閻魔大王だって休みたい   作:Cr.M=かにかま

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連続投稿です(^^)


Ninetiefourth Judge

 

埼玉県郊外に位置する本部に辿り着いたヤマシロとゼストを待っていたのは大きな廃墟の鍵付きの扉だった

鍵の破壊は簡単だった、ゼストが凍結の脳波で扉ごと氷結させて破壊しやすくなった所で強引に扉ごと力押しで破壊して侵入したのだ

 

「間違いなさそうだな兄弟、この建物の中から凄まじい力を感じる」

 

「さっさと終わらせるか、正直嫌な感じがさっきからするからな。何だかよからぬことが起こりそうな雲行きの怪しさだ」

 

ヤマシロとゼストは頷いて建物に侵入する、ここに来る途中ヤマシロはゼストから自分が美原千代を殺したと聞かされた

どうやら五年前ヤマシロの父であるゴクヤマに呼び出されて美原千代の殺害を依頼されたらしい、最初は激しく抵抗したが最終的に実力行使でゴクヤマが勝利し嫌々ながら仕事を受理したようだ

姉の生まれ変わりかもしれない人物を殺すことにゼストは強い反感と異様なまでの葛藤があった、死神としての種族を優先するのか自分自身の意思に従うのか

結果、ゼストは美原千代の部屋に侵入し殺すことに決めた

しかし直ぐには殺さずに美原千代と一度話をした、すると遺書だけを書かせてほしいと言ってきたのでゼストは頷き遺書を書いている間ゼストは涙を流した

遺書を書き終わった瞬間を見計らいゼストは脳波で属性変換を行い美原千代の心臓を凍結させた

ゼストはそのままその場を立ち去り一人雨の降る街中で泣き続けた

 

ヤマシロとゼストはロビーに入ると早速異様なまでの雰囲気に飲み込まれそうになった

人が住んでいるとは思えないほどの廃れ具合に絨毯はボロボロで床には穴があき、壁には植物が伝っており窓ガラスはバラバラに割れており役割を果たしていなかった

天井は無数の穴があき屋根も半壊状態で何の躊躇も無く太陽の光が入ってくるほどだった

 

「こんなところで、本当に死者蘇生が行われようとしているのか?」

 

ヤマシロが足を進めていると足に何か当たったようだった、太陽の光が入ってきているとは言え建物の中に電気は通っていないため基本的には真っ暗であった

ヤマシロは足に当たったモノを見ようと下を見てみるとそこには一人の人がいた、縄で全身を縛られており口には布を噛ませられており全身の自由を奪っていた

よく見てみると、周りにも似たような人間が数人地面に這いつくばっていた

 

「ンー、ンー!」

 

「こ、これは?」

 

「彼らは生贄だよ、今宵の儀式のための必要な生贄だよ」

 

カツ、カツと足音が響き渡る、年の頃は二十代後半の若い男でサングラスを装着しているため表情はわかりにくい

冬用にアレンジされた白いコートの中に白と黒のシャツを着こなしており赤いネクタイが目立っていた

黒い髪の中に僅かに混じった白髪も光の反射により存在感を引き立てており科学者か研究者という言葉が似合う容姿をした男が二階から階段で降りてきた

 

「彼らは大切な生贄なんだよ、勿論君たちもすぐにその仲間入りだ」

 

「.....あんたが教祖って奴か?」

 

ゼストが尋ねると男は笑みを浮かべながら首を鳴らす

 

「いかにも。私こそがこの死者を蘇生させるという巨大プロジェクトの企画者であり最高権力者の須川雨竜だ、よろしく」

 

男、須川雨竜は静かに名乗る

ヤマシロは須川という姓に反応するがあまりにも一瞬の驚きだったためゼストも雨竜も気がつくことはなかった

雨竜はポケットに入れた両手を出して静かに動かす、その動作一つ一つがヤマシロとゼストには不気味に感じられた

 

「君たちは一体どうやってここまで来たのか、君たちは一体誰なのか、この際私にとってはどうだっていいんだ。彼女さえ蘇ればそれで済むのだからね」

 

「美原、千代のことだな」

 

「ほぅ、知っていたのかい。それはそれは驚きだね。滅多なことがない限り他人に話したりはしないんだけどね」

 

雨竜はおどけるようにして応答する

そしてヤマシロとゼストのことを興味深そうな奇異な目で眺める

やがてゼストは冷や汗を流しながら意を決したように言葉を紡ぐ

 

「俺が、美原千代を殺したからな」

 

瞬間、空気が張り詰めたモノに急変し雨竜の表情からも笑みが消える

少し強い風が吹いたようで役割を果たしそうにない廃れた窓がガタガタと音を立てる

雨竜の表情が先ほどと比べものにならないほど険しい顔つきに変貌している

 

「どういう意味だ、あの時千代は原因不明の死だという警察の判断で終わったんだ。医科学的にも不自然すぎる死だから犯人特定どころか犯人がいるかすらわからなかった。それがお前だと言うのか?」

 

「.....真実だ、俺は彼女の暗殺を依頼された。だから証拠云々を残すわけにはいかなかった、彼女を殺したのは俺だ」

 

