もしものネギ先生   作:...

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遅くなりましたが、あけまして!おめでとうございます!


白髪の少年

 ゆっくりと、白い少年の手が明日菜の眼前へと伸びていく。

まずいと思うがついさっきまで一般人だった彼女には何もできない。

もとい、何をすればいい(・・・・・・・)のかすらわからない。

 

「ぅ、ぁ」

 

 迫りくる掌はなんて事の無い小さな少年のそれなのに、感じる圧力は全くの別物。

車の前に跳び出した猫が動きを止めるように、明日菜もその身をピタリと固めてしまった。

 明日菜に抱えられている木乃香も同様に震えるだけで言葉も発することはできない。

過度の緊張からくる精神の集中によって、スローモーションのように迫ってくる少年の手を見つめるだけの瞳は―――その背後に、一陣の風を纏ったネギの姿(疾風迅雷)を写した。

 

「――」

 

 無音、まさに縮地の如き完璧な瞬動術。

ネギを見た二人が反射的な反応をするよりも先に、魔力を練り込み変質した腕の魔爪を突き立て――

 

「――なるほど」

「ッ!?」

 

 その直前、ぐるりと少年の首が回りネギの姿を直に認識した。

攻撃する瞬間の殺気に反応したのだろう、驚くが構わず突き立てる。

ネギが元から持つ上に、闇の魔法によって更に濃密になった魔力の塊。これを防ぐなど、常人には不可能だ。

だが進まない。魔爪は障壁を壊した……それでも、多数の障壁、その最後の一枚まで壊すことは出来なかった。

 

(一体、なにがっ!?)

 

 疾風迅雷の力を借りて、高速演算状態のネギの眼鏡が至近距離で解析をした結果、観測できたこの少年は正しく化物と称していいだろう。

こんなにも濃密かつ曼荼羅状の対物理・魔法障壁を張り続ける(・・・・・)なんて、人間の処理能力を超えている。

 

「ッそれでも!」

「ん?」

 

 更にもう片腕を突き刺し、障壁を砕く。

幾ら瞬動並で動けるとはいえ、事後硬直で一瞬だけ両腕は使えない。

だが呪文に腕は関係ない。無詠唱で魔法を使い、障壁の無くなった少年に魔法の射手を収束し、放つ。

 

「遅い、弱い」

「ガッ!」

 

 遅いと言うが属性は雷、それも急ごしらえとはいえ199の射手を束ねたそれを片手間に弾いてみせた。

反撃で打ち払われるネギ。相手の化物具合がどんどん酷くなるだけで、このままではネギに勝機は無い。

 

「神鳴流――」

「! 貴様は、近衛」

 

 そう、ネギ一人ならば。

 

「雷光剣!!」

「えいsy」

 

 白髪の少年に向け、詠春が氣を練った刀を振り下ろした。

派手さはないが、超一流の剣士が振るうその一刀は正しく少年を斬り飛ばした。

 

「ネギ先生!」

「お嬢様、明日菜さん御無事ですか!?」

「兄貴無事ですかい!?」

 

 詠春が現れた後にのどかと刹那が安否を心配して駆け寄ってきた。

詠春の肩にはカモが乗っており、改めてネギの肩へと昇ってくる。

 

(ぎ、ギリギリセーフ)

 

 微笑んで「大丈夫ですよ」、と生徒を落ち着かせつつも、内心ホッと一息つくネギ。

 詠春と別室で話していたネギは、石化の魔力に過敏に反応した。石化魔法の研究をしていたからこそ、その魔法の発動にはいの一番に気付くことが出来た。

対する詠春は何も気づいて居ないようだったが、進言すればすぐさま異常事態を察知し、行動を開始した。

 此処で問題だったのが、誰がどこに向かうかだ。皆の安全が第一だが、敵を放っておくわけにはいかない。

 まず詠春が敵を探そうとしたが、それをネギが却下した。

ネギなら疾風迅雷で超速移動が可能な上に、石化の魔法を使った相手の位置を感覚的にだが捉えていた。

 

(けど、ここまで手強いとは思ってなかった……)

 

 別行動は相応の危険が伴う。何かがあった時のバックアップはとても大事だ。

ネギが敵を引き付けている間に詠春が生徒たちの安全を確保、後に集合という手筈だったが、既に書状を渡した以上敵の狙いが木乃香というのは既に確実。

もし、探索する時間が惜しいと感じた場合、戦闘中のネギの場に駆けつけることにしたが、その辺りは詠春のさじ加減で決まる。

 もし、あと少し詠春が切り上げず長く探索を続けていたら……今頃ネギは石化か、死んでいたかもしれない。

 

「なる、ほど……少々甘く見ていたよ」

「! まだ動け」

「詠春さん、違う!それは分身です!!」

 

 深い傷を負ったはずの少年が喋り、思わず視線をそちらへ向けてしまった。

ネギは解析眼鏡のお蔭で分身をいち早く見破るが、詠春は一瞬遅れてしまう。

 

石の息吹(プノエー・ペトラス)

「ッ」

 

 水の転移魔法を使った死角からの魔法。

ネギと詠春の間の水溜りから伸びた手から石化の魔法が吹荒れる。

疾風迅雷を維持していたネギは近くに居たのどかと木乃香を抱え離脱した。

 

「詠春さん、刹那さん、明日菜さん!!」

「そ、そんな……」

「お父様、明日菜……せっちゃんっ!!」

 

 絶望的な状況に陥ったかと思ったが、ネギたちとは違う方角から知った声が聞こえた。

 

「わ、私は大丈夫です!長が弾き飛ばしてくれたので」

「せっちゃん!」

「っていうことは、詠春さんと明日菜さんは……え」

 

 魔法が晴れた先に居たのは、石化した詠春と……。

 

「な、なによコレぇー!?」

 

 何故か服だけ(・・・)が石化し、裸になってしまった明日菜だった。

 

(どういう――)

「隙あり」

 

 あり得ない光景に驚いたその瞬間を見逃さず、白髪の少年が背後からネギを岩で造られた斧剣で斬り裂いた。

 

「ア、ガッ」

「「ネギ先生ぇー!!!」」

「あ、兄貴!?」

「ッ――お嬢様!!」

 

 強烈な痛みで力が緩み、木乃香を奪われてしまう。

刹那が瞬動で接近するも、水の転移魔法で逃げられてしまった。

 

「木乃香、さん……!」

「ネギ先生、動かないでください!」

「あ、血が……血が、たくさん」

「……」

 

 刹那が応急処置し、その横ではアタフタと抱えられていたこともあり、返り血をべっとり浴びたのどかが慌てる。

そして、そんなネギを見る明日菜は呆然としていた。

 詠春は石化、ネギは深手を負い、木乃香は攫われた。

館にいる人間の殆どは石化し、魔法界の伝手で治療班を呼んでも来るまで時間がかかる。

 

 状況は、最悪だった。


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