「────っ!! ハル、こっちにっ!!」
一斉に向かってくる影のお化け達に、私とサキは気圧されてしまう……だけど、サキが私にそう叫ぶと、影のお化け達から逃げるように駆けながら、私を手招きする。私もサキに続いて、駆け出す。
「ど、どうしよう、サキ……っ!!」
「鏡をどうにかしようにも、この部屋を真っ暗にしないと鏡に近付けないっ!! まずは室内灯を消して、影のお化け達が襲ってこないようにしないと……!!」
サキのいう通り、私とサキを追い掛けてくる一団とは別に、鏡の前でこちらを見て嗤っているだけの影のお化け達がいる。
多分……私とサキが鏡に近付いて鏡を壊せないようにするためと、鏡像のお化けが鏡から出て来れないように、あの影のお化け達は見張ってるんだ……!!
「サキ、多目的ホールで出てきた時と比べて、影のお化けの数が多い……別々に行動せずに、一緒に行動しよう!! 離れ離れになったら、あっという間に囲まれて捕まっちゃうっ!!」
「うん、分かった!! ……まあ、あの時も別々で行動するつもりは無かったんだけどね……」
私とサキはお互いに離れ過ぎないように、一緒に一つ目の室内灯へと向けて駆ける。後ろからは、私とサキのものではない、複数の足音と、笑い声が追い掛けてくる……!!
一つ目の室内灯にもう少しで辿り着けそうになったその時、室内灯の置かれている台の影が、不自然に揺らめいて……そこから、私の影のお化けと、サキの影のお化けが嗤いながら現れる。
『オイデ、オイデ、オイデ、オイデ……!!』
『アソボウ、アソボウ、アソボウ……!!』
「ハル、私は右の私の影のお化けをやってから室内灯の明かりを消すから、ハルは左のハルの影のお化けをお願いっ!!」
「う、うん……分かったよ!」
私とサキは、お互いにペンライトのスイッチをオンにして、同時にそれぞれ影のお化けへと投げる!!
──ペチッ、ペチンッ!!
『キャッ!?』
『キャアアアッ!!』
サキの影のお化けはサキの投げたペンライトをおでこに受けて、私の影のお化けは私の投げたペンライトをお腹に受ける。
ペンライトを受けた影のお化けの二人は小さく悲鳴を挙げると、私の影のお化けは驚いたように尻餅を付いて、サキの影のお化けは痛そうにおでこを押さえてうずくまって消えていく。
「お、おでこは可哀想だよ、サキ……」
「あ、普通にお腹とかでいいんだ……次からそうしよう……っと……一つ目っ!!」
痛そうにおでこを押さえながら消えていった、サキの影のお化けがちょっと可哀想だったので、私がサキにそう伝えると、サキがちょっと苦笑いしてから室内灯に駆け寄ると、室内灯を消した。私は、影のお化け二人が消えた場所に落ちているペンライト二つを拾い上げるとスイッチをオフにして、一つはサキに渡して、もう一つは自分の手に握り直す。
──これで、残りの室内灯は三つ。
『フフ……ッ!』
『オイデ、オイデ……!!』
『イッショニ、イッショニ……!!』
『アハハッ!!』
後ろから笑い声と足音が近付いてきたので、私とサキは、それらから逃げるように、二つ目の室内灯へと駆け出す。
「……あれ? ちょっと数が減ったかな? 室内灯を一つ消したから……?」
ちらっと後ろを振り返って様子を見たサキが、追ってきている影のお化け達の数が減っていることを私に伝える。この影のお化け達は先程のように、影のある場所から再度現れて襲ってくることがあるから、きっとどこかの影で潜んでいるのかも……。
「サキ、気を付けてっ!! さっき出てきたみたいに……──」
私がそのことをサキに伝えようと口を開く前に、二つ目の室内灯の近くにある大きな柱の影と、床に置かれている段ボール箱の影から、影のお化け達が嗤いながら現れて、私とサキの行く手を遮る。
『キヒヒッ!!』
『フフ……ッ!』
「や、やっぱりっ!! サキ、前っ!!」
「うわっ!? そういうことっ!?」
いくらペンライトで撃退できるといっても、さすがに大勢は相手に出来ない。私とサキは、その影のお化け達が手を伸ばしてくるのを、それぞれ手に持った光るペンライトと懐中電灯を振って対処する。少し大回りになってしまうけど、迂回して進むしかない……!!
