再び夜は廻る   作:kurohane

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四日目(4)『街外れの廃屋へ(サキ視点)』

「あ……待って、サキ」

「……? どうしたの、ハル。まだ何か、その掲示板が気になるの?」

 

 橋の方へと歩き出していた私を、ハルが後ろから呼び止める。不思議に思った私が振り返ってそう尋ねると、ハルは「いや、そうじゃなくて……」少し言い辛そうに口を開く。

 

 

「えっと……『廃屋』に行く道はそっちじゃないよ……」

「………………」

「………………」

 

 

 ……そういえば、私はその『廃屋』への行き方が分からないから、ハルに教えてもらう約束だった……。

「……ごめん。……道案内、お願いしてもいいかな?」

「う……うん、分かったよ……。えっと、まずはあっちかな……」

 

 ハルは少し苦笑いをしながら、ハルの家のある道の、向こう側を指差す。

 あっちの方、となると……一昨日の夜にハサミのお化けと、あのおじさんを追い掛けていた住宅街の方だ。

 気を取り直して、私とハルはその方向に歩き出そうとして……──

 

 

「……ん?」

「……あれ?」

 

 

 ──ほぼ同時に、その先に見える“とても明るい一つの明かり”に気付いて、立ち止まった。

 

 

 

 

 この街を照らすどの街灯よりも明るいその光は、カンテラのような物の中に灯っている明かりのようで、それが揺れるのに合わせてゆらゆらと揺らめいている。月明かりの他にはほとんど明かりの無い道なので、その明かりのある場所だけ真昼になってしまったかのように明るくなっている。あれだけ明るい明かりがあれば、お化けだらけのこの街の夜でも安心して歩けるんじゃないかとすら思ってしまう──

 

 

 ──……その明かりを持つモノが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 丁度その明かりを持ったお化けの隣にある木と同じくらい背の高い、その黒い人型のお化けは、明かりの灯ったカンテラを左手で持ちながら……ゆっくり、ゆっくりと私とハルがいる方とは反対側──丁度、私とハルが進もうとした方向へと歩いていく。

 私とハルは、そのお化けから隠れることもせず、その長身のお化けの背中を見送るように、ただ茫然と眺めてしまった。長身のお化けの持つカンテラの眩い光が、曲がり角へ消えていく。

 

 

「……あのお化け……昨日、私が踏切のところで見たお化けだ……」

 異質な雰囲気のお化けが去って行った方向を見ながら、ハルがそう呟いた。

 

 ……そういえば、昨日図書館で情報交換した際、ハルが今まで見たことないお化けに遭遇したと私に教えてくれた中に、『明かりを持った長身のお化け』のことがあった。あの時は『アヤメと同じ格好をした、包丁を持った白い髪の女の子』の話を聞いて気が気で無かったから、まるで気にも留めなかったけど……。

「成程、確かに変わったお化けだね……。お化けの中には明かりを使って何かを捜していたり、身体に火が点いてるお化けもいるけど、あんなに明るい明かりを手に持ったお化けはなかなかいないよ」

「うん。さっきのは遠かったからそうでもなかったけれど、近くだと本当に真昼のように明るいの」

 私の感想に、ハルが頷いてそう付け加える。

 

「……それはそうと、ちょっと困ったな……。途中で違う道に進んでくれればいいけど……」

 昨日ハルがあのお化けに見つかった際、あのお化けはハルを襲おうとせず、どこかへ歩いて行ってしまったらしいけど、かといって今日も襲ってこないとは限らない。『よまわりさん』だって、私を攫おうと追いかけて来る時もあれば、遠くからじっとこちらの様子を伺っているだけの時もある。それと同じように、たまたまハルが出くわした時にはあのお化けに“その気”が無かっただけかもしれない。

 私とハルは、明かりを持った長身のお化けが途中で道を引き返してきていないことを確認しながら、その後を追い掛ける形で先に進むことにする。幸い、あれだけ明るい明かりを持っているなら、引き返して来たら曲がり角の向こうが明るくなるので分かりやすいので多分対処出来るはず。

 

 

 ──ふと、ハルの家の前の階段を通り過ぎて少ししたところでハルが立ち止まり、道端へと歩み寄る。

 

「? ハル、どうしたの……?」

 不思議に思った私がそちらに目を向けると、ハルは道端にぽつんと立っているお地蔵さんの前に座ると、背負っていたウサギ耳のポシェットからお財布を取り出して、そこから出した十円玉をお供えしている所だった。

