再び夜は廻る   作:kurohane

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 初シリーズ、かつ初投稿となります。

 時系列がクリア後、かつ一部クリア後サブイベント後のお話なので、早々に原作ネタバレのオンパレードです。
 あらすじの方でも記載しましたが、原作ストーリークリア後+サブイベント全消化後に読むことを強くお勧めします。

 このシリーズにおいては、原作ストーリー部分は、『一夜の物語』とさせて頂いています。
 (あの捜索願は……?と思われた方、ちゃんと辻褄は合わせていますが説明があるのは当分先です、ご了承ください)


後々、オリジナルキャラを主観に置く部分があるので「オリ主」タグを設定していますが、暫くはハル視点が主となります。


一日目
一日目(1)『ある噂と、出会い』


それは、私──ハルが、ユイとお別れした後の話。

 

 

 『あの夜』の後も、私は夜になるとお外を出歩くようになっていた。

 

 夜の街は『あの夜』と変わらず、お化けが一杯で、驚いたり、危ない目に遭うこともたくさんあるけれど……それでも、夜になって、お父さんもお母さんも、おばあちゃんもお家を留守にして、チャコと一緒にお部屋でお留守番をしていると……どうしてもユイのことや、無くなった私の左腕のことや、『あの夜』に出会ったお化け達のことが頭から離れなくなってしまう。

 そんな時には決まって、部屋の隅をお化けみたいな影が通ったり、廊下で何かが割れる音がしたり、急に停電でお家の電気が消えてしまったりする。そうなると、私は自分のお家なのに、チャコと一緒にいるのに、安心できなくなってしまう。

 

 このまま夜の間、お家の中にずっといると、いずれ悪いお化けがお家の中に入ってきて襲われてしまう──そんな気がして。そうなれば、私だけじゃなくて、お父さんやお母さん、おばあちゃん……そしてチャコもお化けに襲われてしまうかもしれない。だから私は夜、眠くなるまでの間だけ、お外に出るようになった。

 

 夜の街では怖い思いを一杯したけれど……少しだけ、良いこともあった。隣町で出会った女の子──こともちゃんと仲良くなったり、コトワリさまやお化け達から不思議な物を貰ったり、時々一緒にお外に出るチャコと珍しいものを見つけたり。

 私はそんな時、ユイが一緒に居たらなぁ、と寂しくなることもあるけれど……夏が終わったらお別れすることになるこの街で……ユイと一杯遊んだこの街で、最後に、たくさん思い出を作ろうと思った。

 

 

 ……だけど、『ある噂』を偶然耳にしてしまったことで、私にはどうしても確かめないといけないことが出来てしまって、その日の夜、ある場所に向かった。

 それが、ある女の子との出会いのきっかけになって……そしてまた、夜の不思議な出来事に巻き込まれていくきっかけになるとは知らずに。

 

 

 

 

「……やっと着いた」

 首から下げた、胸元の懐中電灯の光の先に、ボロボロになった神社の社が照らされるのを見て、私は独り呟いた。

 

 『その噂』を聞いた私は、その日の夜、噂が本当かどうかを確かめるために、裏山のボロボロの神社──コトワリさまの奉られた神社に来ていた。

 ユイの家の裏にあるこの山は『あの夜』、私にとって一生忘れられない出来事があった場所でもあるし、あの子が──ユイが、命を絶った場所でもある。『あの大きな手で出来たお化け』はコトワリさまから借りた赤いタチバサミでやっつけたけれど、あのお化けのこと以外でもこの山では沢山怖い思いをしたから、今でもこの山に入る時は気が抜けない。

 今日は途中で白い影のお化けに見つかりそうになったくらいで、お化けに追いかけられたり、道を通せんぼされることなくコトワリさまの神社に来ることが出来た。

 私は神社の境内に入り、本堂の正面に回ると、胸元の懐中電灯の向きを変えて辺りを照らす。前に来た時に綺麗に掃除したからゴミは落ちていないけれど、夜の境内はしんと静まり返っている。神社の境内に悪いお化けがいないのはいいことだし、落ちているゴミが増えていないのもいいことだけれど……やっぱり誰も来てないんだな……と思うと少し寂しい気持ちになる。

