東方紅龍伝〜SCARLET QUEST   作:こまるん

2 / 2
私の作家経験を通しても初の戦闘。ましてやターン制の戦闘シーンからの書き起こし。
相当な難産でしたが、どうにか形にできたかなと思います。
お楽しみいただければ幸いです。


れいむ レベル7 宵闇の少女

 

 

 

 

 

 

 神社を出て、人気のない草原を歩き始めていた彼女たちだったが、不意に霊夢が足を止める。

 

「気持ち良いわね」

 

 何気ないその一言に、魔理沙もまた足を止めた。

 

「これまた唐突だな。」

 

「夜の境内裏は、ロマンチックだと思わない?」

 

 そう言って楽しげに笑う霊夢に、魔理沙は腕を組み首をかしげる。

 

「そうかー?

 私は、夜は嫌いだけどな。 へんなやつしかいないし」

 

『へんなやつって、だれのことよ』

 

 2人しかいないはずの草原に、新しい声が響き渡る。

 反射的に前を向いた二人の前に、ふわりと少女が舞い降りてきた。

 金色の髪に、赤いリボンを巻きつけた少女は、何故か両手を広げた体勢のまま浮遊する。

 

「だれもあんたのことって言ってないぜ」

 

「へー そーなのかー」

 

 呆れたような様子の魔理沙に対し、謎の少女は十字姿勢を維持したまま器用に体を傾ける。

 

「って、あんた誰?」

 

 掴みどころのない少女への困惑から再起動した霊夢の問いに、少女はふよふよと浮かんだまま答える。

 

「わたしはルーミアよ。気持ちの良い夜だから散歩してたの」

 

「とおりすがりにあいさつってわけか?

 随分礼儀の良い妖怪だな」

 

 感心したようにうなずく魔理沙だったが、ルーミアは指を口に添えると、首を傾げる。

 

「んー……。それも確かにそうだけど。」

 

 そこで言葉を切った彼女は、そこで目を伏せ、手を自らの腹部へ添えた。

 

「それよりもわたし、おなかがすいているのよね」

 

「・・・・・・だからなに?邪魔なんですけど」

 

 進路を妨害するように現れたかと思えば、唐突なお腹すいたアピール。

 気分を害したのか、霊夢の声が険を帯び始める。

 

 短気な親友の事だ。このままだとルーミアとやらが危ないのではないか。

 そう危惧した魔理沙がとりなそうとした瞬間、目の前の少女が目を見開き、空気が一変する。

 

 一瞬で重くなった空気に霊夢たちが身構えたところで、少女が口を開いた。

 

 

 

「目の前にいるのって、食べられる人類?」

 

 

 

 大人しげな表情から一転、獰猛な笑みを浮かべたルーミアが霊夢に襲い掛かる。

 

「チッ。所詮は妖怪ってわけね」

 

 こともなげに避けた霊夢は、少し距離を取ると、油断なくルーミアを見据え、言い捨てた。

 反撃をせんと、魔理沙が箒で殴り掛かる。

 

――ガシッ

 

 しかし、ルーミアはその攻撃を難なく掴み取ると、空いている手に魔力を込める。

 

「魔理沙ッ!箒を!」

 

 いち早く危機を察した霊夢の警告に、反射的に箒から手を離し、距離を取ろうとするが――

 

「遅い!」

「うがッ!?」

 

 右手から放たれた闇の魔力が魔理沙を襲い、その身体を大きく吹き飛ばす。

 追撃をしようとするルーミアだったが、突如飛来したお札に、その動きを止められる。

 

「させないッ!」

 

 お札を連続的に投げつけることで動きをけん制しつつ、霊夢は二人の間に体を割り込ませた。

 追撃を諦めたルーミアは、その場で獰猛な笑みを浮かべる。

 

「すまない、助かったぜ」

 

 稼がれた貴重な時間の間に回復効果のあるキノコを食べ、いくらか元気を取り戻した魔理沙が、霊夢に並び立つ。

 軽く手を振ることでそれに答え、霊夢はルーミアを睨み付けた。

 

「守りを崩せ……『ルカニ』」

 

 魔理沙が放った魔法の光がルーミアを包み、ルーミアの防御力を下げる。

 しかし、彼女はなんでもないとばかりに笑みを深め、両手を二人へ向けた。

 

