──夜の町立図書館の不思議な出来事の後の、次の日の朝。
「わんわんっ!」
「おはよう、チャコ」
私はチャコにだけおはよう、と朝の挨拶をしてから、パジャマから着替えを始める。
チャコはいつも私より早起きで、私が起きる頃にはもうベッドの脇でちょこんとお座りをしている。あまりにも早起きだから、以前「チャコは寝てないんじゃ……?」と私が心配してしまったほどだ。それについては『チャコちゃんもちゃんと寝てるから大丈夫だよ? ハルちゃんが起きるタイミングが分かるってだけじゃないかな?』と毛玉がやんわりと否定してくれたから安心したけれど。
毛玉はというと、朝はほとんど丸まったまま動かない。お日様が昇っている間は動けないわけではないみたいだけれど、それでも夜の間ほど動かないし、話し掛けてもこない。毛玉は『朝は弱いんだよ……』と話していたけれど……。
「……これでよしっと……」
左腕が無くなってから大変になったことはたくさんあるけれど、服の着替えもその一つ。それでも、パジャマから着替えるくらいなら、自分一人で出来るようになった。髪を編んで結んだり、リボンを結んだりするのはお母さんかおばあちゃんに手伝って貰わないと無理だけど……。
着替えを済ませた私は、部屋の壁に掛けてあるカレンダーに歩み寄ると、鉛筆で昨日の日付にペケ印を付ける。
八月のカレンダーは、もうすっかりペケ印だらけだった。
「………………」
もうすぐ……この街から引っ越ししないといけない。
私の左腕のことで一度は予定日が伸びたけれど、これ以上はお父さん達のお仕事の都合もあるし、私も引っ越し先の街にある小学校に二学期から通うことになるから、これ以上は先延ばし出来ないみたい。
私はペケ印だらけになってしまった日付の中で、どうしてもペケ印が付けられなかった、私のメモ書きと、花丸の添えられたその日付を見る。
『ユイと花火を観に行く日!』
引っ越しの日が近付く中で……それでも楽しみにしていた、ユイと隣街の花火を観に行く約束をしていた、あの日。
──ユイと“離れ離れになってしまった”……『あの夜』。
「……“『あのお化け』の遺した糸”が……まだ多くのモノを苦しめてる……」
あの鏡を包んでいた禍々しい赤い糸が弾けた後に、私の背後から聞こえた声。
聞き間違えるはずがない……あれは確かに──ユイの声だった。
だけど……ユイは『あの夜』からは一度も私の前に現れたり、私に声を届けたりはしなかった。だから私は、どうしても昨日の夜、あの場所でユイの声を聞いたという実感が湧かなかった。
──街外れにある廃屋。
──『あの夜』、山に向かうために通った地下水路と、ダム湖。
──コトワリさまにタチバサミを返そうと立ち寄った、コトワリさまの神社。
──『あのお化け』に出会った、あの山奥の洞窟。
──そして……こともちゃんと知り合うきっかけになった、隣街。
いろんな場所へ行った。
『あの夜』には訪れなかった場所にも行った。
だけど結局……何処に行ってもユイには会えなかった。
今思えば、ユイ自身がそうしたんだと思う。
お化けになってしまったユイを見て……私が悲しむことがないように。
……“あのトンネルの前”で、こともちゃんが私を呼び止めてくれなかったら……私は、どうなっていたんだろう……。
机の上に置いてある、私の絵日記。
結局、書きたいことが多過ぎて、書きかけで終えてしまった昨日の分の絵日記の片隅には、私の描いたユイの絵が添えてある。
「ねぇ……あれは、本当にユイだったの……?」
私はぽつりと……絵日記の中のユイに向けてそう呟いた。
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──そして、サキと約束をしていた、お昼過ぎ。
「……あれ?」
私は何気なく、サキと待ち合わせをしている公園に行く途中にある、掲示板を見ると……昨日までは無かった、ポスターが三つ貼ってあるのに気付いて足を止めた。