「ゼスト...」

 

ゼストは表情にすら出さないが声には辛さと罪悪感が芽生えているのを感じ取れた

死神は昔から暗殺術や人を殺すことの快楽感を教わってくることが多かった、ゼストもその一人だ

だからこそ命の尊さや大切さを学ぶ機会は自然と失われてしまい本来持つべきだった優しさという感情を持つことも少ない

 

しかし、ゼストは命の尊さを感じていた

今この場にいるゼストは決して死神なんて枠組みに収まる快楽殺人を楽しむ殺人鬼ではなかった

 

一人の優しい心を持った青年だった

 

ゼストの言い分を黙って聞く雨竜は訳がわからないと言った表情を浮かべていた

突如としてわかった犯人を目の前に冷静さを欠いているようにも見えた

雨竜は突如フッと笑みを浮かべる

 

「そうか、どうやったかは知らないがお前が殺したか。まぁいい、今更犯人がわかったところでだ。もうじき儀式は完成する、千代はもうすぐ私の元へ帰ってくる!」

 

『なっ...』

 

「今日は皆既日食だ、それも後数分で現象は起こる。太陽と月の光が重なり合い多くの生贄と死者を想う強い力が千代をこの世に呼び戻すのだ!」

 

雨竜は狂ったように笑い出す、そういえば今日は皆既日食が起こるとニュースでも騒いでたとヤマシロはハッと思い出す

本来何らかの儀式や呪術は自然の力に頼ることが多い、その中でも最も強い力とされるのが太陽と月である

現世の古代文明には王や神を象徴するのに太陽や月を用いられる時が古今東西と凡庸性は高い

その二つの力を同時に使うのが皆既日食である、しかし皆既日食は日が決まっているため出来る時は限られてはいるがだからこそ強力な力を発揮する

そう、死者蘇生の術である黄泉帰りの法は大量の生贄と死者を想う感情と強力な脳波と対象の死体と正確な魔法陣、そして皆既日食のエネルギーを使うことで初めて完成する術だったのだ

 

「クソ...!」

 

ゼストが儀式を止めようとこの屋敷の中で最も強い力が集まっている部屋を目指す、二階正面の厳重に何重にもロックを掛けられている扉に走り出す

魔法陣が正確でなければならないならば少し魔法陣に何かを加えるだけで魔法陣は機能しなくなる、ゼストはそのことを知っているからこそ止めに向かった

しかし、バンッ!と響く銃声と漂う硝煙の香りによりゼストの行動は阻止された

 

「うぎ...」

 

「ゼスト!」

 

「掠っただけだ、兄弟は急いで扉破壊して魔法陣を少しでも変えて妨害して阻止するんだ!」

 

ゼストは倒れるのを堪えて二本足で必死に全身を支えるがやはり掠っただけとは言え血は流れていた

ヤマシロはゼストの覚悟を無駄にはせぬと雨竜の銃に警戒しながら扉を目指す

 

(いける、あいつにはトリガーを引く時のタイムラグがある!それにもし撃ってきたとしてもさっきと違って警戒ができる、儀式を止められる!)

 

ヤマシロは扉の前にまで到達すると扉を開こうとドアノブを掴んだ瞬間だった、厳重にロックされた扉が内側からのとてつもない衝撃により破壊され吹き飛ばされる

ヤマシロは吹き飛ばされる寸前に横にステップして回避することに成功した為無傷である

 

「キターーーーーーーーーー!」

 

儀式が始まった、紫の光が天に伸びて部屋の擬似炎が紫色に変色する

ボロボロだった建物の屋根は完全に吹き飛び空が露わになる

 

「あれは...!?」

 

「いや、まさか!?」

 

空を見上げるとヤマシロとゼストの表情は驚愕に染まる

皆既日食により太陽は月に隠れて後方から僅かな太陽の光が漏れてるのは見える、問題はその更に背後だった

太陽が隠れたことで真っ暗になるはずの空が何故か紫色に染まりその空の狭間から来世の光景が目に映りこちらにゆっくりと迫ってきていた

 

「あれは、来世?」

 

ヤマシロはポツリと呟いた

 

 

 

数千年前、人類がやっとのことで二本足で歩き始め文明というモノがゆっくりと栄え始めた頃には既に差別や階級制度というモノが無意識的に完成していた

 

そしてある時、ある人物が死者を蘇生する術を編み出した

 

王は歓喜に震え病死してしまった自分の妻を生き返らせるように命じた

 

そして皆既日食の日、呪いとも言われるこの日に儀式は行われ世界は一度終焉を迎えた

 

 

 

三途の川でヤマシロとゼストが見た現世の光景と同じ現象が二人の目の前に今度は現世で発生した

 

正確には黄泉帰りの法が皆既日食による膨大な力を吸収し過ぎて対象の魂だけで無く魂のある世界そのものを引き寄せてしまうという暴走状態に陥っていた

 

「な、なんだアレは。一体何が起こっているんだ」

 