「うわ……いつの間にか後ろの影のお化け達の数がまた減ってる。どこかに隠れたのかな……厄介だね……」
少し息を切らせて走りながら、サキがそう言って舌打ちする。気付けば、あんなに大勢で追い掛けてきていた背後の影のお化け達が、五、六人程になってる……。サキのいう通り、どこかに隠れて私とサキが近づいてくるのを待っているのかも……。
「不意打ちされる度に影のお化け達を避けるために大回りしてたら、四つ消し終わるまで体力がもたない……。いきなり目の前に現れたら、鈴の音にも頼れない……。どうしたら……」
二つ目の室内灯の傍にも、段ボール箱の影と、室内灯の置いてある台の影がある……どちらにも影のお化け達が潜んでいるとしたら、室内灯に近付けそうにない……。
その時ふと、サキが右手に持ったペンライトに視線が移り……私はあることを思いつく。
「……っ!! もしかしたら……っ!!」
「ん? ハル、どうしたの?」
私は実際に試した方が早いと思って、サキにそのことを伝える前にペンライトのスイッチを入れ直すと振って光らせて、段ボール箱の影へと投げる。
カラカラと音を立てて、光るペンライトが段ボール箱の影へと転がっていく。すると──
『キャアッ!?』
『キャッ?!』
影のお化けが二人程、そのペンライトの光に驚いたように慌てて段ボール箱の影から出てきて、消えていく……やった、大成功だ……!!
「サキっ!!」
「成程……!! ハル、ナイスアイデアっ!!」
サキもペンライトを光らせて、室内灯の置いてある台の影へと投げ込み、影のお化け達を追い出す。追い払い切れずに残った影のお化けがこちらに向かって来たけれど、私がペンライトを投げ当てて対処する。
「よし、二つ目っ!! これで……あと半分っ!!」
サキが二つ目の室内灯を消す。室内灯を二つ消したことで、薄暗い室内が更に暗くなっていく。
──これで、残りの室内灯は二つ。
『………………』
『オイデ、オイデ、オイデ、オイデ……』
『アソボウ、アソボウ、アソボウ……』
『………………』
『サキ、サキ、サキ、サキ……』
『ハル、ハル、ハル、ハル……』
『………………』
──影達の笑い声が……途切れた。
みると、最初に比べるとまばらになった、私とサキの後ろを追い掛けて来た一団は立ち止まっている。鏡の近くから私とサキを見ている一団も、嗤わない。
……私とサキを……じっと、見ている。
怒っているとも、悲しんでいるとも取れる……いろんな感情が入り混じった複雑な想いを、影のお化け達から感じる……。
「はぁ……はぁ……。……そんな顔をされても、捕まるわけにはいかないんだけど……」
「………………」
影のお化け達が動きを止めてくれたので、私とサキはその隙に、乱れていた呼吸を整える。サキは影のお化け達が嗤わなくなったことに対して、複雑そうな顔でそう呟く。
「……ハル。鏡像のお化けが言っていたことが気掛かりなのと……あの鏡をどうするかで悩んでいるのは、私も同じだよ……。……だけど、今は室内灯を全て消すことを考えよう……あの鏡をどうするにせよ、今はそうするしかない……」
「……うん……そうだね……」
……サキも、室内灯を消し終えて、影のお化け達を出てこなくしてから、鏡をどうするかは……決められずにいるみたいだった。
室内灯を全て消して、懐中電灯の明かりを消せば……影のお化け達は、もう出てこなくなる。
そうなれば、今は近付けない、あの鏡に近付くことが出来る。
……だけど、そこから……どうしたらいいの……?
──鏡を、壊す?
鏡像のお化けが、そう私とサキに頼んだように……?
そんなことをしたら、影のお化け達も、鏡像のお化けも……きっと、いなくなってしまう。そして、今度こそ本当に……あの鏡は、何も映せなくなってしまう……。
鏡像のお化けは、確かにそうして欲しいと言っていた……だけど、本当に……?
