一応スキルと宝具は考えてみたものの、先生がどう考えても自殺マニアになる。
「そういえば、先生が他の英雄より弱いって絶対嘘でしょ」
パンクラチオンで体が温まった、というより完全にへばったセナにスポーツドリンクを渡すと、すごい勢いで飲んでいく。本当はこまめに飲むべきなんだけど、必要分を取るのが先だろうな。
「そんなまさか。私はケイローンより弱いよ」
「ええ〜、ケイローン先生は勝てないって言ってたのに?」
「あぁ、それのせいね……」
何回か関節技を受けたけど、やっぱり初心者だから弱い、というか極め方が甘い。本気で振りほどかれたら反動で頭打ちそうだなと思ったので、おとなしくかけられ続けて体が少々痺れている。
「勝利の定義が違うな。今やりあったら状況違うから負けるんだ。あれ、耐久力の問題だから」
「耐久?」
「そう。私は火力はそこそこの防戦特化型だからね。相手がオールラウンダーだから、持久力尽きたら負けると思うよ」
あれだけ怯えられてたのは、昔やったときに倒せなかったのが引きずられているんだろう。だが、私は打撃が強いわけじゃない。火力が高い相手と無理に競れば当然負ける。でも、防ぐことには特化してるから、長期戦に持ち込めばスタミナ切れまでギリギリ耐えきれる。どちらかといえばそのうちに弱点見つけて崩すか、援軍来るまで耐えて勝つ方向で考えているから、少なくとも「勝てない」んだ。
それに、今は決定的な弱点もある。
「あの蹄とか鉄拳でレバーブロー食らったら、死因関係で大ダメージ食らうし間違いなく死ぬよ」
「え、えっぐい」
内臓へのダメージが本当にだめらしい。自分のことだからあんまりやりたくないけど、弟子が本気出したらすぐ殺されるだろうね。嫌だな。割と本物のトラウマスイッチじゃない?
「これ、あんまり伝えないほうがいいやつだと思って隠してたんだ」
ケイローンにも言いたくはない。でも、うっかり地雷踏み抜くことはある気がする。
「じゃあ、この話は秘密!」
「なんで?」
「だって、なんとなくそのほうが楽しくない? 私、秘密は好き」
ふふ、と笑う彼女に、ああこのマスターで良かったな、としみじみ思った。
「マスター、ついでで秘密話していい?」
「なになに? 気になる!」
無邪気に聞いてくるマスターに、この調子なら軽く流してくれるかなと、意を決して口を開いた。
「私、ここで消滅したら、たぶん次は召喚されないんだ。だから、できるだけ死なないように指揮してくれると嬉しいな」
「……え?」
内緒話だからね、絶対に伝えたらだめだよ。たぶん、あの子はすごく怒るだろうからね。
じわじわと紙の様な顔色になるマスターに、聞かなかったことにしてもらったほうが良さそうだな、と気の毒に思った。これまで何度か自爆宝具使ってるからね。女史たちにバフましましにしてもらって、耐えてから回復してもらってたけど。ごめんね、でも、私も死にたくない。せっかくだから無事に生きていたい。
ぼんやりとした目で、マスターがはく、と口を動かした。なんて答えるんだろう、この子は。
「先生、宝具ほぼステラなのに」
「えっ?」
待って、私の宝具、ステラと同じ扱いされてたの?
マスターが現実に帰ってくる前に、扉が開いた、と思ったら弟子にタックルかまされた。もともとマットの上にぺたっと座ってたから転がりそうになるだけだったけど、ひっつき虫になってビクともしない。なんだこれ。
「……え? 何それ仲良し?」
「よし、戻ってきたね。解釈が違うよ、決定的になにかずれてるよマスター」
「ひっつき虫……!」
腹部に回された腕がかなりキツく締められてるせいで、お腹がぎりぎり痛む。というか、原因どう考えてもあれだね、さっきの会話だね。
「マスター、引っ剥がすの手伝って。ケイローン、さっきの聞いてたみたいだから」
「え、というかバレるの早くない?」
一応防音加工してある部屋なのに聞こえてるということは、たぶん未来視使ったはずだ。たぶん、マスターが心配でやったんだろうけどタイミングが悪い。あと、心配してくる割には私の死因ガンガン痛めつけてきてるんだけど。めちゃくちゃ内臓痛いんだけど。
「うん、未来視使ってたっぽい。……このあとの訓練は切り上げて弟子の教育的指導に時間取ってもいいかな」
「……先生、殺すつもりで行こうとしてない?」
「ヤダなぁそんなまさか」
かわいい弟子だよ、ケイローンは。殺したりしたらだめだろう。あと苦しめるのも。SAN値チェックは、まあ仕方ないけど。
「でも先生真っ青だよ」
「うん?気のせいだよ」
「言い切った……!」
