「マーリン!好きだよ!」
「そう、じゃあ大好きなボクのためにどこかに行ってくれるかな」
「あっはは、やっぱりつれないなぁー」
どうも、なんの因果かブリテンに吹き飛ばされた木偶の坊こと私です。なかなか運のいいことに、ブリテンのいろんな人からご飯もらったり、宿に留めてもらったりしてフラフラ生きてる。最初の一年は戸惑ったけど、二の腕にある焼印みたいな数字が年数のカウントダウンと気づいたときには割と心穏やかになりました。今のところ残りは15年。案外、長々滞在できるらしいから楽しむつもりでいる。
あ、こっちにいるうちには歳は取らないっぽい!だから好き勝手やっても大丈夫なのだ!もともとちんちくりんだからね、狙われるとかそんな問題もないし楽。それに怪我とかしても一晩で巻き戻っちゃう。便利だけど、これ逆に言うとこっちで何かしても帰ってから問題ないようにしてないと誰かの都合が悪いってことだよね。
と、考えつつも、やっぱり好き勝手しても生きていられるこの世界が気に入っちゃったので。好きな人には好きって言って、やりたいことする生活に勤しんでる。言わずは一生の後悔。積極的に世界にラブコール。だって伝えなきゃ損じゃない?
マーリンは数年前に出会ったんだけど、すっかり慣れきっちゃって対応が雑になってきた。最初は普通に振る舞ってたんだけどね?感じのいいお兄さんから腐れ縁クズ男にチェンジした。うんうん、時間経ってるし、割合いい傾向だ。塩対応でも好き。
そりゃね、好きな人に雑に扱われるのは悲しいよ。でも、私の愛はこんな風に大盤振る舞いだから、仕方ないんだ。だったら、私はどれほど言葉を尽くしても逆効果。身から出た錆。諦めちゃう方がいいね。
「うーん、アリーに粉かけてこようかなぁ」
「未来の王に悪影響があったらどうするんだ、この風来坊」
「うーん、でもまだ普通の村娘だし大丈夫じゃないかなぁ」
悪い影響っつっても、私普通に稽古見てるだけなんだけど。あとは、西洋剣術のお相手するくらい。どうせかっ飛ばされるだけだし、別にいいんだよね。いいサンドバッグになるでしょ、多分。
「キミみたいなのが半径1マイルにいるだけでも十分悪影響なのがわからないのかい。害悪だよ、害悪」
「ひっどいなぁ、流石のファウスタさんだって傷付いちゃう」
「鋼鉄の心の馬鹿娘が何を言っているのやら」
あ、ファウスタっていうのはここでの偽名。郷に入ってはなんとやら。ここの生活は楽しいし、マーリンたち愉快なみなさんと会えたから「幸福な」って意味合いの名前にしてみた。結構気に入ってる。
しっかし、何だか思った以上に散々罵倒されてるんだけど、どうしてだろうね。アプローチ間違えたかなぁ。やっぱケイ君の方に接触して稽古するべきか。
これでも一応、ブリテンの未来のためにちょこっとでも役立ちたい気持ちはあるんだよ。だからこそ、片思い相手から罵倒されて引き剥がされそうになっても王候補の子の周りをウロウロしてるんだけど。流石にちょっと、心臓に釘が何本刺さってるか分かんないくらい心が痛いな。打たれ強いだけで無傷じゃないんだぞ。
時間は有限。だから、少しでも爪痕を残したいんだけど。私そんなに警戒されなきゃいけないのかな。やだなぁ。心が痛いなぁ。
とは言いつつマーリンやアリーのケツ追っかけて14年もサクッと過ぎてった。ちなみに、あと3日で帰宅確定。早い早い。
いやぁ、あれからもうめちゃめちゃ怒涛の14年だった。イングランド王戴冠式に逆賊討伐、ニミュエのマーリン幽閉事件にベイリンやガウェインの冒険。色々あったな。あのあとマーリンは無事に出てきた。ちょこっと手伝おうとしたらすごく怒られたから、しばらくは近づかんとこと思ってここ2年くらい会ってない。
まあ、私は相変わらず風来坊だし、吟遊詩人の真似事をして日銭を稼いだりしてる流れ者だし、まあ会えないよねぇ。
