再び夜は廻る   作:kurohane

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二日目
二日目(1)『秘密の作戦会議』


 次の日の朝。私がお部屋でチャコと遊んでいると、お家の電話が鳴った。

 暫くして、お母さんが私のお部屋にやってきた。

「ハル、サキちゃんって子から電話よ?」

「! わかった、すぐ行くね!!」

 お母さんからサキの名前が出た時、私はすごく安心した。

 サキがお化けじゃないことは昨日確かめたけれど、それでもユイのことがあったから、本当はお化けだったんじゃないかとか、サキもいなくなってしまうんじゃないかとすごく不安だったから。

 

 

 私は一階の居間で、保留にしてあった電話に出る。

 

『あ、もしもし、ハル? おはよう! ごめんね、そろそろ起きてるかなと思って電話したけど、まだ寝てた?』

 電話越しに、サキの声が聞こえる。

 もしかしたら、サキも私が電話に出るまで不安だったのかもしれない。電話から聞こえるサキの声が嬉しそうだ。

 

 何故サキが電話してきたかというと、さすがにサキがいきなり私のお家に遊びに来たらお父さんやお母さんが怪しむかもしれないから、朝に電話をして、遊ぶ約束をした、という自然な流れを作っておこう、というサキの作戦だ。私のお家の電話番号も、私からサキに伝えてあった。

 

「ううん、ちょっと前には起きてた。おはよう、サキ」

 私も嬉しくなって、サキと朝の挨拶を交わす。背後からお父さんとお母さんの視線を感じるので少しドキドキするけれど。

 

『そっか、ならよかった。昨日の夜電話で話した件なんだけど、よかったらお昼過ぎから遊びに行っていいかな? チャコちゃんにも早く会いたいし』

 サキとは、事前に昨日の夜電話で話した、ということで話を合わせるようにサキと約束している。これも、お家の人に電話の内容を聞かれた時に怪しまれないように、と昨日の夜別れる前に決めておいたことだ。

「昼過ぎから? ちょっと待ってね、お父さんとお母さんにいいか聞いてみる」

 

 

 私はそう言ってお父さんとお母さんに振り返って、友達が遊びに来たいって言ってるけどいいかどうかを聞く。

 二人とも、すごく驚いた顔をして少しだけお互いに顔を見合わせたけど、その後私の方に向き直って「うん、いいよ」「是非呼んであげなさい」、と言ってくれた。

「お父さんもお母さんもいいって!」

 『良かった! じゃあ、お昼ご飯を食べたらすぐ行くね。あ、昨日言ってた物もちゃんと持っていくから! じゃあ、また後でね!』

「うん、分かった。また後で」

 

 

 そう言って電話を切る。

 

 そういえば昨日渡したいものがあるって言ってたっけ……?一体何をくれるんだろう?

 電話の後、お父さんとお母さんからサキのことでいろいろと聞かれた。この前、こともちゃんから電話があった時もこんな感じだったなぁ、と思いつつ、夜のことは秘密にしながら、昨日聞いたサキのことをお父さんとお母さんに話してあげた。

 お父さんもお母さんも、それを聞きながらうれしそうにしていた。

 

 

 ……一通り話した後、私のお部屋に戻る途中でこっそりお父さんとお母さんの様子を伺うと……少し複雑そうな顔で、また二人で顔を見合わせていたけれど。

 

 

 

 

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 そしてお昼過ぎ。約束通り、サキがお家にやって来た。

 お父さんもお母さんも、サキの髪の色には驚いた様子だったけど、明るく挨拶と自己紹介をするサキに、すぐに安心した様子で話していた。

 そして、お部屋の方で遊ぶということで、サキを私のお部屋に招き入れる。

 

 

「失礼しまー……」

 

 サキは私のお部屋に置いてある物を見て、固まる。私はそれを見て内心しまった、と思う。

 お部屋のお掃除は済ませてあったけど……お部屋に置いてあるものがそのままだった。

 不思議な小石や不気味な壺くらいならともかく、割れたケータイやお魚ミイラ、大きな奥歯などはしまっておいた方が良かったかもしれない。

 

「わんわんっ!!」

 

 お部屋のクッションの上でくつろいでいたチャコが、サキに気付いて慌てたようにクッションから身を起こして吠える。サキもチャコの鳴き声に我に返って、チャコに視線を移す。

