「ハルが言ってた、鍵のかかってた扉はこの扉のことだね?」
「うん。『多目的ホール』ってお部屋みたい」
「えっと………あった、これだ。……鏡映しだとちょっとわかり辛いなぁ……」
ハルが言っていた通り、地階に降りてすぐの扉に鍵が掛かっていたので、先程アヤメから渡された鍵の束の中から『地階・多目的ホール』と鏡映しに書いてある鍵を使って、扉の鍵を開ける。
念のため、静かに扉を開けて、中の様子を伺う。椅子や机が置いてあるだけで、お化け達の姿は無かった。
「あれ……前来た時には、土偶展の展示があったんだけど……」
ハルが首を傾げながらそんなことを言った。
「ああ、そういえばそんな展示をやってたらしいね。私がこの街に引っ越してきた時には中止になっててもうやってなかったけど……」
「中止に? なんで?」
「なんでって……知らないの? 土偶展の開催中に図書館に泥棒が入ったらしくて、ショーケースが割られたり、展示物が壊されたりしたらしいんだ。ニュースでも取り上げられたらしいけど、見なかったの?」
「ええっ!?」
私が土偶展が中止になった経緯を説明すると、ハルはすごく驚いたような声を挙げた。
あれ?おかしいな……?『連続バラバラ殺人事件』が起きる前の出来事だったし、全国的なニュース番組でも小さく報じられたくらいだったから、決して大きくはないこの街では大事件として騒がれてそうなものだし、ハルが知らないはずが無いんだけど……。
「なんでも犯人は、職員がその日閉め忘れた窓から脚立を使って侵入、事務室に保管されてた鍵の束を盗んで、土偶展の展示があった、この多目的ホールに侵入したらしいよ。それで、展示物を物色しようとしたのか、いくつかショーケースが割られてたんだって。これだけでも大問題なのに、よりにもよって、その展示会で一番の目玉だった展示物が壊されてたらしいんだ」
「い、一番の目玉だった展示物……?」
ハルが私に聞き返す。……なんでだろう、ハルの顔が少し青い気がする……。
「うん。他の人型の土偶は割れていたり、一部が欠けていた物が多かった中で、その土偶は一番状態の良かった人型の土偶だったんだって。土偶展のポスターでもでかでかとその人型の土偶の写真がプリントされてたらしいよ。その土偶が犯人がうっかり床に落としちゃったのか、見るも無残にバラバラに砕けてたんだって」
「………………」
青い顔をしたハルが、ついには俯いて黙ってしまう……。
ここで私は、とあることに気付いて、しまった、とこの話題を振ってしまったことを後悔した。
「……あ!? い、いやいや大丈夫だよハル! た、確かに私達も脚立を使って窓から図書館に入ったけど……別に私達は何も盗ったりしてないし! ましてや図書館の物を壊したりしてないし! 夜に人が出歩かないこの街なら、きっと誰にも見つからずに図書館から出られるよ! だから大丈夫、誰かに見つかって怒られたりはしないから!!」
「そ、そうだね……」
そうは応えてくれたものの、すっかり落ち込んでしまって、しょんぼりとしているハル。ハルの頭の上の青いリボンまで、力無く垂れ下がってしまっているような気さえする……。
……どうしよう。元はといえば私がハルの姿を真似たお化けに騙されて、この図書館に連れ込まれたせいなのだけど……今はハルをどうフォローしても逆効果な気がする……。
「ま、まあこんな変な場所に居たら、気が滅入るのも無理はないよね……。ハル、とにかくまずはこの変な図書館から出よう?」
無理矢理話を切り上げて、先に進むことをハルに提案する。
図書館に勝手に忍び込んだのを見つかって怒られるのも嫌だけど……この『鏡映しの図書館』から出られないのは、もっと嫌だ。『鏡』のお化けの狙いが分からないのが不安だけれど……とにかく今は進むしかない。
ハルも、これには頷いて同意してくれたので、早く先に進もうと、多目的ホールの奥にある、開きっぱなしの扉に近付いた時――
――バタン、とその扉が勝手に閉まった。
チリンチリンチリンチリンチリンチリン……!
