再び夜は廻る   作:kurohane

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三日目(4)『図書館の鏡像』

「──あれ?」

 

 

 気付くとそこは、先程窓越しに見えていた、薄暗い廊下ではなくて、まるで昼間のような明るさの、図書館の廊下だった。

 明かりの正体は、図書館の中で灯っている明かりではなくて──窓から差し込んでいる光。

 

「お日様の光……? ……どうなってるの?」

 

 図書館の中に入った時、何かが起こって気を失ってしまって……それで夜が明けてしまったの?

 そう思って慌てて私はポシェットから懐中時計を取り出し、時刻を確認すると……時計は十二時を指している。これが、お昼の十二時を意味しているのか、夜の十二時を意味しているのかは分からないけれど……お家を出た時間から考えると、今は夜の十二時で間違いない。

 

 私は辺りを見渡すと──真っ先に、廊下で倒れているサキを見つける。

「さ、サキっ!! よかった……大丈夫っ!?」

 良かった……さっきの手のお化け達は、サキを図書館の中へ引き摺り込んだだけで、サキをどこかに連れ去ってしまったわけじゃなかったんだ……!!

 私が慌てて駆け寄り、サキの肩を揺らすと、「うう……」とサキが唸った後、目を開ける。

 サキの視線と、私の視線が交差した瞬間──

 

「──わああああああああああああああああああああああっ!?!?!?」

 

 サキが悲鳴を挙げて跳ね起きて、私から逃げるように後ろに後ずさろうとして──

 

 

 ゴッ!!

 

「──────っ!?」

 

 

 ──背後にあった壁に後頭部をぶつけて、声にならない悲鳴を挙げて、頭を押さえてうずくまってしまった……。……すごく、痛そう……。

「……ご、ごめんサキ……。……大丈夫?」

 後頭部を押さえてぷるぷると身悶えるサキに、私は謝りながら大丈夫かどうかを尋ねる。

「な、なんとか……。えっと……本物のハルで間違いないよね……?」

 サキが涙目になりながら、私の顔を見て、そんなことを聞いてきた。……本物の……?

「うん、サキが脚立の上から、伸びてきた手のお化け達に図書館の中に連れていかれちゃったのを見て、私も慌てて追い掛けて図書館の中に入ったの……」

 私がサキにそう説明すると、「じゃあやっぱり、脚立を運んでたハルは……」と呟いた後、サキは涙を拭った後、まだ痛そうに後頭部をさすりながら、立ち上がる。

「ごめんね、心配掛けて……というか、なんでハルがここに……って……え?」

 

 サキもこの図書館の中の異様さに気付いたみたいで、辺りを見渡してきょとんとした顔をする。

「サキも変だと思うよね……? 図書館の中に入ったら、急に窓の外が明るくなったの……」

 私はサキに懐中時計の指し示す時刻が十二時であることを見せながら、状況を説明する。

 サキは私の懐中時計の時刻を見た後、首を傾げる。

「十二時……?変だよそれ……確かにさっき図書館の中に連れ込まれる直前まで夜だったし、なによりこの図書館は朝の九時開館だから、私達が今まで気を失ってたのなら、誰かが倒れてる私達を見つけたはず……」

 

 どうなってるの……?と首を傾げるサキから何気なく少し視線をずらして、壁に張られている掲示物を見て──

 

 

「……あれ?」

 ──書かれている文字が、ヘンテコになっているのに気付いて、思わず声を挙げた。

 

 

「? どうしたの、ハル? ……あ、あれ!?」

 何事かと私の視線の先を目で追ったサキが、私が見ている掲示物に行き着き、同じ異変に気付く。サキが慌てた様子で、廊下の壁に貼ってある掲示物を片っ端から見始める。

「──掲示物の文字が、全部鏡写しみたいになってる……っ!?」

 

 

 私と、サキが迷い込んだのは……『あの夜』、ユイの影を追って入った図書館とは違う……『鏡映しの図書館』だった。

 

 

 

 

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「……駄目、鍵を開けようとしても、ビクともしない……」

 私は廊下から、図書館の正面の出入り口の扉に近付いて、扉が開かないかを試したけれど、扉には鍵が掛かってる。内鍵のツマミを回して鍵を外そうとしたけれど、簡単に開きそうなツマミはカチコチに固まってしまったみたいに、どれだけ力を入れても動かない。

