再び夜は廻る   作:kurohane

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三日目(3)『町立図書館へ』

 ――私が、図書館の前で、お化けの手がサキを連れ去るのを目撃する、数刻前……。

 

 

「……あれ?」

 

 缶ジュースをくれたお兄さんの手掛かりを元に、サキが走っていったという橋まで来た私は、橋を渡った先にある踏切から、踏切の警報機の音が聞こえることに気付いた。

 

「……お化け電車が通るのかな……?」

 

 

 私は『あの夜』に見た、電車の中の明かりが灯っていない、真っ暗な電車のことを思い出す。

 あの時は不思議だなぁと思ったくらいだったけれど……『あの夜』、私はユイを捜して迷い込んだ林の奥で、もう使われなくなった駅のホームと、線路の上で草木が生い茂って、ボロボロになって動かなくなっていた廃電車……そして、線路の上に置かれていた車両止めを見て、電車が走るはずがない線路だと気付いた。

 

 以前、こともちゃんにその話をしたら、「それはお化け電車だね! 終電が終わった夜遅くの線路や、使われなくなった線路を走る、明かりが点いてない、真っ暗な電車のお化けだよ」と教えてくれた。

 

 

「どうしよう……お化け電車が通り過ぎないと、踏切の向こうに渡れない……」

 

 お化け電車の厄介なところは、警報機が鳴り出してすぐに通ってくれる時と、なかなか通ってくれない時があることだって、こともちゃんも話してた。

 以前、隣街の踏切でお化け電車が通り過ぎるのを待っていたこともちゃんも、「時々こうやって意地悪されるんだ……」って少し困った顔をしてた。当然、踏切をお化け電車が通り過ぎなければ踏切の遮断機は上がらず、踏切の向こう側には行けない。

 サキが踏切の前でお化け電車を待っていてくれればいいけれど、もしサキが踏切の向こうに渡った後だったら、お化け電車に足止めされてしまうことになる。

 

 私がどうしようか困りながら橋を渡って、踏切が見えてきた辺りで、私は踏切のこちら側で、黒い大きな何かが電車を待っているに気付いて、ドキッとした。

 

 

 大きな袋をいくつも持った、夜を見回るお化け……『よまわりさん』だ。

 

 

 『よまわりさん』が……お化け電車が通り過ぎるのを待ってる……。

 どこかぼんやりとした様子で踏切の向こう側を見ている『よまわりさん』は、橋を渡って踏切へ歩いてきた私には気付いていないみたい。

 私は『よまわりさん』に気付かれないように、橋の左手にある、車道と歩道を隔てる縁石に少し身を屈めて隠れながら、様子を見る。身を隠すには心許ないけれど、もし『よまわりさん』がふと後ろを振り返っても、少しは見つかり辛くできるはず……。

 『よまわりさん』がお化け電車が通り過ぎるのを待っているのなら、私と状況は同じ。私は『よまわりさん』に気付かれないように身を屈めたまま、お化け電車が通り過ぎるのを待つ――

 

 

 

 

 少しすると、電車の音が近付いてきて、踏切を明かりが点いていない真っ暗な電車が通っていく。踏切から離れているから、以前こともちゃんが話していたような、すすり泣くような声は聞こえなかった。これで遮断機が上がれば、『よまわりさん』も、私も、踏切の向こうに渡れる……だけど、まだ安心はできない。

 長い間鳴っていた踏切の警報機も鳴り終わり、踏切の遮断機がギィ……と少し変な音を立てて上がった。『よまわりさん』は、のそのそと前に進み出す。

 『よまわりさん』がいる以上、まだ安心はできない。私は一足先に踏切を渡って向こうに行った『よまわりさん』がこちらに向き直らないかひやひやしながら、そっと踏切に近付くと、遮断機の影から『よまわりさん』の様子を伺う。

 『よまわりさん』は、踏切を渡ってすぐにある、右の小さな小道の方へ向き直ると、そちらに進もうとして――

 