「わっ、可愛い!! この子がチャコちゃんだね?!」

 どう反応したらいいか困った様子だったサキがチャコに気付いて、ぱっと明るい顔になる。そういえば、猫も好きだけど、犬も好きだって言ってたっけ……後でチャコにお礼をしておこう。

 

 チャコは最初こそサキを警戒した様子だったけれど、サキがしゃがんで優しい顔で手招きするのに安心したのか、サキの元へ近付いて、体を撫でさせてあげた。事前に「新しいお友達が来るから、仲良くしてあげてね」とチャコに言っておいたのもよかったのかもしれない。

「良かった、チャコは勇敢なんだけど、人見知りするところがあるから。サキは大丈夫そうだね」

「まだ小さいけど、すごく賢そうだね。芸とかは出来る?」

 えっと……お手とか待てとかの簡単なのはユイが教えてたかな?と思っていると、サキが「お手!」というとチャコがそれに応えてサキの手にお手をする。

「すっかり仲良しだね。よかったね、チャコ」

「わん!」

 チャコもうれしそうに私に応えた。

 

 前に私のお家に遊びに来た、こともちゃんも犬が好きだって言っていたけれど、チャコと触れ合うと、前飼ってた犬のことを思い出してしまうのか、嬉しそうな反面、時々少し寂しそうな顔をすることがあったから、チャコも嬉しそうな反面、こともちゃんにはどこか遠慮しているところがあった。

 その分、屈託ない笑顔で接してくれるサキには、チャコも安心できるのかもしれない。

 

 

 私は座布団をテーブルの前に置くと、サキに座るように促した。

 すぐに本題に入るのかと思ったら、サキは別の話を始めた。私は話を合わせながら、昨日の話は……?と首を傾げていると、お母さんがおやつと飲み物をお盆に乗せて、お部屋に入ってきた。

 

 サキはお母さんにお礼を言って会釈した後、にこにこ顔で部屋を後にするお母さんを暫く見送ってから、サキは私に向き直る。

「ごめんごめん、おばさんが階段を上がってくる音がしたから、咄嗟に別の話題で誤魔化したんだ。この話は後で話すとして……昨日のハサミのお化けの話に入ろうか」

「あ、そうだったんだ……。ごめんね、いろいろ考えたけど、結局思いつかなかった……サキは?」

「作戦って程じゃないけど、使えそうな案は二つあるかな」

「案……?」

 私が聞き返すと、サキは片方の手でチョキを、もう片方の手でグーを作る。

 

 

「じゃんけんにおける、グー、チョキ、パーはそれぞれ、石ころ、ハサミ、紙を意味してるって知ってるよね? パーにあたる紙は、ハサミで切られてしまうけど、石ころをすっぽり包んでしまえるから、パーはチョキに負けて、グーに勝てる。じゃあ、チョキにあたるハサミは?」

 

 サキの説明に、私はあっと声を挙げる。

「そうだ……ハサミは紙をバラバラに切れてしまうけど、石ころは切れない!」

 

 そういえば、コトワリさまのハサミも同じだ。コトワリさまの大きなハサミは、大抵のものはバラバラに切り裂いてしまうけれど、コトワリさまの神社の石で作られた参道だけは、何度やっても切れなかった。

 

「だから、あのハサミのお化けに、あの大きな黒いハサミで切れないような固い物を切らせて、あのハサミをボロボロにしてしまうか、壊してしまえばいいんだよ。人を殺すような凶悪なお化けだけど、あのハサミは大切にしているだろうし、そのハサミを台無しにされればさすがに反省するんじゃないかなって」

 コトワリさまを真似てハサミを持ち歩いてるくらいなら、あのお化けもハサミを大切にしてるだろうからね、とサキが説明する。

 確かに、あのハサミのお化けは人を襲う際、あの絵にあった黒い大きなハサミを使っているらしいから、そのハサミが壊れてしまえば、ハサミが直るまで人を襲えないし、上手くいけば反省してもう人を襲わなくなるかもしれない。だけど……。

 

「ただ問題もあってね……私もあのハサミが何が切れて、何が切れないのかは把握してないし、どれくらいあのハサミが頑丈かも分からないんだよね……。それが分からないと、切れないと思ってた物ごと私達もばっさり、なんてこともあり得るから」

 

 サキも同じことを思っていたみたいで、「この案でいくには、あのハサミのことがもう少し分かってからでないと」と続けた。

 

 

「そっか……それじゃあ、もう一つの案は?」

 

