「おーいっ!! 何があったのっ!? ねぇってば……っ!!」
サキが慌てた様子で何度も鏡に向かって声を掛けるけど……鏡像のお化けも、影のお化け達も……返答はしてくれなかった。
あの後……一体何があったのかと、私とサキは鏡に呼び掛けたけれど、『声』はもうしなかった。私とサキは困ってしまって、きっと大丈夫だろう、とお互いに納得した上で、先程消してしまった四つの室内灯を全て点け直した。
これなら、鏡像のお化けや、影のお化け達が鏡から出てきてもいいはずなのに……まるで出てくる様子も無ければ、声も、笑い声もしなかった。
「どうしようサキ……もしかして、私……」
そんな様子に、私はあることに思い当たってしまう。
『あの夜』……あの場所で出会った『あのお化け』も、直接コトワリさまのタチバサミで傷付けたわけでもないのに、赤い糸を全て切ったら、大きな悲鳴を挙げてバラバラになって……真っ暗な深い穴の底へ落ちていった。
なら……赤い糸で繭のように包まれていた、この鏡は……。
もしかして、私があの赤い糸を切ったから……鏡像のお化けと、影のお化け達は……。
「違うよハル……っ!! ……だって、ハルがコトワリさまのタチバサミで切ったのはあの鏡じゃなくて、ハルに『視えて』たっていう、その変な糸でしょ!? ほら、鏡には傷一つないよっ!?」
そう言って、サキが傷一つない鏡を懐中電灯で照らして私に見せる。
「それに……コトワリさまのタチバサミが床に落ちたのは、ハルがあの鏡のお化け達をどうにかして助けてあげたいって強く願った時だったんでしょ?その思いに応えてくれたから、コトワリさまが力を貸してくれたんだろうし……そのコトワリさまが、ハルが助けようとした鏡のお化け達を消し去るなんてこと、するはずがないよ……!!」
サキは慌てたようにそこまで言うと、一つため息を付いた後、落ち着いた声で、私を諭すように話す。
「だから……大丈夫。私はその赤い糸も見てないし、コトワリさまが一体何をしたのか分からないけれど……きっと、コトワリさまが鏡のお化け達を助けてくれたんだよ」
「サキ……」
私は、サキから視線を外して、大きな鏡へと視線を向ける。
室内灯に照らされて……怪しくも、澄んだ鏡面を輝かせている、大きな鏡。
私と、サキの姿を鮮明に映している、大きな鏡。
サキが言う通り、鏡面には傷一つない。どこも、割れたり……壊れたりしていない。
ちゃんと……そこにある。ちゃんと……ここにいる。
「……あの時は、すぐに影のお化け達が襲って来たから、じっくり見るなんてできなかったけれど……すごく、綺麗な鏡……」
私は思わずそう呟いていた。鏡に映るサキはちょっと驚いた顔をした後、私の言葉に笑顔で頷いて同意してくれた。
「そうだね、こうして見てると、すごく綺麗で……素敵な鏡。ここで私達が壊しちゃうなんて、勿体無いよ。……きっと、この鏡を私達みたいに素敵だって思った誰かが、譲って欲しいって図書館に頼み込んでくるんじゃないかな? それがいつになるか、分からないけれど……きっと、そうなると思う」
サキはそう言って、鏡に映った私に笑って見せる。
「うん、そうだね……きっと、そうなるよ……!!」
私も笑顔で、サキの言葉に何度も頷いた。鏡に映った私も、笑顔で何度も頷いていた。
私とサキは、すぐに布を掛け直すのはすごく勿体無い気がして……暫くその大きな鏡で、いろんな顔をしたり、いろんなポーズを取ったりして、鏡に映った私とサキの鏡像で遊んでいた。
結局最後まで、鏡像のお化けも、影のお化け達も、鏡から出てきてはくれなかったけれど……鏡の中で笑う私やサキと同じように、あのお化け達も笑ってくれていたらいいなと……そう思った。
・
・
・
「……これでよし、っと」