 

 ――止まってしまった。

 

 

「…………!?」

 まさか、気付かれちゃった……!?私が内心焦っていると、『よまわりさん』は私の方へ向き直ることなく、右の小道に入る手前にある、何かの様子を伺っているようだった。確かあそこには、お地蔵さんがあったはず……。そう思って私は視線をその場所に向けて――

 

 

 

 

 丁度その時、すくっとその場所から立ち上がる、『それ』を見た。

 

 

 

 

「――え?」

 まず私が呆気に取られたのは……その立ち上がった影の背の高さだった。

 踏切の警報機の、黄色と黒の縞々のバツ印よりも背が高い、黒い影。普段この街で見かける、道の端で休んでいるお化けが背を伸ばして襲ってきた時の背丈よりも、ずっとずっと大きい影。

 長い背丈と比べても長い腕に、大きな手。左手に、大きなカンテラを持っている。火の灯ったそのカンテラの明かりは、この街の夜を照らしている街灯の明かりよりも、ずっとずっと明るいように感じた。

 明かりを持った長身のお化けは、自分を見ている『よまわりさん』に気付いたのか、『よまわりさん』に向き直る。

 少しの間だけ、『よまわりさん』と、明かりを持った長身のお化けがじっと互いに様子を伺っていたけれど、先に視線を逸らしたのは『よまわりさん』の方だった。『よまわりさん』は明かりを持った長身のお化けから視線を外すと、のそのそと明かりを持った長身のお化けの横を通り過ぎて、小道の向こう側へと進んでいき、夜の闇に消えていく。

 明かりを持った長身のお化けも、暫く去っていった『よまわりさん』を見送るようにそちらを見ていたけれど――

 

 

 ――急に、遮断機の影に隠れていた私の方に向き直った。

 

 お化けの持っているカンテラの明かりで照らされているのに、目も、鼻も、口も、耳もない……昔お化けの絵本で見た、のっぺらぼうのような顔が……こちらを向いている。

「っ?!」

 突然のことに、私は隠れることもできずに、固まってしまった。

 見降ろすように私を見ている、明かりを持った長身のお化けは、少しの間、じっと私を見て――私から視線を逸らすと、私を襲おうとせず、ゆっくりと夜道をカンテラを持った左手を前に出して進む方向を照らしながら、『よまわりさん』の進んでいった道とは反対側の、左側の小道の方へ歩いて行った。

 お化けの持つカンテラの明かりが、左の小道の奥へと遠ざかっていく。

 

「よ、よかった、襲われなくて……。……見たことないお化けだったなぁ……」

 私はほっとしながらも、この街や隣街で見たことがないそのお化けとの出会いに、首を傾げた。黒いハサミのお化けみたいに、新しくこの街に現れたお化けなのかな……?

 

 

 『よまわりさん』も、明かりを持った長身のお化けもこちらに戻ってこないことを確認した私は、踏切を渡って、当初の目的通り、サキの後を追うことにする。

 だけど、右の道は『よまわりさん』、左の道はさっきの明かりを持った長身のお化け……どちらも後を追い掛ける形でそちらの道へ進むには気が引ける。

「となると……まっすぐ……?」

 と思って、正面に続く道を見やると、街灯に照らされて、鯨の頭のようなお化けが揺らめいている……。

 右は『よまわりさん』、左は明かりを持った長身のお化け、真っ直ぐは鯨の頭のお化け……。

「だ、ダメかもしれないけど……通っていいか相談してみようかな……」

 先程は襲われなかったとはいえ、明かりを持った長身のお化けを追い掛けるのも気が引けるし、かといって『よまわりさん』に攫われたくない……なので私は、正面の道を塞いでいる、鯨の頭のようなお化けに相談することにした。

 

 

「あの……」

 私が鯨の頭のようなお化けに話しかけると、鯨の頭のお化けは私の方に怒った眼を向けて――

 

 ――『……あれ?』といった様子の、きょとんとした目をした。

 