 私は、背負っていたうさぎのポシェットを降ろして、中にわらで出来たお人形と、コトワリさまから貰った赤いタチバサミが入っているのを確認すると、賽銭箱の前に立つ。

 私は賽銭箱に十円玉を一つ入れてお参りを済ませた後、ポシェットからタチバサミを取り出すと、賽銭箱の前に置いた。以前、コトワリさまから借りたタチバサミを返そうとした時のように。

 あの時、コトワリさまを怒らせてしまったから、また怒られちゃうかな、と思ったけれど……それでも、どうしてもコトワリさまに会って確かめないといけないことがあったから。

 

 

 

 

「──もういやだ」

 

 

 その言葉を、口にした。

 

 

 

 

 私が周囲に意識を集中させたからか、先程までは気にならなかった周囲の音が聞こえ始める。

 

 

 ザワザワと、風に吹かれて木の葉っぱが音を立てる。

 

 リンリンと、秋が近付いていることを告げる虫達が草むらで歌う。

 

 ホウホウと、姿は見えないけれどどこかの木陰から鳥の鳴き声がする。

 

 カタンコトンと、街の方から微かに電車が走る音が響く。

 

 

 静まり返っていたはずの境内に、夜の音が流れ込んできたみたいに、それぞれの音が聞こえだす。まるで、夜が音楽を楽しんでいるみたいだ──そんなことを思った。

 

 そんな時だった。

 

 

「──そこで何をしているの?」

「────っ!?」

 

 不意に横から聞こえてきた声と、そちらから私を照らす眩しい光に私は我に返ると、慌てて声のした方に振り向く。胸元の懐中電灯の光が、その光を眩しがるような仕草をする、小さな人影を照らす。

 

「わっ……!? ……女の子? どうしてこんなところに?」

 懐中電灯の光が照らす先には──会ったことのない女の子が、驚いた顔をして立っていた。

 

 

 

 

 ・

 

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 ──その出会いの前……その日の朝のこと。

 

 

 その日、私はいつもより少しだけ早く目が覚めて、チャコへの朝の挨拶もそこそこに、一階の洗面台で顔を洗おうと、階段を降りようとした──その時だった。一階の居間から、お父さんとお母さんの怒鳴り声が聞こえたのは。

 

 

「そんな話、ハルが聞いたらどうするんですかっ!!」

「しっ、それこそハルに聞こえたらどうするんだ!!」

 

 

 私は慌てて足を止める。

 ──『あの夜』の後、暫くの間は、お父さんとお母さんは私に隠れて喧嘩していることがあった。大抵は、私が話そうとしない『あの夜』のことや、私の左腕のことや、ユイのこと、引っ越しのことだ。それでもここ数日はそんなことは無かったのに……。

 

 私が階段から動けずにいると、先程とは打って変わった落ち着いた声で、お父さんが話し出す。

 

「僕も君にこんな話はしたくないんだが、警察は一度でいいからハルと会って話がしたいと言っていてね……。街の方でもハルが左腕を失ったことを知っている人達の間で、一連の事件と関係があるんじゃないかと噂になってる」

 

 ……左腕?私は反射的に、左肩を押さえる。『あの夜』、無くなってしまった私の左腕のあった場所。お母さんが病院で貰ってくる苦いお薬を飲むようになってからは、あまり痛まなくなっていた左肩に、ずきりと痛みが走ったような気がして。

 私の左腕……?一連の事件……?なんのことなの……?