──その後、鏡にお別れをして布を掛けて室内灯の明かりを消して、私が持った鍵の束を元通り事務室に返して……鏡像のお化けが運んでいたという、図書館の外に置かれた脚立をサキと一緒に元の場所まで運んで戻した私はそう呟くと、図書館の建物を振り返った。
図書館の中が鏡映しに見えていた時は全部閉まっていた窓は、私とサキが戻ってきたらちゃんと一つだけ、閉め忘れたように開いたままだった。サキが、「多分幻覚でそう見えてただけで、最初から開いたままだったんじゃないかな? きっと、あの子がガンガン叩いてたっていう窓がそれなんじゃない?」と言っていた。
「それにしても、本当に良かったの……? 室内灯も消して、布も被せてきちゃったけど……あのお化け達も、結局最後まで出てこなかったし……怒ってないといいけどなぁ……」
サキが、結局元通りにあの鏡をあの部屋の暗闇に置いてきてしまったことを心配してか、そんなことを呟く。私はサキに「大丈夫だよ」、と伝えて、続ける。
「確かに、またあの鏡は真っ暗闇の中に置いてきてしまったけど……だけど、きっとあの鏡も、あのお化け達も……待っていてくれると思う。あの鏡を素敵だって言ってくれる人が現れるのを。あの鏡を是非譲って欲しいって言ってくれる人が現れるのを」
「そうだね。まあ、もし私が大人になってもこの図書館に置き去りにされたままなら、私が図書館から譲ってもらおうかな……? ……いや、そのためにはちゃんとお金を貯めて、大きな家を建てないとだけど……」
「うん、きっとあの鏡もサキが貰ってくれたらすごく喜ぶよ!! ……でもいいの? そうしたら影のお化け達が、サキのお家で悪戯をしてしまうかも……」
私がちょっと意地悪にそう言うと、サキがちょっと困ったように笑う。
「そ、それはちょっと困るな……あの影のお化け達が喜んでくれるならそれでいいけど、何か壊されたりしたら……」
「…………あ」
「…………あっ!?」
サキの言葉に、私があることを思い出し……サキも少し遅れて同じことに思い当たったのか、しまった、という顔をする。
「あ……えっと……ハル? それに関しては私、多目的ホールでも言ったよね……? ショーケースや土偶を壊したのはコトワリさまなんだし、鍵の束を返し忘れたのはハルもわざとそうしたわけじゃないんでしょって……。だからハルは悪くないよ! 絶対っ!!」
俯いてしまう私に、サキが慌てたように私にそう言ってくれるけど……。
「でも私……図書館の人達や、土偶展の人達に、悪いことをしちゃった……」
このことだけは、サキがどう庇ってくれても、変わらない。サキは「……ハルって結構頑固だなぁ……」とすっかり困った様子で頭を抱えた。
鏡像のお化けにサキが言っていた通り、サキは多目的ホールで私にお説教なんてしていない。
あの時にサキに聞かれたのは「図書館の鍵の束……もう一つはハルが持ってるよね?」と私に確認するような問いだった。
私は、サキの姿をした鏡像のお化けには、鍵の束を持ったままだったことは話したし、そもそもあの鏡像のお化けは私が鍵の束を持ったままだったのを知っていただろうけど、本物のサキの方はというと、私がやたら夜の図書館に現れるお化けや、図書館の本来は入れない部屋に詳しいことに違和感を覚えて、図書館の泥棒騒動のあった『あの夜』、図書館に忍び込んだのが私だと気付いたみたいだった。
壊されていた人型の土偶に関しても、一番状態の良かった人型の土偶……つまり、『手と足と首のある物』だから、以前コトワリさまに襲われたことがあると話していた私が、コトワリさまに止むを得ず差し出してしまったんじゃないかとぴしゃりと言い当てられてしまった。
サキは「別にそのことでハルを嫌いになったり、ハルを責めたりはしないし、絶対に誰にも言わないから」とは言ってくれたけど……。
「ああ、そうだ……!! 多目的ホールで言い忘れてたことがあった!!」
どうしたものかと悩んでいた様子だったサキが、何かを思い出したようで顔を挙げると、ポンと手を叩いた。
