再び夜は廻る   作:kurohane

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四日目(3)『違和感(サキ視点)』

「このサンドイッチ、サキのお母さんの手作りなんだ。とっても美味しい!」

「ありがとう、そう言ってくれるとお母さんも喜ぶよ! たくさんあるからいっぱい食べてね。……お母さん、張り切っちゃったみたいで作り過ぎたみたいなんだ……」

「そ、そうなんだ……えっと、じゃあ次は……このたまごサンド貰うね!」

 

 

 ハルに一通りアヤメ達『巫女』の話をした後、場所を変えて公園に戻った私とハルは、暫く“普通の”おしゃべりをしていた。公園で遊んでいた子供達と、そのお母さんはどこかにお出かけしたのか、公園からはいなくなっていた。

 暫くすると、三時のおやつの時間になったので、お母さんがハルにも、と作ってくれていたサンドイッチを、ハルと一緒に食べながらも、私はどうしても、先程の人捜しをしていたお姉さんのことが気になっていた。

 

 

「……心霊スポット巡りって言ってたけど……あのお姉さんが捜してたお兄さん達は、どこにいったんだろう……」

 

 

 それを感じ取ったみたいで、ハルも少しだけ、周りに人がいないかを確認した後、私にそう話を切り出した。

「──そのことなんだけど、いくつか候補は思い当たるかな」

 ハルもあのお姉さんのことを気にしていたことを分かっていたし、サンドイッチを食べ終わったら話そうと思っていたから、少し早いけど、私はハルに思い当たることを話し始める。

 

 

 私とハルからしてみれば、単純にお化けが出るという意味合いでの心霊スポットとなると、この街全体がそうなのだけど……それでも、大人達が噂するような心霊スポットとなると、いくつか候補は絞られる。

 例えば、凄惨な事件があった場所や、不可解なモノの目撃情報が多い場所、今は使われなくなった施設、普段人が入らないような場所……。

 

 ──中でも特にそう噂されるのは、“たくさんの人が不可解な死を迎えた場所”……。

 

 

「──……そういえば、コトワリさまの神社がある、あの山……昔から行方不明になる人が多いんだって……。私のお父さんとお母さんがそう話してるのを聞いたことがあるの」

 

 

 ぽつりと……ハルがそう呟いた。

 私はハルのその呟きに、図書館で読んだ新聞に書かれていた二つの事件のことを思い出す。

 ……ハルにとっては、“ハルが危険な夜の街を出歩いてまで捜していた子”と、“ハル自身の左腕”を失った場所だ。だから、ハルがあの山のことを真っ先に思い浮かべるのは無理もない──

 

「……多分、あの山にはお兄さん達は行っていないと思う」

 

 ──だけど幸い、今回の行方不明事件にはあの山は関係ない。私はあの二つの事件のことは知らないフリをしつつ、ハルにあの山は今回のこととは関係ないことをハルに説明する。

 

 

「──え? どうしてそう分かるの?」

 きょとんとした顔でハルが私に尋ねる。

 私はこれに頷いて、ハルが気付いていない、ハル自身も分かるはずの“お兄さん達があの山に行っていない理由”を説明する。

 

「あれ……忘れちゃったの、ハル? その三人のお兄さんが行方不明になったのは、三日前の夜。三日前の夜というと、あの『連続バラバラ殺人事件』のことを調べるためにコトワリさまの神社に行って、そこで私とハルが出会ったあの日だよ? あの時、お兄さん達に会ったりした?」

 

「……あっ、そうか!!」

 ハルはそのことに今気付いたようで、はっとして声を挙げる。

 ハルが思い出してくれたのを確認した上で、私は話を続ける。

「あの山は山道から外れると、すぐに崖になっていたり、草木が生い茂っていたりするから、いくら怖いもの見たさに心霊スポット巡りをするような人達でも、入ったこともない夜の山で山道から外れて歩くなんてことはしないと思うんだ。だから私とハルがあの山でお兄さん達に出会わなかった以上、お兄さん達があの山に行った可能性は低いんじゃないかな?」

「な、成程……。ごめん、サキと会ったのはそういえばあの日だったね……」

 ハルがそう私に謝るけど、少しほっとした様子だ。私もそれに少し安心して、「気にしないで」とハルに返してから、さらに話を付け足す。

 

「それに、『穴場心霊スポット巡り』だなんて言ってたらしいから、それならもっと分かりやすい場所に行こうとするんじゃないかな? 草木の生い茂った山や林なんて、この街でなくてもいくらでもあるからね」

