もしものネギ先生   作:...

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夢の様な世界

 魔法、獣人、戦闘、血……短い時間で様々なものを見た木乃香、明日菜、のどかの三人は刹那に浴場へと案内された。

親書を渡したネギは総本山の長、近衛詠春と話があるとかで暫く二人になれるようにと個室へ移動していった。

 

「……で、どういうことなん?」

「ど、どういうとは?」

 

 風呂で裸の付き合いもあるが、それ以上に秘密を垣間見たということもあり木乃香の刹那に対する距離はかなり近くなっていた。

思わず動揺する刹那だが、木乃香は気にせず寧ろぐいぐい近寄って話を進めようとする。

 

「大体はネギ先生やお父様から聞いたけど、詳しいことはさっぱりやんか?」

「あーそうね。そもそも攫うとか言ってなかった?攫うって、あの劇が芝居じゃないなら木乃香をってことでしょ?」

「木乃香さんは此処のお嬢様、ということに関係あるんでしょうか?」

「やんごとなきってやつだもんね、もしかしなくても今危ない状況なんじゃない?」

「……だから先生や桜咲さんが近くに居てくれたんですね」

(ああぁぁ、私が説明も誤魔化す暇もない……というか所々私に気付いてたんですかのどかさん!?)

 

 詠春に色々と説明することを容認されたものの、何から話すかは決めかねて居た刹那。

だが彼女達は彼女たちなりの解釈でどんどん正解を導き出していく。本来なら魔法なんて信じられない現象に巻き込まれて混乱してもいいはずなのだが、この順応性は何処から来ているのだろうか。

ちなみにのどかが気づいたのは本当に偶然である。強いて言えば部活の賜物とも言えるかもしれないが。それにネギに関しては二日連続一緒に行動してくれたことに寧ろ合点がいったほどだ。

 

「で、どーなん?せっちゃん?」

「えっと、ですね……大体皆さんの想像どおりです。お嬢様には類稀なる力が備わっています。ネギ先生も凄かったですけど、呪術師……純粋な魔法使いとしてはもしかしたらネギ先生を上回る才能を持っているかもしれません」

「えっと、そうなん?」

「はい。あ、ネギ先生を基準にしてしまいましたが、あの人は本当に才能あふれる人です。あんな風に格闘戦をしながら魔法を使う人はそんなに多くありません。居たとしても、20歳でネギ先生のレベルに至る人は多くないです」

「「「へぇ~……」」」

 

 分かったような、わかっていないようなという感じの鈍い反応が返ってきた。

そりゃそうだろう、ほんのさっきまで非日常(ファンタジー)に触れることは無かったのだから、どうにか在ると思ってくれるだけ有難い。

 

「……話が逸れてしまいましたね。敵の狙いはお嬢様を誘拐し、長達を脅す材料にするだけではなく、その膨大な力を必要としているのです」

「うちの、力?」

「はい。ネギ先生は長に親書を渡しましたが、木乃香お嬢様が誘拐されてしまえばそれもほぼ効力を失う上、お嬢様の力を何か悪いことに使われ……最悪、東も西も乗っ取られてしまいます。酷い争いも起こるでしょう」

「………」

「勿論!そんなことは私や長、ネギ先生たちが絶対にさせませんので、ご安心ください!」

「……」

「……お嬢様?」

「木乃香?」

「木乃香さん?」

 

 刹那の説明を聞き、押し黙ってしまった木乃香を三人が見つめる。

暫く黙っていた木乃香だったが、数分して漸く口を開いた。

 

「………うち、何も知らんかった」

「それは、私たちが秘密にしていたからで」

「それで、せっちゃんはウチから離れていったん?」

「それは……その、そうでもありますけど、それだけが理由では……」

「何も知らんで、呑気に京都の案内して皆を楽しませよーって」

「それは悪い事じゃありません!寧ろ、それは私たちが望んでいたことで――」

「でも!それでせっちゃんは危ない目に遭っとった!ネギ先生だって、さっき大怪我した!!」

 

 脳裏に刻まれたあの斬り合い、あの戦闘は確かに非日常的で未だに受け付けがたいものだ。

だが、だからこそ鮮明に木乃香の記憶に焼き付いていた。

血なまぐさい光景は、さっきまで只の女子中学生だった木乃香には……彼女達には、重く感じられたに違いない。

 

「……お嬢様は、私たちが争うことが嫌ですか?」

「嫌に決まっとる!誰かが傷つくのなんてみたかない!それが、せっちゃん達ならなおさらっ」

「お嬢様、お聴きください……神楽坂さんたちにも、関係あるのでもうちょっと近づいてもらって構いませんよ?」

「あ、うん」

「は、はい」

 