 サキの考えた一つ目の案は分かったので、私は続けて二つ目の案のことをサキに聞く。

 サキは頷くと、「これはあまり気が進まないんだけど……」と言いながら、もう一つの案を口にした。

 

 

「あのハサミのお化けが『本当に切りたいモノ』を切らせて、満足してもらう」

 

 

「え……それって……」

 

 サキの言葉に、私は絶句する。サキはそんな私の反応にちょっと慌てたように話を続ける。

「あ、違うよ!? 私が言っているのは、あのハサミのお化けには『手と足と首のある物』とは別に、『切りたくて切りたくて仕方が無いモノ』があるんじゃないかってこと」

「切りたくて切りたくて……仕方がないモノ?」

 いまいちよく分からない私に、サキは「んー、じゃあ順番に説明するね」と説明を始める。

「あくまで私の考えたことなんだけど、私はお化け達には、それぞれそのお化けが行動している、本当の理由があると思ってるんだ」

 

 

 サキがいうには、一括りに「人を襲うお化け」「人を脅かすお化け」といっても、それぞれお化けなりに何かの理由があるように思える、らしい。

 例えば、この街でよく見かける白い影のお化けは、サキには怒りや不満、妬みなどの良くない感情を溜め込んでいるように見えるらしい。

 だから、そのぶつけようのないモヤモヤした気持ちからあの唸り声を挙げていて、それをぶつけられる相手を見つけるとそのやり場のなかった感情をぶつけようと追いかけてくるんじゃないかな、とサキは説明する。

 言われてみれば、あの唸り声は悩んでいるとか、苦しんでいるとかよりも、イライラして頭を掻きながら挙げている声のようなイメージがある。

 

 思い返してみれば、『あの夜』に出会ったお化け達の中には、ただただ私を殺そうとしたお化け以外にも、何かを伝えようとしていたり、自分のいる場所から追い出そうとしていたり、仲間を守ろうとしていたお化けもいた。

 

 

「私も最初、ハサミを持っているのはコトワリさまの真似をしているだけなのかな、と思ったけど、もしかしたらそれだけじゃなくて、あのハサミのお化けには、あんな大きなハサミを持ち出してまで、バッサリと切ってしまいたい何かがあるんじゃないかな、って思うんだ。『手と足と首のある物』はあくまで、本当に切りたいものが切れるまでの気休め、なんじゃないかな」

 

 

「……だとすると……気休めで人を殺しても、なんとも思わないお化けってことなのかな……」

 

 ぽつりと呟いた私の言葉に、少しサキが何かを感じたように、少しだけ押し黙る。

 

「……私も、そんな身勝手なお化けの願いを叶えるのなんて、出来ればやりたくない。だけど、あのお化けには何人も何も悪いことをしていない人が残酷な殺され方をしていて、しかもそれが何も悪いことをしていないコトワリさまのせいにされてる。やっつけたり、反省させる方法があれば絶対そっちにしたいけど……」

 そう言うと、サキは暫く黙ってしまった。私もどこかやるせない気持ちになってしまって、暫く何も言えなかった。

 

 

「……ハサミのお化けに関してはそれくらいかな……。どちらの案にしても、あのハサミのお化けのことをもう少し調べないといけないかな……危険だけど、そうしないと手の打ちようが無いよ」

 

 沈黙を破ったサキはそう言ってため息を付いた……その後、急に「あっそうだ」と思い出したように声を挙げた。

 

「? どうしたの、サキ?」

 私が首を傾げると、サキはネコ耳のポシェットから何かを取り出そうと漁り出す。

「ほら、昨日の夜にあげるっていってた物があったでしょ? ちゃんと持ってきたよ、ほら」

 

 

 そう言ってサキが取り出したのは、鉛筆よりちょっと大きいくらいの長さと太さの棒の束と、紐で繋がれた、ビー玉くらいの大きさの綺麗な青色をした鈴だった。

 

 

「まずこっちはペンライト。ここを押してオンにした後、振ると少しの間だけ光るんだよ」

 

 そう言って、サキが棒の横についていた小さなボタンを押した後に棒を振ると、棒が赤色に光る。今はお部屋の中が明るいから目立たないけれど、夜の街なら目立ちそうだ。

 

「使い方としては、お化けの注意を引くのに使ったり、光でお化けを照らして見えるようにしたりできるよ。使った後はお化けに見つからないようにこっそり拾うか、夜が明けてお化けがいなくなってから拾いに行くかしないと勿体ないけど」