 

 

 それともう一つ、お兄さん達があの山に入っていないという根拠があった。

 

 『穴場心霊スポット巡り』だなんて言って自転車旅をしていたらしいお兄さん達なら、きっとその心霊スポットの写真を撮って、ネットに挙げたり、お兄さん達の友達にその写真を見せたりして自慢したがるに違いない。

 そうなれば、いくら恐ろしい噂のある場所であっても、他の山や森で撮ったのと変わり映えしない、あの山で撮った写真では自慢話には物足りないと考えるはず。

 

 

「そ、そういうものなのかな……? つまり、『ここに行ったんだよ』って、お兄さん達がお友達に写真を見せて説明できるような場所ってことなの?」

 そう私がハルに説明すると、いまいち伝わらない部分があったようだけど、肝心な部分は分かってくれたみたいだった。私はこれに頷いて続ける。

「そうだと思う。コトワリさまの神社なら話は別だけど……あの山にコトワリさまの神社があることは、この街の人達でもまったく知らないし、知っていたとしても話したがらない人の方が多いと思う。それこそ、私だってあの山にコトワリさまの神社があることは……──」

 

 

 ──『  』に教えてもらうまで、全然知らなかったんだよ?

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 ──痛烈な、違和感。

 

 

 

 

「……? サキ、どうしたの?」

「……あ、ああいや、なんでもないよ。とにかく、あの山はとりあえず、お兄さん達が行った可能性がある心霊スポットの候補から外していいんじゃないかな?」

「うん、私もそう思うよ。じゃあ、お兄さん達は一体どこに行ったんだろう……?」

 ハルはそう言って、首を傾げて考え始めた。

 私は、気付いてしまった痛烈な違和感からふつふつと浮き出てくる悪寒に苛まれながら、必死にお兄さん達の行き先とは別のことに考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 コトワリさまの神社は、この街においても忘れ去られてしまっている場所だ。

 ……そう、忘れられてしまっている。

 仮にコトワリさまの神社のことを知っている人がいたとして、あの山の悪い噂と、コトワリさまの神社の裏手に掛けられている、呪いといった方が正しい気さえする“『縁切り』を願う沢山の絵馬”のことを考えれば、誰かに話したがる人はいないだろう。

 

 

 忘れ去られてしまっている場所。

 知っていたとしても、誰かに教えるのは躊躇うであろう場所。

 

 だけど私は“コトワリさまの神社があの山にあることを知って”、コトワリさまの神社を見つけて……そしてあの日の夜、ハルに出会った。

 

 だけど、それがおかしい。

 

 

 ──誰かからコトワリさまの神社の噂を聞いた?

 違う。そんな話、誰かに……ましてや子供に話す人なんていない。

 

 ──私が自分でコトワリさまの神社のことを調べた?

 違う。図書館に行ったことはあるけど、コトワリさまの神社についての本なんて読んでない。

 

 ──じゃあ、だったら。

 

 

 ──……だったら……──

 

 

 

 

 ──私は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──そうだっ!! もしかして、あの場所……!!」

 

 ハルの何かを思い出したような大声に、私はハッと我に返る。

 

「!? は、ハル、どうしたの急に……」

 私は突然のハルの大声にどきどきしながら、ハルに尋ねる。

 ハルは、私がついさっきまで、まったく別のことを必死に考えていたことは気付いていなかったようで──

 

 

「一つだけ思い当たる場所があるんだ……!! あの山とは違う、悪い噂のある場所で……そのお兄さん達が噂を聞いたら行きたがりそうな場所……!!」

 

 

 ──確信めいた強い口調で、私に『とある曰く付きの場所』のことを話し出した。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

 ──そして、夜が来る。

 

 

「……そろそろ行こうかな」

 

 ハルとは、『とある場所』に一緒に行くことを約束して別れた。

 もうすぐ、約束の時間になることを時計を見て確認した私は、いつものネコ耳のポシェットを背負って、自分の部屋から出る。

 

 

 ──ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……

 

 

 玄関で靴を履いている私の後ろで、廊下を裸足で歩く、小さな足音が聞こえてきて……私は後ろを振り向く。

 少し薄暗くなっている、廊下の向こうに、半透明の裸足の足が一対、こちらにつま先を向けて立ち尽くしている。

 

「………………」

 

 やっぱり私が夜に外に出かけてしまうと寂しいのかな、と思いつつも、私はその足だけしか見えないお化けから視線を逸らした。

 

 

