セイレム未プレイですがシバの女王がどストライク過ぎてつい書きました……セイレム走り回ってガチャを回さねば……
図書館の本棚をくぐり抜けていたらいきなり砂漠地帯の国に転び出て、とっ捕まって男(仮)として士官することになっていたでござる。わけがわからないと思うが以下テンプレである。
いや、本当にわけがわからないよ。なにこれ。すごく気に食わない。興味本位で半分飼われる形になってるあたりも気に食わない。
とは言いつつ、行き場がない以上下手に何処ぞへ行くこともできない私は、今のところ宦官として宮廷に仕えている。げに凄まじきは宮仕え。ハレムなんて広くて迷いそうだし、女性たちの派閥を渡り歩くのもかなりしんどいものがある。それに、文官相手にしろ武官相手にしろ宮廷内での身の振り方も上手くないし。主な仕事場の女性の精神性だって、現代の、その中でも喪女だった私には分かるものじゃない。だって彼女たちみんな一人の王の妻だしね!!
いきなりとんでもないところにぶち込まれたもんだ……。切実に帰りたいと思いながら激務に身をやつしている。
「王よ、何故私を食客となさるのですか」
ほとほと疲れて気の迷いから聞いてみたことがある。その時の王は、空っぽな目でこっちを向いて言った。
「君は私の目に映らない。君だけが視えるものから外れて、何一つ視えない。こんな危ないもの、敵国に渡ったら困るだろう」
「……なるほど」
正直、ふざけるなと言いたいところだったけど、そのおかげで私は生きている。だから、死なない程度に頑張るしかないんだ。
今のところ帰れるかわからないし、そもそも何が原因でここにいるかわからない。とりあえずは、あの答えで私が男として生きている事について納得はできた。女のような体付き(女だけど)は宦官としての特徴と合致させることができる。そして宮廷に出入りして仕事はできる。そして異教徒だからこそありえる同性愛者であったとしても、女とバレないようにハレムの女性と密通はできない。密通して反旗を翻すことも、ない。
第一、その前に宦官は蔑まれることが多い。それに他にも宦官が国を滅ぼした例があったのか、王の側への控えがあるときには他の側近たちの監視の目が厳しいのだ。私を宦官として使うのはとても合理的だ。
まあ、だから気に食わないんだけど。
そうは思っても、ずっとその国に居ると愛着は湧くもので。いつ帰ることができるかと指折り、石版に刻み数えて居たのに、帰りたくないと思い始めてしまった。
この国は不便だ。でも、書き言葉は必死に覚えたし、与えられた仕事にだって慣れた。ハレムの女性たちとのやり取りも、すごく頑張ってそれなりに上手く行っている。どこの派閥でもない使い走りだから、お気に入り、とまでは行かないんだけど、それでも目をかけてくれる人がいる。慣れたらご飯も美味しいし、監視付きとは言え一人で食べて一人でふらふら遊びに行くのだって楽しくなった。街は面白い。習俗も、全部手持ちのノートに書きつけて真面目に研究してみたりした。フィールドワークとして雑談半分の聞き取り調査もしたし、それをまとめて提出したときのやり遂げた達成感は物凄く楽しくて倒れそうなくらいだった。そういう体験があるから、もう少し、もう少しだけ頑張ってみようと思う。
イスラエル王国に辿り着いて、百夜が経った。やって来てからも相変わらず、知り合いのいないところでの独り寝は少しだけ寒い。
ふっと目が覚めると、座って寝ていたみたいだった。あれは本当に夢だったんだろうかと思うほど、リアルな夢だった。未だにベッドの固さや布団の柔らかさまで覚えている。起きた瞬間布団がなくて寒いと思ったくらいだ。周りを見回してどうも図書館のソファで眠り込んでいたらしい。時計を見ると、二時間ほど経っていた。まずい、そろそろ帰らないと。来週また返しに来よう。
しかし、図書館を出る前に足を止めた。それで、もう一度本棚を見て、古代世界でも役立ちそうな発明についての本を幾つか借りる。もう一度、あの世界の夢を見ることができるなら、面白い寝物語や役に立つものをお返しできないだろうか。側に控えるうちに案外気に入ってしまったらしい、あの無機質な王のために。
図書館で、読み切った本を返して館内で本を読んでいると、あちらの世界の自室にいた。やっぱり、ここで本を読むとかするのが迷い込む原因だったんだろう。とりあえず、朝が来てるんだし、起きなきゃ。胸をあんまり崩れないように慎重に布で誤魔化して、初めの頃に与えられて着慣れた官服に袖を通す。あんまり潰すと痛いし、呼吸がしんどいから緩めに巻いてるけど、宦官という設定がありがたいことこの上ない。レイヤーさんとかでも、めちゃくちゃ締めて完全に平らにすると半日で倒れるみたいだし。
「アモス殿、おはようございます」
「ああ、おはよ、っ!?