「……あ、ごめんねサキ。お地蔵さんに、『お兄さん達と、お姉さんが無事見つかりますように』ってお願いしようと思ったんだ」

 お地蔵さんの前にある、お供え物を置く小さな器に十円玉を置こうとしていたハルが、私の方を振り返ってそう応えた。

「あ、それいいね! ハル、私も一緒にお参りするよ」

 その答えにハルらしいなぁ、と思った私は、自分もポシェットから財布を取り出して、十円玉を一つ手に取る。……財布の中を見て、十円玉が丁度一枚あって良かった、と内心思ったのはハルとお地蔵さんには内緒だ。

「うん、サキも一緒にお参りしよう。お地蔵さんも喜んでくれるよ!」

 私とハルは、それぞれ手に持った十円玉をお地蔵さんにお供えすると、お地蔵さんに手を合わせる……。

 

 

 

 

 ──……本当に、ハルはあの人捜しをしていたお姉さんのことだけではなくて……お兄さん達三人のことも心配しているんだな、と、ふと思った。

 

 

 私だって、あのお姉さんのことは心配だし、お兄さん達のことも心配だ。……だけど、私が思う、お姉さんに対する心配と、お兄さん達に対する心配は、少しだけ違う。

 

 あの行方不明になったお兄さん達は、いってしまえば自分からお化けの住処に行って、そこで何かに巻き込まれて行方が分からなくなったのだから、自業自得だ。だからといってお化け達に命を奪われてしまっても仕方ない、とまでは思わないけど、そのお兄さん達を捜すお姉さんのことと、ハルが捜しに行こうと言い出さなければ、私はわざわざ捜しに行こうとは思わなかった。

 それに、もう一つだけ、私にはお兄さん達を捜すのを躊躇う理由があった。

 もし、例の廃屋でお兄さん達と、あのお姉さんが無事見つかったとしても……昼間私とハルに会ったお姉さんならともかく、初対面になるお兄さん達が、私とハルを見たらどんな反応をするか……どうしても想像がついてしまうから。

 

 ハルは……忘れてしまっている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それだけじゃない。私は……この真っ白な髪。ハルはハルで……左腕が無い。

 

 ──……だから、想像がついてしまう。

 お兄さん達から、私とハルがどう見えるか。

 

 きっと……()()だ。

 

 

 ……『()()()』、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 だから、私はハルには内緒で、お地蔵さんにお兄さん達と、あのお姉さんの無事をお祈りするのとは別に、一つだけお祈りした。

 

 

 

 

 ──……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──あれ? この蝋燭、よく見たらほとんど減ってない……」

「──…………え?」

 

 私よりも早く目を開けたハルが、蝋燭を見て何かに気付いたようで、あっ、と声を挙げる。私はそのハルの声で我に返って、閉じていた目を開ける。

 

 お地蔵さんの前に灯っている蝋燭をみると、確かに蝋燭はほとんど減っていなくて、新品同然の長さのままだ。蝋燭に火が灯っているのは、夕方に街の誰かが灯していったのかな、と思っていたけど、それならもっと蝋燭は短くなっていてもいいはず……。

 

「そう言われてみれば確かに……。誰かが消えちゃってるのを見て新しく蝋燭を立てていったのかな? いやでも、夜に人がまったく出歩かない、この街で……?」

「そうだよね……。……あ、もしかして、さっきの明かりを持ったお化けがやってくれたのかな?」

「うーん……さすがにそれは無いと思う……。お化け達にとってお地蔵さんや、神様や仏様のような存在は、天敵というかなんというか、できれば関わりたくない存在だろうし……」

 確かに風変わりしたお化けではあったけれど、お地蔵さんにお参りするお化けなんて見たことがない。私がハルにそう伝えると、「うーん、そうかなぁ……」とハルが納得しない様子で首を傾げた。

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「──あのお化けは……ああ、この階段を昇って行ったみたいだね」

「えっと……じゃあ、私達はこっちかな……?」

「そうだね。曲がり角でばったり出くわしたりしなければいいけど……」

 

 

 ──お地蔵さんのお参りを済ませた私とハルは、ゴミ捨て場の前を通り過ぎて、正面に石階段のある十字路に辿り着く。

 