 この足のお化けは、この街に引っ越してきたその日から家の中にいるお化けだ。

 

 最初に見た時は、「新しい家の中にお化けがいる!?」とすごく怖かったけど、このお化けは夜の家の中をペタペタと歩き回るだけみたいで、私に襲い掛かってきたり、私を驚かせたりはしてこない。

 この足だけのお化けよりも、夜の間に家の中に長く居過ぎると起こり始める変な出来事や、外にいるお化け達の方がよっぽど怖いし、喉元過ぎればなんとやらというか……もう諦めて、極力気にしないようにしている。今日みたいに、じっとこちらの様子を伺うように立っていることがあるのは今でも怖いけど。

 ただ、他の多くのお化けがそうなように、この足だけのお化けも何を考えているのか分からないので、極力話し掛けたり、じっと見つめたりはしないようにしてる。足だけのお化けの方も、私が見えていることには気付いているようだけど、私に対して何かを訴え掛けたりはしない。ただただ、家の中を歩き回るだけだ。

 

 

 そう、いつもなら。

 

 

 ──ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……

 

 ──……コトッ

 

 

「え…………?」

 靴を履き終えて、さあ出掛けようとした私の後ろまで、裸足の足音が近付いてきて、何かを床に置く音が聞こえた。

 いつもと違う、足だけのお化けの行動に慌てて私が振り向くと、床には失くしてしまうといけないから家に置いていくつもりだった、昨日図書館から持ち帰ってしまったあの折り畳み式の手鏡と、フェルトの人形が一つ、置いてあった。その向こう側に、あの足だけのお化けが立っている。

 私がどうしたものかと困っていると、足だけのお化けはくるりと踵を返して、ペタペタと足音を立てながら、廊下の向こうへと歩いて行ってしまう。

 

 

「……この二つも持っていきなさい、ってこと?」

 私はつい、いつもは絶対に話し掛けたりしない、その足だけのお化けにそう尋ねてしまった。

 

 リビングの方へと行こうとしていた、足だけのお化けが──そこでぴたりと立ち止まる。

 

 

「……っ?!」

 

 私ははっと我に返ると、慌ててその手鏡とフェルトの人形を手に取ると、玄関の扉を開けて外へと飛び出した。

 玄関から外に出て、私が後ろを振り向くと……閉まっていく玄関の扉の隙間から、立ち止まっていた足だけのお化けは、ペタペタといつも通りの足音を立てながら、リビングの方へと歩いて行くのが見えた。そのまま、玄関の扉はパタン、と音を立てて閉まる。

 私はしばらく、玄関の前で立ち尽くしてしまった。

 

「あ、焦った……。こちらに向かって来なかったから……大丈夫、かな……?」

 つい話し掛けてしまったけど、私を襲おうとするなら、こちらに向かってきてただろうし……そうでないなら、ただ単に話し掛けられたから立ち止まっただけなのかな……?

「……まあいいか。それにしても、フェルトの人形は分かるんだけど……なんで手鏡……?」

 

 今日も町立図書館に行くとでも思われたのかな……? 私が開いた手鏡の鏡面には、不思議そうな顔をしている私の顔が映っていた。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 ──チリンチリン。

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「それにしても……」

 

 ──グシャアッ!!

 

『ア゛ア゛アアアアアア……ア゛ア゛アアアアアア……』

「……ダメだ、どうしても思い出せないや……」

 

 

 団地の入り口から出た玄関口。私は夜に外に出かける際、いつも上から落ちてくる青白い女のお化けを避けて、私がコトワリさまの神社のことをどこで知ったのか、思い出そうとしていた。

 ……背後から苦しそうにもがいているお化けの気配を感じるけど、毎回私目掛けて落ちてくるこのお化けには優しくしようとも思えないし、苦しそうな声を挙げながらのたうち回るこのお化けは見ていると辛くなるから、「あれは私に避けられたのが悔しくてジタバタしているんだ」と思い込むようにしてる。

 ……毎晩見るお化けだから、そう思わないと気がどうにかなってしまいそうだから。

 

 だけど幸い、今日に限ってはこのお化けのことはさほど気にしないで済んだ。

 済んだのだけど……もっと別のことが、私はどうしても気掛かりだった。

 

 

 家に帰ってからも思い出そうと頑張ったけど、結局コトワリさまの神社のことをどこで知ったのかは思い出せないままだった。どれだけ記憶を辿ってみても、そこだけぽっかりと抜け落ちてしまっていて……それなのに、「コトワリさまの神社があの山にある」ということだけははっきりと覚えてる。

