思いつきアンソロジー   作:小森朔

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おかんがお弁当を作るだけの話。

何も思いつかずに適当したと犯人は供述しており……


キアラさんとおかん

「キアラちゃん、何してるの」

「えっ」

 

 何言ってんだ的な顔しても駄目です。騙されないぞ。その手に持ってる触手のような生き物は何だ。生き物は軽い気持ちでは拾っちゃいけない。

 

 

 結局、見つけた謎生物は私が確保する前にキアラちゃんが"しまっちゃおうね"しちゃった。

「まあ、これは没収するにできないものね……」

「ですから、召喚されたときには私の中にいたんです、お母様……」

 止めてもその前にしまっちゃう子はお説教です。正座をしているキアラちゃんからは反省の色が見えるような、見えないような。

 仮に言っているその通りだとしても、それでもだめです。お腹の中に収めちゃってたら何があるか分からないじゃない。お腹突き破ってきちゃうかもしれないじゃない。痛い思いをしそうなことは駄目なの。

 時計を見るともう夜も遅く、就寝時間も近い。若い子が睡眠時間を削るようなことをするのはいただけないから、もうよしたほうが良いのだろうけど、どうすれば反省するかしら。

「……まあ、今日はもう寝なくちゃね。お腹は空いてないかしら? 歯磨きは?」

「大丈夫ですわ、ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 

 

 卵はじゅわっと、硬すぎず、柔らかすぎずに出汁を含むように焼き上げて。

 肉団子は加熱時間を加減して、火が通っていてもぱさつかないように、しっとりするように気をつける。揚がったら小さい串に3つ刺して、甘酢に絡めて冷ます。

 サラダは食べやすいようにピンチョス風、といえば聞こえはいいけど、とりあえず小さめに切って串で刺す。それから蒸して食べやすくする。蒸すのはレンジ任せだ。文明の利器バンザイ。トマトは蒸し上がってから添えるようにした。

 ポテトサラダは、ガウェイン卿が潰すのを手伝ってくれたからちょっと多め。彼は固辞したけど、あとで少し取り分けてお裾分けに持っていこう。定番とは違って、長ネギとマスタード、カリッとベーコンを混ぜた。長ネギはしっかり加熱して柔らかくて甘くて、でもビネガーも少し効いているから、リリィちゃんたちにはちょっぴり受け入れにくいかも。でも、これはこれで美味しいから、できれば好きになってほしいな。大人組には人気があるから、今日は特別に、っていうこともある。大人たちの分も確保したら、きっと少しは仕事を早く終わらせる気になるはず。下宿生時代によくこれで酒盛りをした思い出もあるからね。お酒にも合うし、美味しいよ。

 

 ご飯は熱いうちに3つのボールに分けて、混ぜご飯、ふりかけご飯、チキンライスにする。

 混ぜご飯に使う調味料はバターと醤油。具は角切りにして炒めたベーコンに、プリッとプチッとした枝豆。少し塩分は多めになるから、醤油は気持ち少なめに。

 ふりかけご飯は定番のゆかり。シソの爽やかな風味がいいおにぎりになる。私はこれに男梅を刻んで包むのが好き。カリカリして美味しいのよね。

 チキンライスは具材を工夫して。トマトソースにベジタブルミックスと小さく切った鶏肉を投入して、しばらく煮詰めてからご飯を入れる。ベチャッとしないように、しっかり水気が飛んでから。

 よし、これでご飯は完成。おにぎりは全体的に三角でも俵型でもなくて、コロコロするボール型を少し潰したような形。丸っこい形にしたのは、もちろん理由がある。

 

 今日のバトルに出る当番は、ナーサリーちゃんたち年少組と、キアラちゃんと李先生とマシュちゃん。だから、リツカちゃんとマシュちゃん、李先生は大人向け弁当で、四人組はお子様ランチ風にするつもりだったのだ!

 

「苺さん、今日のお弁当は何かしら!」

「今日はね、開けてからのお楽しみ。帰ってきたらどうだったか教えてね」

「苺ママのお弁当いつも美味しいから本当に楽しみ!」

 ぱっと見は普通のお弁当たちを渡しながら、私は密かににんまり微笑んだのだった。

 

 

 

「あら、おかえりキアラちゃん」

 みんなが帰ってきてからしばらく経って、弁当箱を洗っているうちにキアラちゃんがやって来た。

「……ええ、無事に帰りました……あの……」

「どうかした?」

 恥ずかしげにモジモジと指遊びをする彼女に、一旦手を止めてちゃんと向かい合うと余計に焦ってしまったのか、殊更に真っ赤になって黙ってしまった。

 どうしたんだろう、食べ残しちゃったとか、気づいてないアレルギーがあってだめだったとか? でも、アレルギーなら流石に碩学二人がやってくれる定期検査のとき引っかかってるわよね。駄目なものがあったのかも。改良したほうがいいかしら。

「お弁当、あんまり良くなかったの?」

「い、いえ! そうではなくて、その……」

 とっても美味しくて、と蚊の鳴くような声で言ってうつむいたので、じゃあ何なのだろうと半ば途方に暮れる。無理に聞き出してもいけないし。

 

「わ、私こんな可愛らしいお弁当を作ってもらったことがなかったものですから……その、嬉しかったです」

 今日のお弁当はチキンライスと薄焼き卵と海苔でまるっこいミツバチのキャラクター弁当にしていました。

 

 真っ赤っ赤なトマトみたいな顔色でそんな可愛らしい、そして聞き捨てならない言葉を聞いた私は、必ずやこの子に飽きるほど可愛い弁当を作ってあげようと決心した。

 でね、アンデルセン先生。あなたあまり邪険にしすぎるのも駄目ですし、そもそもキアラちゃんに難癖つけるような目線を投げるのも駄目ですよ。駄目です。

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