「サキ、どうしたの……?」
私が疑問に思って聞くと、「あの土偶のことを気に病んでるハルが、安心できる話だよ」とサキが前置きして、話を始める。
「あの壊された人型の土偶……ハルも知っての通り、あの土偶展で一番状態が良くて、一番価値もある土偶展の目玉の土偶だったんだけど……あの人型の土偶が壊されていたことに対する主催者代表の人のコメントがいろんなメディアで取り上げられて、沢山の人に『神対応だ!!』って絶賛されてたんだよ!」
「か、かみたいおう……?」
私が聞き返すと、サキは「えーと、簡単にいうと、それだけ素晴らしい対応ってことだよ」と説明をしてから、続ける。
「ちょっとうろ覚えだけど……『あの土偶は、きっと町立図書館で起きたであろう、とても大きな災いを防ぐために身代わりになって壊れたに違いない。だからあの土偶が身代わりになってまで守ろうとした町立図書館を、訴えたり恨んだりするのはあの土偶の想いに反することだ』、みたいなことを言ったんだって。その代表者さんは、その人型の土偶が身代わりになったのが図書館じゃなくて、あの日図書館に忍び込んでたハルだとは知る由もないだろうけど……だけどもし、人型の土偶が身代わりになって守ったのがハルだと知ったとしても、同じように言ってくれたんじゃないかな?」
「そ、そうなの……?」
「うん、だからショーケースが割られたり、土偶が壊されていたことに関しては、土偶展の主催者側は一切図書館側を訴えなくて、事件のほとぼりが冷めるのも早かったんだ。主催者側は土偶展も再開したかったらしいけど、それに関しては町立図書館側が鍵の交換や、防犯対策、再発防止を徹底できなければ、申し訳なくてとても受けられないって断ってしまったらしいんだって」
そこまで説明すると、サキは「まあ、その割には窓閉め忘れてたけど……」と苦笑いする。
「ううん……ハルだけじゃない。もし、ハルがあの部屋でコトワリさまに殺されてしまっていたら……勿論ハルは死んでしまっていたし、それこそ取り返しのつかない大事件になっていただろうね。ハルのご家族の方や友達は勿論、沢山の人が悲しんで……ハルを殺してしまったコトワリさまも、悲しんでいる沢山の人達を見て『こんなはずじゃなかった……』って後からすごく後悔して悲しんだと思う。……だから、代表者さんが言うように、その人型の土偶は大きな災いを未然に防ぐために、ハルの身代わりになってくれたんだよ。人型の土偶は本来、人の身代わりとして、災厄を引き受ける役目があったって、その代表者さんも言ってたよ?」
サキの説明は、私の中にずっと残っていたわだかまりを、すとんと落としてくれた。
私は、自分のせいで土偶が壊れてしまったとばかり思っていたけれど、あの土偶のお陰で私は助かったし……サキがいうように、沢山の人や物、そしてコトワリさまが悲しまずに済んだんだ……。
私はうさぎのポシェットから、あの時、壊れてしまった土偶から出てきた、古い勾玉を取り出して、サキに見せた。あの時、なんとなく拾い上げて持ち帰ってしまって……それから、なんとなく私を守ってくれているような気がして、ポシェットに入れて持ち歩いている、いろんな緑色が混じったような不思議な……それでいて、綺麗な勾玉。
私がサキにそのことを説明すると、サキは「ぱっと見御利益があるかどうかいまいち分からないけど……ハルがそう思うなら、きっとそうだと思うよ」と頷いた。
サキがいうには、あの土偶展は全国各地で開催されていて、あの壊れてしまった人型の土偶も、可能な限り復元して、新しく逸話付きの目玉展示物として展示されるみたい。
私が引っ越しした先の街でも開催されるかは分からないけれど……その時は、ちゃんとあの壊れてしまった土偶に、きちんとお礼を言おうと思った。
・
・
・
「……美味しい! ハル、今日はありがとう。今日はたくさんハルに助けて貰ったし……ジュースまで貰っちゃって……」
