思いつきアンソロジー   作:小森朔

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ホットドッグ食べたいです。スランプ抜けません。


おかんと花の魔術師

 賑やかな会場、毎年のように行われていたネロ祭は今年ばかりは趣が違う。

 

「よぉーし、苦手だけど、全力で行こうか!」

 モニターの向こうでドリームマッチが行われているのを尻目に、久々にキッチンに立つ。

 仕事も大概にしないと心が死ぬ。社畜を好んでするつもりもないので、早々に切り上げてモニターも見える場所を借りていた。私からすれば何やら凄まじい演武でしかないので、どうせなら暇があるときには見ておきたかったのだ。今は、サムライクリムゾンと呼称されている岡田さんとの対戦らしい。

 

「そういえば、今年はジャンクフード集め?」

「そうみたいだよ。苺、今日は何を作るんだい」

 前よりも幾分か筋肉がついたロマンは、心なしか、前よりも食い意地が張っているような気がする。キッチンに立とうとしたとき目ざとく見つけられることが増えたような気がするんだ。

「ホットドッグにしようかと思ってるよ。ロマンも要る?」

「要る!」

 元気な返事だ。ホットドッグはロンドンのフラットでは良く作っていたし、私が作るもののロマンは味も知っている。信頼してくれているのもわかるし、腕が鳴る。

 ロマンの料理については……甘いものは凄いとだけ言っておこう。彼の作るパンケーキは美味しい。

「飲み物は」

「おまかせで」

「そっか、じゃあ、コーヒーにしようか。カフェオレとアメリカン、どっちがいい?」

「カフェオレ。甘くして欲しいな」

 甘党さんのリクエストは些細なものなので、叶えるのに苦労はない。どうせなら少しサービスしよう。よく母がやってくれたオマケだ。

「じゃ、ハチミツをオマケしてあげる。最近手に入った、ちょっといいのがあるんだ」

「やった!」

 ロマンは喜んでいるけど、果たして、生産者を知ったらどんな顔をするんだろうね?

 

 

 

 サムライクリムゾンとの対戦はマーリンの剣技に全力で火力を回した立香ちゃんの勝ちで終わった。見ていて楽しい試合だったけど、あれだけ魔力を回して立香ちゃんは大丈夫だろうか。疲れているかもしれないし、おやつは少し多めに取り分けておいてもらったほうがいいかもしれない。今日のおやつ担当は誰だっけ。

 ぼんやりと考えていると、淡い花の香りとよく知った気配が近づいてきた。

「いやぁ、疲れたよ」

 花の魔術師ことマーリンである。今日も元気に周りに花を咲かせているけれど、この花たちは本当に統一性がなくて不思議だ。何かしら法則がないか、少しばかり気になる。

 

 わざわざ私のいるカウンター付近に腰を下ろしたマーリンは、笑顔をこちらに向けて来た。無言の催促だろう、これは。

「お疲れ様です。何か飲みます?」

「うーん、それじゃあ、君のオススメで」

 返事をするときには蕩けんばかりの笑顔なので、どうしても近所の子供を連想してしまう。コーヒーは飲んでいたところを見たけど、今飲むのは別なものがいいだろう。出来れば水分補給としても問題なさそうな

「それじゃあ、ローマの麦茶にしましょうか」

 オルヅォという、平たく言えばローマの麦茶。ネロ祭になるはずだったので用意していたものの、すっかり忘れていたので出すことにする。ハチミツも少し垂らそう。この前、彼が大瓶に詰めて提供してくれたものだ。とても助かってるし、時間とタイミングがあれば貰い物は還元するのがいい。

「うん。それでいいよ」

 ニコニコと笑顔を続けている。なんというか、とても圧を感じるので困る。美人の笑顔は男女問わず、言いしれぬ迫力を感じるんだ。

「……なにか?」

「君を見たら、お腹空いたなぁと思って」

「完全に刷り込まれてますね」

 今までの積み重ねで、私が食事のイメージとと紐づけられているのだろう。

 何かがおかしい気がする。けど、突っ込んだら負けだろうというのも分かるのでそれについては口をつぐむことにする。ヤブ蛇は避けたい。

「食事も、簡単なもので良ければ用意しましょうか」

「そうしてくれると助かるよ」

 そうしてやっと、マーリンの笑顔がほぐれた。

 サーヴァントにしろ、職員にしろ、普通の顔をしているときのほうがよほど安心感がある。目の前の誰かがずっと笑顔になり続けていると、ちょっとだけ不安がよぎるので安心した。年中笑顔な人はともかく、そうでない人の作り込んだような笑顔は長続きされるといささか困る。私だけだろうか。

