賑やかな3-Aを引き連れ新幹線に乗り京都へ……。
6班に分かれても尚大分騒がしいのだが……。
「おい見ろ茶々丸、15年で大分変わっているぞ」
「はい、先ほどからずっと見ていますマスター」
一番はしゃいでいるのがエヴァンジェリンというこの状況はどうしたらいいのかネギは少し考えた。
(………ま、いっか)
吸血鬼を見た目相応にみるべきではない、が別に見た目相応のことをしても悪くはないのだから。
彼はそれをスルーして新幹線から景色を眺めていた。
「ゲコ」
「?」
暫く賑やかなクラスの声をBGMにしていたのだが、何故かカエルの声が聴こえ後ろを振り向いてみる。
「「「「「キャーーッ!?」」」」」
「ハ?」
何故かそこらかしこからカエルの大群が現れていた。
学園長から呪術協会から何か仕掛けて来るかも、とは聞いていたが……正直これはどうなんだろうか?というか向こう側には秘匿とかはないのだろうか?
(まるで子供だまし……エヴァさんは)
チラッとエヴァの方を見るが、我関せずを貫いている。
彼女の班に被害が無いのは、恐らくエヴァか刹那さんが何かをしたのかもしれない。
まぁ何もしないならそれはそれでありがたい。
(魔力、じゃない。氣かな……だったら魔力で反発するはずだから……)
魔力と氣は別種のエネルギーだ。
外にも満ちている力と、身から溢れる力。本来は反発し合ってしまう力を融合させる技もあるが、まぁそれは今は割愛しよう。
(魔力供給、対象……結構いるな、100以上か)
ネギは魔力を操り、カエル一匹一匹に
するとネギに与えられた魔力に圧し負け、氣が抜けただの紙切れに。
「な、なに?誰の仕業だったの!?」
「凄いマジックだったね~」
「にしてもカエルはないでしょ」
「えー可愛かったよ?」
「おいおい……」
様々な反応をしつつも、誰かの
相変わらず心広いというか豪胆なA組だが、今はそれを有難く思いながら、紙切れを回収すると椅子に座りなおした。
(なるほど、紙に
大体犯人が潜んでいるというのは分かったが、ここでドンパチするわけにもいかない。
相手も派手なことはせず、でも嫌がらせでこちらの精神を削るつもりなのかもしれない。
魔法使いは精神力がモノを言うから、ある意味効果的ではあるが……。
(なんというか、温いなぁ)
日頃のエヴァンジェリンの修行に比べると、なんというか……子供の悪戯にしか思えなかった。
舐めるわけではないし、こういう風に責めるのも悪くはないのだが、精神力関連の修行を
*
その後も地味な嫌がらせが続いた。
ただ、先生として他所で生徒を見過ごせないという点からか、いつも以上に注意深くなっているネギには対処出来てしまう事ばかりだった。
落とし穴や飲み水を酒に変えたり、地味な嫌がらせばかりだったが、一般の学生なら怪我したり大騒ぎになりかねないことばかり。
(お酒は少しまずかったかな。アレ生徒が呑んでばれると旅行はおじゃんだろうし)
そしてその場合エヴァのご機嫌も急速落下間違いなしであり、色々とネギがピンチに陥る。
ただ、だからと言ってエヴァに助力を頼むのは論外。きっとそれくらい何とかしろと言われるだろう。まぁ言われずとも対処するのだが。
ともかく嵐山の旅館に着き、一息入れる。
こまごました嫌がらせばかりだったが、それ以上に初の団体旅行でもある。嫌がらせ関係なくネギにとっては疲労するのは当たり前だった。
だが、状況はネギを安らがせるつもりはないらしい。
「ひゃぁぁ~~~~!!」
「!?」
悲鳴に瞬時に反応したネギは、携帯で旅館の現状況を確認する。
魔法や氣の反応を検索し、場所の特定を急ぐ。
(ここは、浴場か!)