「ううん、あのお兄さんも、『甘いのは苦手なんだ』って言って、私とサキにくれたジュースだから……」
「……『甘いものは苦手』……? あ……もしかして……」
「……? どうしたの、サキ」
「……いや、なんでもないよ」
──そしてサキと二人で歩く、図書館からの帰り道。
私とサキは、公園の前で不思議なお兄さんから貰った缶ジュースを飲みながら、二人で並んで歩いていた。帰り道にもお化け達がいるけれど、来る時と違って特別危険なお化けには会わなかったから、私とサキは上手くかわすことが出来た。
……ただ、途中……私とサキを吠え立てていた、一つ目の大きな犬のお化けにサキが投げた物が、鍵の束みたいに見えたのがすごく気になるのだけれど……。サキの投げた物は、一つ目の大きな犬のお化けが、嬉しそうに尻尾を振ってそれを咥えるなりどこかに持って行ってしまったし、サキを問い詰めてもはぐらかされてしまった。
「ハル。明日なんだけど、良かったらまたお昼から公園で会えない? 今日は眠いしもう帰るけど、話したいことがあるから。……それと、明日もまた、こうして一緒に歩きたいなって思うんだけど、駄目かな?」
不意にサキが、私にとっても嬉しい提案をしてくれたけど、私はそれに驚いてしまう。
「えっ!? いいの……!?」
慌てて聞き返す私に、サキが頷く。
「うん。結局、今日は私が一人で夜の街を歩いているのをハルに心配を掛けちゃったし、結果的に行って良かったと思ってるけど、図書館での一件は一歩間違えば私もハルも危なかったし……。私もまだまだだなって、今日は思い知らされたから……」
サキはそう言ってため息を付いて、「特に、あの大きな顔のお化けにはね……」と苦い顔をする。……大きな顔のお化け……思い当たるお化けは沢山いるけど、どれだろう……?
なんにしても、サキと一緒に夜の街を歩けるなら、私も嬉しい。
「私も、夜はサキと一緒に歩きたいなって思ってたんだ!! サキがそう言ってくれると嬉しいよっ!! ……それで、話っていうのは?」
「……誤魔化さなくてもいいよ、ハル……ずっと気になってるんでしょ? アヤメ達の……『白い髪のお化けの女の子達』のこと」
ドクン、と私の中で鼓動が跳ねるのを感じた。
「え…………?」
突然のサキの言葉に、私は何も返せずに、固まってしまう。
「……ごめんね、ハル。隠すつもりは無かったんだけど、アヤメ達がこの街にいたってことは、ハルに話さないと、ハルが危ないから……」
そう、どこか諦めたように、自嘲気味に話すサキは、私に構わずに、続ける。
「詳しくは明日話すけど……。アヤメ達は、以前私が住んでいた街にいたお化け。全員で六人いるんだけど……アヤメとキリはともかく、後の四人は見境が無いから……。もしかしたら、明日以降、夜の街で出くわすかもしれない。だから、何かある前に、あらかじめ話しておきたいんだ」
「………………」
どう返したらいいのか分からない私に、サキが続ける。
「まあ、大丈夫。神出鬼没なのと、やたらしつこいのが厄介なだけで、言葉を喋る以外は他のお化けと大差ないから。明日対処法を教えるから、それを守りさえすれば、きっとハルならあの四馬鹿くらいどうにでもなるよ」
そこまで私に言うと、サキは「あ、今日はここでお別れかな」と話を切り上げる。
気付けば、サキの住んでいる団地の近くまで戻ってきていた。
「缶ジュース、ご馳走様。それじゃ、またね。おやすみ、ハル。気を付けて帰ってね」
「あ……おやすみなさい、サキ」
そう言うと、サキは団地のある向こうの道へと走って行ってしまった。
「………………」
サキは、大丈夫だって笑っていたけれど……全然大丈夫そうな顔じゃなかった……。
・
・
・
「……やっとお家に着いた」
