四日目(1)『事後調査(サキ視点)』
──次の日の朝。
「──……それじゃ、サキちゃん、悪いけどお遣い、お願いね? お昼はお父さんとお母さんは寝ているけど、サンドイッチを作っておくからそれを食べてね? 多めに作っておくから、良かったら昼から会うっていうお友達にもお裾分けしてあげてね」
お母さんは、お使いのメモと、お金を私に渡す。私はそれらをネコ耳のポシェットに入れる。
「車には気を付けるんだぞー……」
部屋の奥から、欠伸混じりのお父さんの間延びした声が聞こえてきた。普段はしっかり者で元気の有り余っているお父さんも、朝方でへとへとに疲れて帰ってきた時ばかりはこんな調子だ。私もお母さんも、そんなお父さんの声にちょっと笑ってしまう。
「お夕飯はサキの好きなカレーよ? サキがお肉を買い忘れると、お肉の少ないカレーになっちゃうから、絶対に忘れないようにね?」
「うん、分かった!! じゃあ、行ってくるね!!」
私はお母さんに手を振ると、玄関の扉を閉めた。
「……図書館と、商店街……」
私はしっかり履けていないままだった靴を、つま先をトントンしてしっかり履き直すと、午前中に行く目的地の名前を呟く。……どちらも私が昨夜行っていた場所だなんて、お父さんとお母さんは夢にも思わないだろう。
ハルと待ち合わせをしているのは、お昼過ぎ。どちらも午前中に済ませてしまおう。
私は欠伸をしながら大きく伸びをすると、気を取り直してお日様の昇った、朝の街へと駆け出す──
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──昨日、『よまわりさん』に追い掛けられた、踏切手前の橋。
「…………あれ?」
橋を渡り終えた辺りで、踏切の前で工事用のトラックが止まっていて……作業服を着た工事のおじさん達が、踏切の警報機を取り外している所を見る。
「おはようございます」
私はその様子に首を傾げながらも、踏切の手前にいた工事のおじさんに挨拶をする。工事のおじさんは「おや、おはよ……」と言い掛けて、私に驚いた顔をした後、「ああいや、おはよう」と挨拶を言い直した。
「ごめんよお嬢ちゃん、邪魔しちゃったかな? おーい、こっちのお嬢ちゃんが通るから、ちょっと退いてあげてくれ!」
工事のおじさんは、他の作業服の人達に声を掛ける。作業服の人達は、口々に私に挨拶をしてくれて、道を開けてくれた。私も挨拶を返してから、お礼を言う。
「ありがとうございます。……えっと、踏切……壊しちゃうんですか?」
私はさりげなく、気になっていたことを工事のおじさんに尋ねる。
「ああ、そうだよ。この踏切の遮断機と警報機は、この線路が廃線になってからはずっと使われてなかったんだが、以前から夜中に独りでに警報機が鳴り出して気味が悪いって苦情が相次いだらしいんで、おじさん達が撤去することになったんだよ」
「……え?」
工事のおじさんが言っていることが一瞬理解できず、私は固まってしまう。
もう、使われてない線路……?独りでに、警報機が鳴り出す……?
そんなはずない……だって昨夜、この踏切が『よまわりさん』を足止めしてくれて、私は『よまわりさん』から逃げ切ることが出来た。
それに、夜じゃなくても、何度か遠くで電車が通る音や、この踏切の警報機の音を聞いた。
なのに……もう……使われてない……!?
じゃあ……昨日、鳴り出した警報機と……降りてきた遮断機は……!?