「闇への誘い……『ラリホー』」

 

 ルーミアの両手から紫色の霧が吹きだし、二人へ襲い掛かる。

 魔理沙は咄嗟に回避したものの、霊夢は避け損ね、怪しい霧を被ってしまった。

 

「霊夢ッ!?」

 

 そのままその場に崩れ落ちる霊夢を咄嗟に抱きかかえ、呼びかける。

 しかし、深い眠りに陥ってしまった彼女。簡単に起きることはできない。

 魔理沙は、霊夢をそっと後ろへ横たえると、箒を握りしめてルーミアを見据えた。

 

「……仕方ない。私が時間を稼ぐぜ」

 

「貴女一人でどこまで戦えるのかなッ!」

 

 ニヤリと笑ったルーミアが魔理沙へ躍りかかる。

 魔理沙は、咄嗟に魔力を溜め、飛びかかってくる少女へ放った。

 

「燃えろッ!『メラ』」

 

「チッ!」

 

 放たれた火球はルーミアに直撃し、その動きを止めることに成功する。

 だが、それも一瞬の事。すぐさま飛びかかってくるルーミア。

 

「くっ!」

 

 うめき声を上げながらも、二度、三度と殴打を箒で凌ぐ魔理沙。

 このまま時間をかけては分が悪いと判断したのか、ルーミアはくるりと反転すると、小さく距離を取る。

 

「ふふふ……これならどうかしらっ!?」

 

 そう言うと、ルーミアは自らの懐から一枚のカードを取り出した。

 彼女はカードを魔理沙へ向けると、獰猛に笑う。

 

「貫けッ!『月符 ムーンライトレイ』」

 

「があっ!?」

 

 放たれた光線は魔理沙の大腿を貫き、痛みに膝を突く。

 

「魔理沙ッ!!」

 

「霊夢!起きたんだな!」

 

 駆け付けた霊夢に、魔理沙は心配ないとばかりに笑うと、懐からどこか猛々しいキノコを取り出した。

 

「ええ。悪かったわね。……それは?」

 

「『げんこつダケ』だ。味は悪いが、力がみなぎってくるぜ」

 

 訝しみながらも受けとり、口に含んだ霊夢は、体に力が沸き起こってくることに目を見張る。

 そして、ニヤリと笑った霊夢は渾身の力を込めてお札を飛ばした。

 

「今までのお返しよっ!『妖怪バスター』!!」

 

 ありったけの霊力が込められたその霊撃は、確かにルーミアの身体を切り裂き、大きくよろめかせる。

 反撃とばかりに飛ばされた闇の魔力( ドルマ)は、大幣の一振りで四散した。

 さらに大きなダメージを与えるため、魔理沙は軽く距離を取りつつ『ルカニ』を放つ。

 

「くっ、やられっぱなしだとは思わない事ね!『ナイトバード』ッ!」

 

 ルーミアが新たにカードを掲げると、三匹の黒鳥が具現化し、二人に襲い掛かった。

 受け損なった魔理沙が大きなダメージを追う。

 

「癒しの光……『ホイミ』ッ!」

 

 すかさず霊夢から聖なる光が放たれ、魔理沙の傷を癒す。

 礼を言う魔理沙に対し、霊夢は小さく笑った。

 

「魔理沙、”アレ”は?」

 

 油断なくルーミアを見据えながらの霊夢の問いに、魔理沙は首を振る。

 

「わりぃ。まだだ。もうちょいなんだが……」

 

「仕方ないわね。このまま決着をつけるわよっ!」

 

 そう言って霊夢はまたお札を飛ばす。ルーミアも直撃こそ避けるものの、魔よけの力が込められたその札は、着実にルーミアの体力を削っていく。

 勿論、ただでやられているわけではなく、闇の魔力を駆使して彼女も反撃はするのだが、霊夢の癒しの光によって回復され、状況はどんどん二人に傾いて行った。

 

「消耗が激しいからあまり使いたくはなかったのだけど……背に腹は代えられないわっ!」

 

 既に全身傷だらけのルーミアは、そう言うと大きく距離を取り、懐からカードを取り出した。

 これまでのものとは比較にならない込められた魔力に、顔色を変えた霊夢が咄嗟に札を飛ばす。

 

「闇に飲まれなさいっ!『闇符 ディマケーション』ッ!!」

 

 霊夢の対応は間に合わず、ルーミアの全身から濃い闇が吹き出し、周囲一帯を覆う。

 瞬く間に、周囲一帯が真っ暗闇となり、先程までルーミアがいたところは漆黒の霧に覆われている。

 霊夢は舌打ちをして札を飛ばすものの、札は闇に飲まれてひしゃげてしまった。

 続けざまに魔理沙が放った火球も、濃い闇の前にかき消されてしまう。

 

「チッ 攻撃が通じない……?