「うーん、窓も駄目だ……開いてる窓は無いし、鍵を外そうとしてもビクともしない。窓を割ろうとしても全然割れない……」

 懐中電灯の持ち手の部分でガンガンと叩いても割れるどころか、ヒビ一つ入らないようで、サキが、私に向き直って首を振る……って──

「さ、サキっ?! ま、窓を割っちゃダメだよ!?」

「いや、状況的に絶対割れないだろうなー……と思って試しただけだから……これで割れたら、割れないように対策してなかったこの図書館のお化けのせいだよ」

「そ、そうなのかな……」

「まあそれは半分冗談だけど……そもそも、窓の外の様子もおかしいし、仮に出入り口や窓が開いたり割れたりして外に出られたとしても、この変な図書館から脱出できるとは思えないなぁ……」

 

 サキが言う通り、窓の外は昼間のように明るいけれど、すごく違和感がある。違和感の正体は間違いなく、窓の外の景色が鏡映しになっているからだ。

 いや、窓の外の景色だけじゃない……この図書館の構造自体も、鏡写しになっているように、本来の図書館の構造と変わってしまっている。

「困ったな……お化けに変なところに連れ込まれるのは何度か経験があるけど、鏡の中の世界に引き摺り込まれるなんて初めてだよ……」

 サキが、うーん、と唸りながら腕を組む。

 

 ……鏡……?

 

「あ、もしかして……」

「……? ハル、どうかしたの?」

 私が思わず漏らした言葉に、首を傾げるサキ。

「サキ、実は────」

 

 

 私は、ユイのことを伏せながら、以前、とある事情があって夜の図書館に入った際に見た、地階の大きな部屋にある、不思議な鏡のことをサキに話した。

 部屋に置いてあった室内灯の明かりに照らされて、怪しく光っていた、あの大きな鏡のことを。そして、その鏡が作り出した、私そっくりな影のお化けに襲われたことを。

 

 

「……間違いない、この鏡映しの図書館はその鏡の仕業だよ! それなら、私が図書館の外で見た、脚立を運んでいた偽物のハルも、以前鏡に映ったハルの姿を利用したとすれば説明が付く」

 私の話を聞いたサキは、私の憶測と同じことを考えたようで、そういって頷く。

「その大きな鏡は、地階の奥の方にあるの……。そこまで行ければ、ここから出るための方法が見つかるかもしれない」

「そうだね、そうと決まれば話は早いけど……ハル、慎重に行こう。この図書館はもう、その鏡が作り出した世界の中だから、何が起こっても不思議じゃない……」

 サキの警告に、私も頷く。今のところ、お化けや図書館そのものが襲ってくる気配は無いけれど、用心した方がいいのは間違いない。

 ひとまず、私とサキは、地階の鏡の置いてある部屋を目指すべく、廊下の奥にある階段を下に降りることにした。

 

 

 

 

「……駄目、鍵が掛かってる……」

 

 そして、地階にて。私とサキは、階段を降りてすぐのところにある大開きの扉に鍵が掛かっていて、早くも足止めをされてしまう。……これじゃ、『あの夜』の時と同じだ……。

「…………!! そうだ、鍵があったんだった!」

 ふと、『あの夜』、元の世界の図書館の、この扉を開けるためにちょっと拝借して、そのまま返し忘れてしまっていた図書館の鍵の束のことを思い出して、ポシェットの中から取り出す。

「──え? ハル、なんでまだそれ持ってるの……?」

 

 ……サキがもっともらしい疑問を口にしたけれど……き、聞こえないフリをしておこうっと。

 

「あ、あれ……? 鍵が刺さらない……」

 鍵を鍵穴に差し込もうとするけれど、どういったわけか、鍵が合わない……。

「──ああ、そうか。この図書館が鏡映しの世界なら、見た目は同じ鍵穴でも、鍵穴の中の構造も鏡映しになっているはずだから、元の世界の鍵は合わないんじゃないかな? つまり、この扉の鍵を開けるには、この鏡映しの世界にある、鏡映しになった図書館の鍵が必要だね」