誰か居ないか!セラヤが起きたと伝えろ!」
部屋の前にいた監視役のアモスさんは、私の挨拶に返事をしようとして途中でとんでもないものを見る目で言葉に詰まった。それから大声を上げて人を呼ぶ。……私、そんなに長く寝てたのか?
「では理由も分からない、と」
「はい。申し訳ございません、陛下」
ソロモン王に拝謁して、事態について聞いたときは卒倒するかと思った。七日間向こうと同じく寝てたらしい。しかし、私にも原因がわからないのだからどうしようもない。次は同じ百日後かも知れないし、あるいは半年後かも知れないし、明日ということだってありえる。
まあ、わからないなりに、こちらにいるうちはちゃんと仕えるのだからいいだろうと思う。その意見をやんわり変えた言葉にして伝えると、王が不愉快そうに表情を変えたのが愉快だった。まだ自由にさせてもらえず終いなの、恨んでるからね。買い物くらい、そろそろ監視外してほしい。
それから、やっぱり仕事をして泥のように眠ってを繰り返し、持ってるノートにどんどん書き足して。それに王が何かを本当に喜んでいる節はないんだなと確認したり、女中さんやハレムの女性たちが好む話や、王が好む話をした。
そして何度か、百夜目に昏睡して図書館で起きるのを繰り返して過ごした。現実世界の私が年を取っていないのが不思議なくらい、イスラエル王国では長く過ごした。どうせなら、あちらでもう目が覚めなくてもいいかな、こちらで生きていてもいいな、と思うことも何度かあった。かなり、馴染んてしまった。本当に、このまま生きていくのでもいいと本当に思うほどだったんだ。
随分経ってから、南方の王国から女王がやってくると使者が遣わされた。
私も彼女のことは生で見てみたかったから凄く楽しみだった。知恵比べがどのようであるか、その場で体験することができるのが幸福だと思いながら、その時を待っていた。
……彼女を自分の目で見るまでは。
「陛下、南方の女王様がお越しになりました」
うつくしい、本当にうつくしい人だと思った。その姿を見た途端、雷撃に撃たれたのかと思うようなひどい衝撃で、息が詰まりそうになった。それまで巡らせていた思考が全て真っ白になるくらい、彼女のこと以外気にならないくらい。それだけ、うつくしい人だったのだ。
「お初にお目にかかります、ソロモン王陛下」
涼やかな、愛らしい声。知性に富んだ人とわかる、怜悧さの滲む声。
私は、確かにこのうつくしい女性に、一目惚れの恋をした。彼女を愛してしまった。
それから、なんてことはないと思っていた数日間の彼女の滞在が、ほんとうに地獄のような時間になった。
彼女の微笑みがとても眩しく、見ているだけで心が踊った。淡く紅潮した肌に、なんと温かそうなのだろうと恋しく思った。少しだけ街に出て所用を済ませたとき、装身具や爪紅を見て彼女に似合いそうだとつい買ってしまった。そんな時間が心から楽しかった。
でも、彼女と我が王が同衾するを見て心臓が締め付けられるように感じた。そこに控えることに、どうしようもなく呼吸が苦しくなった。そのことを思って夜に一人で部屋に篭り、幾度となく泣いた。我が王、とまで最近は呼ぶようになった主君が感情を持ち合わせないことに、遣る瀬無く思った。
分かってはいる。本当は女で、今はただの宦官でしかない私が、国の同盟相手である女王を恋慕するなんてあってはならないことだ。感情に振り回されるのもいけないことだ。恋というものが一時の暴走でしかないことも、彼らにあるのが恋ではなく同盟の友としての友愛であることも、きちんと弁えている。頭では、わかっているんだ。
幾度か同盟国の首長として行き来し、語ることがある彼らを、私はただ家臣として見ていた。いつしか、彼女への恋心はゆっくり抑えが効くようになったと思う。その代わりに、我が王への罪悪感、彼女への罪悪感がゆっくり、ゆっくり育ってしまった。
これらは全部不敬、あまりにも不敬だ。それに、誰かに気付かれて指摘されれば、逆臣としても扱われかねない。
切羽詰まった私は、死ぬことを決めた。ふと、どうしようもなく、そう思ってしまった。こちらに来るようになってから蓋をしていた気持ちに、また薄らと火が付いて、燃え始めてしまった。