「ちょっとタケさん駄目ですよ!! 小さな子にそんな話したら怖がっちゃいますよっ!!」
作業服を着たお兄さんが、慌てた様子でそう言いながら、私とおじさんの間に割って入る。おじさんも「おっと、いかんいかん」と、しまった、という顔をする。
「怖がらせちゃったならごめんよ? このおじさんの言ってたことは気にしないでいいから」
そう言いながら、私の前でしゃがみ込んで優しく笑うお兄さん。多分、私が怖がって固まってしまったんじゃないかと心配したんだと思う。
「は、はい……」
「ほら、危ないから、早く渡りな?」
私は、作業服のお兄さんに半ば急かされるようにして、一緒に踏切を渡った。
ちらりと、まだ撤去されていない、反対側の警報機を見ると……確かにどことなく、今にでも鳴り出しそうな……異様な存在感があった。
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──そして、町立図書館。
「……あった、『図書館の泥棒騒動』の記事……」
私は、一ヶ月前までの新聞を置いてある棚から、あの『図書館の泥棒騒動』の書いてある日付の地域新聞を取り出す。
大体の日付は覚えていたし、私の思った通り、見出しにはでかでかとあの『図書館の泥棒騒動』が大きく取り上げられていたので、棚から探すのもさほど苦労はしなかった。
私は机にその新聞を持ってくると、普段お父さんがやっているように、机に広げる。図書館で読書をしている人達から、ちらちらと不思議そうに私を見る視線を感じるけれど、別にお化けに狙われているわけではないから気にしないでおく。
「『歴史的土偶に一体何が……!? 土偶展開催中の町立図書館に魔の手!!』……か。……うーん、ハルが見たらショック受けそうな見出しだなぁ……」
見出しを見てそんな感想を抱いた私は、新聞のページをめくる。
今日調べに来たのは……もっと別のこと。
“何故あの日、ハルは夜の図書館に忍び込まないといけなかったのか”。
大した問題じゃなければ、別にそれでよかった。ハルに聞くまでもないし……私の考え過ぎだというだけで、済むから。
だけど……昨夜、図書館に忍び込んだのがハルだったということを知って……気付いてしまったことがあった。
この街に引っ越してくる前、お父さんが驚いた様子で「これ、引っ越し先の街じゃないか!?」と言って私とお母さんに見せた、『図書館の泥棒騒動』の取り上げられた新聞の片隅に、まるでその事件に隠すように書かれていた、同じ街で起きた二つの事件。
「……あった、これだ」
地域新聞でも同じように、『図書館の泥棒騒動』が大きく報じられている反面、その二つの事件は、小さな見出しで書かれていた。
『一体何が……!? 小学生児童が意識不明の重体』
『将来を悲観し自殺か……不明児童、自宅裏の山で遺体で発見』
「……性別や名前は書いてないけど、どちらも私とハルと同い年……。意識不明で見つかった子は腕に大怪我……。間違いない……ハルのことだ」
やっぱり実名では報じられていなかったけれど、意識不明で見つかった子は、身体のいたるところに、擦り傷や切り傷……そして何より、腕に鋭利な刃物が用いられたと思われる大怪我を負っていた、と記事に書かれていた。これは間違いなく、ハルのことで……ハルが左腕を失ったのは、多分この事件の時だ。
そして、ハルが見つかったのはあの山の入り口の階段……行方不明になっていた子が遺体で見つかった山と同じ場所。
……コトワリさまの神社がある、あの山。
図書館に忍び込んだ後……あの山の入り口で早朝、左腕を失って倒れていたハル。
同じあの山でその日の夕方、遺体で発見された……ハルや私と同い年の、行方不明の子。
先日、コトワリさまの神社を見つけるために山に入った私が見た、『いのちをたいせつに。』と書かれた看板と、『山で声が聞こえたら、無視して山を降りること』と書かれた看板……。
「──…………ダメだ」
私は新聞を元通り畳むと、新聞の置いてある棚に戻す。確認したいことは、もう終わった。