「あ、そういえばそうだったね……じゃあこの鍵の束は役に立たないか……」

 サキのいう通り、この鍵はこの世界では使えないみたい……。私は仕方なく、鍵の束をポシェットに入れ直す。

「元の世界と置いてある場所が同じなら、確か鍵の束は一階の事務室にあると思う……。そこで鏡映しになった図書館の鍵を借りなきゃ……」

 

 そう言ってサキに向き直った私は……ふと、サキの『右の膝』に、絆創膏が貼られていることに気付く。

 

「あれ……? サキ、膝のところ、どうしたの?」

 私に指摘されたサキは、「あー……バレたか……」と、ちょっと恥ずかしそうな顔をする。

「実はここに来るまでの間、ちょっと転んじゃってさ……膝と両手の手のひらをちょっと擦り剥いちゃったんだ……。大丈夫、大した怪我じゃないよ」

 そういって、サキは両手の手のひらにも絆創膏が貼ってあるのを私に見せる。サキは平気そうな顔をしてるけど、絆創膏に血が滲んでいて、ちょっと痛そう……。

「そうだったんだ……。私も時々転びそうになるから、気を付けないとなぁ……」

 

 

 そんなことを話しながら、私とサキは一旦上の階に戻って、事務室を目指す……。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「──無いなぁ……ハル、本当にここにあったの?」

「うん、そのはずなんだけど……おかしいなぁ、以前来た時は鍵入れの中に、スペアの鍵の束もあったんだけど、どちらも無いなんて……」

 

 

 幸い、『あの夜』の時と違って事務室の扉の鍵は閉まってなかったので、図書館の一階を回らずに事務室に入れたけれど……肝心の鍵の束が見つからない。

「うーん……事務室の扉の鍵も開いたままだったし、誰かがどこかに置き忘れてるのかな……? サキ、これはちょっと探すの大変かも……」

 

 そう言って私がサキを振り返ると……サキは困惑した顔で何か考えているようだった。

「サキ……? だ、大丈夫だよ、すぐ見つかるよ!」

 私はサキが、この図書館から出られないんじゃないかと不安になってるんだと思って、サキを元気付ける。サキは私の声に驚いた後、いつもの調子に戻る。

「あ……ああ、そうだね。だけど困ったなぁ、誰が持ち出したんだろう……?」

 

 

 サキがそう言って苦笑いしたその時──

 

 

 バタン!

 

 パタパタパタパタ……

 パタ、パタ、パタ、パタ……

 

 

 廊下にある、トイレの方から扉が開く音と、二つの足音が、廊下から聞こえる。一つは、駆けるようなリズムカルな足音、もう一つは、その足音をゆっくりと追いかけるような足音。

 二つの足音は、図書館の正面出入り口の方へと遠ざかっていく。

 

「……今の、聞こえた?」

 サキが驚いた顔をしつつも、やや小声で私に話し掛ける。私はこれに頷いて答える。

「……追い掛けよう……!」

 サキは、事務室の扉からこっそりと廊下の様子を伺い、何もいないことを確認すると、私を扉の前で手招きする。私とサキは音をたてないように気を付けながら、事務室から廊下に出て、二人分の足音を追い掛ける。

 

 

 

 

 一足先に、廊下の角から正面出入り口の方の様子を伺ったサキが、何かに驚いたような顔をした後、「音を立てないように」、と、人差し指を口元で立てて私に伝えながら、もう片方の手で手招きする。私はサキの元に足音を立てないように近付くと、サキが「見て見て!」と廊下の角を曲がった先を指差すので、サキと同じように廊下の角から頭を出して、様子を伺う。

 

 

 

 

 ここの図書館に入る前、私を追い掛けてきた、巫女装束のあの白い髪の女の子とよく似た姿の女の子が二人、出入口の扉の前で何かをしていた。

 どちらも外で見たあの子と同じ長髪で、遠くから確認できる唯一の違いは、手にはそれぞれ、出入口の扉の前でしゃがんで何かをしている子は鋭利な草刈り鎌のようなもの、その女の子を後ろから見ている子は、時代劇に出てきそうな抜き身の短刀を持っている。

 

 

 

 

 (あの子達、図書館に来る前に私を襲おうと追い掛けてきた子にそっくり……!?)