本当は、違うんじゃないか。本当は……いろんな物を映して、いろんな人に、あの大きな鏡を見てもらいたいんじゃないかって、どうしても、思ってしまう……。
──じゃあ、鏡に、布を掛け直す?
『あの夜』、私が影のお化け達から逃れるために、そうしたように……?
確かにそれなら、私とサキはあの鏡を壊さずに済む。
だけど、それじゃ何も変わらない。あの鏡は、また暗闇の中へ押し込められて……何も映せなくて……どこかに行くこともできないまま、取り残されてしまう……。
……どちらを選んでも……私とサキは、助かる。
……だけど、どちらを選んでも……──
「────……よし、三つ目……っ!!」
サキの声に、私は我に返ると、いつの間にか、私とサキは三つ目の室内灯へと辿り着いていて……サキが、その室内灯を消したところだった。
私の手には……いつの間にか、ペンライトが握られている。
──これで、残りの室内灯は……一つ。
「大丈夫……? ハル、ペンライトで影のお化け達を追い払ってはくれてたけど、ずっと何も言わなくて、上の空だったけど……」
サキがそう言いながら息を整えながら、私の顔を心配そうに覗き込んで……
……はっとした顔をした後、悲しそうな顔をして……「……ごめん」、と小さな声で私に謝って目を逸らしてしまった。
……きっと私は、それだけ暗い顔をしていたんだと思う。
「……気持ちは分かるよ。……二つ目を消した後から、こちらに向かって来ないで……ずっとこっちを悲しそうな顔で見ている子達がいるから……」
『サキ…………サキ…………』
『………………』
『………………』
『ハル…………ハル…………』
『………………』
『………………』
……もう、どの影のお化け達も……嗤わない。
……もう、どの影のお化け達も……追い掛けてこない。
「…………行こう。……次で……最後だよ」
サキは、佇んでいる影のお化け達を静かに見渡してから、私にそう伝えた。
「…………うん」
私とサキはすっかり暗くなった室内でぽつんと灯っている、最後の室内灯へと歩き出す。
私も、サキも……走ろうとはしなかった。
影のお化け達は、もう何もしてこない……。私とサキには、それが分かってしまう。
「……これで……最後」
……結局、影のお化け達は、最後の室内灯を守ろうともしないで……悲しい顔で、私とサキを見ているだけだった。
私とサキがそれぞれ自分の持っている懐中電灯の明かりを消すと……影のお化け達から向けられていた悲しげな視線も、影のお化け達が私とサキを呼んでいた消え入るような声も、途絶えてしまった。
「……影のお化け達はいなくなったね」
「…………うん」
「………………」
「………………」
鏡を壊そうとも、鏡に布を掛けようとも……サキは言わなかった。私も、言わなかった。
私も……サキも……気付いてしまったから。
……あの影のお化け達は……結局、私とサキと……遊びたかっただけなんだ。
確かに、あの影のお化け達に捕まってしまったら……何をされていたかは分からない。
だけど、ただ……遊びたかっただけなんだ。
ずっと何も映せなかった鏡から生まれたお化けが、あの影のお化け達なんだと、鏡像のお化けは話していた。けれど、鏡が物を映さなければ何もできないのは、あの影のお化け達も、同じ。
だから、あの影のお化け達は、誰かに遊んで欲しかった。
だから、あの影のお化け達は、誰かに一緒に居て欲しかった。
そうすれば、寂しくないと……思っていたから。
『……私にはもう、何も見えないけれど……貴女達二人が今どんな顔をしているのか、今どんなことを考えているのか……分かるよ……。……ごめんね……』
真っ暗になった部屋の真ん中から……私の声と、サキの声が入り混じったような声が、聞こえてきた。……誰が私とサキに話し掛けているのかは、考えるまでも無かった。
「……この大嘘付き。……影のお化け達……私なんかより、ずっと良い子達だよ……。私……あの子達の額にペンライトをぶつけたり……足に懐中電灯をぶつけたりしたのに……全然、怒ってなかった。……逆に、私とハルが遊んでくれてるって、ずっと愉しそうに……笑ってた……」
サキが、悲しげな声で……その『声』に応えた。
『そうみたいだね……私も知らなかったよ。……私がちゃんと話したら、分かってくれた』
何を、とは……『声』は言わなかった。