だけど、これに関しては、もう終わり。これ以上は……踏み込んじゃいけない。
これがあの山に潜む、コトワリさまとは違う『恐ろしいナニカ』への手掛かりだとしても。
これ以上、この事件のことを調べるのは。ましてやこの事件のことをハルに尋ねるのは。
ハルの辛い過去を、こじ開けること。ハルの心を、踏みにじること。
……あの山にだけは、絶対に近付かない方がいい。それが分かっただけで、十分だ。
図書館の泥棒騒動があった夜……ハルは図書館を訪れた後、あの山に行き……そこで『何か』に巻き込まれて、左腕を失った。
ハルがその夜に外を出歩いて、図書館に忍び込んだり、山に入ったりしてまで探していたのは多分、前日から行方不明になっていた子で……その子はあの山で自ら命を絶って、死んでしまっていた。
──……そして恐らく、その子の名前は……
「…………あれ?」
……ふと、その棚に置いてある新聞の中で一つだけ、ちゃんと畳まれずに、乱雑に置かれた地域新聞に目が留まる。
ちゃんとしまわないとダメなのになぁ……と、ちゃんと読んだ後の後始末をしなかった誰かさんに呆れながら、その地域新聞をしっかり畳み直そうと、一旦新聞を広げる。日付からして、今朝の朝刊みたいだった。
丁度その時、気になる記事を見掛けてしまって……私はその手を止めた。
「……この街で……旅行者が行方不明……?」
『消えた青年グループ。荷物を置いたまま外出し、宿泊先の民宿に二日間戻らず』
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「おやサキちゃん、こんにちは!! 今日もお遣いかい? えらいねぇ!!」
「こんにちはおじさん! 今夜は、お母さん手製のカレーなんです」
「そうかいそうかい! じゃあちょっと待ってな? おじさんが特別に良いお肉を選んであげよう!」
──図書館の近くにある、商店街。
行きつけのお肉屋さんで、お遣いで頼まれていたお肉を買う。すっかり顔馴染みになった、お肉屋さんのおじさんに、ちょっとだけお肉をおまけしてもらった。
「ありがとうおじさん!! ……ところで……向こうの八百屋さん、何かあったんですか?」
普段の私なら、これでカレーのお肉が豪勢になる!……と喜んでいる所なんだけども……どうしても気になってしまったことがあって、そことなく、お肉屋さんのおじさんに聞いてみる。
というのも……一生懸命にお店の前をおじさんとおばさんが掃除している、向かいの八百屋さんのことだ。お店の前の地面も、お店のシャッターも、お店の看板も……大雨が降ったみたいにぐっしょりと濡れている。
……私の記憶が確かなら、あれは多分……──
「ああ、八百屋さんのことかい? なんでも、朝お店のシャッターを開けようとしたら、お店の前とシャッター、おまけにお店の看板にとんでもない悪戯をされてたらしくてね……あまりにも酷かったんで、実はおじさんもついさっきまで、八百屋さんご夫婦の掃除をお手伝いしてたんだよ?」
「と……とんでもない悪戯……?」
私は顔に出ないように注意しながら、お肉屋さんのおじさんに尋ねる。
……これに関しては私は無関係ではないから……反省する意味でも、ちゃんと聞こう……。
「それが酷い有様でね……大量に赤黒いペンキのようなものがぶちまけられていたんだよ。商店街の外れにある、青と赤の狛犬にも以前から同じような悪戯があったから、使われた塗料からして、それをやった奴と同一犯の仕業じゃないかと商店街のみんなはかんかんさ。向こうのタバコ屋さんと、酒屋さんのシャッターも朝見たら何かで引っ掻いたような傷が付いてたっていうし……。まったく……お客さんのいない朝方に粗方掃除できたからいいものの、あんなのをお客さんが見たら、商店街からお客さんが逃げちまうよ!」
「う…………」
