ここ最近テスト関連で切羽詰まっていたので全く書き物ができませんでしたが、多分来週からはかけるようになるはず!
次は前までに書いたものの続編を書く予定です。
ロアナヴェーラ・アニムスフィアは妹煩悩である。隔世遺伝の暗い赤の短髪に、父親譲りの緑色の目をしている。頬は、少しばかり血色が悪い。白い肌が蝋でできているように見えるときもある。
ロアナヴェーラ・アニムスフィアは努力の秀才である。頑張らなければ難しいが、そうすればできなくもないことは多い。錬金術と植物魔術、それに関する魔術には適性があり、本人も望んで多くを習得した。
ロアナヴェーラ・アニムスフィアは欠陥品である。アニムスフィアでありながら天文絡みの魔術への適性が軒並みなかった。その能力から、当主候補になるのすら絶望的。
ロアナヴェーラ・アニムスフィアは普通の女性である。魔術師であることがおかしく思えるほど、一般人と変わらないパーソナリティの個人だった。
「父様は何考えてんだ」
その時ロアナヴェーラは生クリームをホイップしていた。
パンケーキの用意をして、久々に帰ってくる父親を出迎え、ついでに新しい家族の歓迎をするためである。帰還する父親から、新しい家族が増えると直前の電話で知り、ケーキを焼く暇も見つからずに焦った彼女は、とりあえず山のようなストックの薄力粉でパンケーキ生地を焼いてトッピングの用意に取り掛かっていた。
生クリームの甘さは控えめに、チョコレート味と普通の味を用意して。腕が悲鳴を上げているのは無視し、ホールケーキに見えるように周りにも塗れるほどホイップした。フルーツの用意は足りない気がしたが、足りない分はシンプルにベリージャムかマーマレードを挟んでごまかす事にした。
「ロアナ姉様、今日は随分豪華なのね?」
トントントン、と開いていたキッチンの入り口のドアを軽く叩いて鳴らして、オルガが来た。
今日は淡いオレンジのドレスを着た妹。とても可愛らしいから新しいアクセサリーを贈りたいんだけど、流石に貢ぎ過ぎて怒られるのも何度めかわからないからやめよう。代わりにお姉ちゃんはおやつ作り頑張っちゃうぞー。
「父様が家族が増えるって。当の本人も知らなかったらしくて慌ててたけど、声は男の人だったよ。養子でもとったんじゃないかな」
聞いた話を、電話の向こうで行われたやり取りも含めて説明すると微妙な顔をした。
「そう、……新しい家族が嫌な人じゃないといいわね」
それでも、どことなく楽しそうに見えてホッとする。オルガは真面目さんで、心配性で、抱え込んでしまう性質だから、この様子ならストレスにならなさそうで安心した。
「気に入らない相手だったらしばらく泊まりに来てもいいから」
時々遊びに来てくれてもいいよ、と言外に伝えると、緩やかな微笑みになる。かわいいなぁ私の妹。最高に天使。
「大丈夫、目一杯牽制してやりやすくするから」
訂正、余裕があれば結構攻勢に出るタイプだ。余裕そうでお姉ちゃんは安心した。
あ、そうだ。あとトッピングもう少し増やそう。多分、これから来る彼は気にいるだろう。
「マリスビリー、僕は食客になるって話だったろう?」
電話を切ったマリスビリーに詰め寄ると、彼は苦笑しながら口を開いた。話が違うというのも、何か理由があるらしい。
「ああ、だが娘は"それを家族って言うの"と怒りそうだったからな」
どうせ押し切られて息子同然に暮らすことになる、と笑うマリスビリー。頭を抱えるが、言ってしまったものはもうどうしようもないし、彼の娘というのは随分普通の、平民的な感覚を持った人のようであるから仕方がないのかもしれない。しかし、厄介そうではあると思った。
「そうそう、君も喜びそうなサプライズがあるみたいだよ」
「えっ、何?」
「それは、ついてからのお楽しみだろう?」
行こうか、君にとってもそうなる我が家へ。
挨拶もそこそこに、食卓へパンケーキを持っていくと控えめな驚嘆の声が上がった。父様は楽しそうにロマンを見ている。これはもう既に息子同然だな。呼び方は兄様でいいんだろうか。
「わぁ……」
「これは生クリームと苺とブルーベリーとラズベリーソース、これはチョコレートクリームにマーマレードとナッツのパンケーキ」
「あ……その緑色のクリームは?」
「これは抹茶と小豆に、トッピングは甘納豆ね。和菓子風にしてみたんだけど、抹茶風味はお好き?」
「すごく好きだよ!嬉しいなぁ!」
ああ、じゃあ彼は日本で結構和菓子も食べたのかもしれない。冬木ってどんなご当地菓子があるのか気になる。
これから増えた家族と、大事な妹と。両方共なくさずにいるにはどうしたらいいんだろうか。足掻いてどうにかなるなら、今世くらい投げ捨ててやろうじゃないの。
ロアナヴェーラ・アニムスフィアには秘密がある。彼女が、本当はこの世界にいなかった異端であることだ。
彼女の行動原理は至ってシンプルで、何より大事な妹と義兄を生き延びさせることである。