思いつきアンソロジー   作:小森朔

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(注意:LB6のネタバレわ多分に含みます)

妖精転生オリ主がLB6の16年前に好き勝手している話。

メンタルも筆も絶不調で、ほとんど書けなくなりました。バトルシーンは進まず、キャラ視点は書けず。書けるものから書かせてください……


いつか貴方と青空を

 思い付きで旅を始めて、なんとなく踏み込んだウェールズ。来てみると、どこか懐かしさと寂しさを感じて足元がぐらつく。

 森に入る前に腹ごしらえをしてから、ここにしか見られない秋の木々に目を奪われながら散策をしていたら、虫たちが集っているのが見えた。

 

 虫が、たくさん。うじゃうじゃと。その虫たちの中心に、新しく生まれたらしい生き物が転がっていた。

 

「翅の氏族……?」

 

 蜉蝣翅のような薄い翅。陽光できらきらと光る髪は柔らかだ。繊細なつくりの四肢で、バランスのよさは作り物めいている。まあ、妖精という生き物はみんなそれなりに均衡がとれたつくりをしているのだけど。

 

 だが、打ち捨てられたように横たえられた裸体には肉がついておらず、ガリガリに痩せ細っている。目は見開かれ、瞬きもせず、瞳には鈍い敵意の光があった。

 

 

 ……知っている。この生き物が何であるかを、私は数百年前に生まれ落ちたときから知っていた。

 心臓が早鐘を打つ。呼吸が浅くなる。瞳孔が開くのを感じる。──見つけた。見つけてしまった。どうして、なぜこのタイミングで来てしまったのか。だが、悔やんでも仕方ない。

 

 来てしまった。見てしまった。そして、それを相手にも認識されてしまった。もう、これで逃げ場などないのだ。

 

 その妖精は私を見ている。見定めているわけではない。でも、自分の醜い部分を見透かされている気がした。どうしようもない生き物のなかでも、さらにみっともなく、劣ったものだと悟られてしまったのではないかと錯覚する。

 

 彼は、そんな目をしていた。薄い色の瞳が恐ろしかった。それでも、逃げるべきではないと、いつも大して役に立たない理性が足を止めていた。

 

 

「珍しい。この場所は初めてだけど、翅持ちの妖精は久しぶりに見る。となれば、偶然だけど、必然かもしれないのか。

 ならば手助けをしていこう。翅持つ貴方、君が安らいで起きられるように」

 

 台詞じみた言い回しでごまかして、焦りと絶望感を表に出さないよう押さえ込む。彼は、ただここに発生しただけだ。恐れ、困惑しているのは私の都合でしかない。それを必死に思考に塗り込む。

 その上で私にできることは、呼吸を整えて、せめて少しでも不快ではなく感じられるようにすること。無駄なことでも、本能から逃れる善性を備えた振る舞いを心がけること。

 

 

 本当は、嘘だと思いたかった。そうわめき散らして、みっともなく泣いて、神様に赦しを乞いたかった。

 でも、それはかつての私の残滓が許さなかった。そんなことで許されるはずもないと知っていて、心のなかでは、みっともない今の私を嘲笑っていた。

 

「翅持つ貴方、名前は訊かないでおこう。貴方が翅持つ者である限り、牙を持つ私のような生き物とはきっと相容れないだろうから」

 

 抵抗もできない彼の口に、指を切って出た血を垂らして魔力を流し込む。可能な限り魔力を詰めた数滴だ。本当なら手首みたいに絞りやすいところからやるべきだろうけど、それはさすがに痛そうだからやりたくなかった。

 

 魔力を与えれば、少しは楽になる。体を構成するための素材が少し増えるようなものだからだ。

 食べるもの、環境から受けとる魔力の方が多くても、直接受けとる方が一時的な補助にはなりやすい。特に、彼のように魔力の受け皿が出来上がっていない存在には、きっとこの方法のほうが効くはずだ。

 

 

 ──こんな偽善行為はしない方がいいと、分かっている。

 これは大きなお世話だ。そんなものはなくてもそのうち彼は完成する。むしろ、魔力を分けられるなんて、この妖精からすれば心底嫌なことだろう。私を今すぐ殺したいくらいには。

 

 それでも、そうする。知っているくせに、これが何者か理解しているくせにそうしたいと思った。

 こういうところが良くない。でも、こういう余計なお世話を昔からやめられなかった。この生を受ける前から、ずっとだ。だからもう、どうしようもない。

 

 

 そうやって命に関わるものを与えることで生まれた余白は、人間だった頃の感覚が戻ってきたようで嬉しくなってしまう。

 

 それに、早く、できるかぎり早く死んでしまえるのではないかという打算もある。存在税を支払えなければ、私も他の妖精たちと同じく死ぬ。これからの取り立てが厳しければ今年のうちにあっさり死ぬだろう。それならそっちの方が都合がいい。

 この国の妖精である以上、私も令呪を刻まれている。女王陛下に存在税は支払わなくてはならない。

 それでも、それらを差し引いて残るであろうものをまとめて与える。体から色々なものか抜けていく感覚は、久しぶりに空腹や満足感を与えてくれた。

 

 まだ、生きている。記憶も、私も死んではいないと思える。そう思い込めてしまう。

 とはいえ、余計な感情だ。すぐにそれには蓋をする。知られたくないことは、考えないに超したことはないのだ。

 

 

 横たえられた妖精の体が、少し組み変わる。さっきまでほとんどなかった筋肉が、多少の形を得ている。それに、瞬きもした。液体が瞳を潤している。

 

 きっと、ここらが潮時だ。虫たちがさざめいているから、彼の体にはもっと変化が起きていくのだろう。

 