「あ、あれ……? もしかして、昨日私がぶつかりそうになった……」

 私は、その鯨の頭のようなお化けの不思議そうな目に見覚えがあるような気がして、昨夜、私がぶつかりそうになった鯨の頭のようなお化けのことを思い出す。どうしよう、昨日も結局通してくれなかったし、やっぱり通してくれないかな……。

「こ、この先に用事があるんです……通っちゃダメですか……?」

 ダメかなぁ……と思いつつ、私は鯨の頭のようなお化けに、そんなお願いをしてみた。

 

 すると、鯨の頭のようなお化けが、すっと視線を、左手にある歩道の方へと向ける。

 

「…………あっ!!」

 なんだろう?と思ってその視線の先を追うと、その歩道のところは、鯨の頭のようなお化けが塞いでいない。

「えっと……脇なら、通っていいんですか……?」

 念のため、鯨の頭のようなお化けに確認する。鯨の頭のようなお化けは、『勝手にしろ』というように、私から視線を逸らしてしまった。

「……! ありがとうございますっ!!」

 これで、『よまわりさん』や、明かりを持った長身のお化けが進んでいった小道に進まなくても大丈夫だ……!私は鯨の頭のようなお化けにお礼を言うと、左手の歩道を通って、先へ進むことが出来た。

 

 

 少し進んだところで振り返って、私は鯨の頭のようなお化けに頭を下げる。鯨の頭のようなお化けは、やっぱり昨日のような不思議そうな目で私を見た後、私から視線を逸らした。

 

 

 

 

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 鯨の頭のようなお化けとお別れして、大きな駐車場のある、コンビニまで来たけれど――

 

「……全然サキが見つからない……」

 よくよく考えたら、サキが橋を渡ってこちら側に来たことは確かでも、その後の行き先は分からない。さっきの踏切の前だって、道が三つに分かれていて、どの方向にサキが進んだのか分からなかった……。それに、踏切が通れなくて、諦めて別のところに行ってしまった可能性だってある。

 何か……何か手掛かりになることは言ってなかったかな……。例えば、昨日の夜とか……。

 

 

『あの日は図書館の方へ行こうとしてたから、ここの十字路を通って橋を渡ろうとしたんだ』

 

 

 そして、昨日、ハサミのお化けの手掛かりを探すためにサキとチャコと一緒に調べに行った、団地の近くの十字路でサキが言っていた言葉を思い出した。

「……! そうだ、あの時、確かにそう言ってた……。サキは、図書館の方へ行こうとして、ハサミのお化けに襲われて……それでその次の日サキは、街の噂のことを調べるためにコトワリさまの神社へ行って私に出会って……――」

 そして、昨日はハサミのお化けのことを調べるために、私とチャコと一緒に行動して……いろいろあったけど、結果的にハサミのお化けと、『連続バラバラ殺人事件』は、解決した。

 だったら、サキが向かった場所は……。

 

「――町立図書館だ……っ!!」

 

 ……ハサミのお化けのせいで行けなかった、町立図書館かもしれない……!!

 それなら、お兄さんが教えてくれた、踏切の方へ走っていったという情報とも一致する。だったら、サキの向かった場所は、ここから少し行った場所にある、町立図書館の可能性が高い……!

 そう考えた私は、コンビニの大きな駐車場を抜けて、町立図書館へと向かう道へ進もうとして……。

 

 

 ……ふと、左の道に人の気配を感じて、そちらに視線を移した。

 街灯の明かりの無い薄暗い道を、白く長い髪の女の子が一人、私に背を向けて歩いている。

「……!! サキ! 良かった、やっぱりこっちに来てたんだね……!!」

 私はその人影をサキだと信じて疑わず、良く見もせずに、その人影へ声を掛けてしまった。

 私の声に気付いたのか……人影が立ち止まる。

 

 

 ……あれ……?

