「ハル、何がどうなって……」
私はハルに状況を聞こうとしたけれど、どこか遠い目で私を見ていたハルの目に大粒の涙が浮かび──ハルは大声で泣き出してしまった。
「っ?! は、ハル!?」
「サキぃ……っ!! 良かった……良かった……っ!!」
突然のことに慌てた私がかろうじて聞き取れたハルの言葉はそれが最後で、後は言葉にならない声で、大声で泣くばかりだった。
「ハル……ごめんね遅くなって……。もう大丈夫だよ……」
私はハルにつられて泣きそうになりながら、ハルの頭を撫でた。
「手、手、手手手手手がっ!! 僕の、僕の手がぁーーーーーーーッッ!!」
ハルと一緒に泣いてしまいそうになっていた私の耳に、男の悲鳴が聞こえる。
──ああそうだ。この男は……この男だけは。
「──それ、すごく痛そうだね、おじさん」
私はうっすらと視界を滲ませていた涙を拭うと、男を睨んだ。
私の声に、男がはっとした顔をして、私の方を見る。
「だけど、おじさんにバラバラにされた人達は……もっともっと、痛かったと思うよ?」
──この男だけは……許さない…………!!
「は、白髪のガキと、犬?! お、お前ら、なんで……っ!?」
ハサミのお化けに怯えて後ずさりながら、男が私とチャコちゃんに気付いて驚いた声を挙げる。
「私ももうだめかと思ったよ。ハサミのお化けが襲うせいで『手と足と首のある物』はポシェットから探せないし、かといって隠れる場所も無いし……挙句の果てに、必死に逃げた先は袋小路だし。だけどその時、自棄になってた私は咄嗟に口にしたんだ。『あのおじさんを追わないとハルが手と足と首をバラバラにされて殺されちゃう!! ここを通して!!』ってね。そしたらそのハサミのお化けが急に動きを止めてね……。突然、消えてしまったんだ」
私は涙声にならないように気を付けながら、男に説明を始めた。
その後はその後で大変だった。
散々逃げ回ったせいで自分が今どこにいるのか分からないし、チャコちゃんはハサミのお化けがいなくなったとみるや、いきなり全速力で走っていくし……。
お陰で横で鈴が鳴ろうが、後ろで鈴が鳴ろうがお構いなしに、全力でこの場所までノンストップで走ってくることになった。意外と近かったから良かったようなものの、これが長距離だったら途中でバテてしまって、全く関係ない通りすがりのお化けに捕まってしまっていたかもしれない。
「そして今、ここに来て分かったよ。そのハサミのお化けが、『切りたくて切りたくて仕方が無かったモノ』……それは貴方だよ、おじさん!!」
「うぅーーーーっ!! わんわんわんわんっ!!」
私とチャコちゃんの怒りに『そうだ!!』と応えるかのように、ハサミのお化けが男目掛けてハサミで切り掛かる。男は悲鳴を挙げてそれを避け、自分の左手首……そこにあったわら人形を、残された右手で取ろうとする。
だけど、それはとっくに横真っ二つに切られていて、とても『手と足と首のある物』には見えない。それを理解した男が、また悲鳴を挙げる。
「ぼ、僕を切りたくて切りたくて仕方がなかった……? ど、どういうことだっ!?」
「それを説明する前に一つ、おじさんに確認したいことがあるんだ。この街で起きた一連のバラバラ殺人事件は全部おじさんがやったこと? それとも、おじさんには身に覚えのない事件がある? ……正直に言ってくれたらその怪我、後で手当てしてあげてもいいよ?」
それは、どうしても確認しておかないといけない、大切なことだった。
「あ……ああそうさ! 全員僕が殺したさ!! この化け物でも、そっちのもう一匹の化け物でもない、この僕がね!! だから僕こそが『コトワリさま』──」
「ふざけないでっっ!!!!貴方はコトワリさまなんかじゃないっっっっ!!!!!!!!」
ジャキンッ!!