急いで走り出すと、更衣室が観えた。
一瞬戸惑うが、何かあったら最悪忘却魔法だと切り替え突入した。
女子更衣室に入ると、浴場の方からもう一人勢いよく戸を開いた人物がいた。
風呂に入っていたのだからタオル一枚は分かるのだが、彼女……桜咲刹那はこの場には似合わない太刀を手にしていた。
そしてそんな二人の間に居る悲鳴を上げた人は………。
「いやぁぁ~~ん!!」
「ちょ、なにこのおサルー!?」
神楽坂明日菜と近衛木乃香が小さな猿に下着を脱がされそうになっていた。
((…………))
ナニコレ、と一瞬思考が停止しかけた二人だが、切り替えて猿を対処する。
「二人とも伏せて目をつむってください!」
「ってネギ先生!?」
「み、見んといてー!」
「見ませんから身体隠してッ!!」
如何にか二人をしゃがませると、ネギは拳で、刹那は刀で猿を吹き飛ばした。
猿はカエルの時の様に紙切れになっていく。
「桜咲さん、すいませんフォロー頼みます!」
「あ、はい」
大急ぎで更衣室から退室する。
その時ふと、誰かの視線を感じたが浴場の向こう側だと気付き断念した。
流石に旅館には入ってこないようで、少し安心……せずイラついていた。
いっそ入ってくればブッ飛ばすのに、と握り拳を作っていると、更衣室から着替えた刹那が出てきた。
「……悪戯で如何にか納得してくれました」
「そうですか、よかった……ところで今のは、呪術協会の?」
「はい……嫌がらせがエスカレートしてますね」
「潰してはいるんですけど、結局後手後手ですからね……取り合えず人払いと隔離結界を夜は張りましょう」
「では、私は式神返しの結界を」
「お願いします」
彼女は剣士としてかなり優秀の上、術まで使える。才能は逸品だろう。
だが、ネギにはどこか頑張りすぎている気もした。
どうしても護りたい人が居るというのは、きっと力を与えてくれるが彼女はそれがいき過ぎる節がある……特に、護衛なのに護衛と別の班になっているあたりそこが窺える。
同じ班ならばもっと護りやすいだろうに、不器用だ。
「……他にも魔法先生は来てますから、結界を張ったらゆっくりしてくださいね」
「いえ、私は」
「いざという時力が出ませんでした、じゃ話にならないですよ?」
「ム、それは、そうですが……」
「大丈夫ですから、ね?」
「……はい、わかりました。おやすみなさい、ネギ先生」
「はい、おやすみなさい刹那さん」
手を振って見送ると、ネギは結界を展開したついでに自分にも暗示をかけておく。
先生用ではなく、不眠不休で動けるようになる暗示だ。魔法の催眠と併用して掛ければ、最長一ヵ月は寝ずに動ける。その後丸々数日休まないといけないが、5日程なら問題ないだろう。
「………休めって言った癖に、何やってんだろうね僕は」
ボソッと自嘲する。しかし魔法先生は誰もが忙しいのも事実。
全員が警戒しているが、それ以上に警戒しなければ刹那が休もうとしないのもまた事実。
となれば、口八丁で誤魔化してネギが頑張るしか選択肢が無いのだ。
「それに折角の旅行、生徒が楽しまないとね」
出来ることならば、刹那がこの旅行を只の護衛任務以外で楽しめるようにと、ネギは少しだけ祈った。
*
次の日、意外や意外なことが起きた。木乃香が自分から動いたのだ。
ネギに相談を持ち掛けて来ていた木乃香だったが、朝食に誘うどころか、追い回すなんて初めてのことである。
(あーあー、刹那さん大変そう)
でもどことなく嬉しそうだと微笑みながら見守る。
そう言えば、今日から自由行動の時間があるのだと思いだす。
日頃から自由な彼女達に自由を与えてはてさて大丈夫なのだろうかと思うが、そこは信じて見守るのが教師。
(とはいえ、少し相手の動きも気になるし、どうするかなぁ)
相手の狙いがネギの持っている書だけなら別に幾らでも対処するのだが、こうまで嫌がらせが続くと少し疑ってしまう。
特に昨日の銭湯……あの状況だとネギ以外の教師や生徒が飛び込んでもおかしくはないのだ。
事実刹那が飛び込んで行ったし、敵は意外とすぐ引いたのも気になる。
(僕が書物を持っている、っていうのはまぁ分かり切ってることだろうしなぁ)
ネギは英雄の息子として有名だし、そんなネギが来るのを渋って呪術協会は旅行を受け入れようとしなかったのだ。原因が親書を持って行くことで初めて緩和とするのだから、ネギが書物を持っているのは向こうも知っているはず。
なにより、丸一日使って嫌がらせだけ?様子見と考えれば十分な時間は過ぎたはずだ。
となると、何かを狙っている?書物以外?何を?