 目の前にある階段の上で、私達より先に進んでいた、あの明かりを持った長身のお化けの頭がゆらりゆらりと揺れている。あのお化けは階段を昇り終えていたけど、お化け自体が長身なのに加えて明かりを持っているから、階段の下からでもそれが確認できた。

 あのお化けの行き先が気になるところだけど……一応、ここからはあのお化けとは違う道を進めそうだ。私とハルは、ハルが指差した、右の道を進むことにする。

 

 

 ふと、その道の暗闇の向こう側から、聞き慣れたあの唸り声が聞こえるのに気付く。

「あー……いるね、あの白い影のお化け……」

 私は手に持った懐中電灯で白い影のお化けを捜すけれど、懐中電灯の光が微妙に届かない位置にいるのか、お化けの姿が見えない。かといって、唸り声の大きさと方向からして、この先の暗い道でふらふらと彷徨っているのは間違いない。

 試しに暗闇に向かって小石を投げてみたけれど、微妙に届かないのか、唸り声は小石に気付かずにふらふらと前の道をうろついている気配を感じる。

「うーん……。ハル、ちょっと待ってて。ペンライトを使うから」

 仕方ないので、できれば廃屋に辿り着くまで使いたくなかったペンライトで注意を引こうと、ポシェットに手を伸ばす──

 

 

「あ……待って、サキ。こういう時に便利なものがあるんだ」

 

 

 ──それをハルが止めて、ハルは自分のポシェットから何かを取り出す。

 一見、何かの紙のように見えたそれを、ハルが右手だけで器用に形を整える。

 

「……紙飛行機?」

「うん、正解」

 

 私の呟きに、ハルが頷いてみせる。どうやら、あらかじめ紙で折っておいて、後は簡単に形を整えるだけで完成できるように用意しておいた紙飛行機みたいだった。

 それをどうするの……?と私が訪ねるよりも早く、ハルがそっと紙飛行機を唸り声の聞こえる方向へと投げる。

 そんなに力を入れて投げた様子はなかったのに、不思議なくらい綺麗に飛んだ紙飛行機が、少し遠くの、道の端へと降り立つ。

 

 すると、白い影のお化けが挙げていた唸り声が……途切れた。

 

 

「よし、上手くいった。サキ、今のうちに通り抜けよう」

 

 ハルが小さく右手でガッツポーズを取ると、少し駆け足に先へ進む。慌てて私がハルの後を追い掛ける。

 先行したハルが首から下げている胸元の懐中電灯の明かりに照らされて、先程ハルが投げた紙飛行機をじっと見つめている、白い影のお化けが浮かび上がる。

 私はハルに続いて、紙飛行機を見ている白い影のお化けの後ろを通り過ぎる。私がその場を通り過ぎて暫くすると、また後ろから唸り声が聞こえ始めたけど、唸り声が私とハルを追い掛けてくる様子はない。上手く気付かれずに通り抜けられたみたいだ。

 私とハルは、そのまま自動販売機と電話ボックスの置いてある、少し開けた場所まで走ると、そこで息を整える。

 

 

「紙飛行機をお化けの注意を引くのに使うなんて考え付かなかったよ。ありがとうハル、ペンライトを無駄遣いしないで済んだよ」

「うん、どういたしまして。姿が見えなかったから上手く行くか心配だったけど、上手にできて良かった」

 ハルもちょっとだけ得意げに、嬉しそうに頷いた。紙飛行機の飛び方もすごく良かったし、ハルの得意技なのかもしれない。私だったら、あんなに遠くへは紙飛行機を飛ばせない。それこそ、普通に小石を投げた方が、紙飛行機を投げるよりも遠くに届く気さえする。

 

 

「良かったら後でコツを教えてよ。……この辺りはお化けはいなさそうだね。ハル、ちょっとだけ休憩していく?丁度ベンチもあるし」

 

 ここはちょっとした休憩場所のようで、自動販売機と電話ボックスの傍らに、ベンチがある。それに、少し離れた場所で、野良猫達がじゃれているのをみるに、この辺りにはお化けの気配は無いみたいだ。犬や猫はお化けの気配には敏感だから、近くにお化けの気配があったらあんなにリラックスしてはいないはず。ここなら、少し休んでも大丈夫そうだ。

「そうだね、ここなら大丈夫そうだか──」

 

 

 ハルが私の提案に賛成しようとしたその時──

 

 

 

 

 ジリリリリリリリリン……ジリリリリリリリン……

 

 

 

 

「────っ!?!?」

「えっ!?」

 

 ──電話ボックスの中の公衆電話が、突然鳴り始めた。私は慌てて電話ボックスから距離を取って身構えて、ハルも驚いたように電話ボックスへと視線を向ける。

「で、電話……!? な、なんで……?!」

 

 確かに公衆電話にもそれぞれ電話番号があって、その電話番号に掛ければ公衆電話に繋がるって聞いたことがあるけど……なんで今、このタイミングで……!?