 魔理沙、八卦路の充足率はっ!?」

 

「九〇%。あと少しだ!」

 

「オーケー。その一発に賭けるわよ!」

 

 魔理沙の持つミニ八卦路は、使用者の放つ魔法の力を大幅に増幅する力がある。

 ただし、一度使用するだけで大きな負荷がかかるほか、そもそも八卦路は少しずつ魔力を充足させていかないと起動しない。

 八卦路に魔力がたまりきった時、魔理沙の魔法は正真正銘、一発限りの必殺技となる。

 霊夢は、この暗黒を打ち破るにあたって、その一発に賭けることにしたのだ。

 親友の魔法に、八卦路の増幅が加われば、この闇は打ち破れる。霊夢はそう確信していた。

 

 そうなると、あとは少しでも粘ることが重要となるのだが……

 

「なっ、消えたっ!?」

 

 突如、二人の目の前に浮遊していた漆黒が霧散する。

 刹那、霊夢は目前で闇を纏った拳を握っている少女の姿を捉えた。

 

――ベキッ

 

 鈍い音がし、真っ二つに折れた大幣の片割れが地面に転がる。

 折った張本人である少女は、くるりと身をひるがえすと、軽く距離を取って笑う。

 

「……へえ。良く防いだわね」

 

 返答代わりに投じられた札は、またも少女を覆った闇に飲まれてしまう。

 しかし、霊夢に焦りはなかった。”そろそろ”だとわかっていたからだ。

 

「よしっ!チャージ完了だ!」

 

 親友の力強い声に、霊夢は笑う。

 あとはひきつけてデカイのをぶち込んでやれば終わりだ。

 

 そうこうしているうちに、またルーミアの姿が掻き消える。

 折れたとはいえ、霊力の籠った愛用品だ。動きを捉える事さえできればもう一度は必ず防げる。

 見落としてしまわないように目を凝らして……

 

「霊夢ッ!後ろッ!!」

 

 ―-しまったッ!?

 

 親友の切羽詰まった声に反射的に振りむこうとして――

 

「がッ!?」

 

 背部に凄まじい衝撃を受け、霊夢はその場に倒れ伏す。

 紛れもなく、致命打( かいしんのいちげき) 。一瞬のうちに意識が刈り取られた。

 

 しかし、背後から見事な奇襲を成し遂げたとはいえ、今のルーミアは拳を振りぬいた姿勢でとどまっている。

 つまり、格好の反撃のチャンスでもあった。

 当然、親友のリタイアのショックでその機をみすみす逃してしまうほど愚かではない。

 魔理沙はルーミアにむけ八卦路を構え、魔力を急速に高める。

 

「弾幕は……パワーだぜッ!!」

 

 お決まりの言葉と共に放たれたのは、先程までとは比にならない特大火球。

 今の魔理沙に余裕があり、かのセリフを知っていたのならば、こう言っていたかもしれない。

 

 『今のはメラゾーマではない……メラだ。』 と。

 

 とっさに闇を濃くしたルーミアだったが、そのあまりの火力に漆黒は四散。

 闇の結界を貫通した炎がルーミアの身体を包み込んだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 激戦を終えて暫くして。

 三人は落ち着き、話をしていた。

 死闘を繰り広げた後でも、決着が付けば後腐れなく平和に話をする。

 ここ幻想郷の特徴である。

 

 霊夢たちの事情を聴いたルーミアは、少し考え込むような仕草を見せた後、口を開く。

 

「……いいわ。わたしについてきて。

 きのう散歩をしていたとき、霧がとくにあふれている場所を見つけたの。」

 

 

 宵闇の少女を案内人とし、一行は次なる場所へと向かう。

 はたして、空を包む霧の原因とはいったい何なのであろうか。

 少女たちの冒険は始まったばかりである――

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。