思いつきアンソロジー   作:小森朔

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オルガマリー第一主義の女の子と、少なからず関わろうとしてるオルガマリーの話。女の子視点。
雰囲気で読んでください。

百合百合しい話って難しいですね!なかなか書けない!


星見姫は奪えない

「ちょっと!」

 よく聴き知った大きな声が木の下から聞こえてきたから座っていた枝から飛び降りる。話をするとき、登ったままだととても怒るから。

 

 時計塔の庭園の、一番立派な木は私の避難場所だ。多少気配を削げば葉っぱが身を隠してくれる。しかも大半の授業が始まったばかり。よほど注意したい人か、同じようなコマ割りの人しかこの辺りには来ないだろう。もっとも、勉強熱心な魔術師ばかりで、くる人はそもそも少ないのだけれど。

 声の主は例外的な人だ。私の友人。君主の娘の、星見の姫。オルガマリー・アニムスフィアその人。そういえば、彼女も今は授業がない時間帯だったのかな。わざわざコマ割りを聞くことはないから、よく知らない。そういうものだよね。

 

 ああ、お説教かと、場面にそぐわないなのは承知で、少し嬉しく思う。彼女が私に接触するのはこういうときだけだからだ。わざわざ呼ばれることなんて、あんまりないから相当ご立腹なんだろうな。

「シドニー、貴女またなの?」

「うん、またやったよ」

 私がいつも通りに笑ったら、軽い音がして、急激に左頬が熱を持つ。叩かれた。平手打ちは何ヶ月ぶりかな。これはいつもより痛いはず。たぶん、きっと。痛いのは、よくわからないけど。

 

 マリーは今日はやけに血色がいいから、急いで来たみたいだ。ランチタイムはしばらく前に過ぎている。昼前にやったことだから、噂好きかいつもの誰かさんが風の流れに放ったんだろう。ここは広いのに、伝わるのは早いね。叩かれたのも、早く来たのも、相当ご立腹だったみたい。反撃されたのは痛くなかったけど、マリーの一撃はすごく効く気がする。

 

 でも、これはこれでも悪くない。彼女が私を探してくれた。それは、得難いことだと思うから、それでいい。だからといって、割に合わない喧嘩ばかりするつもりもないのだから、少しは許されるだろう。

「だって、あいつらマリーのこと凄く悪く言うのよ。腹が立つの、当然ね」

「だからって、わざわざ怪我させることはないでしょう!」

 目尻を吊り上げて吼えるマリーは年相応だ。うん、やっぱりこういう顔も好き。いつも難しい顔をしているから、時々フラストレーションを発散するくらいでちょうどいいんじゃないかな。私は特に気にしないのだから、これでいい。

 

「いいえ、このぐらいでいいの」

 殴った奴らを思い出す。突っかかったのは私だけど、先に拳を振り上げたのは相手。なら、私のは正当防衛だろう。一人一発ずつしか食らわせてない。あれらが妙に怯えてたのも、きっと気のせい。ちょっと、力の加減を間違えただけ。

 まあでも、悪いのは間違いないか。でも、それでいいや。次はもっと、うまくすればいいだけ。マリーが怒るのは、きっと悪評を恐れているから。次はもっと隠れた所でしよう。殴られたらバレるから、反撃させないように。

 

 

 でも、次のその前に、彼女が怖がってることをなんとかしないといけない。悪評は、彼女には決して関係ないのに、ひどく怖がる。私だけの評価を、そんなに恐れなくてもいいのに。

 

 彼女が望めば、私は喜んで自分に首輪をはめる。絶対服従しろと言われると、それは嫌だけど。でも、自分を害するな、彼女を守れ、なんて命令なら、尻尾を振って聞き分けるだろう。それが望まれないことは分かっているから、思うだけだけど。

 それでも、マリーは怖がってる。自分に陰口の牙や刃が向けられるのを。私は力でどうにかするしかできないから、そういうふうにしているけれど、きっとうまい方法はいくらでもあるんだろう。あとはそう、彼女を誰も知らないくらい遠くに連れ去ってしまうとか。

 多分それは、私にとってはとてもいい案なんだけど、彼女は喜ばない。でも、提案して見るくらいは、許されるかな。

 

「ねえ、マリー。息苦しくない?」

 深窓の令嬢、サラサラの生糸の髪の麗しい姫。私からしたら完璧の代名詞みたいなお嬢さんは、きっと今まで何度も聞こえよがしに言われた陰口を知っていると思う。それに、跡取り娘のプレッシャーもあるだろう。

「そんなことないわ。なぜ?」

 それでも、私の女神はまっすぐ前を見つめている。苦しんでも、悩んでも、絶対に折れまいと理想を杖に立ち向かおうとすることができる。こういうのが、高貴な姿だと言えるんじゃないかな。

 

 それでも、私はそんなものは捨ててしまえと囁きたくなる。あなたにとって、それはそんなに必要なものなのか、って。でも、そんなことを言って揺らがせてしまうのは不本意だから、そこには触れずに、言葉を変える。

「それならいいんだけどね、もし、期待とか、押し付けられた理想の姿とかが苦しくなったら」

 マリーの目が大きく開かれていて、ああ、きっとこれは言わないほうが良かったことなのかなと気づいた。でも、溢れたミルクはお皿に戻ったりしない。

「一緒に逃げましょ、オルガマリー?」

 

 答えまでの時間が、あまりに遅い。体感時間なんて信用ならないけど、苦痛でしかないのは確か。

 きっと、私がほしい答えは貰えないから、余計に。

「……考えておくわ」

 

 待ち望んで与えられたのは、息を詰めて、吐き出したような一言。それじゃあ、私は必要無いのかも。

 風が強く吹いている。そろそろ、次の授業の準備をしないと、教授から怒られてしまいそうだ。問題児になるのは、私生活面だけでいいの。マリーまで一緒に怒られちゃいけないし。

 

 

 ああでも、彼女と一緒に逃げられたらどれほど素敵だろう。何気ないことで泣いたり、くだらない映画で笑ったり、星のきれいなところで一緒にマシュマロココアを飲めたら、きっと毎日楽しいのにな。

 

 

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