見えないんだよ、この位置だと。なんとなく震えてる気はするけど、顔色まで確認するのは、ちょっと無理。
「いやぁ久しぶりだなぁ、ケイローンとのパンクラチオン」
そっと引き剥がしにかかったけど、もちろん離れるはずがなかった。うん、知ってたけどこういうときに限ってこの子はしつこいな。
「……ケイローン、もちろん出来るな? 場合によっては宝具使うから本気で来なさい」
「で、ですが!」
なお言い募ろうとする。何か、他に効きそうな言い方あるかな。ちょっとキツくても良いかな。いい加減に腹部が痛い。
「遠慮するなよ、キロン」
叱るとき、キロンと呼んだことがあったからか、効果はすぐに出た。緩められた腕を外すと、引きつった顔が見えた。……これ、やりすぎかな。
「せ、せんせ…、」
「前も盗み聞きはだめだって言ったよ。悪い子だね、本当に」
わるいこ、は笑って言ってみたけど、これ相当意地悪な言い方になってないか。なんか嫌な予感する。まだ距離が近いからわかるかと思ってそろっと耳を済ませると、ケイローンの心音は相当荒い音になっている。
「ぁ、……ごめ、な、さ……」
駄目だ。本当にこれ以上は駄目だ。呼吸が早く、薄くなってる。顔を覗き込んだら、予想通り散瞳していた。……このままだと過呼吸起こすな。明らかに言い過ぎだ。行き過ぎて虐待になってる。これはさすがによろしくない。
ぽす、ぽす、とゆっくりリズムを刻むように背中を軽く叩いて呼吸を落ち着けてやると、少しずつだけど元に戻っていく。
私がもうやらないとはまだ思ってないのか、呼吸が戻ったときに凄く怯えた目で見つめられて、教育は難しいなと思った。今回のは、教育にはらなかったから、真っ当なやり方をきちんと調べないと。
「……まったく、こういうことになるから止めるんだよ。次はやめなさい」
「……もう二度としません」
またやったら、マスターとの交渉次第ではあるけど独りでQP周回の刑にするぞ。微妙に相性合わないから蜂の巣ギリギリ手前だぞ。
ただ、どう応えるのが最適なのかわからなかったので、とりあえずひたすら背中ポンポンした。
はて、弟子に稽古をつけるのはやめてマスターの訓練をするか、とセナを見る。真っ青になっていたところから再起動したらしく、一呼吸置いて彼女は絶叫した。
「これだから、アッティカ先生はトラウマ量産して……!」
うん、マスターは人のこと言えないからね。君も紐なしバンジーとか対サーヴァントのトラウマ量産しないでね。更にメンタル削れるから。
固有スキル
・愛は惜しみなく与う
教師として逸話から、また死に際に願った弟子の息災祈願の逸話から生えたバフ祭りスキル。「七つの丘」の上位種。確率で以下が発動。自分以外の味方全体にバスターアップ+アーツアップ+ガッツ付与(3ターン)+ターゲット集中。
・対英雄B
生き延びようと鍛え上げた肉体、及び諦めと根性から得たスキル。相手にもよるものの神性相手にも死なずに生き延びる。自身にガッツ状態を付与+ターゲット集中+被ダメージ時のNPチャージ上昇効果。
・対魔力(生存)
魔力攻撃が効きにくい。たとえ加護系でも魔力の乗った攻撃を受けた場合非ダメージが低減される。生存力が底上げされている。5ターンの間魔力攻撃による非ダメージ低減。
常時発動スキル
・一意専心B
一つの物事に没頭し、超人的な集中力を見せる。先生の場合、野山で単独行動していたことから発生。戦闘・陣地防衛などの行動に対して発揮される。道具作成スキルに対するプラス補正としても働く。自身のNP獲得量をアップ&自身にスター集中状態を付与。
・鋼の精神EX
化物じみた精神力。精神異常無効と確率でクリティカル威力アップ。ただしHPが1割(虫の息)を切ると失効。
・死すべき人間B
恒常効果で回復デバフ、味方に神性がいた場合のみ攻撃力アップする。ただし、敵対者に味方よりランクの高い神性持ちがいる場合は攻撃バフが強制解除される。
無自覚(一体型)スキル
・女神の加護A+
女神アルテミスから与えられた加護。もとより神の効果の効きやすい時代と体質のせいで妙に強化されてしまった。筋力と防御力に化物バフ。これ自体はステータスに組み込まれているため出てこない。後天的な肉体強化。
宝具
・「明日は陰府の我が身なるかな(メメント・モリ)」
またの名を冥土の土産。
強烈なダメージを負うことを承知の上で、雷に打たれ電力を魔力変換+肉体強化するブーストアップ。なお、発動した場合、負荷により手足の骨は砕け、肉が破裂する自滅スキル。外傷を無理やり押しとどめて発動する。敵単体へのバスター攻撃。3ターンの強力なバスターアップ+毎ターンダメージ1500加算+2ターン後スタン。