雨竜も酷く狼狽え混乱している、本来であれば美原千代が蘇生され歓喜に震える場面なのだが美原千代の死体にも何の変化もないことから蘇生はまだ完了していないことになる

 

「ゼスト、こいつは一体どういうことなんだ!?」

 

「詳しい説明は後だ、アレを放っておくと世界が滅びちまう!」

 

ゼストは脳波で細胞の再生速度を無理矢理加速させて傷口を塞ぐ

簡単に言えば黄泉帰りの法によって蘇生されるはずの魂を引き寄せる力が世界に作用してしまっているのでこの状態が後数分続けば現世と来世の二つの世界が激突してしまい両方の世界が消滅してしまう結末となってしまう

そうなってしまえば二つの世界のバランスも輪廻転生の輪のバランスも全てゼロに還ってしまい一体何が起こるか予想すらつかない

 

「急ぐぞ兄弟。あの魔法陣さえ乱せば止められるかもしれない!」

 

「よし、具体的にはどうすればいい?」

 

「特にこれと言っては特別なことはしなくていいよ、部屋の床を砕いたり魔法陣を薄くして消したりしたりで黄泉帰りの法はダメになるらしい、結構デリケートな術だからな」

 

ヤマシロとゼストは再び魔法陣のある部屋に向かおうと走り出すが、雨竜が再び発砲する

 

「させるか、私の長年の研究を長年の苦労を、長年の想いを貴様ら如きに無駄にはさせはしない!」

 

「あいつ...」

 

「相当な根性だなッ!」

 

ゼストは二階から雨竜に向かって飛び出す、そしてそのまま拳を握りしめて雨竜に殴りかかる

 

「だけどな、死んだ人間は戻って来ないんだ!永遠に、絶対に何があろうともそのルールは変えちゃならねぇんだよ!」

 

「うるさい!貴様が千代を殺したくせに、今更何を言い出すかと思えば!だったら最初から殺すなよ、彼女を生かしてやってくれよ、私が、千代が一体何をしたと言うんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

雨竜はゼストの懐に拳銃を突きつけてそのまま発砲する、銃弾はゼストの体を貫き背中から血が飛び散る

それでもゼストは倒れない、ゼストは拳銃を握りしめて粉々に砕く

 

「たしかに、俺は美原千代を殺した、それが許され、ることなんて思ってはいない。だけどなァ、それでも一人の人間の為に何十何百っていう人を犠牲にして言い訳じゃねぇだろ!自分の私利私欲の為に、多くの人を犠牲にしてまで一人の人間をこっちに連れ戻していい道理はねぇんだよ、現実を受け入れろコノヤロウがァ!」

 

ゼストは渾身の頭突きを雨竜の頭に打ちつける

たしかにゼストは何百何千何万という人間を快楽や仕事の為に殺してきた殺人鬼、彼に生命の神秘や命の尊さを語るなど世界の誰もが許さないだろう

だがそれでもゼストは叫んだ

過去の自分の罪に精算するように十字架を態々背負うようなマネをしてまでもゼストは現世と来世の理を崩さぬ為にルールを破ろうとしている一人の男を裁く

 

雨竜はそのまま気絶する、ゼストは再び脳波で拳銃で浴びた傷を回復する

 

「兄弟、さっさと魔法陣を壊しちまおう」

 

「そうだな、早く帰ろう」

 

ヤマシロとゼストは魔法陣のある部屋の床を粉々に粉砕する

その際、美原千代の遺体の入った棺桶はヤマシロが回収していた

ゼストの思惑通り儀式は止まり、空に映っていた来世の光景も霧のように消え去る

そして皆既日食が終わり夕暮れの空が世界を照らした

 

ヤマシロとゼストは屋敷を出て近くの森に移動し美原千代の遺体を再び埋葬する

本当は彼女が眠っていた本来の場所に戻したかったのだが場所もわからないためどうしようもなかった

その際、近くに咲いていた彼岸花も備えておいた

ヤマシロとゼストが立ち上がると後ろから足音が近づいてくる

雨竜だった

 

「聞かせてくれ、君たちは一体何者なんだ?」

 

それは当然の疑問だったのかもしれない

美原千代のことを知り更には黄泉帰りの法についても知っていた

もっと言えば美原千代を殺害した本人が目の前にいることが一番の疑問だった

何故今になって姿を現したのか、それまでは一体どこにいたのか、雨竜には疑問しか残っておらずもう美原千代を蘇生させようなんて気は失せているようにも見えた

雨竜の疑問にヤマシロは簡単に応えた

 

「自称閻魔大王と同じく自称死神の幼馴染だよ」

 

一陣の風が吹き事件の終わりを告げた

しかしこれが本当に終わりなのかは誰もわからない

雨竜はどこか納得した様子で笑みを浮かべた

 

「死神、か。どうやら千代を殺したのはたしかに君みたいだね」

 

雨竜は何がおかしいのかクスクスと笑続けた

それが自分を嘲笑うような自嘲気味な笑いにも聞こえた

 

夕暮れの空は静かに終わりを告げて太陽は沈み空には再び闇が訪れ始めた

 

 




次回最終回...!

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