「あっ、鳳翔先輩!聞きました? 中等部の戦艦クラスに新入生が入ったんですよ!」
一週間の休暇を終えて、久しぶりに弓道部に顔を出した私を見つけて真っ先に掛けてきたのは、一年後輩の飛龍さん。いつも二番艦の蒼龍さんと一緒に居るのですが、今日は一人でどうしたのでしょうか。
「あ、蒼龍ですか?あの娘、まだお昼食べてるんですよねー。お弁当作り過ぎたみたいで。本当に、毎日そんなに食べてたら太るぞー、って。まあ、あの娘の場合、栄養は全部胸に行くんですけどねー。って、そんな事を話に来たんじゃないんですよ。なんとその候補生、あの戦艦大和の候補生だったんですよ!」
「あ、はい。一週間前に中佐が私の部屋にいらっしゃって、その事は聞かされていますよ」
「へー。流石は大本営から最も信頼される候補生、鳳翔先輩ですね……」
「あ、そうです。それとですね、私と大和ちゃん、同じ部屋で暮らす事になったんですよ」
あら?どうして飛龍さんは口を「あ」の形にしたまま固まっているのでしょう?
「それでですね、この間飛龍さんが言っていたカフェの事を教えていただき――」
「ちょちょちょっと待ってくださいよ!? 鳳翔先輩が? あの大和候補生と、同居ですか!?」
「え、ええ。上からの命令で……」
「てっきりあの大和だから、物凄いお屋敷とかに住んでるかと思ってましたよ。意外だなぁ、鳳翔先輩と同居なの――ぎゃっ!?」
今度は口を「へ」の時にしたまま固まってしまいました。あら?飛龍さんの頭に手が……
「それは先輩を馬鹿にする発言とも取れるわよ、二航戦」
「いだだ! 痛い! 力強いから! ……んもー、居るなら先に言ってよ、加賀ぁ」
「貴方の失礼な発言が頭にきたから背後から奇襲しただけよ。飛龍も部活前なんだから少しは落ち着きなさい」
加賀さんも一年後輩です。一応、私が先輩という事になってますけれど、その才覚から、2年目になった今年には既に卒業が予定されていまして、3代目の正規空母加賀として襲名されます。
私なんかよりずっと戦いは上手いのに、ずっと慕ってくれているありがたい存在ですね。
「加賀さん、赤城さんが見当たりませんが、今日はどちらに?」
「赤城さんは……いつも通りまだ昼食から戻りません。もう10分もすれば来るとは思いますが」
「そうですか……お二人共相方が昼食遅刻ですか……」
「「本当にすみません……」」
蒼龍さんと赤城さんは、理由こそ違えど、昼食で遅れてくることが多いです。しゅん、とした様子で謝るお二人を宥めてから、私はいつもの様に部活動を始めます。
「赤城さんも蒼龍さんもすぐに来るでしょうし、私達は一足先に練習を始めましょうか」
「その方が建設的かと」
「はい。では、いつも通りに瞑想から――」
そう言えば、結局飛龍さんからカフェの場所を聞いてませんでしたね。また明日、会った時に聞きましょうか。
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