「##################!」

「ごめんね、君たちが何を言ってるかわからないんだ。それと、邪魔して悪かった。君たちは彼を守ろうとしていたんだね」

 

 大きめの芋虫みたいな妖精がじゃれついてきて、かわいい。何を言っているのかわからないけど、なんとなく嬉しそうだった。

 危害を加えてこない虫は好きだ。刺す毒虫は嫌だけど、ここの虫たちはそこまで嫌いではなかった。仮にも彼らが妖精だからだろうか。振り落とすのではなく、そっと下ろす。

 

「私はもう行くよ。さよなら、翅持つ貴方。君が二度と私と会わないで、光の道を歩みますように」

 

 ただ、それだけで。

 私の行いで彼の形が少し変わったという事実だけで、近く死んでしまっても構わないかな、と思った。

 

 どうせ、何をやっても善ではない。なら、これからは今まで以上に勝手に、善だと思うことをする悪者でいよう。そのなかで、彼が、今日の私の行いを憎悪するならば、きっとこの上ない救いになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 本能に、生まれついて持ち得たそれに勝てないというのがどれ程の絶望か。

 私は生まれ直して初めて、生まれつきの苦しみというものを思い知った。

 

 

 初めは、食欲だった。

 あれほど楽しかったのに、早々に必要ない。自分を形作っていた行為の意味がなくなることが悲しかった。だが、それで人間と間違われることは面倒であるし、異様だと理解はしていたから隠していた。

 そのうち、どんどん楽しいことがわからなくなっていっている。たぶん、私にとっては一番の娯楽だったんだろう。

 

 次は、睡眠だった。

 妖精は眠らなくてもいい。でも、眠たければ眠ってもいい。あってもなくてもいいことは、苦しくて仕方なかった。

 存在を保つために、魔力をセーブするために人間的な生活をしても、その根底にあるものは全く違う。

 人間とあまり変わらない生活をして、昼に活動し夜に眠るとしても。それが確実に必要なものであるという実感は薄れてしまった。前の人生では長く眠りがちだったことが理由かもしれない。ただ、あまり眠らずとも活動できることに違和感が強かった。

 

 それから、共同体で妖精たちと生きていくこと。

 同じ生き物に生まれたと言うのに、私には彼らのことがあまり分からなかった。

 利己的であるとは知った。嫉妬しやすくて、享楽的で、自分より弱いと思ったら容赦がない。使い捨てみたいにすることにも抵抗がない。

 そういうところは、理解したくなかった。

 

 でも、同じ村に住む妖精たちを止められず、むしろ自分も同じことをやった。

 浅く呼吸をする、ひどく傷ついた人間。妖精紋様を活性化させて手当てもしたし、それでもどうにもならない傷は、薬や魔術を使えばどうにかなった。だが、やってしまって明確に理解した。

 

 実際は、人間で遊ぶことにひどく興奮したのだ。

 反応が面白くて楽しいと思ってしまった。もっともっと苦しんだり叫んだりするところが見たいとすら考えた。

 これで死んだらつまらないと、死んだら補充はどうしようとまで思って、立ち止まって冷静になった思考が真っ白になった。

 

 私は、確かにこのブリテンの妖精だったのだ。本能から、まったく逃げきれない。

 

 

 だから、私は足を鍛え、武術の腕を上げて強くなった。一人でふらふらと出歩いても死なないように。モースから逃げ切るか、あるいは殺せるように。

 もちろん、牙の氏族として戦える。ガウェイン様のように騎士のようにも戦える。

 

 そうすると、人間と関わることが少なくなっても比較的落ち着いていられた。新しくて楽しいものは、人間以外にもある。

 昼に夜に悔いた。神様を知っているから、恐れていても少しずつ自らの悪性と向き合おうとした。その上で、別な刺激に心を揺らし、罪を重ねることから逃げようと努力を重ねる。

 

 それでも、私は足りなかった。本能を嫌った。ウッドワスのように洗練された文化を学んでも、紳士的な生活を心がけても、決してかつてのようには生きられない。

 今は楽しくても、すぐに絶望感がやってくる。思考を深めれば深めるほど、私のこの生に意味もなく価値もないと突きつけられる。すぐ悔い改めて死ぬべきだと、心が芯から冷える。

 

 妖精の本能は呪いのようだった。いや、そういう生き物であるのだから、かつて生きた記憶こそが呪いだった。

 

 

 ──そのなかで出会ったのが、秋の森の彼だった。

 まさしく救いだった。運命の、遠からず来る破滅の告知だったのだから。嬉しかった。もうこれで終われる。きっと、すぐにでも。そう思うと、胸がつぶれてしまいそうなくらい、嬉しくて、寂しい。

 

 16年なんて時間はすぐに来る。短いものだ。

 人間の精神を半端に引き継いでしまったものだから苦しんだ。でも、あと少しでおしまい。だったら、これからを自由に生きようと思った。好きにしたいことをしようと。だから、彼に魔力を押し付けた。どうせ大筋は変わらないのだから、自分の心のために好き勝手してねじ曲げてやろうと思った。

 

 淡い光の瞳が、きれいだった。

 ひどく無礼で、嫌悪される行動をしたと理解している。それでも、その目に救われた。すべて憎んでいる色が。淀んだ光が。困惑が。それから──私が姿を表すまでにあった湖面のような光が尊いと感じたから、勝手に救われたのだ。

 

 

 だから、今日の行いで私は少し楽になった。これでよいと肯定できた。無駄に魔力を使って死んでもいいし、偽善を振り撒いてもいい。枷をはずすことがどれだけ心に優しいか。

 死を、これなら受け入れられる。

 

 

 あと、16年だけ。もう少しの辛抱だ。




追記:誤字修正しました。ご協力ありがとうございます。(8/8)
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