何かの催しの案内かとも思ったけれど……そのポスターには大きく『行方不明者の情報求む』と書かれていた。
「──『旅行者の男性三名が行方不明になっています。心当たりのある方は以下の電話番号に……』……これって……」
──小学生の女の子が、行方不明になっています。心当たりのある方は……──
ポスターに書かれた行方不明者、という単語に、『あの夜』に見た、ユイの写真が載っていたあのポスターのことが頭に過ぎる……。
だから私はどうしても気になってしまって……そのポスターをじっくりと見るために、掲示板に歩み寄った。
行方不明になっているのは、昨日の夜に出会った不思議なお兄さんと同い歳くらいの、三人の大学生のお兄さん達みたい。昨日出会ったお兄さんの写真は無かったから、昨日のお兄さんが行方不明になったわけではないみたい。
だけど……そのポスターに小さく書かれた文字で、私の嫌な予感が当たっていたことに、私は気付いてしまった。
「……『夜に民宿から三人で外出した後民宿に戻らず、行方が分からなくなっています』……。そんな……この街の夜のお外は、とても危ないのに……」
多分、そのお兄さん達はお化け達が見えなかったんだろうけど……それでも夜に出歩けば、何があってもおかしくない。危険なお化けに襲われてしまったんじゃなければいいんだけど……。
「……このお兄さん達は、無事だといいな……」
私はポスターから目を離して、サキと待ち合わせをしている公園へと歩き出した。
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──暫く歩いていると、サキと待ち合わせをしている公園が見えてきた。
「あっ」
みると、丁度サキも公園に今来たところみたいで、公園の入り口のところに立っていた。
私が手を振ると、サキもこちらに気付いたみたいで、私に手を振り返してくれた。
そんなサキの様子に私は少しだけほっとする。昨日の夜の別れ際、サキは全然元気が無かったから……今日も暗い顔のサキのままだったらどうしようと少し心配だったから。
公園の入り口で私を待っているサキの目の前に、ボールが一つ、道に転がってくる。サキはそれに気付くとそのボールを足で道に転がり出ないように止めて、公園から出てきた、私達よりも小さな男の子にボールを手渡す。
「道に飛び出したら駄目だよ? この道、時々車や自転車が通るから」
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
男の子はボールを抱えると、公園のベンチに腰かけていた、その子のお母さんの元へと駆けて行った。サキはそのお母さんと互いに軽く目で会釈をすると、公園の入り口まで歩いてきた私へと向き直る。
「こんにちは、ハル」
「こんにちは、サキ。今日は公園に人がいるんだね」
私はサキと改めて挨拶を交わしながら、公園の方をみると、先程サキがボールを手渡した男の子と、もう一人の女の子が、ボール遊びをしていて、それをベンチに座ったお母さんがにこにこしながら見ている。
「まあ、それは仕方ないよ。……ちょっと場所を変えようか」
さすがにこれから話す話の内容が内容だから、他の人のいる場所では話し辛いと思ったみたいで、サキが私にそう提案する。私もサキに賛同して、公園を後にする。
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私とサキは、公園の傍を流れる川の河川敷に降りると、その階段部分に腰掛けた。
「──昨日の夜はごめんね。あの子達のことをハルに隠すつもりは無かったんだけど、いろいろと気持ちの整理がしたかったから、つい逃げ帰っちゃった……」
開口一番、サキは昨日、今日会った時に話すと一方的に説明をして帰ってしまったことを私に謝った。私は気にしないで、とサキに首を横に振ってから、尋ねる。
「昨日の夜、サキはあの白い髪の女の子達のことを、“以前住んでいた街にいたお化け”って言っていたけれど……サキはあの女の子達のことを知っているの?」
