思いつきアンソロジー   作:小森朔

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ドクターに夜食のお菓子を作る話。

「ぼくの秘蔵のお菓子達が!」という題を貰ったので、そこから始まる話です。


おかんとささやかな願い事

「僕の秘蔵のお菓子達が!」

 悲鳴のような叫びを聞いて駆けつけると、そこにはお腹の膨れたフォウくんとドクターが居た。何やってるの、この子達……

 

 

 

 深夜の厨房に立つのは久しぶりだった。残業をさせないようにシフトを作って、ロマニにも夜ふかしさせないようにして、ゲーティアが棲み着いてからは余計にここを夜間に使うことはなくなっていたのだ。

「ごめんね、メイ。僕の管理が甘いせいで……」

「別に作るのはいいわよ。でも、今後食べられたくなかったら、管理は自分でしっかりしなさいね」

 ありあわせの材料も、少しばかり多めに見積もっていたから残っていたもの。今後の予備分が心もとない。明日の大食漢たちは果たして満足できるかしら。

 簡単な材料比で作れる生地を焼きながら、ぼんやりと考えるのはいつもみんなの空腹のことばかりだった。私にできることは少ないから、せめて、お腹いっぱいにしたかった。空腹が辛いのはほんの小さい頃から知っていたから、みんなは飢えないように気をつけていたかっただけ。それがここまで来たのだから、かなり進歩したんじゃないかな。

「うわぁ……! すごく美味しそうだよ!」

「よかった。まあでも、この時間だとこれしかできないのよね」

ドライフィグ、わかりやすく言えばドライフルーツのイチジクを白ワインとグラニュー糖で煮て、砕いたクルミと生クリームと一緒に、パンケーキで挟んだのだ。

「ゲーティアには、また今度作ってあげましょうか」

「なんでそこでゲーティアなんだい?」

「気づいてないの? 彼、あなたと好きなものがお揃いなのよ」

「っ、」

 彼から生み出されたゲーティアが、彼の好みをなぞる。それは意外かもしれないけど、ありえることだった。まあ、私は今のロマンが好きなものしか知らないから、それ以外は全くわからないけどね。

 彼には、ゲーティアを生み出してしまったことには罪悪感があるのかもしれない。でも、私には作られることが罪だったと思えない。命が与えられたものは、なんだって認められるべきだろう。認めることと、対応をどうするかというのは、つながってはいるけれど別物だ。

 そして、手放してしまったことと、生きたいと願うことは別のことだ。

「ロマン、あなたの選択は尊いものよ。人の意志は、すべからく尊重されるべきものだから」

「でもっ、それでも、それが迷惑をかけるものならだめだろう!」

「いいえ。そのときはそうね、一生を通じて自分で責任を取るか、それが悪くなった原因をどうにかするのよ」

 うつむいた顔に、これは悪い方に考えているな、と気付いて、自分の考えの浅さに舌打ちしそうになる。もっと別な言い方をすればよかった。

「責任を……」

「そう。でも、それをするのには欠かせちゃいけない大事なことが一つあるわ。決して、そのためや、その責任を取る過程のなかで死んではいけないこと。それを守ることよ」

 さっきの言葉を補完するように言い募れば、エバーグリーンの目があった。私が知っている中で、一番生き生きとしていた緑は、曇りきっている。

「じゃあどうしろって言うんだ」

「いい加減にすべて背負い込むのはやめなさい、ロマニ・アーキマン!」

 考えるより先に、言葉が転がり出てしまった。叱るような口調になってしまったせいか、少しばかりロマンの顔色は悪い。

 そうじゃない。叱ろうとなんてしていなかった。でも、言いたいことのほうが、言い繕うより先にどんどん出てくる。

「生きればいいのよ。生きて、誰かと共生できるように奔走する。あなたにはそうするだけの強い心と、必死に生きてきた知識がある。そうでしょう、ロマニ」

 

 否定なんかしないでほしい。このまま、好きに生きればいい。いや、今よりももっと自由に、好きなことをすればいいのに。やっと得た心は優しくて、まだ柔くて傷つきやすいのに、大人だからと必死に背を正している姿は見ていて痛々しかった。

 だから、せめて私は肯定していたい。この立派な青年を、生きる喜びをやっと知ったこどもを、否定したくない。もっと自由に生きていいと伝えたい。私にできることが少ないのは十分承知だけど、出来る限りのことはしたかった。

 

「……僕は、自由に生きていいの」

 肯定の意を示すために、涙声のロマニに笑いかける。ああ、ここまでが長かった。私達だけじゃ、もっと時間がかかったかもしれない。

 

 

 カルデアがあって、ここに来て、本当に良かった。失ったものも多かったけれど、それでも。

「そんなの、もちろんよ!あなたは生きているんだから!」




おかんとマーリンは次のおかん話で書きます。
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