──サキと別れた後。途中の道で、揺れ動く大きな三つ目のお化けにちょっと追い掛けられたくらいで、危なげなくお家まで帰ってきたけれど……サキの話していた『白い髪の女の子達』のことが気になってしまって、そんなに歩いていないのに、いつもより帰り道が遠く感じた。
私はお家の中に入ろうと、お家の門の前の石階段を昇ろうとした時──
チリンチリン……
──背後で、あの鈴の音が聞こえた。
それと同時に感じる……私の身を突き刺すような……殺気。
「────っ!?」
私は慌てて、背後を振り向く。
『その鈴……サキから貰ったんだね』
そこには……あの『鏡映しの図書館』で出会った、アヤメと名乗った白い髪の女の子が佇んでいた。声が同じだったし、紫色の髪留めをしているから、多分間違いない。
あの時と違って、手には短刀を持っていないけれど……私は驚きのあまり、固まってしまう。
「貴女は確か……アヤメ……!!」
『良かった、覚えてくれたんだ。さっきぶりだね、ハルちゃん』
そう言って白い髪の女の子──アヤメはまるで先程感じた殺気が嘘のように笑うけれど、私は今自分が置かれている状況の悪さに、血の気が引いた。
『サキに聞いてなかったの? その鈴……【夜の民】が鈴の所有者を見つけて悪意を向けたり、所有者に対して危害になり得る意志に反応して鳴るから……敵意が無い【夜の民】や、敵意を上手く殺している【夜の民】には効果が無いの。さっきのは、ちょっと警告のつもりで殺意を向けただけだから安心して? 私はハルちゃんを襲うつもりは無いから』
……どうしよう……私のお家がここだって、バレちゃった……!!
「い、いつから……いつから私をつけてたの……!?」
『いつから……? ハルちゃんがやたら揺れ動いてる【夜の民】を避けて走って行った辺りからずっとだよ?』
「…………っ!?」
絶句する私に、アヤメが続ける。
『大丈夫。ハルちゃんのお家は、あの四人にも、【主様】にも教えるつもりは無いよ。ただ、他の子達にバレないように気を付けてね? 夜の間、お家に帰れなくなっちゃうよ? …この街に来る前のサキみたいに』
「な、何を言ってるの……貴女達は一体……!?」
ガラガラガラ……!
「うーーーーーーーっ!! わんわんわんわんっ!!」
「チャコ……!?」
後ろから、玄関の戸が開く音がして……チャコがお家から飛び出してくるなり、私の前に立って、アヤメを吠え始める。すごい勢いで吠えるチャコに、アヤメも少し驚いたように、僅かに後退る。
『……ああ、犬を飼ってるんだね。まだ小さいけど、とても勇敢だね』
吠え立てるチャコにそう言って微笑んだ後、私にもう一度顔を向ける。
『ハルちゃん。多分、サキも同じことを言っていたと思うけど、暫く夜の間はサキと一緒に行動した方がいいよ。あの子達が、【左腕の欠けた素敵な子】を見つけたって喜んでたから。私としては、ハルちゃんみたいな子がいてくれた方が助かるんだけど……サキとの約束だからね。まあ、ハルちゃんがあの子達に捕まったら……責任は持てないけど』
「────っ!?」
「わんわんわんわんっ!! わんわんわんわんっ!!」
『じゃあ、またね、ハルちゃん。それと……勇敢なチャコちゃん?』
それだけ言うなり、アヤメは私とチャコの目の前から消えてしまった。
「……なんなの……一体……」
その場に座り込んでしまった私に、チャコが吠えるのをやめて、心配そうにすり寄ってきた。
私は暫く……その場所から動けなかった。
〇いろいろなおもい、いろいろなオバケ
オバケにはそれぞれじじょうがあって、それぞれのおもいがあって。
だけど、オバケたちも・・・わたしたちと おなじなんだとおもう。
そういったおもいを、ときにはこころのおくに おしとどめて、
ときには、つよい、つよいちからに かえていく。
そうやって、あるいていく。そうやって、いきていく。
わたしは、かがみのおばけたちのおもいに、こたえられたのかな・・・?