扉の閉まった音と同時に……後方から、複数の鈴の音が聞こえる。
「っ!?」
ハルも鈴の音を聞いたのか、私とほぼ同時に後ろを振り向いた。
そこには――
『アハハッ!!』
『キヒヒッ!!』
――私とハルの姿をそれぞれ真似た複数の何かが、不気味な笑い声を挙げながら……私とハルを遠巻きに見るように佇んでいた。
「私と……ハル!? な、何これ……!?」
まるで、私とハルを写した白黒写真から抜け出てきたように、色が無い。ハルが見たという鏡像のお化けと違って、私の姿をしたお化けには左の膝に絆創膏が貼ってあるし、ハルの姿をしたお化けには左腕が無いから、左右反転はしてない。……つまり、これは『鏡像のお化け』ではなくて……『影のお化け』、といった方が正しいのかもしれない。
私の影のお化けも、ハルの影のお化けも、どちらも目元は影が落ちたように暗くなっていて見えないけれど……陰になっていない口端は、愉しげに嗤うように吊り上がっている。
「こ、このお化け達……以前、『鏡』のある部屋で私を襲ってきたお化けだ……!!」
「え!? ……ってことは、その『鏡』が作り出したお化けってこと……!?」
『フフフ……ッ!』
『アハハッ!』
私が驚いてハルに聞き返すのとほぼ同時に、私とハルの姿を真似た影のお化けが、一斉に私とハルへ向かってくる……!!
「っ!! と、とにかく逃げようっ!!」
愉しげに笑いながら向かってくる、私の影のお化け達と、ハルの影のお化け達……だけど、この嗤い方は、商店街で出会ったあの大きな顔のお化けが、青色の顔だった時にニタニタ嗤っていたのと同じ……とても、私とハルにとって、愉しいことを考えてるようには思えない……!!
私は急いで先程閉まってしまった扉を開けようとして……――
――ガンッ!!
「えっ!?」
僅かに開きかけた扉が、何かにぶつかって、それ以上開けられないことに驚く。さっき扉が閉まるまでは、この扉の前には何もなかったはずなのに、なんで!?
私は僅かに開いた扉の隙間から、扉を塞ぐように置かれた、大きな段ボール箱が複数と……笑いながら廊下を走り去っていく私の影のお化けと、ハルの影のお化けを見て、そのお化け達に何をされたかを理解する。さっきこの扉を閉めたのは、あの影達だったんだ……!!
「やられたっ!! 扉の向こう側に物を置かれちゃった!! これじゃ開けられないよ!!」
「そ、そんなっ!? ……あっ!? サキ、こっちの影のお化け達がっ!!」
「っと、そうだった!!」
笑い声を挙げながらこちらに向かってくる影のお化け達から、私とハルは走って距離を取る。扉から離れてしまったけれど、どの道あれじゃ開けられないし、この影のお化け達に捕まってしまったら元も子もない……!!
私は逃げた先に椅子が置かれているのをみて、咄嗟にそれを掴んで後方から追ってきていた私の姿を真似た影のお化けに投げつける……けれど、椅子は私の影のお化けをすり抜けて、明後日の方向へと転がっていってしまった。少しだけ転がっていく椅子に視線を送った影達が、私に視線を戻してまた嗤いながら向かってくる。
「駄目か……当たらなくても、注意を引けるかなと思ったんだけど……」
チリンチリン……
「……え?」
左から聞こえた鈴の音に、私は反射的にそちらを向く。でも、隣にはハルがいたはずじゃ――
――そこにいたのは、不気味に嗤うハルの影のお化け。
「――――わああああああああああああああああああああああっっっっ!!?!??」
私は悲鳴を挙げながら飛び退く。相当不格好な避け方だっただろうけども、お陰でこちらに手を伸ばしていたハルの影のお化けに捕まらなくて済んだ。
「だ、大丈夫!? サキ、私はこっちだよっ!?」
ハルが慌てたように、影のお化け達から逃げながら私に手を振って応える。余計なことをしていたせいで、本物のハルと距離が離れてしまったみたいだ……。
「ご、ごめん偽物と間違えてびっくりしただけっ!! ……ハルっ!! このお化けには何か良い対処法は無いの!?」
私とハルの姿を真似た影達は、それぞれ分担して私とハルを捕まえようと向かってくる。まだ遊び半分で本気で捕まえようとしてないのか、それとも単に動きが鈍いのか……走って逃げれば引き離せるくらいには動きが遅いけれど、このままじゃ体力がもたない……!!