「ひっ!? ひいいいいいいいいいいいいいっっっっ!!!!?!?」
またハサミのお化けが男に切り掛かり、男が悲鳴を挙げながらこれを避ける。
コトワリさまは意外にも冷静で、私と、まだ泣いているハルをじっと見るようにこちらに向いている……。……ハサミも向けられているからちょっと怖いけれど、昨日の夜みたいな殺気は感じないから、そのことは気にしないようにしておく。
聞き捨てならない言葉だったけれど……今の男の言葉のお陰で、私がこの男の正体に気付いてから考えていた憶測が正しかったことを確信する。その上で、私は男に話し始める。
「……ハルから聞いたかもしれないけど、コトワリさまというのは本当は、こっちで浮かんでいる赤黒いハサミを持った神様のことなんだ。だけど、おじさんが街で殺人事件を起こした時、おじさんが連続バラバラ殺人事件を起こす前からこの街にあった『コトワリさま』の良くない噂と混ざって、『連続バラバラ殺人事件はコトワリさまの仕業だ』という噂が生まれてしまったんだと思う。そんな二つの噂から生まれたお化けが……そこの大きな黒いハサミのお化けなんじゃないかな」
ここまで説明してから、コトワリさまの前で失礼だったかな……と、ちらりとコトワリさまを横目で見たけれど、コトワリさまは『続けてくれ』と言いたげにこちらを向いたままその場に浮かんでいる。
私はコトワリさまに向き直って少し頭を下げた後、私は話を続ける。
「ハサミのお化けは悩んだだろうね。自分は『連続バラバラ殺人事件はコトワリさまの仕業だ』という噂から生まれたけれど、本物のコトワリさまは今回の事件では何も悪いことをしてない。だから、自分が噂通りに人をバラバラにして殺してしまうと、噂の中の『コトワリさま』という定義から外れて自分が消えてしまうかもしれない。かといって、ずっと人を殺さずにいれば、今度は『連続バラバラ殺人事件の犯人』という定義から外れて自分が消えてしまうかもしれない」
それは、曖昧な噂から生まれた、曖昧な存在である故の矛盾。
このために、噂から生まれたお化けのほとんどは放っておけばいずれ消えてしまう。噂がその地域に根付かずに絶えてしまえば、噂から生まれたお化けはその存在を保てなくなって消えてしまう。お化け自身が噂の内容とは違うことをし続ければ、その矛盾に曖昧な存在が耐え切れず、やはり噂から生まれたお化けは消えてしまう。
だから噂から生まれたお化け達は、自分を保つために噂通りの行動をしなければならない。たとえそれが、元より有り得ない矛盾した噂であったとしても。
「だからハサミのお化けは、連続バラバラ殺人事件の犯人を探していたんだ。自分を形作っている二つの噂のうち、『連続バラバラ殺人事件はコトワリさまの仕業だ』という、間違った噂の元凶を断つためにね。連続バラバラ殺人事件の犯人がコトワリさまではないことが証明できれば、後は元々この街にあった『コトワリさまに出会ったら、手と足と首のある物を渡すこと。さもなくば、手と足と首をバラバラに切られて殺されてしまう』という噂を守って行動すれば、自分は消えずに残れると考えたんじゃないかな。もっとも、私が偶然教えるまで、おじさんがその探していた犯人だとは気付いてなかったようだけど」
一昨日、今日と、やたら私がハサミのお化けに襲われたのも案外、一昨日私に出会った時に『夜道を歩いているからこいつが犯人だ』、と思われたからかもしれない。これに関しては私もその後、「ハサミのお化けが連続バラバラ殺人事件の犯人だ」と思い込んでいたから、おあいこなのかな……。
「だ、だったら何故……何故このハサミの化け物は消えないんだ?! 赤い方はともかく、こっちの黒い方はさっき僕の左手ごとわら人形を切っただろう?! 『コトワリさま』が『手と足と首のある物』を切ったのに消えないのは、それこそ噂の内容と矛盾しているじゃないか!?」
男が、苦し紛れにそんなことを言って私に聞く。
気付けば、ハサミのお化けは男を襲うのを止めて、私の方をその赤い目でじっと見ている。
……これに関しては、ハサミのお化けが男の左手首ごと、わら人形を切った時から……いや、私が咄嗟にあのことを口にした時から、ハサミのお化けは気付いてる。
今更隠そうとしたところで、もう遅い。私は溜め息を付いた後、男の疑問に答える。
