ご都合主義でマーリン幽閉されてません。ニミュエの話とかはまた別口で補足します。
「好きって言って、好きって言って、ほかに何もいらないから〜」
「ご機嫌だね」
「まぁね!だって時計塔に来るの初めてだし!」
この時代のイギリスに来るのは初めてだ。ちょっと前まではみんなと居たのにね。
卒業旅行で一緒にイギリスに来たけど、結構懐かしいような、そうでもないような。どっちかというと馴染まないかな。農村部とかはそうでもないかもしれないけど。
予定していたからちょうどよかった。やっぱり大好きだった土地だから来たかったんだ。さっき歌ったみたいに、好きの言葉以外に他に何もいらないなんて、無欲なことは思えなかったけど。
「カードも見てきたいな〜後でお店行こ!」
「オッケー、こっち見たら合流するから先に行っててくれていいよ」
「りょうかい!」
こっちは可愛くて安いカードが多いから見ていきたいな。それに、このあたりの店の並び、どことなくキャメロットの城下っぽい雰囲気なのすごく好き。時代も相当隔たってるし、違うと言われたらそこまでなんだけどさ。
と、洒落たカフェテラスを見つけて他の子もみんな揃ったらお茶をしようかと思っていると、向かいから来た人とぶつかった。突っ立ってたその人にぶつかったから、私が悪い。
ぶつかってしまった彼を見上げて謝ろうとして、思わず言葉が詰まる。
「……マーリン?」
「それ以外の誰に見えるんだい。その目は飾りかな」
「間違いなくマーリンだね、久しぶり」
皮肉が相変わらずでマーリン確定だわ。元気そうで羨ましいよ。
まさかその辺フラフラしてるとは思わなかったよ。というかまだ生きてたんだ……
魔術師って言っても数千年単位で生きてるとは思わなかったから安心して旅行に来てたのに、前提から崩壊してたなんて。実質数週前に今生の別れ告げたんだけど、相手方は1000年以上経ってるって……気まず過ぎない?今度から気をつけよ……
「マーリンはこんなところで油売ってていいの?私は用事済ませたら帰るけど」
「やり口が卑怯すぎるキミを捕まえに来たんだよ、ファウスタ。ちょっと付き合ってもらおうか」
「えー……」
カード買うだけのつもりだったのに。
とりあえずは付き合わなきゃまずいと思ったから皆には連絡を入れて、あとでお茶しようと思ったさっきのカフェテラスに一緒に入店。この紅茶の匂い凄くいいなぁ。お店のブレンド茶葉、お土産に買えないかな。
「で、ファウスタ。弁明することは?」
「無いよ。私はあれで良かったと思ったからそうしたの。あなたからの返事は要らなかった。どうせ振られるのは目に見えてたし」
おかげで吹っ切れた。帰ってきてからはたった数週間。それでも、時代か違うのだからと無理矢理でも納得できたんだ。この人を好きだった想いは風化して、ちゃんと思い出になりつつあった。
ティーカップの底に細かくて残った茶葉が揺らいでる。根無し草に良くしてくれたのに、ひどいことしたとは思う。けど、それしかなかったんだ。時間があんまりにも足りなさ過ぎて、できることと言えば、あとをあんまり残さないよう消えることくらい。
「もう思い出になるから。だから、大丈夫」
「どこが大丈夫なんだ。人の気持ちも知らないで」
冷ややかな、悲痛な言葉に目線を上げる。
誰だろう、これは。だって、マーリンは感情のない人だった。人に合わせることばっかりやたら上手くて、気付かれないように人を求める人で、こんな心から悲痛そうな顔をする人じゃなかった。そんな顔は見たことなかった。
……そっか、やっぱり私は自分勝手だったんだなぁ。人の側面だけ見て勝手に好きって言って。そりゃあ怒られるに決まってる。
「好きなんだよ、キミが。キミに会ったら言おうと思ってたのに、まるっきり無駄だったなんて、笑えないな……」
嘆くみたいな、少しかすれた声で言われた言葉が、一瞬なんなのかわからなかった。
好かれてた?信じられない。だって、そんなこと知るわけない。日々悪し様に言われて、好きなんて思うはずもない。それで好き?
「信じられない」
「ああ、だろうね。ボクだって信じられなかった」
そんな顔できるんだなぁ。前なんて澄まして余裕ぶった賢人もどきでしかなかったのに。俯きがちでも悲痛な顔は見える。私のほうが小さいもんね。覗き込めるよ。
「それなら、しばらくシェアハウスして確認してみる?私も信じられないし」
「は!?」
我ながらとんでもない提案だとは思うけど、まあ、面白そうだなって。まだ思い出になったわけでも、完全に思い出にしたいわけでもないし。
「キミね……」
一度大きくため息をついてから、下を向いていた顔を上げた。穏やかな普段の顔に戻ってる。うん、やっぱりこういう落ち着いてるときのマーリンのほうが好き。あの寂しそうな顔はいただけない。
「まあ、それもいいかもしれないね」
「なら、話はまとまったってことでいい?」
「腑に落ちないけど、構わないよ」
疲れたようにグテっと机に突っ伏したマーリンに思わず笑う。さて、軽率に言っちゃったとはいえ、私も腹くくらなきゃね。
「オッケー、じゃあ私来年からこっちに移住するわ」
「……そんなに簡単に決めていいものなのかい」
一応は企業の内定貰ってたけど、移住するなら断らなきゃいけない。就職ちゃんとできるかは分からないけど、バイトして貯めてたから貯金もないわけじゃないし。
「いいの。自分の人生だから、自分の勝手にするよ」
この国で暮らしてみてそうだった、というかそう過ごしたのが一番心が楽だったから。親だって説き伏せてみせるし、たとえシェアハウスが破綻したってそれまでが楽しければ気にしないからね!
「だからね、マーリン。少なくとも今度は絶対に不意打ちみたいなことなんてしない。それでいい?」
「もちろん。よろしく頼むよ」
メモ帳に走り書きで今の日本の住所と考えられる限りの連絡先を書き込んで押し付ける。
とりあえず、時間が時間だし、これから友達と旅行してから帰国しなきゃいけない。これ以上時間をごまかすわけにもいかない。そろそろ、みんなのところに行かないと。
店を出て、さっき会ったあたりで彼に向き直る。かなりガタイがいいから、やっぱりマーリンも男の人なんだなあと思う。適当にごまかしたら顔だけは女性にも見えそうなのに。
「それじゃあ、またね。次に会うときは新しいフラットで!」
「ああ。こっちで待ってるよ」
久しぶりに見た笑顔に、いたずら半分で頬にキスをした。固まってる姿に胸がすく。
勘違いだなんて言わせるもんか。次に居なくなったら胸に風穴開くくらい、好きだと思わせてあげる。だから、手続きが要る少しの間だけ待ってて、マーリン。
ファウストってドイツ語だと砲とかのことなので、女性形の名前でも体を表して一発風穴開けるくらいできそう。