 どこかで案内板を見たわけでもないし、『よまわりさん』のことを教えてくれた、あの『左目に眼帯を付けた、赤いリボンの女の子』から教えてもらったわけでもない。

 

 ──……どこで知ったのかをぽっかりと忘れてしまっているというより……『コトワリさまの神社があの山にある』ということを、()()()()()()()()()()()()()()ようにすら感じて、どうしても気味が悪い。

 結果的にハルと知り合うきっかけになったわけだから、昨夜の図書館の一件同様に結果オーライ、なのかもしれないけど……結果云々でいうのであれば、「私があの山に立ち入るきっかけになった」、ともいえる。

 

 それなら、つまり……。

 

 

 

 

 ──まるで『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ。

 

 

 

 

「……今日の行き先が、あの山じゃなくて良かった」

 私はぽつりと、そんなことを呟いていた……けど──

 

「……って、そうじゃないっ!!」

 ──私はすぐに思い返して、私は首を横に振ってその思考を頭の中から振り落とす。

 

 

 確かに──あの山はおかしい。

 ……だけど今夜ハルと一緒に調べに行く場所も、ハルの話が本当なら……あの山と同じくらい、危険な場所だ。

 それに、あの『四馬鹿』に出くわして襲われる可能性だってある。どちらかというと、ハルがいう『その場所』に辿り着くまでは、こちらの方が問題になる。

 なにより、ただでさえ昨夜はあの二つの顔を持つお化けに潰されそうになったり、鏡像のお化けに騙されて図書館に連れ込まれたりと散々だった。今夜からはハルと一緒に行動する以上、昨夜と同じ失敗は絶対に避けたい……。

 

 

「……慎重に行こう。とにかく、まずは公園でハルと合流しないと」

 

 私はいつも以上に気を引き締めて、夜の街へと歩き出す。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

 ──ポーン、ポーン、ポーン、ポーン……

「……昨日はボールだったけど、今日は鞠が跳ねてる……」

 

 

 ──ハルと待ち合わせをしている、いつもの公園。

 

 昨日は通りかかった時、独りでにボールが跳ねているのを見掛けたけど、今日は鞠が跳ねてる。

 昼間、小さな子達がこの公園で遊んでいたように、時々この公園で遊んでいるお化けもいるみたいで、昨日見た独りでに跳ねるボールの他には、転がっていくボールを追い掛ける、小さな子供のお化けもいる。

 悪いお化けではなさそうだけど、これじゃ公園で待つのは気が引けるなぁ、と思っていると、向こうの道からハルが慌てた様子で走ってきた。

 

 

「さ、サキっ!! 大変……大変だよっ!!」

 

 

「……!? ハル、何かあったの!?」

 ハルが何かに追い掛けられてる!? と思い、ハルの後方を見ても、何かが追い掛けてきている様子はない。そのことを確認してから、私はハルに駆け寄る。公園内で跳ねていた鞠のお化けも、ハルと私の様子に何事かと驚いたみたいで、跳ねるのを止めてしまった。

 

 息を切らせながら走ってきたハルは、呼吸を整えるよりも先に、心底焦った様子で、私に何かを伝えようとする。

「はぁ……はぁ……。昼間……人捜しをしてた……あのお姉さんが……」

「え…………?」

 

 

 ……その後、ハルから簡単な経緯を説明されてから、私とハルは、ハルがそれを見たという、掲示板の場所へと歩き出す。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「──『高校生の女の子が、行方不明になっています。お心当たりのある方は……』……これって……」

「昼間、家に帰る途中は貼ってなかったんだけれど……どうしよう……サキ……」

 

 

 ──ハルの家の近くにある、大きな掲示板。

 

 ハルは私と公園で待ち合わせをしていた昼間、この掲示板の前を通りかかった際に、あの大学生のお兄さん達三人の捜索願のポスターを見て、行方不明事件のことを知ったみたいだった。

 そして夜になって、ハルがこの掲示板の前を通り掛かろうとした時に何気なくみると、その三人分のポスターの横に、もう一つ、捜索願のポスターが増えていた。

 そのポスターの写真には、昼間出会ったあの人捜しをしていたお姉さんの顔写真が載っている……。

 

「あのお姉さんまで、いなくなっちゃった……」

 俯いたハルが、独り言のように呟く。

 

 ……だけど私は、お姉さんの安否を気にしながらも、このポスターを見て妙な違和感を感じた。ハルに話すかどうか悩んだけど、暗く沈んだ顔をしているハルにいたたまれなくなった私は、口を開く。