「それはね……ハサミのお化けのことを、『コトワリさまとは別のお化け』として、私とハル、チャコちゃんは『理解している』から。加えて、コトワリさまがいるこの場に現れることで、『コトワリさまとは別のお化け』としておじさんも『理解した』。だからもう、そのお化けは私達しかいないこの場においては、自分を保つために『コトワリさま』を演じる必要は無いんだ」
「な、なんだ……どういうことなんだ!?」
ハサミのお化けが、男にハサミを向け直して……目一杯にハサミの刃を開く。
「ハサミのお化けは、
ジャキン、という音に紛れて、何かが切り落とされる音と……
……僅かに遅れて、何かがボトッと落ちる音がした。
・
・
・
──その後。
「ん……ここは……私のお部屋……?」
「あ、起きた? おはよう、ハル。……といってもまだ夜中だけど」
ハルの部屋。スケッチブックで絵を描いていた私は、ベッドに寝かせていたハルが起きたのを見て、スケッチブックと鉛筆をテーブルに置いて、ハルに向き直る。
「……さ、サキ!? あ、あの男の人は!? コトワリさまは!? ハサミのお化けは!?」
暫くぼーっとしていたハルは、ハッとした顔になると、私に慌てて矢継ぎ早に聞く。大体予想はしてたので、私は落ち着いて、私が男と話し始めた辺りからの流れをハルに説明する。
「──それで、あのおじさんはハサミのお化けに右手首も切られて、その痛みと恐怖で気を失っちゃった。ハサミのお化けはそれで満足したみたいで、そのまま消えちゃった。コトワリさまは、私とチャコちゃんからお礼を言って、私が差し出した『手と足と首のある物』をバラバラに切ったらいなくなっちゃった。残ったおじさんは両手首をタオルで縛って止血しておいて、公衆電話で警察と救急車を呼んでおいたから、今頃あの空き地は大騒ぎになってるんじゃないかな? それで、私は眠ってしまったハルを担いで、チャコちゃんと一緒にハルの家まで戻ってきたというわけ」
私の説明に、同じく一部始終を見ていたチャコちゃんが「わん!」と同意するように鳴く。
いろいろとへとへとだけれど、かといってバテているとハルに心配されてしまいそうだから、ぐっと堪える。
「そ、そうだったんだ……ごめんなさい、私、あの後何があったのか全然覚えてない……」
ハルが困ったように、そしてどこか恥ずかしそうに私に謝った。ハルが恥ずかしがっているのは、ハルが大泣きした後、そのまま泣き疲れて眠ってしまったことだろうな、と私はすぐに思い当たったけど、ハルが可哀想だからそのことは触れないでおく。
「ううん、私の方こそ、ごめんなさい……。私のせいで、ハルやチャコちゃんを危険な目に遭わせちゃった……。コトワリさまと、今回の件に限ってはハサミのお化けが助けてくれたけれど、もしそうじゃなかったら……」
「あ……。……さ、サキのせいじゃないよ! ……あの噂のことを調べようとしていたのは私だって同じだし、それに、本当に悪いのはあのおじさんだよ? どうしてサキが謝るの……?」
ハルが慌ててそう言ってくれるけれど、私はこれに首を横に振る。
「それでも私は、ハルやチャコちゃんに怖い思いをさせるきっかけを作ったから……。それに、私が謝りたいのは、今回の一件だけじゃなくて……今後の事もなんだ」
「今後の事……?」
ハルの問いに、私は頷く。
……私は、これに関してはハルに何を言われても仕方ないと覚悟した上で、話を始める。
「……あのハサミのお化けは、私とハル、チャコちゃん……それとあのおじさんもかな? 私達に対しては、もう『コトワリさま』を演じる必要がない。私達は、ハサミのお化けのことを『コトワリさまとは別のお化け』として理解していることを、あのハサミのお化けに知られてしまったから。つまり……今後、私とハルとチャコちゃんに対しては、あのハサミのお化けは『手と足と首のある物』を無視して襲うことが出来るってことなんだ……」
今回の一件で、当初の『連続バラバラ殺人事件を解決し、コトワリさまの疑いを晴らす』という目的こそ達成したけれど、私とハル、そしてチャコちゃんは、神出鬼没で非常に危険なお化けである、あのハサミのお化けに対して、『手と足と首のある物を差し出す』という、確実かつ容易な対処法を失ってしまったことになる。
「私が、あんなことを口走ったせいで……ハルやチャコちゃんは今後あのハサミのお化けに襲われた時、『手と足と首のある物』を渡しても、何の意味も無い……。……全部、私のせいだ……ごめんなさい」
私は、ハルに頭を下げて謝った。
「大丈夫だよ、サキ。あのハサミのお化けは私を助けてくれた、優しいお化けだから」