「うん。昨日会ったアヤメを含めて、六人全員に会ったことがあるよ」
そう言いながら、サキはネコ耳のポシェットからスケッチブックを取り出すと、比較的スケッチブックの最初の方のページを開いて、私に見せる。
そこには、昨日見た白い髪の女の子達が“六人”、描かれていた。そこには昨日見た、アヤメと、包丁を持った子と、鎌を持った子も描かれてる。
昨日は会わなかった残りの三人も、昨日見た三人のように、白くて長い髪に、巫女服のような服装。顔はやっぱりあのお札のような紙で隠していて、唯一見えるのは口元だけだった。
それでも六人、それぞれに特徴はあるみたいで、アヤメが整った真っ直ぐな髪をしているのに対して、昨日私を追い掛けて来た包丁を持った子は、どこか癖毛で髪の毛が跳ねてる、といった具合に髪型は少しだけ違う。
アヤメは『前髪を留めている、紫色の髪留めが目印だよ』って話していたけれど、どうやら他の子達もそれぞれ、髪留めの色が違うみたい。そして、それぞれ手に持っている物も違う。
「本当に六人もいるんだ……。サキ、この子達は一体何者なの……? お化け、なのは分かるんだけど……この子達は何か、他のお化け達と違うような気がしたの……」
「──……一言でいうと……“とある神様に仕えてる『巫女』”……かな?」
私の質問に、サキがさらりと、簡単にそう説明した。
「……『巫女』……?」
言葉の意味は分かるけれど、いまいちどういうことか飲み込めなかった私は、サキに聞き返す。サキはスケッチブックのページをめくろうとして……それを止めて、そのままスケッチブックを閉じてしまった。
「……『神様』といっても、アヤメ達が巫女みたいな服を着ているのと、そのアヤメ達が『主様』と呼んでいるからってだけで、実際に何かの神様なのか……もしくは“神様だった”のかは分からないんだけどね……私はその『主様』に会ったこと無いし。ただ、神様と同じくらい、力を持った『ナニカ』ってことは間違いないかな……」
……ページをめくろうとしていたのに、スケッチブックを閉じてしまったサキの行動と、サキの説明にどこか違和感を感じたけれど……それよりも私は、サキが話した『巫女』という言葉と、『主様』という言葉が気になっていた。
「力を持ったお化けと、それに仕えているお化け……。だけど、あの子達……ううん、その“『巫女』のお化け達”は、サキが以前住んでいた街にいたお化けなんでしょ? どうして、そのお化け達がこの街に?」
「それに関してはアヤメにははぐらかされたよ。ただあの口振りからすると、アヤメ達は何か別の目的があってこの街に来たみたいだね」
「別の目的……? えっと……その……サキを追い掛けてきた、とかじゃなくて?」
私の問い掛けに、サキは「いや、そうでもないみたいなんだ」と首を横に振った。
「私も最初はそうなんじゃないかと疑ったんだけど……昨日図書館で出会ったアヤメの反応からして、本当に偶然みたいだよ? 私を見て、あのアヤメがあれだけ驚いた素振りをみせたんだから、多分間違いない」
といっても、厄介なのには変わりないけどね……とサキが溜め息を付いて続ける。
「問題なのは、アヤメとキリも手を焼いてる、残りの四人だよ。あの四人は見境が無くて、遊び感覚でこちらに刃物を持って襲い掛かってくるんだ。ハルも昨日追い掛けられたみたいだけど、私も以前の街ではその四人には散々襲われたことがあるんだ」
「……四人? アヤメと、そのキリっていう子は大丈夫なの?」
あれだけ昨日の夜はアヤメに対して冷たく当たっていたサキが、襲ってこないという点ではアヤメを信用してさえいるように感じて、私は不思議に思った。
それに、昨日も名前が出てきた、キリという子についても聞いておきたいと思って、私はキリという子についてもサキに尋ねる。
「アヤメとキリは大丈夫。あの二人は逆に、あの四人や他のお化けから私を助けてくれたことがあるくらいだから。それに、アヤメやキリがその気だったら……今頃私は顔にあの変な紙を貼り付けて、巫女装束で夜の街を歩いてるよ」