(………………そう言えば、木乃香さんは学園長の孫。ある意味弱みともいえる、か)
今回の件に関わっている、もしくは巻き込まれて自然な人物を思い浮かべた。
彼女を人質に取ってしまえば、関東魔法協会の理事を操る十分な条件になるだろう。
と、なると親書を届けても意味が無くなってしまう。
(5班は要注意、ってことか……他の班には監視用の使い魔を放っておくとして、5班は隠形使って影ながら見守ろう。親書は、もうひと段落してからかな)
こうしてネギの今日の行動が決まった。
使い魔は鴉にしておく。飛び回れる上にどこに居てもおかしくない便利な存在だ。
「さぁて――」
「あ、あの!ネギ先生!」
「はい?」
振り向くと、いつも前髪で顔を隠している少女……宮崎のどかが顔を紅くしてこちらを見ていた。
「よ、よろしければ今日の自由行動……私たちと一緒に周りませんか!?」
「え」
彼女は木乃香と同じ5班だ。隠形で見守るよりも、確かに同行した方が守りやすい。
だが、逆に言えば何か起きて唐突にネギが居なくなってもおかしい……。
(いや、他の先生に呼び出されたことにしたら問題はない、かな?)
それに日頃はおっかなびっくりであまり話しかけてこない彼女が誘ってきたのだ。先生として、応えなければいけないだろう。
「はい、良いですよ」
「!」
了承すると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
自分を押し出さない彼女にしては本当に珍しいとネギは思いつつ、その日は5班の一員として奈良を歩き回ることになった。
*
二日目の奈良見物は、何だかオカシイことになった。
行き成り宮崎のどかと二人きりにさせられた上に、何だかその彼女の様子もおかしいのだ。
「……わ、わわ、私大、す、す――大仏が大好きでっ!!」
「へ、へぇ。渋い趣味ですね」
「私、ね、ネギ先生が大、大、……大吉で……!」
「え、あぁおみくじ引きますか……?」
「え、えぇと、あの、その」
「はい、なんですか?」
「あ、えと……ごめんなさいーーー!!」
ついには走り出してしまった……どうしたらいいんだろうか、と思う前に考えることがある。
さて、これはどういう状況なのかと。
木乃香は近くにいるらしく、式神も問題なく追っているから問題はないが……。
(…………さっぱり分かんない)
一緒に回りたい、何故?親しくなりたいから。……親しく?生徒と先生としてではなく?つまり友好を築きたかった。……おそらく。
二人きりにされた、何故?何か個人で話したいことがあるから………何を?
逃げられた、何故?上手く話せないから……これは分かる、羞恥心。
「………???」
外見だけが20歳のネギには、乙女の恋心なんて分かるはずはない。
暫くの間熟考したネギは、取りあえずその場を離れのどかを追いつつ、使い魔たちの様子をリンクして見張ることにした。
(……取りあえず、そこの陰でこっちを見ていた二人はどうしようか?)