それから、私がしたことは大したことではなかった。仕事の合間に仲良くなった女中に頼んで、幾らかのものを融通してもらった。それだけだ。誰にもバレないように死ぬ。その計画を立てただけ。
頼んで融通してもらったものは、この町にこれ以上ないくらいに強い酒と、毒草だ。毒草は酒のアテにするからと嘘をついて、人が知らないであろう毒性の高いものを買ってきてもらった。
本当はあんまり苦しみたくはない。でも、王にバレたら磔刑は免れない。どうせなら、ばれないように自死したかった。我が王が私について何も視えないことが、これ以上なく都合が良かった。
それから、誤魔化すように仕事に取り組んだ。王の寝所にはできるだけ近寄らないように、計画が誰にもわからないように。
……なのに、我が王は私を寝所に呼んで物語を語らせたり、報告を上げさせるようになった。あてつけだろうか、それとも、知られてしまったのだろうか。バレようがそうであるまいが、どっちみち死ぬことには変わりないと腹を括った私は、女性を連れ込んだ王の閨や、ハレムのお呼びのない女性のところで夜毎に寝物語を話し続けた。
「セラヤ、君は良く仕えてくれている。何かひとつだけ、願いを叶えてあげよう」
我が王は、気まぐれだろうか二千夜目にこんなことを提案してくれた。特に願うことはない、と言いそうになったが一つだけ思い浮かぶことがあった。
「ありがたき幸せにございます……でしたら陛下、貴方様の魔術書を一晩のみ、人を周りに置いたままで良いのでお借りできませぬか。そうでなければ、私は何も求めません」
「……いいだろう」
我が王は虚を突かれたようになり、その後苦々しい顔で、一つ頷いた。蜂の巣をつついたような廷臣たちの声も、何もかもが止めようとするけれど、偉大な王の了解は取り下げられることなく、私はその権利を得た。
「なぁ、レメゲレン、それともゲーティアかな。君、今ちゃんと意思があれば覚えていてくれないか。
我が王は、自由な心を許されなかった。そして、人のあり方はとても愚かしいように見えるかもしれないけど、それと同じくらい、美しくて愛おしいものなんだよ。私が、彼女を愛することだって、誰かはきっとわかってくれるし、その誰かはきっと、無条件に人を許すことのできる心のうつくしい人だよ」
何人かの監視役にずっと睨めつけるように見られながら、少し遠巻きにそこにいる彼らに聞こえないように、語りかけて本の表紙を撫ぜる。ここに憐憫の獣はいないかもしれない。でも、もし居たとしたら、届いてほしい。彼が今の、あるがままの人を愛せるように。滅ぼされず、人一人ひとりの愛を知ることができるように。直接誰かに触れて、納得することができるように。
「もういいのかい」
「はい。気は済みました。ただ一度でいいので、触れてみたかっただけなのです」
背表紙をなでながら言いたいことを全部言い終わって、ソロモン王に本を返すと随分と驚いたような顔をした。こうしてみると、まるで本当に心があるようにしか見えない。我らの、慕わしく賢き王様。これが、最後の話になる。
「陛下、貴方様にお仕え出来て私は幸せです。だから、もう望みません」
「そうか。立ち寄ったのだから、一つ何か話をしていってくれないか」
「……では、一人の哀れな女の話をしましょう。私の故郷に昔々起こった話です」
脚色して、今夜も変わらないように語り聞かせる。何が面白いか毎日わからなかったけれど続いた、二千夜目の最後のお話を。
きっと、彼は明日の朝に笑ってくれると思う。あれはそういう終わりなのかと、分かりやすすぎると、形だけでも笑ってくれるだろう。
〈あるところに女がいました。女は、一人の主人に仕え、彼に嫁が輿入れするとき、彼女の世話役になりました。女は、はじめは主人が気に入らなかったけれど、そのうちにほだされて本気で彼のために働くようになり、そうして任された嫁の女性のことを、たいそう気にかけるようになりました。……そのうちに、あろうことか女主人となった彼女に恋をしてしまい、彼女は苦しみました。その後、使用人が増え、会うことは稀になりましたが彼女を思い続け、その思いから誰にも告げずに独りで死んでしまいました。