「本当に……それでいいんだね?」
サキは『声』に尋ねる。
『……悲しまないで。これは、私が……ううん、今は違う……【私達】が望んだこと。【私達】が願ったこと。だから貴女達のせいでも……【私達】をここに置き去りにした人間達のせいでもない……。……そうなる時が来たというだけ。物はいつか、壊れるものだから』
……私は……。
「だけど……この鏡は、死んでしまったわけじゃない……!! ちゃんと、ここにあるっ!!」
『……ハル……』
悲しげな『声』が、私の名前を呼んだ。『どうか、分かって欲しい』と私に訴えるように。
暗くてよく見えないけれど……サキも、悲しい顔をして私を見ているように感じる。
「……私はもう、ユイには会えない……ユイはあの日……死んでしまったから。……だけど、貴女は違う……死んでなんかない……!! ちゃんと、ここにいるのに……っ!! ちゃんと……物を映せるのに……っ!!」
今は暗くなってしまって見えなくなってしまったけれど。
暗闇の中で、何も映さなくなってしまったけれど。
あの大きな、澄んだ鏡面のまま……確かに、そこにある。
いなくなってしまったわけじゃない。死んでしまったわけじゃない。
ちゃんと……そこにある。ちゃんと……ここにいる。
『ハル……もういいんだよ……ありがとう。最後に【私達】が映せたのが、貴女達二人で……本当に良かった』
「────っ!!」
そう優しい声で伝える『声』に、私は……言葉を失う。
『サキも……勝手に姿を借りて、貴女のフリをしてごめんね。影達も、いろいろぶつけられて痛かったけど、貴女に遊んでもらえて嬉しかったって言ってるよ』
「……そっか……。……なら、良かった……」
サキは、そう『声』に返した。
『声』も……そして恐らく、サキも……もう、覚悟を決めている。
「………………」
覚悟が出来ていないのは……私だけだ。
だけど、私は……。
……それでも……私は……!!
カランカラン……。
──不意に、何かが床に落ちる音を聞いた。
「……? ハル、何か床に落としたみたいだよ……って、え……!?」
「……え? ……コトワリさまの……タチバサミ……!?」
私とサキが、床に落ちた物を見て……同時に驚いた顔をする。
それは……私がうさぎのポシェットに入れていたはずの、コトワリさまのタチバサミだった。
そのコトワリさまのタチバサミが、どういったわけか独りでに床に落ちていて……
……白い光に包まれて……淡く光っていた。
「えっと……コトワリさま? ……ハルにそのハサミを使って欲しいってことなのかな?」
サキがしゃがみ込んで、コトワリさまのタチバサミを見る。ほのかに光るタチバサミの光で、不思議そうな顔をしたサキの顔が照らされている。
「私が触ったら絶対にコトワリさまが怒るだろうから……ハル、拾ってみて。何か、コトワリさまに考えがあるのかもしれない」
といってもハサミでどうするのか、よく分からないけども……とサキが首を傾げる。
「う、うん……分かった……」
私は、その微かに光るコトワリさまのタチバサミを拾い上げる。
──一瞬後、赤黒い……禍々しい光が、部屋の中心に灯った。
「…………っっ!?!?」
驚いてその赤い光の方を見た私は……絶句した。
「な、何!? どうしたの、ハルっ!?」
そんな私の様子に、慌てた様子でサキが私に聞く。
……だけど、私はサキに答えることが出来なかった。
『あの夜』に見た……忘れもしない、あの禍々しい赤い糸が……まるで繭を作るように、あの大きな鏡を包み込んでいた。赤黒い禍々しい光は、その赤い繭が光っているものみたいだった。
……蜘蛛は、巣に捕らえた獲物を自分の糸でぐるぐる巻きにしてからゆっくりと食べたり……後で食べるために保存したりするっていうけれど……それと同じくらい、あの赤い糸でぐるぐる巻きにされた、鏡。
……まるで、どこにも逃がさないというかのように……赤い糸で何重にも巻かれた、鏡。
「──助けなきゃ……!!」
私は、自然とそう口にしていた。
コトワリさまが、そうして欲しいと私にお願いしたというのもある。
あの赤い糸が、紛れもなく……『あのお化け』のものだからというのもある。
他にも、いくらでも、そうすべき理由は見つけられる。
……だけど、これは……私が心から、そうしたいと願うから。
心から……助けたいと願うから……!!