なんせ、マーリンの知恵で宮廷は成り立ってる。王のスーパーアドバイザーにも、アリー……王様にも平時は絶対会えないからね。どうせ平民より蔑まれる風来坊の木偶の坊。パーティーで多少歌えるから呼ばれる程度だし、最近はお声掛けされるほどお城にお金はないしでご無沙汰。戦争ってやっぱ国庫の金をごっそり食ってくよね。
まあ、そんなこんなで会えやしない。相変わらずマーリンは好きなんだけど、伝えたらすごく不機嫌だからね。他の貴族のご機嫌伺いするぐらいしかやることないんだなぁこれが。
もうあんまり時間もないし、そろそろちゃんと、本気の本気で一旦告白して言い逃げしてやんなきゃと思ってんだけどね。帰りのタイミングは分かってるし、ギリギリん所で呼び出して、言ったら消えてやるのだ。ニシシ、我ながらいいシナリオ。きっと、マーリンもびっくり。たまげるだろうなぁ。楽しみだな。
「ファウスタ?」
「あっ、アリー!ひっさしぶりだね!」
ぼけーっとそんなことを考えて空を見てたら、後ろから鈴を転がしたような声。マーリンの片思い相手のプリンセスだ。前に決定的瞬間見たけど、あれは恋してる顔だった。わかる。アリーすごく可愛いし心が綺麗だから。今日もかっわいいなあ。
「ファウスタ!どうしたんですか、こんなところで」
道の端の石垣に腰掛けてました。
「いやー、空が青くてね〜。今日の空、故郷の空にそっくりなんだ〜」
最近、オートミールよりも薄くなってきた元の世界の記憶がはっきり思い出せるようになってきた。しかも、昨日のことくらい、すごく鮮明。やっぱり帰るんだなぁと思うと、随分心残りが少ないことに気づいた。風来坊で適当に、したいことばっかしたからだな。未練もほとんどない。
「ああ……ファウスタ、何かあったでしょう?」
「うん?やっぱりバレちゃう?」
「ええ。珍しく憂い顔でしたから」
でもやっぱり、特大級の未練は残ってるからね。しんどいけど、それもまた人生。憂い顔にもなっちゃう。……アリーには、ネタばらししてもいいかな。どうせ、他には早めに言うに越したことはないし。
「私、明後日帰らなきゃいけなくてさ」
「えぇ!?」
「だからこの土地とももうお別れ。あ、マーリンには言っちゃだめだよ?」
シーッ、と唇の前で一本指を立てると、アリーがものすごく慌てた。そんなにびっくりしなくても、と思うけど結構交流はあったね、そういえば。でも私なんかよりもずっと腕のいい吟遊詩人なんていっぱい居るし、そういう人たちを登用すべきだと思うよ。なにせあの人たちは私みたいな道楽者と違ってプロだから。質が違う。
いやぁしかし、空が青いなぁ。ぜーんぶ流してくれそうなくらい、深くて風がある。未練も吹き飛ばしてくれないかな。だめか。
銀の風に草花が揺れている。麦穂も、そろそろ膨らんでいく頃だ。出来れば、黄金の海になったところを見たかった。ここらへんは本当にのどかで、彼女たちの作ったいい国で。飢えることも、随分少なくなってきた。
「で、でも、貴女は……!」
「駄目ったらだめ。サプライズが台無しになっちゃうでしょ」
「え……?」
目を見開くアリーに、ほれ、と即興で作った花かんむりを被せてやると目を白黒させた。びっくりしたでしょー、でもこれ私じゃなくて薬のお礼の村娘の作品なんだな。隠し持ってただけ。
「熱烈に告白してやんの。だから、言っちゃだめ。頼むね?」
「っ、はい……」
泣きそうな顔で必死に留めたがる彼女の頬を抓む。ほっぺたがムニムニだー。柔らかくて、でもちょっと薄くて。
肉付きがもっと良くなぁれ。それに、笑って生きていけるようになぁれ。
言祝ぐことが上手くできるわけじゃないけど、おまじないとか、そんなふうに願掛けするのは現代でもよくやるからね。