時折のどかがチラチラみていたクラスメイトを放っておいていいものか少し考えるネギだった。
*
「ハァ……ハァ……もう、私のバカぁ」
走って逃げたのどかがたどり着いたのは、茶屋のある静かな場所だった。
誰もいないと思って呟いたのだが、意外なことにそこには人が居た。
「あれ?どしたん?」
「本屋ちゃん?泣いて、何かあったの!?」
「あ、明日菜さんに木乃香さん……」
同じ班員だが、二人はのどかとネギを二人にした後別で周っていた。
他にも夕映やはるなも同じ班だが、彼女たちはこっそり陰から見ていたため置いてけぼりをくらってしまっている。
「その……先生に告白を」
「告ったの!?」
「い、いえ、しようとして……失敗して、逃げちゃって……」
「な、なるほど」
「確かになー、ネギ先生かっこええもんな~」
「緊張したってわけね、よく分かるわ」
高畑先生の前だと冷静になれない明日菜がうなずくのを木乃香が苦笑いした。
確かに共感できるのだろうけども、その共感は良いものではないだろう。
「んー、でも先生って立場だし難しいんじゃない?」
「それは、そうなんですけど……時々、寂しそうだなぁって思って」
「寂しそう?」
「先生が?」
「は、はい……いつも頼りがいがあって、頑張ってて……遠くから眺めてるだけで私は勇気をもらって、満足してたんですけど」
以前、ふとコーヒーを飲んで休憩していたネギを見かけたことがある。
先生とは関係なくなったその姿は年齢以上に大人びて見えた。
「へぇ、でその姿にきゅんって来たんやな~?」
「きゅ、きゅんっというか、その……20歳ってあんなに大人だったっけって……ちょっと思って」
「あー20歳って言ったら、5.6年後には私らみんなそうなるのかー……たしかに、言われるとあと数年であそこまでなれるとは思えないなぁー」
「そうやね、思ったらネギ先生って初めて会った時から大人~っていう感じやったな」
バイト経験で大人と関わり合いが多くある明日菜はなるほどと納得していた。
隣の木乃香も家の都合上年上とはかかわりがあるのだろう、頷いている。
「で、寂しそうっていうのはどういうことなん?」
「その……何となくなんですけど……無理とか、してるんじゃないかなぁって。なんか、休む時くらいは、もっとこう……なんでしょうね、分かんなくなってきちゃいました」
アハハと真っ赤になるのどか。
恋心から来ているのか、それが恋のきっかけになったのか分からないが……何はともあれ、彼女を二人はとても応援したくなった。
「ううん!分かったわ!」
「え、え?」
「私応援する!大丈夫よ、そんな本屋ちゃんの想いは絶対届く!!」
「そうやね、うちも応援するえ!」
「あ、ありがとうございます……いってきます!」
二人から勇気をもらったのどかは、改めて走り出した。
*
ネギとのどかが合流できたのは、夕方になってからだった。
「ネギ先生ー!」
「宮崎さん……大丈夫ですか?」
「は、はい……あのっ私――私、ネギ先生が大好きです!!」
「………え」
流石に疎いネギでも、彼女の言っている好きが普通のそれと違うのは感じ取れた。
思わず固まってしまうが、のどかは必死に言葉を紡ぐ。
「えと、突然言っても迷惑なのはわかってるんです……せ、先生と、生徒ですし……ごめんなさい。でも、私の気持ちを知ってもらいたくて――失礼します!!」
また走って行ってしまった彼女を呆然と見送るネギ。
見守っていた同じ5班が全員彼女を追っていくが、それをネギは追おうとはしなかった。
「……………好き、か」
嬉しい事だと思う。人から告白されるなんて初めてのことだ。
でも、ネギ・スプリングフィールドは魔法使いだ。
魔法使いと一般人が結ばれるケースは無いわけじゃない。寧ろ多い方だが、だが……。
「………………」
今まで出会ってきた人たちが頭に浮かび、沈んでいく。
その姿を、記憶を、全てを認識したうえで――。
「分からない、なぁ……」
親愛を知らず、友愛を構わず、恋愛を想像すら出来ない。
もしかしたら、もしかしなくても……ネギ・スプリングフィールドという少年は、欠陥している。