 泣きじゃくる木乃香とそれを慰めようとする刹那に遠慮してか、少し離れていた二人を呼び戻す。

そう、今から話すのは彼女達にとっても重要な分岐点となる。

 

「お嬢様、私は勿論、ネギ先生も争いを止めることはありません」

「それは、ウチのせいなん?」

「いいえ、お嬢様を護るのは私の役目ですが、それを選んだのは私自身です。そして、ネギ先生も何か理由があってあの歳で魔法使い……魔法拳士をやっています。そのわけを私は知りませんが、どのみちハッキリ言えることがあります」

「?」

「私たちの選んだ道と、お嬢様達が進む道は、全く関係ありません(・・・・・・・)

「な、何でそないなこと言うん……?」

 

 肩に手を乗せ目線を合わせてハッキリと告げる。

こればかりは言っておかなければならないのだ。彼女が守られることと、それを自分がやりたいと自分で選び取ったことは何にも関係ないのだ。

 

「事実だからです……。お嬢様、お二人も、よく聴いてください。魔法世界というのはこちらの平和な世界と違って、未だ治安が良いとは言えません。争いは日常茶飯事で……二度と消えないような傷や、最悪死傷者だって出ます」

「「「ッ」」」

 

 それは、彼女達が思っていた以上に重い事実だった。

魔法なんてファンタジーがあるのだから、どこか争い事も護りがあるのではと思っていたのだ。それこそ、ゲームの様な蘇生魔法(ご都合主義)だってありかもなんて思っていたほどだ。

 

「そんな事実は、こちらで平和を生きるには必要の無いモノです……望むなら、全てを忘れることが出来ます」

「それって……」

「勿論、忘却を嫌うのならそれも構いません。ですが、どのみち魔法(ファンタジー)に関しては口外しないようにして貰わなければなりませんが」

「……それって、今よりせっちゃんと距離置くことに、なるん?」

「…………可能性は、否定できません」

 

 刹那は言えなかった。

魔法を知られる知られない以前に、こうやって木乃香を危ない目に合わせた上に総本山に護らせてもらっている(・・・・・・・・・・)時点で、自分の護衛役としての任は……十中八九解かれるだろう。

最悪麻帆良からこちらに戻されることもあり得る。

 

「そんなの嫌や!!」

「お嬢様っ」

「なんで?うち、せっちゃんとは仲良ぅしてたい!!何でダメなん!?」

「お嬢様、落ち着いてください。どうか私の話を聞いて――」

「嫌や!!別れ話なんて聞きとぉない!!」

「お嬢様!!」

 

 刹那を振り払うと、木乃香は浴場から走り去ってしまった。

 

「……あー、ちょっと行ってくるわね」

「………すいません」

「いいって。それより、他に方法はないの?」

「それは……………その」

「……あるんなら、ちゃんと言った方がいいわよ。じゃ」

 

 明日菜に申し訳なく思いながら見送る。

一つだけ、木乃香自身が魔法世界と付き合っていくというのなら……可能性は無いわけじゃない。

だが、それを護衛役である刹那が薦めることは、出来なかった。

 

「……あの、桜咲さん、大丈夫ですか?」

「あ、はい……すいません、宮崎さん。気を遣わせてしまいました」

「いえ、そんなことは」

 

 のどかがネギに告白したことはA組なら誰もが知っている。

彼女自身、ネギに関することで聞きたいことは山ほどあっただろうに、木乃香に集中させてもらわせてしまっていた。

 

「取りあえず、今は明日菜さんに任せましょ?」

「はい……すいません」

「いえ、えっとそんなに謝らなくても……」

「今回の件は私の力不足による結果ですから。他の生徒もいる中、ネギ先生は本当によく戦ってくれました。見たこともない魔法まで使って……怪我もさせて」

 

 素人目に観て、あの魔法は未だネギには使いこなせていないように思えた。

まるで何かを堪えるかのような印象を覚えたのは、恐らく刹那自身、自分を日頃から押さえているから気付けたのだろう。

 

「……桜咲さん、さっきご自分で言いましたよね」

「え」

「私たちの選んだ道と、貴方たちの進む道は違うって」

「は、はい」

「桜咲さんとネギ先生が選んだ道も、もしかして違うんじゃないですか?」

「……」

「なら、ネギ先生ならきっと怪我をしたのは自分が選んだことだ、っていうと思います」

 

 のどかの言葉に図星を突かれ、思わず押し黙ってしまう。

そうだ、木乃香を護衛するのとクラス全員を護ること。任からして違うし、きっと自分とネギ先生が力を欲した理由だって、違うはずだ。

 

