ただのなんでもない話です。
私ことシャルティア・ブラッドフォールンの私室は、第二階層の最奥にある。愛しき創造主・ペロロンチーノ様より賜った私の砦、死蝋玄室。
普段は薄暗く淫靡な空気が立ちこめているこの部屋だけど、今はかの御方のために全ての明かりをつけて、真昼のような明るさを保っている。
普段私が使っている、両手を広げてもあまりあるほどに大きな化粧台。そこにいらっしゃるのは創造主であるペロロンチーノ様の姉君、ぶくぶく茶釜様だ。
ぶくぶく茶釜様は私の持つ数種類のファンデーションやチーク、アイシャドウなどをご確認あそばされて、難しい顔をしていらっしゃる。
「この通り、私の持っているものは……なんと申せばいいのでありんしょうか、その……」
「……おしろい、って感じだね」
私の持つ化粧品は『血の通っていない青白い肌を美しい白磁色に見せるため』のもの。黄色人であるぶくぶく茶釜様には全体的に色が強い。
試しに化粧下地を手の甲に少し載せられていたが、洗い落とさないと分かってしまうくらいの主張の強い白色が浮いていた。
「お力になれず申し訳ありんせん。アルベドとナーベラルのものがぶくぶく茶釜様に合えば良いのでありんすが……」
私が心配しつつそう言ったところで、死蝋玄室の扉がノックされる。
「入りなんし」
「失礼致します、シャルティア様。すぐに化粧道具を持ってくるようにとのご命令を受け──……えっ?ぶくぶく茶釜様……?……夢でしょうか?」
部屋の入口で、何も知らず命令を受けていたナーベラル・ガンマが腰を抜かしてへたりこんだ。
ぶくぶく茶釜様が近くナザリックに戻られることは周知の事実ではあったものの、階層守護者の情報網から一段下ったところにいるプレアデスのナーベラルは、それが今だとは知らなかったのだろう。
きっちりと事情を告げてから命令を下すべきだったと後悔しながらも、私はナーベラルの手を掴んで立たせる。
「見れば分かると思いんすが夢ではありんせん。……おぬしの化粧品をちょいと貸しんす。わらわのものではぶくぶく茶釜様のお肌に合いんせん」
ぶくぶく茶釜様の方を見つつも目の焦点が合わないナーベラルからポーチをひったくるようにして受け取り、中を確認する。
(……これはまた、使い物にならなそうでありんすねぇ)
軽すぎるポーチの中身はなんとリップクリームと洗顔料、そして申し訳程度のアイシャドウのみ。
ナーベラルの顔を見上げて、そういえばそうだろうなと私は納得した。
ドッペルゲンガーであるナーベラル・ガンマはこの端正な顔の他に、本来の卵のような顔を持っている。言わば今の状態は変身した状態なのだ。変身するたびに直さなければならないという宿命か、化粧はそこまで必要としないのかもしれない。もしくはバッチリとメイクをした状態で変身を終えるのだろうか。
その辺りはナーベラルをお創りになられた二式炎雷様のみぞ知ると言ったところだ。
「……ぶくぶく茶釜様、とりあえずこれでお顔を洗われてはいかがでありんしょうか」
「あー、ダメだった感じだね?」
「申し訳ありんせん、私の当てが外れんした。あと頼れるのはアルベドでありんすが……、あれはどこで油を売っているのでありんしょうか……?」
ナーベラルの洗顔料を手にしたぶくぶく茶釜様を洗面所へご案内し、未だ意識を遠くの方にやっているナーベラルを適当に座らせて、私はアルベドに《伝言/メッセージ》を繋ぐ。
ワンコールで繋がったのは幸いだった。
『アルベド、ぶくぶく茶釜様がお待ちしていんすよ』
『今すぐ行くわ。喋ってる暇はないから切るわよ!』
『ちょっ……』
アルベドはぶっきらぼうにそう言うと、即座に通話を絶った。
全速力で飛行しているような環境音が入っていたので、確かにこちらに向かっているのだろう。
ぶくぶく茶釜様が洗顔から戻ってこられてすぐに、アルベドによって死蝋玄室の扉が勢いよく開かれた。
「ずいぶんと遅かったでありんすねぇ。どこかに寄り道をしていたのでありんすか?」
「……はぁ、はぁ……。えぇ、まぁそうね。私の持っているコスメは、人間のぶくぶく茶釜様には少しばかり刺激の強いものでしたから。『ある所』から借りてきたのよ。人間の女性に合うものをね」
息を切らせつつも意味深長な口ぶりで言うアルベドに勝ち誇ったようなものを感じて、私はアルベドをにらむ。
「……まぁ、ものがあれば構いんせん。早くぶくぶく茶釜様に渡しんす」
「ええ、もちろんそうさせてもらうわ」
アルベドは深い一呼吸で乱れた息を整え、ぶくぶく茶釜様のもとへ歩み寄る。
「お久しぶりでございます、ぶくぶく茶釜様」
「アルベド!えーっと……久しぶりだね!」
「はい。御身がお戻りになられるのを、私はずっとお待ちしておりましたとも!──さて、お時間もございませんでしょうし、改めて時間のある時にご挨拶をさせて頂くことをお許し下さい。この度はモモンガ様にお会いされるため、お色直しをなさるとのこと。私の手持ち品では些か不安がございましたので、こちらをお持ちしました」
アルベドの手から恭しく渡されたポーチを一目見たぶくぶく茶釜様の表情が、みるみる喜びに変わっていくのを私は見た。
「──これって、私とやまちゃんとあんちゃんで選んで『あの子』に贈ったやつだよね!?そうでしょ!」
「はい、仰る通りにございます。『あの子』にぶくぶく茶釜様にお貸しするので借りれないかと尋ねたところ、嬉しそうにはにかんで、気兼ねなく使ってほしいと述べておりました」
『あの子』が誰なのか、私にはわからない。
アルベドとぶくぶく茶釜様が楽しそうに話しているのを聞き流し、私は下唇を噛んだ。
(ぶくぶく茶釜様と深い親交がおありだった、やまいこ様のお創りになったユリ・アルファでありんすか……?それとも、餡ころもっちもち様のお創りになったペストーニャ……?)
絶対に違うと即座に首を横に振る。ユリの化粧品は私と同じくアンデッドだからぶくぶく茶釜様のお肌には合わないだろうし、ペストーニャは論外だ。
ならば一般メイドの誰かかと考えるが、選択肢があまりにも多い。それに、ぶくぶく茶釜様の言い口では何か、特別なシモベのために見繕われたもののように思われる。
アルベドは『人間の女性に合うもの』と言っていたが、そんなものを持っているシモベがナザリックにいるとは聞いていない。
(私の預かり知らない領域の話でありんすか……)
後でアルベドに聞いたら教えてくれるだろうか。
それともぶくぶく茶釜様に直接お尋ねする方が良いか。
ちょっとした疎外感を抱きつつ、私は一人では帰れそうにないほど足を震えさせているナーベラルに肩を貸して、死蝋玄室から出た。
──ま、待って欲しいのじゃ!
──確かに投稿するとは言ったのじゃ!けど、まだペロロンチーノ様編は投稿できる状態にないのじゃ!
──許して欲しいのじゃ……もう少しだけ待って欲しいのじゃぁ……。
〜れんぐすの代理で頭を下げる、謎ののじゃロリより〜