 

 しばらくはじいっと覗き込んで、彼は私を見た。何か考えているのか、それとも何も考えていないのかわからない目をしている。

「キミは、僕のことをあまり好きじゃないみたいだね」

「ええ、部分的には」

 大した質問ではなかったし、嘘をついたところで丸わかりなのだろうことはわかっているので、正直に返答した。

 不思議そうな顔は崩れない。何となく、これは彼の素の表情であるような気がする。根拠はない。

「それはどうして?」

「あなたは相互理解に積極的ではないでしょう」

「そうかな。そんなこともないと思うけど」

 口先ではそう言いつつ、どこをどう見れば積極的に相互理解しようとしているのか、私にはわからなかった。

 彼は人じゃない。でも、それでも行動をコピーして再構築できる程度には人間について理解がある。なのに、やろうとしない。私の目には、お世辞にも積極的には見えない。

「最終的に最悪の事態につながる選択肢を取らせることに忌避感がない。違うかしら」

 目を伏せて、痛ましそうにする。

「……そうだね、アルトリアのときなんかは、そうだ」

「バビロニアのときも、立香ちゃんが苦しみかねなかった」

「でも、彼女はそうじゃなかったろう?」

 彼女は立ち上がったし、美しい物語を紡いだのだろう。絶望しても光を見つけた。歩き続けた。

「結果としてはそうね。でも、一歩間違えばミス・ペンドラゴンと違わなかった」

「……手厳しいな。君たちは何もできなかったのに」

「ええ、私達は何もできなかったから。だから言うし、怒る。貴方は相互理解の努力はできるのに、しようとしない節がある」

 目を丸くしているけれど、本人は気づかなかったのか。それとも、気づかれないと思っていたのか。また別の理由なのか。別にどれでも構わないけれど、そんなに驚くことじゃないだろうに。

「僕には人の感情がないから、」

「人の感情はなくてもいい。経験知があるなら、予測はつくでしょう。それは怠慢でしかない」

 そういえば、今日ここに来て初めて彼は真顔になった。

 何か私の言葉に不快さを覚えたのかもしれない。もしくは、それ以外の引っ掛かりが何かあったか。それがどこにあったかまではわからないけれど。

「どうしてそう思うのかな」

「だって、あなたはイングランドで、人の中で暮らせていたでしょう」

 その仕草はとても人間らしく見えるし、見えなくもある。人によって、本当はあるのだろうと、いややはり作りものだと言うのだろう。でもそんなことはどうだっていい。それができるというのが大切なのだから。

 仕草を真似られるほど、マーリンという魔術師は人と共にあった。なら、それだけの蓄積された知識がある。知識があれば、思考できる。思考できるならば、感情として理解することはできなくとも、予測して歩調を合わせることはできる。

「真に分かり合えるかなんてどうでもいいけど、どうせなら不快感は少ないほうがいいもの。だから、努力すべきじゃないかしら。個人の意見だけどね」

 

 そんなことを言っているうちに、いい具合にソーセージが茹で上がってきた。

 白ソーセージは本当は朝から昼に食べるものだろうけど、そんなことは気にしてはいけない。美味しいかどうかが大事だから、目は瞑ればいい。

 湯から上げ、温めたパンに挟んで、作りおきのサルサソースを熱々のソーセージの上からかける。皿を彼の前に置くと先程までの難しい顔は既に消えていて、目線は大ぶりのソーセージに釘付けだった。いつもより奮発したものを買ったのは、祭だからということで一つ多めに見てもらいたい。いつもなら普通のサイズでここまで大きめのものは買わないからね。

「はい、できましたよ。熱いから気をつけて」

 あれこれ言ったけど、私は彼のことはそんなに嫌いではない。喜んだふうの顔を、したほうがいいときにはできるのだから嫌いにはなれないのだ。

「ありがとう。うん、美味しそうだ」

 ニッコリと笑う顔は、作りてからすればやはり嬉しいに決まっている。

 わかった上で騙されるのも、まあそれはそれで悪くないのだろうし、気づかなければそのままでいいのだ。分かり合えなくとも、人間は手を取って生きていける。その意志がありさえすれば、それに見合った行動ができるから。

「サルサソースは具が大きめだから、衣装にこぼさないように気をつけてね」

「おっと」

「言ったそばから……!」

 

 ただ、うっかりとかでやってしまう悪意のない行動は、流石に内心で腹を立てても仕方がないのかもしれない。明日の洗濯当番は怒るだろうなぁ。




追記:誤字修正しました。ありがとうございます。
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