 小声でサキに伝えると、サキも驚いた顔をする。

 (そうなのっ?! ……あの子達も、ここに迷い込んだのかな……? 物騒な物持ってるし、近付きたくないけど……。しかし、何してるんだろう……?)

 どうしたものかと私とサキが困っていると、出入り口の扉の前でしゃがんで何かをしていた方の女の子がすくっと立ち上がる。私とサキは慌てて少し角から頭を引っ込める。

 立ち上がった女の子は、後ろで様子を見ていた女の子に振り返る。やっぱり、外で私を追い掛けて来た子と同じで、顔には額から口元に掛けて、お札のような紙が複数枚垂れていて、表情は口元しか伺い知れない。

 

 

『駄目だぁ……開かないよぉ……。もーーーーーっ!! この鍵、全!! 然っ!! 役に立たないっ!!』

『当たり前。だってこの扉、こっち側からは内鍵で鍵を開けるタイプ。鍵が必要になるのは、外からこの扉の鍵を開ける時』

 

 

 扉が開かないことに怒った様子の白い髪の女の子を、のんびりとした口調で宥める、もう一人の方の白い髪の女の子。怒って鎌を振り回す反対の手には、鍵の束が握られている。

 (っ!? あの鍵の束、もしかして、事務室に無かった……)

 (うん、多分間違いないと思う……。どうやらあの子達も私達と目的は同じみたいだけど……絶対見つかったら襲われるね……)

 サキがその光景を見て呆れたような、困ったような顔をする。

 ……サキが特に変わった反応もしなかったし、やっぱりサキとは関係ない女の子達なのかな……?

 

『どうしよう……ここから出られないよぉー……』

『大丈夫。みんな捜してくれる。きっと出られる。他の出口を探そう』

 泣きそうな声でしょんぼりする白い髪の女の子を、もう一人の白い髪の女の子が慰めるようによしよしと頭を撫でる。隠れて見ている分には微笑ましいけれど、外で追い掛けて来た子のこともあるし、なにより持っている物が物だから、出ていく気にはなれない……。ちゃんとお話が出来る相手だったら、状況を説明して、一緒にここから出るための相談もできるのに……。

 

『それしかないかぁ……。よし、他の出口が無いか探そう! 行くよっ!!』

 元気を取り戻したらしい白い髪の女の子が、もう一人の子を置いて、図書館のホールの方へと駆け出す。……鍵の束を持ったまま。

『ここは図書館。走っちゃ駄目だよ』

 置いていかれた方の白い髪の女の子は走って追いかけようとせず、のんびりとした歩調でその後を追い掛けていった。

 

 

「どうしよう……。鍵の束、持っていかれちゃった……」

「厄介だね……」

 一部始終を見た私とサキは困って、お互いに顔を見合わせる。

 あの子達が、地階のあの扉の鍵を開けてくれればいいけれど、あの様子だと、脱出の手掛かりが、一階ではなくて地階にあるとは気付かないかもしれない……。

「隙をみて、鍵の束を取り上げるか……上手くあの二人を地階に誘導して、あの扉の鍵を開けて貰わないと……」

 とにかく、鍵の束を持って走っていった白い髪の女の子を追い掛けないと……。

 

 

「…………あれ?」

 ふと、私は何か忘れているような気がして、思わず声を挙げた。

「? どうしたの、ハル?」

 二人を追い掛けようと歩き出したサキが、私の声に気付いてきょとんとした顔で振り返る。

「いや……以前、夜の図書館に来た時に、何かに気を付けないといけなかったはず……」

 えっと、それは確か……。

 

 

 

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』

 

 

 

 

「────っ!?」

 ──鍵の束を持って行った方の、白い髪の女の子の、悲鳴。

 その悲鳴で私は思い出す……この図書館で……絶対に守らないといけないこと……!!