「ハルっ?! どういうことっ!? 何をするのっ!?」
突然駆け出した私の後ろで、サキが訳が分からないと慌てた様子で声を挙げる。
きっとサキにはあの赤い糸も、あの禍々しい赤黒い光も、見えていないんだと思う。
『ハル? 何を──』
きっとそれは……あの鏡像のお化けも、影のお化け達も同じこと……!!
「今……助けるから……っ!!」
私は、その赤い繭を破るために、コトワリさまのタチバサミを、繭に突き刺す──
──その瞬間、赤い糸で出来た繭がぱっと弾けた。
「っ!?」
別に衝撃を受けたわけでも、顔に糸が絡みついたわけでもないけれど、その光景に思わず私は尻餅を付いてしまう。
何重にも巻かれた大量の糸が、バラバラになって鏡からずり落ちていき……だんだん薄くなって消えていく。
赤い繭が無くなったことで、赤い繭と共に鏡を包み込んでいた、赤黒い禍々しい光が、だんだんと消えていく……。
「や、やった……!!」
それが具体的に何を意味するかまではその時は分からなかったけれど、その光景に呆気に取られつつも、鏡を包んでいたあの赤い糸が消えていくのに対して、私はそう呟いていた。
・
・
・
「──ありがとう、ハル。……これで、この鏡はもう大丈夫だよ」
────不意に、とても懐かしい声が、後ろから聞こえた。
「────え?」
────それはもう、聞けなくなったはずの、声。
「ハル。『あいつ』はハルとコトワリさまがやっつけてくれたけど……『あいつ』の遺した『糸』が、まだいろんなモノを苦しめてる。いろんなモノを……縛り付けてる」
────聞き間違えるはずがない……紛れもなくそれは『あの夜』、必死に捜し続けた、声。
「──私にはどうすることもできないけれど……ハルには、それを『断ち切れ』る……」
────『あの夜』、いなくなってしまった、声。
「──だから、お願い……。……助けてあげて、ハル」
・
・
・
「──ユイっ!!」
私は弾かれたように、振り向く。
そこには……真っ暗な空間が広がっているだけで……誰も……何も、無かった。
「は、ハルっ!? 大丈夫っ!?」
慌てた様子でサキが私の元へ駆け寄ってくる。真っ暗闇の中だけれど、暗闇に目が慣れ始めたから、サキの慌てた顔がぼんやりと見える。
「……サキ……?」
「びっくりしたよ……いきなり走り出すんだから……!! 良かった、鏡を壊しちゃったわけじゃないんだね……!! ハルが早とちりで自棄になって鏡を壊そうとしたんじゃないかと思ってひやひやしたよ……!!」
ほっとした様子のサキが、そう言って暗闇の中の鏡を見て……──
「……えっ!?」
──呆気に取られた声を挙げた。
どうしたんだろう、と私がサキの視線を追って、そちらを見ると……──
──あの大きな鏡が、暗闇の中で……光ってる……!?
『……そうだ……!! 【私】は……【私達】は……っ!!』
──そしてその鏡から、『声』が聞こえた。
先程の悲しみに沈んだ声とは全然違う……驚きと、喜びに満ちた……とてもとても、嬉しそうな『声』。
光は鏡面一杯に溢れんばかりに満ちると……ぱっと部屋一面を明るくするくらいに、弾けた。
「────っ!?」
「うわっ!? な、何っ!?」
その眩しさに堪らず、私とサキはほぼ同時に手で目を覆った。
目をギュッと瞑って、更にコトワリさまのハサミを持ったままの右手で目を覆っても眩しくて堪らないくらいの、眩い光が、部屋一面に満ちて……だんだんと、元の真っ暗な部屋に戻る。
「……き、消えちゃった……?」
「な、なんだったの……?」
私とサキは、突然の眩しい光に頭がくらくらになりながら……また真っ暗になってしまった部屋で、呆然としていた。
いつの間にか、鏡の光も……淡く光っていたコトワリさまのハサミの光も……消えてしまっていた。