 

 

 

 

「ハル。このポスター……何か変だよ?」

 

 

 

「──…………え?」

 きょとんとした顔で私を見るハルに、私はポスターを見ながら、私が感じた違和感のことを話し始める。

 

「私とハルがあのお姉さんに会って、行方不明になっている大学生のお兄さん達のこと何か知らないかって尋ねられたのは、今日の昼間。その後にお姉さんがどこに行ったのかは知らないけど、仮に私達と別れてからすぐにどこかへ行って行方が分からなくなったとしても、そのことが騒ぎになって、警察の人達が捜査を始めるのは早くても今夜からだよ」

「えっと……そうだね。それが何か変なの?」

 ハルが私に尋ねる。いつもの調子のハルに戻ったことにほっとしながら、私はハルに違和感の原因を説明する。

 

「──“早過ぎる”んだ。こういった捜索願は、本当にその人が行方不明になったのか調べたり、その人に連絡が付かないか試したりとか……他にもいろんな手続きが必要なんだ。ましてや、この捜索願のポスターみたいに顔写真付きとなると、行方不明になった人の顔写真を用意しないといけない。本当にお姉さんに何かがあったとして、いくらなんでも、このポスターを用意するのが早いように思うんだ」

「え……?あ、でも確かにそうだね……」

 

 

 私は、お兄さん達三人の捜索願のポスターと、お姉さんの捜索願のポスターを見比べて、もう一つ気付いたことがあった。

 ハルも私の指摘で違和感を感じたからか、捜索願のポスターを見比べて、それに気付く。

 

 

「あれ……? お兄さん達のポスターには、行方が分からなくなった日付や、行方不明になるまでの経緯が少しだけ書かれてるのに、お姉さんの方のポスターには書かれてないし……掛けて下さいって電話番号も、全然違う……」

 私はハルの感じた違和感に頷いて同意してから、視線を掲示板へと戻す。

「そうだね。お姉さんの方のポスターには行方不明になったっていうだけで、何も手掛かりになりそうなことは書かれてない。行方不明になった日付すら書いてないから、これじゃ“お姉さんが行方不明になった”ということくらいしか情報が分からないよ。もっとも──」

 

 私はじっと……睨みつけるように“その掲示板”を見つめながら……続ける。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだろうけどね」

 

 

 

 

 ──ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ……ッ!!

 

 

 

 

「うわっ!?」

「ひっ!?」

 

 その直後──けたたましい笑い声が、掲示板から響き出した。これには私も予想外で、ハルと一緒に心底驚いて尻餅を付いてしまった。

 

 みると、掲示板の張り紙やポスターの貼ってない部分を埋め尽くすように、大小さまざまな向きがバラバラの口が現れて、一斉に笑い声を挙げていた。

「…………っ!! ねぇっ!! そのポスターのお姉さんに何があったの!? そのポスターを私達に見せたってことは、何か知ってるんでしょうっ!?」

 私はその馬鹿にしたような笑い声に苛立ちながら立ち上がると、掲示板の口のお化け達に詰問する。

 

 だけど、掲示板の口のお化けはひとしきり笑い終えると、口を閉じて、またただの掲示板に戻ってしまった。掲示板の口のお化けが消えると同時に、あのお姉さんの捜索願のポスターも消えて無くなってしまった。

 

「はぁ…………。……ハル、先を急ごう。こんなお化けの悪戯に構ってられないよ」

 掲示板を蹴飛ばしてやろうかとも思ったけど、ハルがいる手前、あんまり乱暴なことはしたくない……私はモヤモヤした気持ちを溜め息で誤魔化すと、尻餅を付いたままのハルに手を差し出す。

「あ……えっと……うん。……ありがとう、サキ……」

 ハルは私の手を取って立ち上がりながらも、先程の掲示板の口のお化けに思うところがあったみたいで、何か物思いに耽るような顔をして、じっと掲示板を見ていた。

 

 

「お姉さんのことが気掛かりだけど……お姉さんの考えが私達と同じなら、お姉さんの行き先は私達と同じ場所なはず……。ハル、その『街外れにある廃屋』に急ごう」

 

 

 私はハルにそう伝えて、橋の方へと歩き出す。

 ……だけど、ハルはじっと掲示板を見つめたまま、動かなかった。

 

「……ハル?」

「………………。……あ、ごめんねサキ、それじゃあ、行こう?」

 

 

 ハルが何かを取り繕うように笑いながら、掲示板から視線を逸らした。

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