 お化けの中には、光に反応して襲ってくるお化けもいるから、そういったお化けの注意を引くのにも便利かもしれない。

「確かに便利そうだけど……私が貰ってもいいの?」

「うん。どう使うかはハルの判断に任せるよ。あ、でも気を付けてね? 夜が明けた後に拾いに行ったら、もう誰かが持って行っちゃってたことが何度かあって、何本か無くしちゃったんだよね……」

「そ、そうなんだ……。ありがとう、できるだけ大切に使うね」

 

 大切に使いたいけれど、お化けから逃げる時はそうもいかない時もあるかもしれない。でも、サキに貰ったからには、少しでも長く、上手く使えるようにしよう。

 

 

「それでこっちの鈴は……まあ、お守りみたいなものだよ。これもハルにあげるよ」

「ありがとう。綺麗な鈴だね」

 私はもう一つの、紐が結んである青色の鈴をサキから受け取る。実は鈴の音には少し怖い思い出があるけど……とても綺麗な鈴だし、サキからのプレゼントだから嬉しい。

 

「……あれ?」

 早速音を聞いてみようとして軽く振ってみて……私はその鈴の音が鳴らないことに気付いて首を傾げる。それを見てサキがちょっと苦笑いする。

「ごめんね、“普段は”鳴らないんだ、その鈴。私も貰った物だから詳しくは知らないけど、『魔除けの鈴』ってところかな」

「『魔除けの鈴』……? 普段は鳴らないってことは、鳴る時もあるの?」

「んー……まあ、今説明してもあんまり信じて貰えなさそうだから、夜外に出る時に持っていけば分かると思うよ」

「……? そうなんだ。ありがとう、大切にするよ」

「ちなみに私は緑色が好きだから、普段は緑色の鈴を持ってるんだ。今ハルに渡したのと、私の持ってるのとは別にもう一つあったけど、そっちは別の子にあげちゃったから、ハルに似合う青色が残ってて良かったよ」

 そう言いながら、サキは自分のポシェットに付けている緑色の鈴を見せてくれた。やっぱりサキが手に持って振っても、音が鳴らない。

 

 本当に鳴るのかな……と少し気になるけれど、後でポシェットに付けておこう。

 

 

 その後は、夜のことやお化けのことはひとまず置いておいて、サキと最近あったことや、趣味の話でおしゃべりしたり、チャコと一緒に遊んだりして楽しく過ごした。

 

 ……サキは「夜やお化けのことは一旦抜きで」、と前置きしておしゃべりを始めた。それは私に気を遣ってくれたのかもしれないし、単にサキが聞かれたくないことを聞かれないようにするためだったのかもしれない。

 ……いやきっと、両方なんだろうな、となんとなく思った。

 

 

 

 

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「今日は楽しかったよ、ありがとう。おばさんもご馳走様でした」

「どういたしまして。良かったらまた遊びに来てね。ハルもチャコちゃんも喜ぶから」

 そして夕方。お母さんとチャコと一緒に、玄関までサキを見送りに来ていた。

「ありがとうございます。じゃあハル、チャコちゃん、また今度遊ぼうね!」

「うん、また今度ね!」

「わん!」

 

 そう言ってサキに手を振って見送った。お母さんには勿論内緒だけれど、「また今度」とはいうけど実は今日の夜、お外で待ち合わせをしている。夜は遊びに行くわけじゃないから別に嘘は言ってない、とはサキの談だ。

 

「最初はちょっと不思議な子だと思ったけど、とても良い子で安心したわ」

 サキを見送った後、お母さんが私にそんなことを言った。嬉しそうだったけれど、やっぱり、どこか寂しそうにも聞こえた。

 

 

 ……お母さんも、よく私のお家に遊びに来ていた、ユイのことをよく知っている。だからお母さんも、どうしてもユイのことを考えてしまうんだと思う。

 ユイが……最後に私のお家に遊びに来た日のことを。

 今日のサキみたいに、「良かったらまた遊びに来てね」とユイを笑顔で見送って……それがお母さんがユイを見た最後になった、あの時のことを。

 

 

「――さて、お仕事に行く前に、ハルの晩御飯を用意しなくちゃ。ハル、晩御飯の前に、チャコちゃんのお散歩、お願いね?」

「うん。それじゃあチャコ、お散歩に……って、あれ?」

 

 

 気を取り直したお母さんと私が振り返った先には、いつの間に取りに行ったのか、お散歩の時に付けていく赤いリードを咥えて尻尾を振る、チャコの姿があった。

 私とお母さんは顔を見合わせ……どちらからともなく、笑い出してしまった。

 私とお母さんが暗い表情をしているのを見て、チャコなりに気を遣ってくれたのかな……。

 