 

「──……『図書館内では静かにしましょう』……」

 ぽつりと、その『守らないといけないこと』をサキが呟く。

「──……『走らないようにして下さい』……」

 酷く、抑揚も……感情も無い……ただ、注意事項を読み上げるような声だった。

 

 

 

 

 私とサキは、悲鳴が聞こえた、図書館のホールの方へと歩いていく。

 私の思っていた通り、立て看板に貼られている張り紙に、鏡映しに反転した文字で、図書館内で走らないようにとの注意が書かれている。

 これは本来、日中の図書館内で騒いだり、走ったりする人を戒めるための注意書き……。だけど、この『夜の図書館』では、別の意味も、ある……。

 その理由は、たった今起きた出来事に関わったことを示すように、身体から赤い血を滴らせている……赤い複数の目を持つ、俯く青黒い影のお化け。

 このお化けは、懐中電灯の明かりが無いと見えないはずだけど、この明るい『鏡映しの図書館』の中では、明かりで照らさなくても見えるみたい……。

 

『……だから言ったのに。ここは図書館。本を読んだり、知識を学ぶために……静かにしなければいけない場所。……その決まりを守らずに騒いだり、走ったりする人間に対して、多くの人間が不快感や怒りを感じ、そういった負の感情が蓄積される場所。……だからここの【夜の民】達は、図書館内で騒いだり、走ったりする存在を決して許さない……』

 

 そのホームの一角にある、大きな……赤い、赤い水溜まりを見降ろすように、歩いて追い掛けていった方の白い髪の女の子が、佇んでいた。

 赤い水溜まりの中に、走っていった方の白い髪の女の子が持っていた鎌と、鍵の束が落ちている。

 

『これで少しは懲りるといいけど。でもこれで【主様】の所へ戻ったあの子が、この場所のことをみんなに知らせてくれれば、みんなが助けに来てくれるかな……』

 そう言いながら、残った白い髪の女の子が、赤く濡れてしまった鍵の束を拾い上げる。

『私も切り刻まれれば外に出られるだろうけど、痛いのは嫌だし……。この場所のことは、もう少し調べておこうかな……』

 そう言い残して、鍵の束を手に、その場を去っていく……。

 

 

「……一人分手間が省けた、とも考えられるけど……さすがに複雑だね……」

 サキが、赤い水溜まりに近付くとそれを見降ろして小声でそんなことを呟いた。

「走ってた子……し、死んじゃったの……?」

 青い顔をしているであろう私は、サキに小声で尋ねる。さっき聞いた悲鳴と、この赤い水溜まり……そしていなくなってしまった方の白い髪の女の子……嫌でもここで何が起きたか、私は分かってしまう。だから、サキに尋ねる声も、震えてしまう……。

「…………。……どうだろうね……。あの女の子もお化けだろうし、ここで切り刻まれて消えてしまったともとれるし……どこかでまた、お化けとして元通りに形を成すかもしれない。さっきの子の口振りからすると、後者だと思うけど……」

「そっか……。……ちゃんと元通りのお化けの女の子に、戻れるといいな……」

 私がそんなことを呟くと、サキが少し驚いた顔で私を見る。

「元通りにって……ハル、あの女の子達の仲間に襲われたんでしょ?」

 サキの疑問はもっともかもしれない……だけど……。

 

 

「友達が死んでしまって……もう会えなくなるのは……痛くて、辛くて、寂しくて……とてもとても、悲しいことだから……」

 ──ユイを喪った私が……そうだったから……。

 

 

「……貴女と一緒の世界にいられる子達が……羨ましいな……」

 ぽつりと、サキが寂しそうに、そんなことを呟いた。

「……っ!! ご、ごめん、なんでもないの……。サキ、鍵の束を持って行った女の子を追い掛けよう」

 私は慌ててサキにそう取り繕う。サキもはっとした顔をして、頷く。

「そ、そうだね、追い掛けよう。……と、くれぐれも走ったり、大声を挙げないようにね……。ひそひそ声で話していても、結構あのお化け、イライラするみたいだから……」

 そういってサキが指差す先には、ちょっとイライラしたように身体を揺らしている、あの青黒い影のお化けがいる……。

「う、うん……気を付けよう……。あの女の子みたいにならないように……」

 

 

 私はその青黒い影のお化けに頭を下げて謝った後、サキと一緒に、鍵の束を持って行った女の子を追い掛けることにする。

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