あの、しろいかみのこたちは、なにをしようとしているのかな・・・?
サキは、わたしに なにをつたえようとしたのかな・・・?
それに、あのとき・・・まちがいなく、あのばしょにいた、ユイは・・・
(二行ほど、何か続きを書き掛けて、消しゴムで消した跡がある)
(鏡に映る、ハルとサキの絵。鏡の両隣に、ハルの影のお化けと、サキの影のお化けの絵)
(手に短刀を持ったアヤメの絵。矢印が引っ張ってあって、「なにもの?」と書いてある)
(ユイと、コトワリさまのタチバサミの絵)
〇三日目後書き
以上で三日目は終了となります。
やや暴走気味だった二日目に引き続き、ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
以下、三日目の裏話となります。興味が無ければ飛ばしてください。
・三日目全般について
実は登場するお化け含め、構想自体は二日目よりも先に出来ていました。
なんだか全般的に、勝手に喋らせてしまった影ハル(文中:「ハルの影のお化け」、もしくは「私の影のお化け」)、喋られるお化けが多かった気がしますが、毛玉すらペラペラ喋っているこの「再び夜は廻る」で喋れないのはあんまりかなと。
……まあ、四日目以降は少し自重します。……多分。
とある方から頂いた感想への返信にも書きましたが、この「鏡映しの図書館」は、「図書館にサブイベント無いし、こんな感じのあったらいいな」を形にした部分もあります。
といってもそのサブイベントとしては、ハルが鏡映しの図書館に迷い込んで、影ハル達を躱しながら、地階の鏡の間まで行って再度鏡を封じる→『遊んでくれて、ありがとう』と影ハルの声がして、鏡から何か貰う、というものだったので、大分元とは違います。鏡の世界が実は幻覚(その証拠に拾えるアイテムが元の図書館と同じ。鍵はこの作品と同じ理由で3章で拾った鍵を使えない)、というのは共通でしたが。
・オリジナルお化け達について
ハルが見た「長身の明かりを持ったお化け」は、三日目ではちょい役でしたが、後々深く関わってきます。
お化けのイメージとしては、「街灯+明かりを持って夜を歩く人」です。
今回は襲ってこなかったようですが、さて今後は……?
三日目でちらほら出てきた、「白い髪の女の子」達は、サキにとっては因縁のお化け達です。
実は、アヤメとキリ(ここまでは未登場)以外は喋らない設定で行こうかなと思いましたが、それだと原作の影ハルとダブるよなぁ、と……。
なので、四日目以降登場の子達もやたらめったら喋ります。
本文中でも出てきた通り、「復活」と「死に戻り」能力持ちです。原作ではハルやこともちゃんが駆使していた能力ですが(※あくまでゲームシステム上のことで、シナリオとは関係ありません)、折角ならそれを使うお化けがいても面白いかなと思ったのが主なコンセプトです。
扱いを間違えるとギャグ担当まっしぐらな能力ですが、そこはしっかり舵取りをしようと思います。
鏡像のお化けに関しては、三日目の構想を考え始めた当初は、影ハル(と、この作品中の影サキ)をまとめるリーダー的な悪役にするつもりでしたが、「なんか違うな……」と思い、このような形になりました。
一応、裏設定として鏡の正体まで考えていましたが、作中ではハルとサキはそれを知る術が無いので出ることは無いと思います。
・ハル視点とサキ視点について
この話を含める15話中、サキ視点が3話のみと随分配分が偏っていますが、後々サキ視点は増やしていきます。
既存のハル視点、もしくはサキ視点で語られた話を、もう片方の視点で書いた話を追加しようかなと思っている部分もありますが、やるなら本筋の完結後のおまけでもいいかなという認識です。
・四日目について
少々忙しくなるので更新が遅れるかもしれません。
なんとなく察しが付くと思いますが、次はあの場所です。