 

「で、でも、ハルは……」

「……確かにハルは一連の殺人事件とは違って、左腕を失う凄惨な大怪我をしたが命は助かった。だけど裏を返せば……もし、ハルが左腕を失った事件と、一連の猟奇殺人事件が同一犯の犯行であるとするなら……ハルは、一連の事件の被害者の中では唯一の生存者ということになるんだ」

「そ、そんな……。ですけどあなた、ハルはショックであの日何があったのか、私達にも話してくれないんですよっ!? それだけじゃない、亡くなったユイちゃんのことを今でも悲しんでいるのに……!!」

「ああ、勿論僕も君と同じ意見だ。確かにあの日ハルの左腕を奪った憎たらしい犯人を捕まえる手掛かりになるかもしれない……だけど、だからといって今のハルに根掘り葉掘り話を聞く気にはなれないからね。だけど犯人逮捕に躍起な警察は、どうしてもハルと話がしたいと引かないんだ。カウンセリングの専門家を同席させるとも言っていたけれど……まったく、亡くなったユイちゃんの件に関してはどれだけ僕達が事件の異様さを訴えても早々に自殺で片付けた癖に、身勝手な連中だよ……」

 

 お父さんはそう言ってため息を付いた。

 

 

 『あの夜』──私は何があったのか、お父さん達には……こともちゃんにすら、話してはいなかった。話しても信じてくれないだろうと思ったし、信じてくれたとしても、それでお父さん達やこともちゃんが危険な目に遭うかもしれないと思ったから。お父さん達も、私が死んでしまったユイのことを悲しんでいることを知っていたから、私に何があったのかを深く聞き出そうとはしなかった。

 私が倒れていた時、私のポシェットの中からユイの名前が書かれた赤いリボンと、ユイの書いた遺書が見つかったことから、おまわりさん達が山を捜索して、山奥の崖の下でユイの遺体を発見したらしい。その後はいろいろ大変だったようだけれど、その時私は少し離れた街の病院に入院していたので何があったのかは聞いていない。私が退院してこの街に戻ってきた時にはおまわりさん達の捜査も、ユイのお葬式も終わった後だったし、お父さん達も話してはくれなかったから、詳しいことは分からないままだった。

 

 

「どうしましょう……昼間はともかく、夜は私もあなたも、お義母さんも家を留守にしますし……」

「それに関しては大丈夫さ。ハルには僕から『夜にとても怖い人が出たから、夜はしっかり戸締りをして、もし警察の者です、と玄関から呼ばれても返事をしないように』と言っておくから、君も口裏を合わせてくれ。そうすればハルはしっかりしているから、ちゃんと約束を守ってくれるはずさ。母さんにも僕から伝えておくよ」

「そうですね……そうしましょう。……だけどこの街、やっぱりおかしいですよ……。そんな恐ろしい事件が相次いで起こっているのに、『連続バラバラ殺人事件はコトワリさまの仕業だ』なんて……」

「……『コトワリさまに出会ったら、手と足と首のある物を渡すこと。さもなくば、手と足と首をバラバラに切られて殺されてしまう』……か。確かに根も葉もない噂話だけれど、ここ数日だけで何人もそんな残酷な殺され方をされているのに、犯人の手掛かりが何一つないんじゃ、化け物の仕業だなんて噂が立つのも仕方ないことかもしれないね……」

 

 

「コト……ワリ……さま……?」

 

 お父さんとお母さんの会話の中で、その名前が出たこと以上に……私は、噂話の内容と、続けて起きているという殺人事件の話に、思わず息をのんだ。

 コトワリさま。お父さんは化け物だなんて言っていたけれど、本当はお化けではなくて……神様だ。『あの夜』、私に何度も襲い掛かってきたけれど、私を助けてもくれた、神様の名前。

 

「違う……コトワリさまじゃない。だって私は……いや、私だけじゃない。こともちゃんも、『あの夜』の後はコトワリさまに襲われたことは一度も無い……」

 私は自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

 

 確かに『あの夜』、私は何度もコトワリさまにあの大きなハサミで襲われたけれど、『あの夜』の後、私が夜にお外を出歩くようになってからはコトワリさまに襲われたことは一度もない。そもそも、私が『あの夜』の後にコトワリさまに会ったのは、コトワリさまにタチバサミを返そうとして怒られてしまったあの時だけだ。