だけど、ハルから返ってきたのは、私が予想だにしていなかった言葉だった。
「…………え?」
私はハルが言った言葉が理解できず、素っ頓狂な声を挙げてしまった。
「い……いやいやハル、確かにあの時はそうだったかもしれないけど──」
「それに、あのハサミのお化けはサキやチャコを殺さなかった。確かにあのお化けが切りたかったのはあの男の人だったかもしれないけど、本当に悪いお化けだったのなら、サキやチャコをバラバラにしてからあの空き地に来てもおかしくなかった。だけど、あの男の人が殺人事件の犯人だよってサキが教えてあげたから、ハサミのお化けはサキに感謝して、サキとチャコを襲わないでくれたんじゃないかな……?」
「あ…………」
ハルの言葉に、私はあの時のことを思い出す。私が言った言葉に驚いたように動きを止めて──とても嬉しそうな、優しい目で私を見ながら消えていった、あのハサミのお化けを。
「私ね……あの空き地で、あの男の人に言われたの。『サキやチャコは、あのお化けに殺されてしまったんだ。だから待っても待っても助けに来ないんだ』って……。……怖かった。サキやチャコが助けに来てくれなくて、私があの男の人にバラバラにされてしまうことよりも、サキやチャコが、あのお化けにバラバラにされて殺されてしまったんじゃないかって……」
「………………」
「本当に……本当に怖かった……。……だけど違ったんだ。あのハサミのお化けは、サキやチャコを殺さないでくれた。それだけじゃない、私を助けてくれて……切りたくて切りたくて仕方なかったはずのあの男の人でさえも、殺したりはしなかった。だから私は思うんだ。あのハサミのお化けは、本当はとても優しいお化けだって。コトワリさまも、あのハサミのお化けが本当は優しいお化けだって分かっていたから、やっつけたりしなかったんじゃないかな……」
私は一昨日もあのハサミのお化けに襲われたんだけど、なんて……もう、言えなかった。
私は……ハルに言われるまで、あのハサミのお化けが「切りたくて切りたくて仕方がないモノ」があの男だと分かったから、それに喜んであの空き地に向かっていっただけだと思ってた。
だけど、違う……。あの優しい目は、私に感謝を伝えていたんだ……。だから、私やチャコちゃんを殺さないでくれたんだ。
「……そっか。ハルがそう言うなら……私も悪いようには考えないようにするよ」
私がそう言うと、ハルは嬉しそうに頷いた。
あ、そういえば……、と私はふとあることを思い出す。
「コトワリさまにはちゃんとお礼を言ったけど、あのハサミのお化けにはお礼を言えなかったな……。今度会ったらお礼を言っておこう。……問答無用で襲われなければだけど」
「ううん、きっとハサミのお化けも、サキがお礼を言ってくれたら喜ぶよ。そうだ、私も今度会った時にコトワリさまと、ハサミのお化けにちゃんとお礼を言わないと──」
コトワリさまはともかく、ハサミのお化けを「もう襲ってこない」と信じて疑わない様子のハルに、念のため注意した方が……、とは私は言えなかった。
そもそも、私はあのハサミのお化けを連続バラバラ殺人事件の犯人だと勝手に決めつけていたけれど、実際のところ、ハサミのお化けは誰も殺していなかった。……少なくとも、今夜までは。
「うん……そうだといいね……。……私も、そうだと嬉しいな」
ハルが信じて疑わない、「優しいハサミのお化け」のままでいて欲しいなと、私は心の中で、密かにハサミのお化けにお願いをした。
・
・
・
チリンチリン……
その後。ハルの家を後にした、帰り道。
あの空き地の方から、パトカーと救急車の音が聞こえる。騒ぎの中心になっているのはあの空き地だから、人に見つかることはないだろうと思っていたけれど、お化けには見つかるみたいだ。
背後から鈴の音を聞いた私は、即座に後ろを振り返る。
「──わざわざ出て来なくても、今日は疲れたからもう帰るよ」
私は道の向こうの暗がりに、こちらに向かってくる『ソレ』の姿が見えたのを確認すると、そう言いながらも急いで、丁度道の端に置いてあった大きな看板の影にしゃがみ込んで隠れ、目を閉じる。
『気配』は何かを引きずるような音を立てながら、私の隠れた看板の傍まで来る。そのまま通り過ぎてくれればいいのに、看板の近くで私が出てくるのを待つように……『気配』がその場から動かなくなる。
いや、だから帰る途中だよ……?……本当だよ……?