陛下、きっと大罪人だとお思いになるでしょう。でも、彼女は誰にも告げることなく死にました。
陛下、愛するということは、相手を思うことです。その女は相手のために、誰にも迷惑をかけず、しなければならないことをやり遂げたのです。その心意気は、悪くないものだと思いませんか〉
きっと、私はひどい顔をしていただろう。でも、これからの苦しみがないと思えば悪くないと思えたのだ。それでいいと、清々しく思ったんだ。
次に彼女が目覚めたときに、何を語らせようかと微睡んでいた。支度をしていても、にわかに彼女が思い出されるときだけは、自由な心というものが少しだけわかった風に、思考が快く乱れていく。これは、きっと本当に心なのだろう。王ではなく、寝物語の聴者としているときだけは、そんな風に思考が揺らぐ。それがどうにも不思議で興味深いと思った。
だから、次は何を語らせようか、と思うときには、心があった。楽しんでいた。今朝もそうだ。
「他、大変です陛下!セラヤ殿が、セラヤ殿が……!」
朝、何よりも早く伝えなければならないことを言う役の者が、いつもよりも遅く駆け込んできた。見慣れない顔からして、おそらく士官し始めたばかりのものだ。いつものように寝ているだけであるはずだろうに、セラヤがどうしたというのか。
そう思っていたはずが、次の言葉で凍りつくことになった。
「セラヤ殿が自死しました……!」
「死んだ……?どういうことだ」
「監視役が妙な物音に気付いて部屋に踏み込んだのです。そこには、すでに冷たくなったセラヤ殿と、遺書らしきもの、割れた毒酒の壺があったのです……」
渡されたそれには、私を敬愛していたと、ある女性に恋をし悩んだのだとだけ書かれていた。遺言にして、主人である私への懺悔の言葉。
それが、じわりとあるはずもない心に黒い雫を垂らし、広がっていく。何なのだろう、この思考の乱れ方は。彼女が、セラヤが恋い慕ったという女性はシバの女王だろうということが、死んでしまうほど思い焦がれたということが、思考を歪めていく。
昨夜のあの語りは彼女自身のことだったのだ。主人を敬愛しているというのに、愛を知って死んだ。罪と知りつつ、誰にも迷惑をかけず死んだ女。
「……少し、一人にしてくれ」
「はっ。失礼致します」
役人を退出させ、寝台に腰掛ける。
昨日までは語っていた。昨日までは、たしかに手の届く位置に彼女は居た。居たのだ。もういいと、何も望まないと言いつつ、最後にひとつだけ悪意を置いて逝ってしまった。
「私はまだ、勤めを終えていいと言っていないよ、セラヤ……」
知らず知らずのうちに涙が落ちる。泣くというのは、意識があるうちでは初めてだ。言ってくれたならば、赦しただろう。異教徒だからと、聞かなかったことにもしただろう。それでも、そばで語りものをするように、私は願っただろう。
私は、彼女の死と引き換えに、少しばかりの喜怒哀楽の心のすべてを手に入れた。こんなことになるとわかっていれば、欲しくなかった。
「結局帰ってくるのか……」
図書館で目が覚めた。とりあえず帰ろう。向こうでは毒死したから、ここにいてもしも世界線を超えてしまったら都合が悪すぎる。
でも、後悔はしていない。してないったらない。少しだけ、我が王に同情したり、淡い恋のような憧れを持っていなくもなかったけど、それ以上に王の国を愛したから。あの国で、あの王に仕えたことが、幸せで、愛しい思い出だから、それでいいのだ。もしできれば、なんのしがらみもない状態の転生とかした王様に、お幸せにとでも一言伝えられたら、たぶん私は満足するだろう。
願わくば、王に心がありますよう。どうか彼が愛を知って、幸せになりますように。
――――彼女は知らない。王が彼女に執着したことを。彼女を求めることを。そして、彼女が人になった王に、会うということも。
このあと人になられた王に執着されるかゲーティアに執着されたらいいのになーと思ったんですがここまで書いて燃え尽きた。読みたい人がいたら書くかもです。