Eleventh Judge
「閻魔様!次はこの資料にサインをお願いします!」
「ちょっと待て、さっきの十倍はないか!?ていうか今ひと段落ついたトコなんですが...」
「いいじゃないですか、どうせ休みなんてないんですから」
「...鬼だな」
「鬼ですが何か?」
「そうだったな、こん畜生!」
※
瓶山 一の裁判が終わってから一週間と三日が経過した昼下がり
本日も第5代目閻魔大王、ヤマシロは休むことなくせっせと働く
前回の裁判で閻魔大王として自信をつけたヤマシロであったが仕事の効率が上がったわけではない
確かに今まで以上に頑張ろうという意欲は湧いたものの、いざ行動に移すとなるとこれがまた難しく、現在大量の書類と格闘しているところである
「天国、天国、地獄、地獄、天国、地獄、地獄、地獄、天国、天国...」
「閻魔様、失礼しや〜っす!」
「せめて、ノックをしろ!」
ノックも無しに上司の部屋に入ってきたのは、紅 亜逗子
つい先日謹慎が解け、今では元気に仕事に励んでいる
そういえば...
「亜逗子、最近こっちに来ること多くないか?」
そう、謹慎が解けてからというもの亜逗子は何らかの理由を付けてヤマシロの部屋に来る回数が増えたのである
まぁ、そのお蔭で何もしてなくてもお茶が飲めるのだが...
「そんなことないって、じゃあ、頑張れよ!」
「お、おい亜逗子!」
そして何故か最近あまり顔を合わせようとしない
よくわからないが避けられてる感じがする
「..............やっぱり嫌われたのかな?」
一週間程前、不本意ながら彼女を泣かしてしまったことを思い出す
長い付き合いだが、彼女が泣いている姿は見たことがなかった
ヤマシロは天国に行った瓶山の事を考える
無事に娘の夏紀に会えただろうか?
あれから忙しさが増したため、天国に行く機会は減ってしまったが治安はそこまで悪くないので大丈夫だと言い聞かせる
.....金髪に染めた戦国武将や自身を慕う大泥棒を除いたらだが
「閻魔様!次はこちらの書類に...」
「まだあんのかい!」
......閻魔大王に休みはない
※
地獄...
閻魔大王によって雇われた鬼達の巨大な共同住まい、麒麟亭があり、生前に悪事を働いた魂が集う場所...
そこでは噴火は日常茶飯事、雷は雨のように降り注ぎ、血の泉は6000度
そんな佳境で、
「.....なぁ、麻稚帰っていいか?」
「なりません」
ヤマシロは麻稚によって連れてこられていた
何やら本日、亜逗子の謹慎解除記念パーティーを麒麟亭にて行うらしいが何故かヤマシロがゲストとして呼び出されたわけである
「まだやらなきゃいけない雑務が...」
「終わり羽を伸ばしていたのはどこのどちら様ですか?」
「........私めでございます」
部下に首根っこを掴まれDOGEZAを強要される上司
そんなシュールな光景を作り出した二人は、
「では、行きますよ」
「ねぇ、もう決定事項なの!?これはもう参加するしか選択肢はないの!?」
「何を当たり前のことを、もうすぐゲスト登場の時間ですよ」
「あぁ、もう始まっちゃってたわけね、絶対に行かないといけないシチュエーションが完成しちゃってた訳ね!!」
麻稚が下克上でもするような勢いでヤマシロを追い詰める
....というよりも彼女なら本気でやってのけてしまいそうでリアルに怖い
ヤマシロは渋々、麻稚に引きずられる(物理的に)形で麒麟亭へと向かった
※
一方、麒麟亭内では
「いや〜本当悪いね、ここまでしてもらって」
「何言ってんですか姐さん!あんな立派に発言なさって!」
「いや、でもあれはあたいが勝手に...」
「そ・れ・で・も、あの時の姿は立派でしたね、いや本当に!」
「あはは、んな褒めるなって」
「とりあえず飲んで騒げー!姐さんの為に!」と何やら仕切っている鬼のテンションに亜逗子は苦笑いする
.....何というか、いつもの亜逗子ならノリノリだったであろうが今はそんな気になれなかった
胸の内のモヤモヤが気持ち悪くてとても騒げる気分ではない
(あたい、どうしちゃったんだろうな...)