「こ、このお化け達は、鏡が光を受けて物を映すことで出てくるの……!! だからその鏡が物を映さないようにできればいいんだけど、このお化け達を作り出してる鏡はこの部屋じゃなくて、もっと奥の部屋にあるから……わっ!?」
「――ってことは……この部屋じゃこのお化け達をどうにもできないってこと!?」
長机の下を潜ったり、椅子を飛び越えたりして逃げながら、ハルがこのお化け達について情報を教えてくれたけど……『鏡』のある部屋に行くには、あの扉の前の段ボール箱をどうにかしないと……!!
……待てよ……?この影のお化け達が光から生まれているお化けなら、もしかして……?
物は試しと、私はポシェットからペンライトを取り出してスイッチを入れ、振って光らせると、私に向かってきていた私の影のお化けに向かって投げる。
ペチッ!
『キャッ!?』
光るペンライトを額に受けた私の影のお化けが、驚いた声を挙げて尻餅を付いて消える。ペンライトは光りながら、カラカラと床を転がっていく。
「よし! やっつけ……られてないか……またすぐ出てきた」
私がガッツポーズを取るよりも先に、鈴の音が聞こえた方を向くと、少し離れた場所に痛そうに額を押さえている私の影のお化けがいた。間違いなく、さっき私がペンライトをぶつけたお化けだ。額を押さえていた私の影のお化けは、額から手を離すと、気を取り直したかのようにまた笑い声を挙げながらこちらに向かってくる。
だけど、ペンライトが当たった程度でもあの反応なら、一時凌ぎ程度にはなりそう……!!
「ハルっ!! 『明かりのついた物』ならこのお化け達に当てられるみたいっ!! 猫だまし程度だけど怯ませられるから、捕まりそうになったら昨日私が渡したペンライトを使って!!」
「……! うん、やってみるっ!!」
ハルも、ポシェットからペンライトを取り出して手に握る。まだ油断はできないけど、これで少しは私もハルも体力の消耗を抑えられるし、咄嗟の不意打ちにも対処しやすくなる。
後は、あの扉の前の段ボール箱さえどうにかできれば……!!
私は影のお化け達の隙をついて、塞がれてしまった扉に駆け寄ると、その勢いのまま、思いっきり扉に体当たりする。
――ドンッ!!
「う゛っ……け、結構痛い……けど、少し動いた……」
思いっきり体当たりした甲斐あって、少しだけ段ボール箱がずれて、扉の開きが少しだけ大きくなる。これを繰り返せば……――
――ドサッ、ドサッ
「えっ!?」
だけど、扉の向こう側で何かが置かれる音がして……慌てて私が僅かに開いた扉の隙間を覗くと、私の影のお化けと、ハルの影のお化けが、段ボール箱を追加で扉の前に置いて行くところだった。
「っ!? こ、コラッ!! そっちの段ボール箱増やさないでよっ!!」
『アハハッ!!』
『フフッ!』
私が思わず抗議しても、私の影のお化けと、ハルの影のお化けが廊下を嗤いながら走っていく……あの様子だと、更に物を持ってきてこの扉を塞ぐつもりみたいだ……。
「サキっ!! そっちの扉だけじゃなくて、こっちの扉の向こう側も、物で塞がれちゃってる!!」
ハルも、影のお化け達の隙をみて、私とハルが入ってきた方の扉を開けようとしたようだけど、案の定、そちらの扉も物を置いて塞がれてしまったみたいだ……。
私はこちらに向かってきていた影のお化け達のうち、私の影のお化けにペンライトをぶつけて追い払って、部屋の隅に追い込まれるのを防ぐ。
「ど、どうしよう……このままじゃ……っ!!」
ペンライトは落ちたものを回収すれば再利用できるけれど、このまま影のお化け達から逃げ続けても、事態は悪化していく一方だ……私だけじゃない、ハルの顔にも、焦りと疲労が見え始める……。
何か……何か状況を変えられる方法は……?!