この子が心から、ずっと笑っていられますように。この国の神様、あんたこの子に屋台骨を託してるんだからきっちり幸せにしなさいよ。
「さて、あとはお礼言ってこなきゃいけないところ回んなきゃ。じゃあね、アリー」
「お、お元気で……!」
大丈夫。今の私はね、ちゃんとお別れできるようにできてるから大丈夫よ。
……でも、本気で恋した人が振ってくれるってわかってるのって、辛いけど幸せなんだな。だって、またおんなじ事するって思って、信じてくれてるの、最高に意識に根付いてる感じがする。ちょっとだけ、前向いて生きてられるかも。
「マーリン!好きだー!大っ好きだー!!全部奪ってー!記憶も全部貰っちゃってー!」
「絶対に嫌だよ。本当に馬鹿だね、キミ」
夕刻、予想通りにお城から出ていこうとする所に出くわした。良かった、一応ちゃんと、個人的に熱烈だと思う告白はできた。心残りはない。無いんだ。無いはずなのに。
「っ、はは……やっぱり辛いやぁ」
「え、」
ボロボロ涙が出てくる。暑いせいで汗も滴って、顔はきっとぐちゃぐちゃだ。疲れと、もうすぐ消える悲しさで、もう本音を隠してる気力すらない。
夕方っていうのは、ヘブライの人たちが一日の始まりとしたタイミング。だから、今日が終わるときに私も居なくなる。
ほら、体が金の粒子になって少しずつ崩れてきた。もう時間だったんだ。本当に良かった。告白だけは間に合った。種明かしなんて、もう見ればわかるだろうし、しなくてもいいよね。
「ファウスタ!」
急いで駆け寄ってきてくれるけど、もう随分体は戻っちゃったみたいだ。眠気に襲われて、駆け寄ってきてるのがやっと見えるくらいには半目になってる。
「あばよ!……ちゃんと振ってくれて、ありがとう!」
「待つんだ、待ってくれ……!」
あーあ、いつもの余裕はどうしたよ。先輩風吹かせて、皮肉と嫌味と悪口言ってくるマーリンはどうしたの。いつもらしくないなあ。
「さよなら」
もう耐えられなかった。そのまま、眠気に任せて完全に目を閉じる。起きたらもう、貴方は居ないよね。まだしばらくは、さみしいなぁ。
本気の恋でした。でも、お別れは決まってるから、せめて大嫌いな私のままで居たかったのです。ごめんなさい、やっぱり、まだずっと大好きなままだと思う。
サラサラと金の粉になって風に溶けた彼女に、伸ばした腕は空を掴んだだけだった。
「ファウ、スタ……」
空っぽの心がざわざわと波立つ。そんなはずはない、感情なんて無かったはずだ。なのに、何かが抜けていく感覚と腹の底から臓物を食い破りそうな強烈な衝動があって、指先が冷えていく。
「なんで、キミはそんなことばかりするんだ」
泣いていた。それに、笑っていた。体が崩れていても、いつものボクの悪口で振られても。
大嫌い、大嫌いなんだ。だって、いつだってキミは愛を叫んでいた。誰にでも、なんにでも。やかましくとも、見苦しくとも。そんなキミが疎ましかった。
違う。本当は、キミのことがきっと好きだったんだ。何でも愛するのが気に入らなくて、だだをこねる子供みたいに、ボクだけにその愛を叫んで欲しい望んでたんだ。
「謝るよ、ファウスタ。ボクは一度も、キミの方から居なくなるなんて思ってもいなかったんだ……」
キミはボクらと会えたのが幸福だから"ファウスタ"と名乗っただろう。なら、ずっと幸せでいてくれればよかった。ずっと、ここで幸せに暮せばよかったんだ。どうして消えてしまったかはわからないけれど、急に、不意打ちみたく消えることなんて、なかったじゃないか。
だから、居なくなるなんて嘘だと言っておくれよ。ボクはキミが好きだ。だから、傍にいてくれ。
気付くには、随分と遅すぎた。幸福な彼女はもう、どこにもいない。
幸せになーれ、とかしたい割に続きを書く気は(今のところ)毛頭ないという。