 こともちゃんも、夜のお散歩でこの街に来た時に何度かコトワリさまに出会ってしまったことがあるそうだけど、ある日を境にぱたりと見なくなった、と言っていた。このことはこともちゃんには話していないけれど、そのある日というのは『あの夜』のことだ。

 

 私もこともちゃんも、『あの夜』の後はコトワリさまに襲われたことは一度も無い。だからコトワリさまの仕業なんかじゃない。……だけど、どうしても『あの夜』、何度も赤黒い大きなハサミで私を切ろうと襲い掛かってきたコトワリさまの姿を想像してしまう。

 手と足と首のある物を渡すまで、どこまでもどこまでも、ハサミを鳴らしながら私を追いかけてきた、あのとても怖いコトワリさまの姿を……。

 

 

 

 

 私はお父さんとお母さんに気付かれないように、そっと自分の部屋へと戻った。

「くぅーん……」

「チャコ……」

 出迎えたチャコは、私の元気が無いことに気付いたのだろう。心配そうに足元に寄ってくると、私の足に擦り寄ってきた。私は大丈夫だよ、とチャコを撫でた後、右腕でチャコを抱き抱えて、そのままベッドに座ろうと歩き出した……その時。私は足元に転がっていた何かを蹴ってしまった。

 驚いた私は慌てて足元を見て……そしてもう一度驚いた。

「えっ!? これは……」

 私は右腕に抱えていたチャコをそっと降ろすと、先程蹴ってしまったそれを拾い上げる。

 

 わらで出来た、お顔の無いお人形──。これは、隣町の路地で出会った、お化けの女の子から貰った物だ。以前コトワリさまのタチバサミを返そうとしてコトワリさまを怒らせてしまった時、コトワリさまに差し出して、バラバラにされてしまったはずなのに。

「わんわんっ!」

 私が首を傾げていると、チャコがテーブルの方で鳴く。テーブルの上には、いつもお外にお出かけする時に持っていく、うさぎのポシェットがある。色違いのリボンと同じで、ユイとお揃いだったそのポシェットの中には、あの日コトワリさまから貰った赤いタチバサミが入っている。

 

「わん!」

 もう一度チャコが鳴く。私はそれで、チャコが私に何を伝えたいのか分かった気がして、チャコに頷いた。

「うん、そうだね……。今夜、コトワリさまの神社に行ってみるよ。きっと……いや、絶対にコトワリさまの仕業なんかじゃない……!!」

 今夜、コトワリさまの神社に行って、コトワリさまに会って確かめるんだ。私に疑われたと知ったらコトワリさまは怒ってしまうかもしれないけれど……その時はちゃんとこのお人形を渡してコトワリさまに謝ろう。それから、真犯人を探し出して、コトワリさまの疑いを晴らすんだ。

 

 

 私はそう決心すると、ポシェットの中に、わらで出来たそのお人形を入れた。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「女の子? どうしてこんなところに?」

 

 

 そしてその夜──私は、誰も来ないものと思っていたコトワリさまの神社で、知らない女の子に出くわしてしまって驚きのあまり固まってしまう。こともちゃんだったらまだ分かるのだけれど、こともちゃんではない、まったく知らない女の子だったから。私と同い年か1つ年上くらいの、緑色のカチューシャを付けた、長い髪の女の子。ネコの耳がついたポシェットを背負っていて、左手には懐中電灯を持って私を照らしている。

 

 そして何より私が驚いたのは──その子の長い、真っ白な髪だ。最初は懐中電灯の光に照らされてそう見えたのかと思ったけれど、違う。目の色も肌の色も、外国の子という雰囲気はないのに、まるで髪だけ色が抜け落ちてしまったみたいに、真っ白だった。

 女の子の方も、私に左腕が無いことに気付いたのか、私の左腕があった方を見て驚いた顔をした。こともちゃんの時もそうだったけれど、左腕が無くなってからは、大抵の人は私に左腕が無いことに気付いて驚いた顔をする。それから心配そうな顔をしたり、珍しそうな顔をしたり、気味の悪そうな顔をする。あまりいい気分はしないけれど、私の左腕が無くなったのは、私のせいだから仕方ないのかな、と思ってる。だけど今回の場合は、私もこの女の子の白い髪を思わずまじまじと見てしまったから、おあいこなのかな、となんとなく思った。