 私が鳴りっ放しの電話に対して身構えていると、ハルが恐る恐る電話ボックスに近付……

 

 

 ……って、待って待って待って待って!?

 

「は、ハル!? だ、駄目だよ!! 絶対あの電話、普通じゃないからっ!!」

「で、でも出ないと鳴りっ放しになっちゃうし……近所迷惑になっちゃうよ……」

 慌てて呼び止めた私に対して、ハルが困った顔で、私と鳴り続いている電話を交互に見ながらそう応える。

「そ、そうかもしれないけど……でも、十中八九、お化けが鳴らしてる電話だよ!?」

「だったら、尚更出てあげないと……もしかしたら、あの掲示板のお化けみたいに、私達に何か伝えたいことがあるのかもしれないし……」

「え……えーっと……」

 

 駄目だ……。ハル、まるで罠とか危険とか、そういう疑い方をしてない……。そもそもあの掲示板のお化けには、私はゲラゲラ笑われた覚えしかないんだけど……。

 

「仕方ないな……。じゃあ、鈴が鳴ったり、嫌な予感がしたら問答無用でハルを電話から引き剥がすからね?」

「う、うん……」

 

 どうしてもハルは電話が気になるようなので、ハルに電話に出て貰って、私はハルが万が一電話ボックスに閉じ込められないように電話ボックスの扉が閉じないように扉を押さえながら、電話の内容を横で聞き耳を立てることにする。

 長らく鳴っていた公衆電話の受話器を、ハルが手に取った。

 

 

「……もしもし?」

 

 ハルが恐る恐る、受話器に話し掛ける。電話の切れた時の、ツー、ツー、という音はしない……つまり、通話状態になっている。

 私とハルは息をのんで、電話を掛けてきた相手の応答を待つ……──

 

 

 

 

『あれ……? もしかして、ハル?』

 

 

 

 

 受話器から聞こえてきた声は、私とハルの気がどっと抜けてしまうくらい、きょとんとした声音の……私とハルと同い年くらいの子供の声だった。

 ん……?この声……どこかで聞いたような……?

 

 

「あれ……? ……その声は……こともちゃん?」

 

 ハルがきょとんとした顔と声で、電話の相手へと尋ねる。

「え……? ハル、どういうこと? 知り合い……?」

『やっぱりハルだ! こんばんは、急に電話が鳴り出したからびっくりしたよ……!!』

「こともちゃんだったんだ……こんばんは。……って、あれ? こっちの公衆電話もさっきまで呼び出し音が鳴ってたんだけど……?」

 

 ハルは、相手と話が噛み合わない点には首を傾げながらも、電話で話している相手が誰か分かったことにほっとした様子で、私に「大丈夫だよ」と、目で合図した。

 ……鈴も鳴らないし、ハルがそういうなら大丈夫だと判断した私は、足で押さえていた電話ボックスの扉から足を外して、電話ボックスの扉を閉じる。電話と電話ボックス自体に問題が無ければ、音が外に漏れない環境を作った方がお化けには気付かれない。

 

『え? そっちでも電話の呼び出し音が鳴ってた? ムカデのお化けが、ハルとお話しできるように電話で呼んでくれたのかな……? ……ところで、さっきハルの横で違う子の声が聞こえたけど、誰かと一緒にいるの?』

「うん、今サキっていう子と一緒にいるんだ。……あ、丁度サキが代わって欲しいみたいだから、ちょっと代わるね?」

 

 ハルに手振りで「ちょっと代わって」とお願いすると、ハルがそれに頷いて、電話の相手にそう伝えると、私に受話器を渡してくれた。

 