 

 

 私はそこで、その女の子が、私の知っているサキと少し格好が違うことに気付き、立ち止まった。

 サキなら、お気に入りだと話していた、緑色のカチューシャを頭に付けて、ネコ耳のデザインされたポシェットを背負っているはずなのに、そのサキらしき人影には、どちらも無い。

 それだけじゃない。その人影の格好は、以前初詣に行った遠くの有名な神社で参拝客に挨拶をしていた、巫女のお姉さん達が着ていたような、巫女装束のような服を着ている。

 どちらも、缶ジュースをくれたお兄さんの言っていた、サキの特徴とは違うし……何より、この子は、手に何か持ってこそいるけれど、それは懐中電灯じゃ、ない……。

 

 

 ……じゃあ、今……こちらにゆっくりと振り返ろうとしている……。

 

 

 ……この子は……誰?

 

 

 そして、私の方を向いたその人影が、私が首から下げている、胸元の懐中電灯の明かりを受けて、その姿を現す。

 

 

 

 

 額から口元にかけて、お札のような文字と印の描かれた紙を複数枚貼り付けて顔を隠して……

 ……手には少しだけ錆びた包丁を持った、その女の子を。

 そして、その女の子は呆然と立ち尽くす私の姿を見留めて……――

 

 

 ――口端を吊り上げて……嗤った。 

 

 

 

 

「――――っ!?」

 その不気味な笑顔に血の気が引くような感覚を覚えた私は、その女の子に人違いだったことを謝りもせず、商店街になっている路地へと駆け出す。サキとは違う、白い髪の女の子は、私が慌てて逃げ出したその様子が可笑しかったのか、獲物が見つかったと悦んだのか……――

 

 

『キャハハハハハッ!!』

 

 

 ――笑い声を挙げると、私の後ろを追い掛けてくる……!!

「…………っ!!」

 生きている女の子なのか、それともお化けなのかは、分からなかった。分からなかったけど、確かなことは、まずサキではないこと、次に、私を襲おうとしていること……!!

 私は商店街の路地の角を曲がると、女の子が包丁をお店の閉じたシャッターに擦り付けながら追ってきているのか、お店のシャッターがギャリギャリギャリギャリ、と嫌な音を立てる。私がその音に、ひっ、と短く悲鳴を挙げると、背後の女の子は更に調子付いてケタケタと嗤う……!!

 

 

「……っ?! どうしよう、行き止まり……っ!?」

 そして……焦った私は、自分の曲がった角の先が、商店街の端……植木と建物に囲まれた、袋小路になっていることに愕然とする。

 咄嗟に何かないかと辺りを見渡し……私一人なら隠れられそうな大きさの植木が目に付いた。

 私は女の子が角を曲がってくる前に、迷わず植木の影へと飛び込んだ。少し植木の枝が引っかかってチクチクしたけれど、私の思った通り、植木はすっぽりと私の姿を隠してくれた。忘れずに胸元の懐中電灯の明かりも消し、私は身を屈めてぐっと目を瞑る。

 どうか、見つかりませんように……!!

 

 

 愉しげに嗤いながら私を追ってきた『気配』が、路地の角を曲がってこちらに来て……私の姿が無いことに、『あれ?』と首を傾げたように、嗤い声が止まる。

 『気配』は、そのまま路地の先を進もうとして……その先に道が続いていないことに気付いて、更に『気配』が首を傾げるような吐息が聞こえた。

 

 

『いなくなっちゃった……どこいっちゃったの……?』

 

 

 すっかり困った様子の『気配』が、鈴を鳴らしたような声で、確かにそう喋った。

 喋れるの……!?と思わず声を挙げそうになったけど、見つかったらきっとあの包丁で刺されちゃう……!!私はぐっと我慢する。

 

 

 カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン!

