内容が薄いのと土佐弁曖昧なので薄目でお願いします。薄らと衆道の話があるので注意してください。
更新が全体的に止まっていた理由はストレスとスランプで全く書くなくなってたからです。公式からの土佐供給で頭パァンしました。ちゃんと書けてる気はしない。
ネタメモとネタ出し自体は頑張っているので少しずつ書ければと思います。
武市は、文机に座る自分の傍らで、背を預けて健やかな寝息を立てている以蔵を改めて眺めてから、ため息をついた。
「土佐にこの子を置いておいては、あまり良くはなさそうですねぇ……」
普段は出ることのない東京弁寄りのその言葉を聴くもの一人を除いて無い。それがわかったうえで、武市は気を抜いていた。
ただ一人、同室の、手を伸ばせば届く位置にいるお富さんにしか聴かれない。そういうところにいるのは、僕にとってはこれ以上ない安心できる空間だった。彼女は自分の本性を知っているから、と気を許しているが、これを龍馬が聞いたら目を白黒させるだろう。土佐弁のみを使うはずの人間が、それより慣れ親しんだふうに別の言葉を語ることは、少しでも付き合いがある者には違和感を拭えないだろう。
僕は、武市半平太は本来のその人物ではない。ただ、別人がその器に入り込んでいるだけの紛い物だ。だからといって、僕自身が何かを打ち立てるわけではなく、ただ、家庭人として、師範として日々の生活を過ごすだけだ。言葉や思想に違和感を持たれても、このご時世には過激派も多いから埋もれるだろう。それに、土佐の習俗に違和感を持っていることも、悟られなければ問題ない。以蔵くんがここにいる原因が知られれば、異端扱いされるだろうけれど。
以蔵くんを連れてきたのは半刻程前、無人の筈の道場で男にのしかかられていたのを、手遅れになるギリギリ手前で助けたからだ。
時代柄、土地柄もあり、土佐にはそういう因習がある。衆道を嫌うものを無理に手込めにすることもザラだ。慌ててその輩を撃退して自宅まで手を引いてきて、お富さん同伴でしばらく匿い続けて現在に至るのだが、お富さんが外出してなくて本当に良かった。「以蔵はあしのじゃ」などと方便を使った以上、一対一では恐怖でしかない。
自分の受け持つ生徒が虐待される寸前なのに黙って見ている現代の教師などいないだろうが、焦って考えた方便があまりに杜撰で、こういうとき同期の八百坂さんたちならもっと上手くできただろうと泣きそうになる。お富さんも交えて建前上衆道関係ということで隠れ蓑にすることに取り決めて、大泣きされたのが四半刻ほど前。こんなことにならないよう、やはり生徒の一部は僕の周遊に連れて出て行くべきかもしれない。
門下生には衆道に偏見も嫌悪感も持たないものが大半だ。一握りだけ、嫌がる生徒はいる。その生徒を集めて、周遊の折に比較的まともな地域に預けておけば少しはマシになるだろう。その一部の生徒を探すために全員のカウンセリングをするのは大変だが、今回のようなことがあってからでは遅い。そもそも、今までに対策の一つでもやっておくべきだったのだ。
「この子達を護るためには、師範を続けるべきでしょうか」
道場に人が集ったのも、寿之助殿が人望に恵まれているからだろう。自分はただ、周りと協調しつつしなければならないことをしてきただけだ。とても人望が厚いとは言えまい。そんな中で輪を乱すことをすれば、寿之助殿にも迷惑がかかるし、大変なことになるのは火を見るより明らかだ。
教師になりたかったから、往来物を使って少しずつ、教師の真似事をしていた。元の体が死んでいたらどうしようもなかろうとは思いつつ、それだけはやめられなかったというだけの話だ。そのうちに、生徒が苦しんでいることに気付いたものの、僕は無力だ。周遊の話も巡って来たのだから、適度に探りを入れて、抵抗を示しているものだけ他の道場に預けていくのがいいだろう。というよりも、それしかできないのだけども。
だが、そんなことを続けていては、土佐にずっと居ることはできない。最愛の妻のそばを離れたくはないし、今受け持っている門弟を放り出すのも気が咎める。どうしたものか。
「あら、うちは辞めなさっても構わん思いますわ」
元々、お嫌言うてたし。と裁縫の手を止めてお富さんが言う。軽い言葉に聴こえて、その実何があっても支えると言ってくれた彼女の言葉はしっかりと芯を持って強く、重く、堅い。
「お富さんが言うなら、悪くはないのかもしれないですね」
彼女がいれば、彼女と支え合えば自分は何でもできると思ってしまう。でも、子がないせいで重圧をかけられ続ける彼女の負担を考えれば、甘えるのは良くないことだ。一人で立てるときには立ち、守るべきとき守らねばならない。弱ったとき彼女から貰っただけの元気と強さは、できるだけ同じくらいに、辛いときに返してあげたい。