『――二人共、そこにいるのっ!? 大丈夫っ!? 聞こえるっ!?』
――不意に、大きな『私の声』が、段ボール箱で塞がれている扉の向こう側から聞こえてきた。
「――えっ!?」
「えっ!? 今の、サキの声だけど……サキじゃないよね……?!」
少し離れた位置で影のお化け達から逃げていたハルにもその声は聞こえたみたいで、驚いた顔をする。勿論、私じゃない……だけど、この影のお化け達は笑い声こそ挙げるけれど、一切喋らない……じゃあ、今のはまさか……私のフリをしてハルと行動していたっていう、私の鏡像のお化け!?
『二人共、聞いてっ!!今からこの段ボール箱を退けるけど、少し時間が掛かりそうっ!! 二人はなんとかそれまで逃げ切るか、その部屋にある鏡を“閉じ”てっ!!』
「ふ、ふざけないでっ!! この影のお化け達は貴女の仲間でしょ!? 騙そうとしたってそうはいかないからねっ!?」
『じゃあ騙されたと思っていいから聞いてっ!! その部屋には小さいけれど、一つだけ鏡があるっ!! 【私の本体】とは違う、小さな鏡っ!! それを使って影達は貴女達二人を襲ってるのっ!! だからその鏡を“閉じ”れば、その部屋の影達は現れなくなるっ!! 可能なら、その鏡を探してっ!!』
「さ、サキ! サキと喧嘩しちゃ駄目だよっ!?」
「ご、ごめん……って……。……ハル、その言い方は合ってるけど混乱するからやめて……」
多分、扉の向こうで私の声で助言をしてくれたのは、ハルが一緒に行動してたという『私の鏡像のお化け』だ……。この影のお化け達と同じで、例の【鏡】から出てきたお化けのはず――
――……いや、違う。あの鏡像のお化けは、隙だらけだったはずのハルを襲おうとしなかった……。なら……少なくとも今だけは、信じるだけの理由はある……っ!!
「――分かった、その鏡が無いか探してみるっ!! そっちはお願いっ!! そっちにも、その段ボール箱を運んでた影のお化けが二人いたはずだから気を付けてっ!!」
『……分かった、こっちは任せてっ!!』
扉の向こうの、私の鏡像のお化けが力強く応える。
自分の声にそう感じるのはどこか変な気分だけども……その『私の声』は、とても心強く感じた。
『フフッ!』
『キヒヒッ!!』
影のお化け達は、相変わらず笑い声を挙げながら向かってくるけれど……気無しか、さっきに比べると、どこか焦ったような嗤い方になってる気がする……。
「分かりやすいお化けで助かるよ……。ハルっ!! あっちの私が言うように、この部屋のどこかに鏡があるみたいっ!! それを探そうっ!!」
「うん、分かったっ!!」
ハルが、ペンライトを振って、向かってくる影のお化け達を追い払いながら、私に頷く。
……だけど、鏡……?さっきまでこの部屋で逃げ回っていたけれど、そんなものは見当たらなかったけれど……。
「サキ! 机の下か、椅子の上に落ちてるのかも! 多分、元の世界の図書館で、誰かが置き忘れちゃった、手鏡みたいな物なんだと思うの!」
「そっか!! じゃあハル、そういった場所を重点的に探そうっ!! この影のお化け達、ちょっと焦ってるみたいだから捕まらないように気を付けてっ!!」
ハルの言う通り、恐らくこの部屋に誰かが忘れ物として置いて行ってしまった手鏡のような物がありそうだ……それを見つけて布を被せるなり閉じるなりをすれば、この影達は消えるはず!
