァとその周囲に魔法陣を描きながらそう思っていると、そういえばとエヴァが暇つぶしに語りだした。

 

「京都にはお前の父、ナギの仮拠点があるはずだ。とっくに死んで10年経つが、京都には紅き翼……ナギの仲間だったやつがいるからな。物を捨てずに大事にするやつだから、まだ残ってるかもしれんぞ?」

「そうなんですか?……あ、そうだエヴァさん」

「んー?」

「そういえば僕言ってませんでしたけど」

「なんだ?」

「6年前に父さんに出逢ってるので、多分死んでませんよ?」

「ハア!?!?」

 

 器用にも動かず驚愕したエヴァ。

ネギはその何時もは見せない愉しい姿に笑いながら話す。

 

「えぇ、杖ももらいました」

「……そーか、そーかそーか!あのバカが生きているか!!いやはやそいつは愉快だ!」

 

 楽しそうに笑うエヴァンジェリンを見ていると、本当にナギが好きなんだなぁと微笑ましくなる。

 ……あぁそうだ、そういえば自分もそうだったと思いだした。

父の話を聞くのが楽しくて、英雄譚に憧れて、嗤いながら無茶をして助けに来ないかなんて……。

 

「……なんだかなぁ」

「アハハ、ん?どうした?」

「いえ、色々愉しい旅行になりそうだなと思っただけです」

「あぁそうだな、全く楽しみが多くてたまらんわ」

 

 解呪を施し終えると次はネギの修行となった。

ハイテンションのエヴァの修行は色んな意味で大変だったと、ネギは後にカモミールに語ったという。




 二日前はお気に入りが75だったのに、自分が感染性胃腸になってゲロイン化してる間に何が……!?

何はともあれ、沢山のお気に入りに評価、ありがとうございますm(__)m

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