そんな亜逗子の悩みに誰も気づくことはなく、騒ぎ出す
「大丈夫ですよ姐さん」
先ほどの鬼が肩に手を回し、亜逗子の杯に酒を注ぐ
「あんたは一人じゃないんだ、麻稚の姐さんに俺たちがいるんだ、一人で抱え込まずにたまには相談してくれよな」
その言葉はまさに、先日の裁判の前に亜逗子自身がヤマシロに告げた言葉であった
亜逗子自身は無意識だが、鬼達のリーダーになってからあまり人に頼ることがなくなった
リーダーになり、プレッシャーを感じていたのかもしれない
誰かの上に立つということがきちんと理解できていなかったのかもしれない
あの時のヤマシロもこんな気持ちだったのだろうか、そう思うとあれだけ多くの者の上に立ちながらあれだけの仕事をやり遂げてしまう彼は本当に凄いと思う
もしかしたら、心の何処かで亜逗子はヤマシロに憧れていたのかもしれない
亜逗子はヤマシロが幼い頃から知っているためあまりそのような考えを抱く感覚はよくわからない
「姐さん?どうしました?」
「いや、何でもない」
亜逗子は静かに酒を口に運んだ
「それでは皆さんお待ちかねの特別ゲストの登場です!」
特別ゲスト?と亜逗子は首を傾げる
それはそうであろう、彼女は特別ゲストにヤマシロが来ることはおろか、特別ゲストを呼んでいることすら聞いていないのだから
「では、どうぞー!」
ノリのいい司会をしている鬼がそう言うと何処からかリズミカルな音とよくあるドライアイスの煙がステージ中心に発生し、スポットライトも全てステージに向けられる
そして、そのスモッグが晴れた場所には.....
「いえーい」
パンクファッションでエレキギターを持った、蒼 麻稚が立っていた
「ま、麻稚姐さん!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
これは予想外であった
本来のゲストを知る鬼達は勢い良く酒を吹いたり、目を丸くし反応できないものもいる
亜逗子なんて色んな意味で予想外のようだったようでガタタタン!と勢い良くその場から立ち上がるほど驚いている
「じゃらーん」
「ギターの音を声に出してるぞ!」
「あのギターは飾りか!?」
どよめきが更に広がる
麻稚はそんなこと気にしない様子で進める
「私の魂聞いて帰ってくれるかい?」
....棒読みでとても反応し辛かった
「私の魂聞いて帰ってくれるかい?」
しかし、二度目は大丈夫!
鬼達は苦笑いをしつつも、ノリのいい司会の鬼を筆頭に「オォォォォォォォォォォォォォォ!」と叫ぶ
「ありがとう、それじゃあ一曲行ってみよう!」
...だから何故棒読み、という突っ込みはもうしない、してはいけないという暗黙のルールが五分も経たない内に完成した
そもそも、どうしてこうなったかは数分前に遡る
『閻魔様、そこまで嫌なのでしたら私がします』
『え、いや、そこまで嫌なんて...』
『私がします』
『..........』
そして現在に至る
半ば強引な形となったが盛り上がってる(?)ため良しとする
ちなみにヤマシロは、本当に残っていた仕事を片付けるためにさっさと帰ってしまった
亜逗子は亜逗子で同僚の予想外すぎる登場に唖然とするしかなかった
ちなみに、麻稚の歌は宴会の時、一人の鬼が録画と録音をしていてCDとDVDが同時発売されて大儲けしたとかいうのは別の話...
キャラクター紹介
ヤマシロ
種族:閻魔
年齢:180歳(人間でいう18歳)
趣味:骨董品収集
イメージボイス:櫻井トオル
詳細:歴代最年少の閻魔大王として5代目に就任する
一時期、現世のライトノベルにはまっており中二病気味だった黒歴史がある
ちなみに今でも亜逗子にそのことで弄ばれる
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