 

 

 

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 ――そして、夜が来る。

 

 

 私は時計を見て、待ち合わせの時間が近くなったのを確認すると、お外に行く準備をして、お部屋を出ようとした。

 

 その時、チャコが私の足元へ走り寄ってきた。

「わん!」

「……チャコ?」

 チャコは私の周りをぐるぐると回った後、もう一鳴きする。これは、夜お外に行く時、チャコが自分も連れて行って欲しいとおねだりする時の仕草だ。

「だ、駄目だよチャコ。今日はサキと、ハサミのお化けのことを調べないと――」

 

 

 

 

『だからこそ、今日は一緒に行きたいんだってさ。連れて行ってあげなよ、ハルちゃん』

 

 

 

 

 不意に、お部屋の隅の方から声がした。

 みると、今日はお部屋の隅にいた丸い毛玉が目と口を覗かせて、こちらを見ていた。

 

 

 この毛玉は『あの夜』、田んぼでお化けに追いかけられて茂みに隠れた際、私を助けてくれた声の主だ。その時はまさか、私を助けてくれたのが茂みから出た後に拾ったこの毛玉だったなんて思いもしなかったけど……。

 普段は丸っこい毛玉のような姿で、チャコにボールみたいに転がされて遊ばれているけれど、お父さんやお母さん、おばあちゃんが私のお部屋にいない時は時々毛玉から目と口と脚を出してお部屋を這いまわってる。こうしてお話しすることも出来るみたいで、時々私やチャコにお話をしてくれることもあった。話してくれるようになったのは最近だけど、この毛玉の声はあの茂みの中で聞いた声とまったく同じだから、前から話すことは出来たみたい。

 お化け――なんだろうけど、田んぼでは私を助けてくれたし、その後も時々助言をしてくれたり、相談相手にもなってくれているから追い出す気にはなれなくて、チャコともお互いに仲良しみたいだからまあいいかな、と思ってる。

 名前を付けてあげようかな、と思って相談したら、『毛玉って言葉の響きが好きでしっくりくるから、毛玉のままでいいよ』と言っていたので、私は今でも『毛玉』と呼んでいる。

 

 

 毛玉は、今夜チャコを一緒に連れて行くようにと私に薦めてきた。

「で、でも……」

『チャコちゃん、昨日あの山に行くのに自分を連れて行ってくれなかったってハルちゃんを心配してたんだよ? そして今日は危険なお化けのことを調べに行くのにまた自分を置いていこうとする。心配しないでいいっていう方が無理なんじゃない?』

「わんわん!」

 ちょっと意地悪に言う毛玉の言葉に、チャコが「そうだそうだ!」というかのように鳴く。

 

『それに、ハサミのお化けの手掛かりを探すなら、嗅覚に優れているチャコちゃんがいた方が都合がいいと思うよ?』

「うーん……毛玉に言われちゃ仕方ないな……。分かったよ、一緒に行こうチャコ」

 こうなってしまったら仕方ない。私はチャコを連れていくことにした。サキは喜ぶだろうし、まあいいかな……。

『それじゃチャコちゃん、ハルちゃんをよろしくね。いってらっしゃい』

「わん!」

 そう言うと、毛玉は目と口を引っ込めて、丸い毛玉に戻ろうとして……『あ、そうだそうだ』と、もう一度目と口を覗かせる。

 

「? まだなにかあるの?」

 『サキちゃんから貰ったその鈴。とても良い物だから、大切にしてね』

 昼間、サキから貰った青色の鈴は、あの後早速ポシェットに付けておいた。相変わらず、振っても鳴らないけど、本当に鳴るのかな……?

「勿論大切にするよ、サキからのプレゼントだもの。毛玉はこの鈴が何か知ってるの?」

 『そうだね、簡単にいうと……“鈴の音がした方向”に注意してね。それじゃ、いってらっしゃい』

 それだけ言うと、毛玉は今度こそ元の丸い毛玉に戻ってしまった。

 

 

「…………?」

 よく分からないけれど、毛玉の助言は後々になって、「ああ、そういうことか」と分かることが多いから、しっかり覚えておこう。

 

「まあいっか。行こっか、チャコ」

「わん!」

 私は気を改めて、チャコと一緒にサキと待ち合わせをしている公園へと向かう。

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