「……でも、一度預かった門弟なのに、こちらの都合で辞めてもらうわけにも行きませんからね」
それに、道場の創設者の一人は、紛れもなく自分だ。自分の浅い考えだけでは動くことはできない。いくら、それが後世では悪習とされようと、今の時点のこの国では常識。他所の土地を見せて、無理に馴染まなくても良いと思わせたい。それがひどく傲慢なことで、脱藩の危険を孕んでいるとしても、少しばかり合法で手助けをできるような立場ができつつあるのだから、少しばかり夢を見たいと思うのは自然だろう。
「まっこと、正友さまは我が儘なお人やのぅ」
半平太ではなく、僕だけが持った名前を呼んでくれる彼女の、なんと嬉しいことか。彼女がいるからこそ、"僕"は"あし"として振る舞える。「武市半平太」という人間として振る舞い、生きていける。本当に、僕と夫婦になるには過ぎたお人だ。本当に、愛しい人だ。
「こればかりは、生まれつきなもので。お富さんが愛してくれなくなるなら、どうにか直しますよ」
「えいよ。正友さまは、そのままが」
だからこそ、これから担ぎ上げられ、生きていく先でこの人を遺すかもしれないことが、つらい。
「武市の窮屈が、なにをしゆうがか」
「……アザに言われとうないちや」
牢に閉じ込められ、ひたすら写経や写筆をする日々を送っていると降ってきた声に驚いて振り向けば、懐かしい遠縁の友人がそこに居た。また随分と体格がよくなり、男前になったものだ。
アザと呼ぶ程には親しかった、土佐に仕舞い込むには余りに広い視野のこの青年は、一体何を思って僕に会いに来たのだろうか。監視の目は、いくら人徳高いとはいえ彼が潜り込めるほど緩くはない。私だって、写経のための道具や紙を増やすのは難しかった。差し入れを持ってきてくれるお富さんに一目合うことさえ出来ない。そんな中で、見つかればただでは済まないのにやってくるということは、それ程までに僕を憎んでいるか、恨んでいるのだろう。
彼の幼馴染に暗殺をさせていたことを気づけなかったのが腹立たしくて、僕を罵りに来たのか。それとも、過激派になりかねない彼らを抑えるため担ぎ上げられたくせに、暗殺に走るのを止めることができなかったことに憤っているのか。
「のう、龍馬。あしは、どこでやまっちょった」
以蔵くんはまだ獄に繋がれていないらしい。持てる人脈すべてを使って、自分に容疑を掛けさせたのだから当然だ。天誅も、倒幕も、土佐勤王派の起こしたすべてが、僕を起点にしたものと思われている。内部の人間からすれば知らぬ、一切関わらぬはずの僕が槍玉に挙げられているのだからさぞ驚き慌てたことだろう。隠れ蓑でもあるから、しばらくは活動なぞできないはずだ。
僕はもうすぐ処刑されるだろう。そのとおりに動いてくれているらしいので、本当に助かる。これで、僕の仕事は終わりだ。以蔵くんたちは、このまま、長生きしてくれればと思う。
お富さんを泣かせたくも、置いて逝きたくも無い。それでも、僕が担がれたのは、こういうときのためだったのだから、仕方のないことだろう。
「わしには、わからんぜよ」
「ほうかぇ」
なら、仕方にゃあ。
ボロボロ涙を流して、なして、と繰り返す彼に曖昧に笑うことしかできない。なぜこんなことになったんだろうか、どこで掛け違えたかわからない。きっと、担ぎ上げられたときにはもう手遅れだったんだろう。
顔のせいで女のごときと言われた成りも、幽閉されるうち筋肉が落ちて、本当に女性のように細ってしまった。もう、ここから出ても前のようにやっていくことは出来まい。剣術の師範は務まらないし、この姿ではまず間違いなく初見で甘く見られてしまうから教鞭を執るのにも向かないだろう。近いうちに沙汰が下るのだから、大人しく従うだけだ。
そうして迎えたその日は、装束を着て出るその場はあまりにも清々しい晴天で、晴れ舞台に相応しかった。ああ、本当に、死ぬには最高の日だった。力がうまく入らないのを、どうにか精神だけで保たせて短刀を握る。
義弟が、介錯のために刀を構えた。
龍馬くんと以蔵くんは、夜明けを率いてくる青年と朝焼けのような鮮やかな目の青年には、長生きしてほしい。夜明けを見て、朝焼けをも通り過ぎて、昼の日本を闊歩して欲しい。僕がそうできなかったことを託すのは、お門違いであるように思うけれど。
どうか生きて、生き抜いてくれ、二人共。
武市先生の中の人メモ
・武智正友
八百坂さんの級友。
奥さんが大好きなおっとり穏やか青年。子供には恵まれなかったけど奥さんが大好きだから意地でも離縁しなかった。(自分に原因があるかもと疑っている)
割と弱気。でも竹刀か真剣握ると役に入る。剣術の鬼。
以蔵さん来ませんでした。ざんねんむねん。