なかなか『気配』が看板から離れてくれず、もしかして私が出るまで待つ気なんじゃ……と思い始めて私が内心焦っていると、看板の傍にいた『気配』がまた何かを引きずるような音を立てながら、先程に比べるとゆっくりと、のっそりのっそり看板から離れていく。
そのまま看板から遠ざかっていき……途中でフッ、とその『気配』は消えてしまった。
消えた『気配』がもう一度現れないことをしっかり待って確認した後、私は閉じていた目を開けて、看板の影から出る。
……『ソレ』がもういないことを改めて確認すると、私は一つ溜め息をついた。
「……ハルやチャコちゃんと一緒にいた時はまったく出て来なかったのに、一人になった途端にこれだもんなぁ……」
しかも今まさに家に帰る途中で、私の住んでいる団地も目と鼻の先なのに。家に帰らない子供を攫うお化けが、家に帰ろうとしている私を攫おうとするのはどうかと思う。
看板から出て、『ソレ』が去っていった方向を見ながら、独りそんなことを呟いてしまう。
『サキ、大丈夫? 疲れているみたいだし、お家まで送っていこうか?』
『だから団地はすぐそこだって……。一人で大丈夫だよ、ハル。心配しないで?』
『そ、そうだったね……。……おやすみ、サキ。また明日』
『うん。おやすみ、ハル。また明日!』
「………………」
ふと、ハルの家から出る時に、ハルと玄関先で交わした会話を思い出す。
「……単にお節介焼きなだけ、ならいいんだけど……」
昨日と同じように、心配そうな顔で私を見送ったハルも。
私が一人になった途端、どこからともなく現れた『アレ』も。
まるで私が、どこか遠くへ行ってしまうんじゃないかと恐れているみたいで……。
まるで私が、どこか遠くへ連れていかれてしまうんじゃないかと恐れているみたいで……。
「……帰ろう」
私を照らしている、切れ掛かって不規則に点滅を繰り返す街灯の明かりに、どこかうすら寒さを感じて……私はいつもより少し早歩きで、帰り道を急いだ。
〇ハルとオバケたち
このまちにはいろんなオバケがいる。
ひとをおそうオバケ。かなしそうなオバケ。ひとをおどろかせるオバケ。なやんでいるオバケ。
わたしはおそってくるからわるいオバケ、みためがこわいからきけんなオバケ、ときめつけてた。
だけど、ハルはちがった。
どんなにこわいおもいをさせられたオバケでも、どんなにみためがこわいオバケでも、
そのオバケはどんなオバケなのかをかんがえようとしていた。
だからハルは、オバケにあやまったり、オバケにかんしゃしたりできるんだろうな。
わたしが、わるいオバケだときめつけようとしていたあのハサミのオバケも、
ハルが「やさしいオバケだよ」っておしえてくれた。
わたしも、オバケたちにすこしだけやさしくしてみよう。
かえってきけんなめにあったり、こわいめにあったりするかもしれないけど。
そうすれば、オバケたちのちがったすがたが、みえてくるかもしれないから。
(サキ、ハル、チャコが、住宅街を進む黒いハサミのお化けを追い掛けている絵)
〇二日目後書き
これにて、二日目は終了となります。
ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。
まだまだお話は続きますが、何点か解説した方がいいかなと思う部分を補完させていただきます。
・サキがハルに渡した「ペンライト」と「鳴らない鈴」
「鳴らない鈴」に関してはオリジナルの「お守り」です。効果は作中にサキが解説した通り、「お化けに気付かれた時、持ち主がそのお化けに気付いていない場合は鈴の音でお化けのいる方向を知らせる」というものです。
「ペンライト」は、サキの説明でピンと来た人もいるかもしれませんが、原作における「蛍」の性能ほぼそのままです。
原作「深夜廻」の攻略中に結構お世話になったアイテムなのに、上手く登場させる方法が思いつかなかったので、苦肉の策でこのような形となりました。
唯一違うところは再回収できるかどうかですが、ハルやサキ、そして「あの子」がどう活用するのか……といっても、忘れた頃に時々使う程度になってしまうかもしれません。
・毛玉こと「うごめくけだま」
原作「深夜廻」にもいたアイツです。原作に登場するキャラやお化け、神様の中では、一番うちの子設定が強いキャラになってしまったかもしれないですね……。
まあ、毛玉です。すごくすごく、毛玉です。それ以上かもしれないし、それ以下かもしれない、毛玉です。
・犯人の男に関して
原作「深夜廻」において図書館に落ちている記事にあった、猟奇事件の犯人とは別人です。
二日目における重要人物ですが、彼に関しては特に言うことはありません。
読み返してみると、ヒントが少し露骨だったかもしれないですね……反省。
三日目はまだ手を付け始めたところなので間が開くかもしれませんが、12月中旬までには投稿する予定です。