 

 

「見たところ、お化けではないみたいだけど……。君、こんなところで何をしているの?」

 白い髪の女の子が、私の方へと歩きながら私に問い掛ける。この女の子も、どうやらお化けではないみたい。というのも、お化けが近くに来た時みたいな肌寒さや、どきどきした緊張感は無いからだ。だけど、お化けではないなら、どうしてこんなところに?

 私が何も返せずにいると、白い髪の女の子も少し困った顔をして、話を続ける。

「そっか、君からしたら私こそ『なんでこんなところに?』ってなるよね。大丈夫、私もお化けじゃないよ。私は──」

 

 

 そう何かを言いかけた白い髪の女の子は、ふと私の足元を見て何かを見つけたらしく、私の足元を懐中電灯の光で照らした後、驚いた顔をする。

「えっ? ……ハサミ?」

「……あっ?!」

 つられて何かあるのかと自分の足元を見た私は、先程賽銭箱の前に置いた赤いタチバサミに気付いて、慌ててそれを拾い上げた。その動きに白い髪の女の子はまた驚いた顔をする。

「待って! 君、そのハサミは……!?」

「こ、これは……」

 

 どうしよう、と私が困っていると、白い髪の女の子がはっとした顔をした後、怒った顔になる。

「もしかして……。そのハサミ、この神社にお供えしてあったハサミなんじゃ……!?」

「ち、違うよっ!! このハサミは……これはコトワリさまに貰った物なの!!」

 私は咄嗟に、説明になっていない説明をしてしまう。どうしよう……この女の子は、私がコトワリさまの神社からこのハサミを勝手に持ち出したんだと勘違いしているみたい。

「も、貰ったって……勝手に持ち出したのなら泥棒と一緒だよ!! 今すぐ元の場所に返して!! きっとそれはこの神社の神様にとって大切な物なんだ!! 早く返さないと──」

 

 

 白い髪の女の子が怒ってそう言いながら私のところまで歩いてきて、私からハサミを取り上げようと手を伸ばしたその時……キィーーン、と酷い耳鳴りがした。なんともいえない、それでいて確かな違和感……女の子も異変に気付いたのか、はっとした顔をして私に向かって伸ばしていた手を引っ込めると、慌てた様子で辺りを見渡し始める。

 

 木の葉の擦れる音も、虫の鳴き声も、鳥の鳴き声もそのまま聞こえているのに、境内の空気が、ずしりと重くなってしまったみたいに。

 次の瞬間、私が右腕に抱えていたはずのコトワリさまの赤いタチバサミが、フッとどこかに消えてしまった。私と白い髪の女の子が驚く間もなく、月明かりが何かに遮られ、辺りが暗くなる。

 

 

 ──重くなっていた空気が、さらにずしりと重くなる。

 

 そうだ。この感じは。『あの夜』に何度か感じたものと同じ……。

 

 ──私と、白い髪の女の子は、ほぼ同時に空を見上げる。

 

 『あの夜』、辺りがこんな重々しい空気に包まれると……決まってあの音が聞こえてくる……。

 

 ──そこには、赤黒い大きなハサミを持ったコトワリさまが、ハサミを鳴らしながら浮いていた。

 

 そして、その後は……。

 

 ──数回、打ち鳴らされたコトワリさまのハサミが、目一杯に開かれ……。

 

 ……その後は?