思い出しても腹が立つ!!……と顔を真っ赤にしてそう怒るおじさんと、背後で「まったくだ……」、「困ったもんだねぇ……」と大きなため息を付く八百屋さんご夫妻に、私はとても申し訳ない気持ちになる。それと同時に、両手の手のひらと、左の膝の擦り傷がズキズキと痛む……。
シャッターの傷については分からないけども……八百屋さんをお化けの血塗れにしたのは、コトワリさまか、ハサミのお化けのどちらかだけど……その『コトワリさま』を呼んだのは私だから、紛れもなく私のせいだ。
「……おっと!! ご、ごめんよサキちゃん! 恐がらせちゃったかな……? サキちゃんに怒ったわけじゃないからね? おじさんや八百屋のご夫婦が怒ってるのは、酷い悪戯をした犯人に対してだからね……?」
いきなり怒鳴ったから私が恐がったのだと思ったのか、八百屋のおじさんが怒った顔を一転、慌てて青い顔をしてニコニコ笑いながら私にそう伝える。……おじさん、その怒ってる相手だという酷い悪戯をした犯人、目の前にいるよ……。
その後、恐がらせてしまったお詫びにと、お肉屋さんのおじさんからお駄賃を貰ったけれど……私の心境は複雑だった。普段はとても優しいお肉屋さんのおじさんが、あんなに顔を真っ赤にして怒るなんて……。
私は昨夜のことを反省しつつ、あのお肉屋さんのおじさんを怒らせるようなことは絶対にしないでおこう、と思った……。
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「あったあった、私のペンライト」
──商店街からの帰り道。
私は、昨夜の帰りと、今朝の行きに拾うのを忘れていた、駐車場のペンライトを拾うと、ポシェットに入れ直した。
その周囲の地面には、何かを引き摺ったような跡が沢山ついている。……多分、昨夜見かけた、大きな鉈を持ったお化けが、鉈を引き摺って付けた跡かな……?
……そうか。時々夜の街で見かける、火のついたタイヤのお化けが通る道に、タイヤの跡が焼き付いているのと同じで、あのお化けのいた場所は鉈を引き摺った跡が残るのか……。だけど、昼間の明るいうちでも、注意して見なければまず気付けない。昼間のうちに鉈を引き摺った跡を見つけて、あの鉈を持ったお化けの出る場所を把握するのは難しそうだ……。
「それにしても、鉈か……。……確か、振り回してるのがいたなぁ……」
ふと、私は『巫女』のうち、笑いながら鉈を振り回している奴がいたことを思い出す。
キリやアヤメと違って、後の四人の名前は知らないけど……アヤメの次くらいに足が速くて、私が全力で逃げてもなかなか振り切れないから、四馬鹿の中では一番見つかると厄介だった相手だ。
まあ、一番厄介なのは紛れもなく……“その気になったアヤメ”だけども。
「……ハルに会ったら、ちゃんと説明しないと……」
……アヤメ達、『巫女』のことを。
アヤメ達が、他のお化けよりも厄介で……危険なお化けである、その理由を。
『その子には私達のこと、話した方がいいよ。私から見ても、その子はとても魅力的だから……きっとあの子達なら、その子を【主様】の所へ連れて行こうとするよ?』
「……アヤメに言われなくたって……そんなこと、絶対にさせない……」
昨夜、図書館で出会ったアヤメに言われた言葉を思い出した私は、モヤモヤした気持ちを足元の小石にぶつけて、小石を蹴飛ばした。
私は今朝、工事のおじさん達が警報機を取り壊していた、踏切まで戻ってきた。
もう作業は済んだみたいで、踏切からあの警報機が無くなっていた。工事用のトラックも、工事のおじさん達の姿ももう無かった。
「…………あれ?」
私は、警報機の無くなった踏切に、遮断機が残っていることに気付く。
工事のおじさんがいうには、苦情が出ていたのは警報機の音の方だから、確かに遮断機は関係ないけれど……遮断機もついでに取り壊してしまうものだと思っていたから、遮断機が残っていることに違和感を感じた。
──……これじゃ、まるで……“遮断機はまだ必要だから残しておいた”みたいだ……。
「……やっぱり大人って、ずるいなぁ……」
私はため息を付いて……踏切に残された遮断機を見上げた。