「………………」
「……あ、えっと……。……ようするに、私がそうなってないってことは、アヤメとキリはとりあえず大丈夫ってこと。他意は無いよ、ハル?」
「う、うん……」
ちょっと慌てたようにサキが説明をそう付け加えた。私がこれに頷くと、サキは少しほっとした顔をして、気を取り直して説明を続ける。
「アヤメとキリを除いた、四人の『巫女』についての説明に戻るね。あの四人も、アヤメやキリのように言葉を話すけど……なんというか……“滅茶苦茶”なんだよ……。平気で夜道にいるお化け達を切り殺すし、笑いながら刃物振り回して追い掛けて来るし、そのくせ自分達は他のお化け達にやられても、暫くするとけろっとした顔で夜道を歩いてるし……」
「うん、アヤメと違って、商店街で私を追い掛けてきた子は、とても私の話を聞いてくれる感じじゃなかった……」
サキの溜め息混じりの説明に、私も昨日のことを思い出しながら頷く。
あの包丁を持った子は、独り言で『お話を聞きたかった』と言っていたけれど、それならお店のシャッターに包丁を当てて音を立てたり、笑いながら追い掛けたりはしないだろうし……言ってることとやってることが、全然違うと思う……。
アヤメも、わざわざその子達に気を付けるように私に忠告しに来たくらいだから、サキが言っていた「アヤメとキリも手を焼いている」というのは、アヤメにとっても、よほどのことなのかもしれない……。
そういえば……昨日の夜、サキと別れてからアヤメが私に話し掛けてきたことをサキに話していなかったので、サキにそのことを伝えた上で、アヤメが話していた内容をそのままサキに伝える。
サキは「成程。私の所に来ないからおかしいと思ったら、ハルに会いに行ってた訳か……」と少しだけ眉を顰めた後、これに頷いた。
「鈴に関してはゴメン、そういえばちゃんと説明してなかったね……。ハルもなんとなく分かってたと思うけど、アヤメが言ってたように、お化けによっては鳴らなかったり、鳴るのが遅かったりするんだ。それと、やっぱりあの“四馬鹿”はハルに目を付けたか……なら、尚更注意しないといけないね……」
「よ……よんばか……?」
「──……あっ!? えーっと……ごめん、今の無しっ!!」
さすがに相手が相手でも、悪口みたいな呼び方はまずいと思ったみたいで、サキは、はっと我に返ったように慌ててはぐらかしたけど……“四馬鹿”という呼び方については、昨日もサキが別れ際に使ってた気がするから今更だったりする。……サキは気付いてないみたいだから言わないでおこう。
「アヤメは私に、他の子達にお家を知られないように注意してって言ってた……。夜が明けるまでお家に帰れなくなっちゃうよ、って……」
「えっと……ああ、そうだね、そこは一番注意しないといけないところだよ。あの四人は悪知恵が働くから、お家の前の道や、よく通る道で待ち伏せしたりもするから……。さすがに家の中までは入ってこないけどね。まあ、良くも悪くも単純だから、他のお化けと同じように、何か物で注意を引いたり、物陰に隠れてやり過ごしたりは出来るよ。四人とも足はそこそこ速いのが厄介だけど──」
突然サキは説明を止めて、はっとした顔で背後──階段の上へと視線を向ける。
どうしたんだろう、と私がサキにつられて振り返ると……階段の上に人影があった。
「──おっと、二人だけの秘密のおしゃべりの邪魔しちゃったかな?ごめんごめん」
そう言って階段の上から苦笑いして私とサキに謝るのは、高校生くらいのお姉さんだった。
タンクトップの上に、薄手のジャケット、ショートパンツといったラフな服装で、髪も短いから、活発そうなイメージがある。よくみると耳にはピアスを付けている。
背中には、少し大きめのリュックサックを背負っているし、この街の人達とは随分印象が違うから、この街に住んでいる人じゃないのかもしれない。
「こんにちは! 私達に何か用ですか?」
にっこりと笑って、サキがそのお姉さんに挨拶をする。ちょっとだけ、サキの切り替えの早さにびっくりしてしまったけれど、サキ続いて、私もお姉さんに挨拶をする。