 

『つまんない……つまんないっ!!』

 

 

 どうやら、植木の影に隠れている私には気付いていないみたいで、『気配』は私がいなくなってしまったことに怒って、壁を包丁でカンカンと叩き出したみたい。少し可哀想にも感じるけれど、ここで出て行っても、お話が出来る相手ではなさそうだし、私は植木の影から出ようとはとても思えなかった。

 

『……お話も聞きたかったのになぁ……。……でも、とっても素敵な子を見つけちゃった! みんなにも教えてあげようっと!』

 

 『気配』はもう一度、『キャハハハハハッ!!』と嗤い声を挙げると、私の隠れている植木の横を通り過ぎて、商店街の路地の方へと駆けていき……そこで『気配』はフッと消えてしまった。

 

 

「………………」

 嗤い声も、足音も、戻ってくる様子は無いみたい。

 私はそれをしっかり確認してから、ギュッと瞑ったままだった目を開けると、恐る恐る植木の影から出て、懐中電灯の明かりを点け直す。

「お化け……だったのかな……?」

 お化けだったにせよ、お化けじゃなかったにせよ……逃げたのと、隠れたのは正解だったと思うけど……何か、他のお化けとは違う雰囲気を感じて、私は首を傾げた。

 さっきの白い髪の女の子も、お化けだったとするなら……踏切のところで見た明かりを持った長身のお化けといい、今日は新しいお化けに二回も出会ったことになる。

 

 

 それにしても……あの長い、白い髪……。サキと同じ色の、髪……。

 

 

「……ううん、サキとは、違う……。あんな怖い女の子と、サキを一緒にしたら……サキに怒られちゃうよ……」

 そもそも、あんなに姿が違うのに、サキと間違えて声を掛けたなんて言ったらサキは、コトワリさまの神社の時と同じくらい、かんかんに怒り出してしまうかも……。

 私はそう思いつつも、サキには、今日出会ったあの明かりを持った長身のお化けと、さっきの女の子のことは話しておこうと思いながら、町立図書館へと続く路地に駆け出した。

 

 

 

 

 ・

 

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「結局サキに会えずにここまで来ちゃったけど……」

 そして、町立図書館の前まで歩いてきた私は、ここまでサキに会うどころか、手掛かり一つ見つからなかったことに肩を落とした。この町立図書館の建物がある道でサキに出会えなければ、入れ違いになってしまったか、もう別の場所に行ってしまったかのどちらかになる。そうなれば、サキとの合流は絶望的になる。

 町立図書館に行くといっても、いくらサキでも、図書館の中には入ろうとはしないだろうし……。

 

 そう考えて、私は『あの夜』、図書館の中にユイの影を見つけて、図書館の中へ入った時のことを思い出す。結局、コトワリさまには襲われるし、「あのお化け」にも襲われるし……ユイにも会えず途方に暮れた、あの時のことを。

「あの時みたいに、『サキ』が図書館の中を走っていったらどうしよう……」

 そんなことを考えながら、ふと『あの夜』、図書館の中に入るのに通った、図書館の外壁に開いた大きな穴越しに、図書館を見ると――

 

 

 ――どこか慌てた様子のサキが、脚立を使って、開いた窓から図書館の中へと入ろうとしていた。

 

 

「さ、サキ!! そこで何してるのっ!?」

 

 

 私は慌てて外壁の穴を潜って、脚立を昇ったサキに声を掛ける。

「――え?」

 サキは私の声にびっくりした様子で私の方を振り返り、驚いた顔をする。

「は、ハル……? え? なん――」

 

 

 サキが何か言い掛けたその瞬間、開いた窓から、無数の手がサキを掴む。サキが悲鳴を挙げる暇もなく、図書館の中へと引き摺り込まれる。サキの昇っていた脚立がガタガタと揺れる。

 

 

「さ、サキっ!?」

 私は慌てて脚立を昇って、『あの夜』にそうしたように、開いた窓から図書館の中へ……サキを攫っていったお化けを追い掛ける。

 

 

 この時……サキを連れていかれてしまったことに焦っていた私は、窓枠を越える時の妙な違和感には、さほど気を留めなかった。

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