──……知っているのに、知らないフリをして。
──……気付いてるのに、気付いていないフリをして。
──……見てしまっているのに、見ていないフリをして。
そうやって、無理矢理お化けなんていないことにして、やり過ごそうとする。
だけど、危険なことはちゃんと知っているから、大人達は夜の街は出歩かない。
夜の間、特に危険な場所には……大人達は昼間でも絶対に近付かない。
それなのに……私の言うことは、一切信じてくれない。
はぐらかそうとしたり、誤魔化そうとしているのは目に見えてるのに。バレバレなのに。
そのことを訴えると……いつだって大人達は不機嫌そうな顔をして私を追い払ったり、私を怒鳴りつけたりする。酷い時には、「親の教育がなってない」って……何も悪くない、私のお父さんとお母さんのせいにする。そうすれば、私が何も言えなくなってしまうことを知っているから。
怒りたいのは、私の方なのに。
知らないフリをして。気付かないフリをして。見ていないフリをして。
……そうやって、いつも何もしてくれないどころか……逆にやってはいけないことを平気でする大人達を怒りたいのは、私の方なのに。
「……やっぱりこの街も……同じなのかな」
ハルのおばあさんの話を聞いた時、この街の大人達は、あの街とは違って私の話を信じてくれるかもしれない、と思ったのに……今朝会った工事のおじさん達や、商店街のお肉屋さんのおじさんの話を聞く限り……この街もやっぱり、同じみたいだ。
この街の大人達は、あの街の大人達と一緒で……大嘘付きだ。
私は沈んだ気持ちで踏切を渡って、橋の方へ歩き出そうとして……ふと、昨夜のことを思い出して、踏切に戻ると、遮断機を見上げる。
「昨日はありがとう。あなた達のお陰で、『よまわりさん』に攫われずに済んだよ」
私は、結果的に『よまわりさん』から私を救ってくれた遮断機と、この踏切からいなくなってしまった警報機にそうお礼を言ってから、橋の方へと歩き出す。
歩き出した私の後ろで、風も大してないのに、遮断機が少しだけ、ギィ……、と音を立てたような気がした。
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「……ただいま」
──そして、この街で私が、お父さんとお母さんと三人で暮らし始めた、団地の一室。
私はお父さんとお母さんを起こさないように小さな声でただいまを言うと、お父さんのいびきと、お母さんの寝息が聞こえる部屋の横を静かに通り過ぎる。
リビングのテーブルの上に、お釣りとレシートを置いて、台所の冷蔵庫の中にお肉を入れておく。冷蔵庫の中に、お母さんが作っておいてくれたサンドイッチも見えたけれど、まだお昼には早いので、私はお茶だけを飲んだ。
ハルとの待ち合わせの時間には、まだまだ時間がある。ちょっとゆっくりできそうだ。
「あ……しまった」
ふと、一つだけやり残していたことを思い出して……私はポシェットの中から、折り畳み式の手鏡を取り出す。
これは昨夜、図書館の多目的ホールで影のお化け達に襲われた時、私が手に取って閉じて……そのまま、持ち帰ってしまっていた手鏡だ。
私は手鏡を開いて、鏡に映った自分を見る。勿論、なんの変哲もない普通の鏡だし……ましてや影のお化け達や、鏡像のお化けが現れる気配もない。
あの時は幻覚で鏡映しに見えていたけれど……今改めてみると手鏡にあるロゴは正常で、決して別世界で拾ったものではなくて、普通にあの部屋に誰かが忘れていった忘れ物であることが分かる。
本当は昨日、帰る時に元の場所に戻すか……今朝、図書館に行った際に落とし物として届けておくつもりだったのだけれど……。
私はリビングの時計を見る。……今からまた図書館に行けなくはないけれど、少し急がないとハルとの待ち合わせの時間に遅れてしまうかもしれない。
「仕方ない……明日また図書館に行って届けよう……」
私はため息を付いて、手鏡を元通り、ポシェットに入れ直した。