「私は、告白したことを後悔してません」

「宮崎さん……」

「先生が魔法使いで、私の知らない世界の人だっていうなら……私、付いていきたいです」

「どうして、そこまで」

 

 さっきまで何も知らなかった少女は、何も出来ない無力なはずの少女は……何故か刹那よりもずっとずっと強く見えた。

 

「だって私、ネギ先生が大好きですから」

「……」

「きっと、木乃香さんが刹那さんに思っていることも、同じだと思います。だから、桜咲さんも、もっとちゃんと伝えたほうがいいと思いますよ?」

 

 事務的な別れ話ではなく、自分の想いを伝えるということ。

それは告白をしたのどかだからこそ言える、強い言葉だった。

 

「…………宮崎さんは、強いですね」

「そ、そんなことないですよ?!あんな風に戦ってるお二人の方がずっと」

「いえ、強いです……少なくとも、私よりずっと」

「桜咲さん……」

「……そろそろ上がりましょう、敵が何かする前に対策も整えなければいけません」

「……はい」

 

 暗くなりながらも、のどかの言葉に少しだけ力を持った刹那はしっかりとした足取りで歩いて行った。

 

 

*

 

 

「木乃香ー、木乃香待ちなさいって、木乃香!」

「っあ、明日菜……」

「もぉ、酷い顔して……よしよし」

 

 ざっと着替えて木乃香に追いついた明日菜は、彼女を優しく抱きしめ頭を撫でた。

思えばいつも寮で面倒見て貰っている明日菜がこんなことを木乃香にするのは初めてかもしれない。

 

「ひぐっ……うちな、せっちゃんと離れたくない」

「うん」

「でな、せっちゃんに、先生に、みんな傷ついて欲しかない」

「うん、うん」

「でもな……そんな、うちの我儘で、あんな風に困った顔、させたかない」

「ん、わかってる……大丈夫、木乃香の気持ちは間違ってないよ」

 

 優しく優しく、甘やかすように撫で続け落ち着くのを待つ。

魔法だのなんだの聞いていた割には、意外と明日菜は落ち着いていた。

もしかしたら、本などで余計な知識を仕入れているのどか以上に。

 

(……自分で思う以上に、動揺とかないのよねぇ)

 

 寧ろ、初めてネギに会った時の方が動揺を覚えたことを思い出す。

何故だか、あの顔を見ると何か思い出しそうになるのだ。

暖かくて、切なくて、バカらしくて、少し苛立つような妙な気持ち。

そんなことを日常的にこなしてきたせいか、もしくはおかげか、明日菜はこの場面で木乃香に配慮する余裕が生まれていた。

 

「……ごめんな、明日菜。ありがとー」

「いいって、いつも世話になってるしこのくらいはね」

 

 ぐすぐすとしながらも幾分が落ち着いた木乃香。

身体を離し、対面して改めて分かったことを一つ教えてあげた。

 

「木乃香、もしかしたら、木乃香次第でどうとでもなるのかもしれないわよ?」

「え?それ、ホンマ!?」

「ほんまほんま。あの桜咲さんが言い辛そうにしてたから、可能性が無いわけじゃないと思うわ」

「そっか……そっかぁ」

「ちょ、木乃香大丈夫!?」

「う、うん……なんか、ちょっと安心してもうた。あ、アハハ」

 

 木乃香は腰が抜けたのか、へたぁとその場にへたり込んでしまった。

泣いたせいもあるのだろう。あれだけ泣きじゃくって走ったのだ、少しでも安心したら力も抜ける。

 

「しょうがないわね、ちょっと休みましょ」

「わっ……アハハ、今日ウチようお姫様抱っこされるなぁ~」

「今日は特別よ、思いっきり甘えるといいわ」

「アハハ、ありがとぉ~」

 

 色々あったことだし、頭を整理する時間が必要だと感じた明日菜は木乃香を抱えて涼しげな場所を探すことにした。

 

「――あ()!?……なによ、こ……れ?」

 

 歩いていると、ふと頭に何かがぶつかった。

みると、戸が開いた部屋から石の手(・・・)が伸びており、それが歩いていた明日菜にぶつかったようだ。

 

「石像?」

「うち、こんなんあったかなぁ?」

 

 いわゆる巫女装束をまとった女性が、まるで逃げ惑うような形(・・・・・・・・)の石像が多数――。

 

「ちょっと待って、もしかしてこれ拙いんじゃ――」

「御明察」

「!?」

 

 声に振り向いた瞬間、明日菜の目の前に魔法陣が浮かんでいた。

その向こう側には、最近見かけた白髪の少年が、水を携え浮かんでいた。

 


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