「こんばんは。もしかしなくとも、廃工場で『よまわりさん』から助けてくれた子だよね?」

『あれ? もしかして、あの時の白……じゃなくて、緑のカチューシャをつけた子?』

「うん、あの時はありがとう、本当に助かったよ。私はサキ。君は?」

『どういたしまして。そういえば、あの時は自己紹介をしてなかったね。私は“ことも”っていうんだ』

 

 

 

 

 ことも、と名乗ったこの女の子は、私がハルに出会うより前、『よまわりさん』に攫われて連れていかれた廃工場で、『あの姿になったよまわりさん』から逃げていた私を助けてくれた女の子だ。

 頭に、ハルの付けているリボンより小さい赤いリボン。背中には、ハルが背負っているものと似たウサギ耳のポシェット。……そして、左目に付けた眼帯、といういで立ちの、私とハルと同い年くらいの女の子。

 私がいうのもおかしな話だけど、私と同じように夜に外を出歩いていて、ましてやあの廃工場では私と同じくらいの背格好の子供の影のお化けが沢山いたものだから、最初はお化けかと思って逃げてしまった。それくらい、不思議な雰囲気の子というのが第一印象だった。話してみると、()()()()()()()()、意外とそうでもなかったけど……。

 

 聞けば、あの廃工場のある街──ハルと私の住んでいる街の隣街に住んでいるらしくて、今日もたまたま外に散歩に出かけていて、公衆電話の傍を通り掛かった時に急に電話が鳴り出したので出てみた、とのことだった。

 

 

「あれ……? サキ、こともちゃんと知り合いなの?」

「知り合いというか、一度助けてもらったきり、会ってなかったし、名前も今知ったんだけど……ほら、ハルに渡したあの鈴と同じ鈴を別の子に渡したって以前話したよね? それがこの子だよ」

『そうそう、あの赤色の鈴、すごく助かってるよ。もしかしたら、と思ってたけど、やっぱりハルの知り合いだったんだね』

 この女の子──こともには、廃工場で助けて貰ったお礼に、私が自分でポシェットに付けている緑色の鈴と、ハルに渡した青色の鈴と同じ役割を持つ赤色の鈴を渡していた。どうやらこともも、あの鈴をちゃんと有効活用してくれているみたいだ。

「そ、そうだったんだ。言ってくれたらサキにも紹介したのに……」

『“世間は狭い”ってやつだね』

「まったくだよ……」

 

 なんだか、一人だけ電話に出る前にビクビクしていた自分が馬鹿みたいだ……となんだか自分が恥ずかしく思えてきたその時だった。

 

 

 

 

『──ところで。何処か、危ない所に行こうとしてない?』

 

 

 

 

 こともが……“本題”に話題を移したのは。

 

 

「あ…………」

「……ハル、代わって?」

 

 こともがさらりと尋ねたその言葉に、ハルがぎくりとした顔で固まる。

 ……大体察しはついていたので、私はハルに返していた受話器を、ハルからもう一度受け取る。

「……ごめん、やっぱりバレバレだよね……あの時もそうだったけど、君は妙なところで鋭いし。……こっちの街で、行方不明者が三名出てるって話は知ってる?」

『うん、私の街でも今日、ポスターを見たよ。……二人は、その人達を捜しに?』

「その通り。場所は目星が付いてるんだ。こっちの街の街外れにある、大きな廃洋館。今、ハルと一緒にそこに向かってる途中だったんだ」

『廃洋館……そっちの街の北の外れにある、あの大きな館のことだね』

「さ、サキ……!?」

 

 慌ててハルが私を止めようとしたけど……それをやめてしまった。

 この様子だと、ハルも分かってるみたいだ。

 

 

 この子は──こともは、“夜”に関することに対しては……とても鋭い。

 

 

「危険なのは分かってるけど、どうしても行かないといけないんだ。……じゃないと、手遅れになるかもしれない」

『……何か事情がありそうだね。よかったらお話を聞かせて? 私にも、何か手伝えることがあるかも』

「ありがとう、助かるよ。ハルもそれでいいよね?」

「う、うん……」

『あ……えっと、別に怒ってないから大丈夫だよ、ハル』

「よ、よかった……。えっと、じゃあ私から説明するね……──」

 ほっとした様子のハルがそう言って私に手を差し出したので、私はハルに受話器を渡した。

 

 

 私とハル、こともの三人は、行方不明事件と、そして“起こってしまったかもしれないもう一つの行方不明事件”に関して、情報交換を始めた……──

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