 

 

「さ、避けてっっっ!!!!」

 

 

 私がその白い髪の女の子に叫ぶのと同時に、上で浮いていたコトワリさまが、すごい勢いで白い髪の女の子に向かっていく。呆然とコトワリさまを見ていた白い髪の女の子も私の声に気付いてか、向かってきたコトワリさまに気付いてか、慌ててその場にしゃがみ込んだ。その直後、女の子の頭上で、ジャキンッとコトワリさまのハサミが閉じられる。狙われたのは私じゃなかったけれど、その勢いに気圧されて、私は地面に尻餅を付いてしまう。

「ひっ!? な、何……!?」

 白い髪の女の子も、私と同じでしゃがみ込んだ、というよりも、驚いて尻餅を付いてしまったみたい。女の子は尻餅を付いた体勢のまま、手を使ってじりじりと後ずさりをしながらコトワリさまを見上げる。コトワリさまに目は無いけれど、それでもどこか白い髪の女の子を睨みつけるみたいにしていて、今度はゆっくりハサミを開く──

 

 

「だ、駄目っ!! コトワリさま、やめてっっっ!!!!」

 

 

 私の声に気付いたのか、白い髪の女の子を切ろうとしたコトワリさまの動きが一瞬止まったように見えた……けれど、やはり続け様に女の子をハサミで切ろうと襲い掛かる。女の子は地面を半ば転がるようにしてそれを避けると、慌てて立ち上がりながらコトワリさまを振り返る。

「うわっ?! ……こ、コトワリさま……? じ、じゃあ私が街で見たのは……わわっ……!?」

 止めるように叫ぶ私の声にも構わず、コトワリさまは白い髪の女の子にハサミで襲い掛かる。女の子は走って距離を取ろうとするけれど、コトワリさまにすぐ前に回り込まれてしまい、悲鳴を挙げる。

 

「えっと……えっと……!! 人形……人形……っ!!」

 白い髪の女の子は何かを思い出したように、涙目になりながらポシェットの中から何かを出そうとする。でも、コトワリさまがハサミで襲い掛かるから、上手く探せないみたいだ。

 

 

 ……そうだっ!!『手と足と首のある物』……!!

 

 

「やめてコトワリさまっ!! この女の子は勘違いしているだけなのっ!!」

 私はそう叫んで、わらで出来たお人形をコトワリさまに見せながら、白い髪の女の子とコトワリさまの間に割って入る。白い髪の女の子をハサミで切ろうとしていたコトワリさまが、突然間に入った私に驚いたようにその動きを止める。私の後ろで、白い髪の女の子も驚いた声を挙げた。

 

 

「……ごめんなさい。この子は、私がコトワリさまにハサミを貰ったことをちゃんと説明できなかったから、私がコトワリさまの神社からハサミを盗ったんだと勘違いして怒ったんだと思います。だから、私に酷いことをしようとしたわけじゃないんです」

 

 そう言いながら、私はそっとコトワリさまの前に、わらで出来たお人形を置く。

 

「それにこの子はさっき私に、あの赤いタチバサミを神社に返すように言ってました。きっとこの子はあのハサミが神社から無くなってしまって、コトワリさまが困ってるんじゃないかって心配したんだと思います。だから、この子は街のあの噂を信じてコトワリさまの悪口を言う人達とは違う、優しい子だと私は思います」

 私はしっかりとコトワリさまに向き直った後、コトワリさまに頭を下げて謝った。

 

「だから……この子を許してあげてください……」

 

 

 コトワリさまは、暫くそのまま私から少し離れた位置で浮いていたけれど、突然フッといつもみたいに姿を消していなくなってしまった。それから少し間があって、私の目の前にさっき私の手元から消えてしまった赤いタチバサミが落ちてきて、私が置いたわらのお人形の隣に刺さった。

 

 私はコトワリさまの赤いタチバサミと、わらのお人形を拾い上げる。わらのお人形はどこも切られた様子が無くて、綺麗なままだった。

 いつものコトワリさまならバラバラにしてしまうのに、そうしなかったってことは、許してもらえたってことなのかな……?

「よかった……コトワリさま、分かってくれたみたい」

 ほっとして、そう独り呟いた。

 

 

「た、助かった……の……?」

 私の背後で、まだちょっと涙目になっている白い髪の女の子が、ぺたりと地面に座り込んだ。

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