私とハルは影のお化け達から逃げながら、少し身を屈めて手鏡のようなものが落ちてないかを探す……――
――ふと、長机の下に、キラリと光る物が目に付いた。
影のお化け達を追い払うのに使ったペンライトかと思ったけれど、それは小さな折り畳み式の手鏡だった。
「――あったっ!! あれだっ!!」
よかった、思ったよりすぐに見つかった!!そのことに安堵した私は、それを手に取ろうとその長机に駆け寄る――
「っ!? さ、サキっ!! 危ないっっ!!!!」
――後ろから、ハルの慌てた声が飛んだ。
『アハハッ!!』
ハルが声を挙げた理由は、すぐに分かった。長机に向かって走る私を遮るように、目の前に出てきた、私の影のお化けだ。
……だけど――
「……私の影のお化けで良かったよ……」
私はむしろ、飛び出てきたのがハルの影のお化けじゃなかったことを安堵して――
「――邪魔っ!!」
――思いっきり、『明かりを点けた懐中電灯』を、私の影のお化けに投げつけた。
ゴツンッ!!
『キャアアアアアアアアアッ!!』
私の影のお化けにも、絆創膏が貼られている場所……左の膝に懐中電灯を受けた私の影のお化けは、ひと際大きな悲鳴を挙げて、懐中電灯をぶつけられた左の膝を抱えてうずくまって消えていく。
それを横目で確認しながら、私は長机の下に勢いをつけて滑り込むと、落ちていた手鏡を手に取って――
……パタンッ!
――それを、閉じた。
部屋に響いていた、愉しげな笑い声が止まり……私の影のお化け達と、ハルの影のお化け達は、あっという間にいなくなってしまった。
「ほ、本当にあっという間にいなくなった……」
私の鏡像のお化けから扉越しにそう聞いてはいたけれど、鏡を閉じてからももう少しだけ襲ってくるかもと身構えたのに、散々私とハルを追いかけ回していた割にはあっさりといなくなった影のお化け達に、どこか呆気なさを感じてしまった。
「た、助かった……」
ハルが、ペンライトを手に持ったまま、ぺたんとその場に座り込んだ。私も、滑り込んだ長机の下から動く気になれず、暫くその場に座り込んでいた。私もハルも、部屋の中を散々追いかけ回されてへとへとだった。
それにしても……まさか、こんな手鏡一つであんなにうじゃうじゃ出て来るなんて……。
『どうやら、鏡は“閉じ”れたみたいだね。遅くなってごめんね』
ふと、あの塞がれていた奥の扉の方から、扉が開く音と、『私の声』が聞こえてきて、私とハルは同時にそちらに向き直る。
そこには、まるで私を映した鏡の中からそっくり出てきたような、私が立っていた。
ハルが言っていた通り、『右の膝』に絆創膏が貼られているから、左右反転しているみたいだった。
「さ、サキっ!! えっと、大丈夫!! この子は……――」
……アヤメの件があったからかもしれないけれど、ハルがどこか慌てた様子で私に何か伝えようとする。
「ああ、大丈夫だよハル。分かってるから」
私はハルにそう伝えると、私の姿をしたそのお化けに座ったまま向き直る。
「お陰で助かったよ。……ありがとう」
私がそう伝えると、私の鏡像のお化けは酷く驚いた顔をした後、照れくさそうに笑いながら――
『……どういたしまして、でいいのかな……?』
――そう、どこか複雑な様子で応えた。