「こ、こんにちは」
「はい、こんにちは! よかったー! なんかこの街の人達、遠くから来た人にはよそよそしくてさ……お姉さんとお話ししてくれる街の人を捜してたの!」
それでも、私とサキが挨拶を返してくれたことにほっとした様子で、お姉さんが嬉しそうに笑う。サキがいうには、この街の人達は、他の街から来た人には少し遠慮がちなところがあるようで、サキと、サキのお父さんとお母さんも引っ越してきてすぐは、馴染むのに少し苦労したと話してた。特に、このお姉さんみたいな格好だと、尚更遠慮してしまうのかも……。
それはそうと、どうやらこのお姉さんは、私とサキが話していた話の内容までは聞いていなかったみたい。そのことに内心私はほっとしていた。
「実はお姉さん、人を捜してるの。お二人ちゃん、何か知らないかな?私より少し年上の、大学生のお兄さん三人組なんだけど……」
「え……それって……」
私はここに来る途中でみた、行方不明者のポスターを思い出す。
サキも、この街で行方不明者が出ていることを知っていたみたいで、「あ……」と声を挙げた。
「……もしかして、この街で行方不明になったっていう……大学生のお兄さん達のことですか?」
「そうそう、その三人っ!! 実は、そのうちの一人がうちのバカ兄貴なんだよね。何か知らないかな? 街でちょっとだけ見掛けた、とかでもいいから、少しでも情報が欲しいんだ」
うんうん、と頷きながら、お姉さんがそう私とサキに尋ねる。
「ごめんなさい、私は今朝の地域新聞でそのことを知っただけで、そのお兄さん達には直接会ってないんです……ハルはどう?」
「えっと……私も掲示板でポスターを見ただけで……ごめんなさい」
だけど、私は掲示板のポスターを見ただけだし、直接はそのお兄さん達に会ってないし、そのお兄さん達が何処に行ったのかは分からなかった。サキも同じように新聞で事件のことを知っていただけみたいで、お姉さんが期待しているような話は出来そうになかった。
「そっかぁ……いやいや、謝らなくていいよ、ありがとね」
お姉さんは残念そうにしながらも、私とサキにそうお礼を言ってくれた。
「うーん……だけど、お二人ちゃんの話からすると、この街でもちょっとした騒動になっちゃってるんだね……。はぁ、まったく……自転車旅だけならいざ知らず、“穴場心霊スポット巡り”なんかやめとけって言ったのに……」
お姉さんの不機嫌そうな呟きに、私はあっと声を挙げそうになって──それを慌てて押さえて誤魔化した。隣のサキも、ピクッ、っと反応したのを感じた。
……幸い、お姉さんは私とサキが“穴場心霊スポット巡り”という言葉に反応したことには気付かなかったみたい。
「ともあれ、情報提供感謝だよ、お二人ちゃん。人騒がせなお兄さん達はお姉さんが見つけ出して、三人まとめてとっちめとくから、心配せずに吉報を待っててね? ……それじゃ、お姉さんはこれで」
「うん、お姉さん“も”気を付けてね。さようなら!」
「さ、さようなら……」
私とサキに手を振った後、階段を上がっていくお姉さん。
私とサキも、お姉さんに手を振ってそれを見送る。
……だけど、そのお姉さんの足取りが、酷く重たいように感じて──
「あ、あの……」
──私は思わず、後ろから声を掛けていた。
お姉さんが私の声に気付いて、「ん?」と振り向く。
「お兄さん達……きっと無事に見つかるから……。……大丈夫だよ、お姉さん」
私の言葉に驚いたように目を見開いた後……お姉さんは優しく微笑んだ。
「……うん……ありがとう」
お姉さんはもう一度、私とサキに手を振ると、そのまま階段を上がっていった。
「──……あのお姉さん……危ないかもしれない……」
お姉さんが去って行った階段の方を見上げながら……サキがぽつりとそう呟いた。
きっと……私と同じことを考えているんだと思う。
「──……そうだね……」
私は、サキの心配そうな横顔を見た後……サキの言葉に頷いた。