突如やって来たキン肉マンの姿を見て、会場の誰もが驚いた。
顔つきは闘いの場にふさわしい勇ましいものである。
『お――――――っと! ただいま試合中ですが、試合よりも気になる男がやってきた! 超人オリンピックV2チャンプ! 悪魔将軍、スーパーフェニックスと幾多の強豪を倒した男、キン肉マンがここアララトに現れた――――――っ!!』
キン肉マンは周りの反応を無視して、キン骨マンに向かって歩いてきた。
「久しぶりじゃのう、キン骨マン。お前とこうしてまともに話すのはアメリカのタッグ戦以来かな?」
キン肉マンの顔つきは、すっかり間の抜けた顔になった。
「おお、キン肉マン。お前さん、すっかりよれよれのじいさんになったのう」
「なははは! それはお互い様じゃ、さて」
キン肉マンがボーン・コールドの闘っているリングを見て、顔に緊張感を戻した。
「久々の再会を懐かしむのはここまでにしよう。キン骨マン、お前なら息子のボーン・コールドを助けることができるはずだ!」
その意外な言葉にキン骨マンが驚いた。
「わ、わしがか!? わしのような無力な怪人に何ができるというんじゃ?」
「キン骨マン、確かにお前の身体能力は高いものではなかった。お前と一番闘った私がよく分かる。しかし、かつての私はお前を手強い敵だといつも思っていたのだ」
「わ、わしが手強い敵じゃっただと!?」
「そうだ。実際、お前との闘いは苦戦を強いられるものが多かった。だが、そのおかげで私は強くなれたのだ。ダメ超人だった私が、テリーマンやロビンマスクと肩を並べる強さの超人になれ、かけがえのない友情を築くきっかけをお前が作ってくれたのだ。今ではお前さんに感謝してもしきれないくらいなんだ」
「わ、わしが行ってきた悪行には何の意味も無かった……いや、妻を失い、ボーン・コールドを凶悪な超人にしてしまい、一生かかっても償いきれない罪悪を犯していたと思っていた……。まさかこんな形でフォローされるとは思わんかった……。キン肉マン、いつになっても、お前さんは心に愛のあるスーパーヒーローじゃ」
「な~に、思ったことをそのまま話しただけだわい」
キン肉マンの顔が優しい笑顔になった。
突如、歓声が会場に響いた。
『あ――――――っと! ボーン・コールドダウン! バンデットマンの猛攻についにダウンした! 出す攻撃が一切通じず、ペースを握れません!』
リングの様子を見て、キン肉マンの顔がまたも緊張感のあるものとなった。
「キン骨マン、お前がどうして私にとって強敵であったか、それが分かればボーン・コールドの力になってやれるはずだ」
キン骨マンははっと気づいたような反応をした。
「そうか! 恩に着るぞキン肉マン!」
そう言うと、キン骨マンはバンデットマンの動きを観察した。足の動き、手の動き、顔の表情もじっくり見た。
ボーン・コールドが起き上がると、バンデットマンが攻撃をしかけた。ボーン・コールドの動きをよく見ながら、キン骨マンは叫んだ。
「右腕を上げろ! ボーン・コールド!」
その声を聞いて、ボーン・コールドは迷わず右腕を上げた。
右腕にバンデットマンの左脚が当たった。
ボーン・コールドがバンデットマンの左ハイキックをガードする結果となったのだ。
「その脚を持ったまま、右脚を思いっきし蹴ってやれ!」
ボーン・コールドは、バンデットマンの右脚に左のローキックを打ち込んだ。
バシィィ
「ぐわぁ!」
蹴りの軸足を蹴られたために、バンデットマンの体勢が崩れ、リングに倒れた。軸足に体重が集中していた分、ローキックが効いたのだ。
「そのままグラウンドに持ち込め!」
『ボーン・コールド! バンデットマンをチキンウイング・アームロックの体勢にとらえた!』
ぐき ぐき
「ぐああ!! 何だ、あのじいさん! まるで俺の動きが分かっているかのようにボーン・コールドにアドバイスをしてやがる!?」
「ムヒョヒョヒョ~、バンデットマンとやら、どうじゃわしの観察眼は?」
「どうじゃじゃねえぜ、よく俺を観察しすぎだ! どうやってそんな力ついたんだよ!」
「キン肉マンとの闘いでじゃよ」
「キン肉マンとの闘いでだと!?」
バンデットマンが驚いた表情をした。
「わし自身は弱かったが、キン肉マンに勝つためにやつの弱点や好みを研究し尽くした。その時の経験があって、わしは相手の動きを見て、瞬時に対策が得られるようになっていたのだよ。もっとも、この力は先ほどキン肉マンに指摘されるまで気づきもせんかったがのう」
「なぁに、私はただ昔話をしただけさ」
「おいクソ親父、まさかお前にこうやって助けられるなんて夢にも思わなかったぜ!」
ボーン・コールドがうれしそうな顔で憎まれ口を叩いた。
「ムヒョヒョヒョ~、わしもかつての悪行経験が、まさか息子のために役立つとは思わんかったわい」
「なるほど、そうかいそうかい。対策が思いついたぜ!」
バンデットマンは蹴りでボーン・コールドの頭を蹴った。ボーン・コールドのチキンウイング・アームロックのかかりが甘くなったのを見計らって脱出した。
「俺は外道なる男バンデットマン、どんな手を使っても勝つのが俺の主義だ! そういやあ、ボーン・コールド、万太郎との闘いで確かミートの父親であるミンチを殺すと脅して、セコンドのミートを使えなくしていたんだよな~」
そう言いながら、バンデットマンは手持ちのバンデットナイフをキン骨マンに向けた。
「てめぇ、まさかクソ親父を! 汚え真似しやがって!」
「殺し屋に汚えと言われるなら、褒め言葉だぜ! なんたって俺は盗賊だからな!」
「バンデットマンよ! 一度息子に殺して貰おうと思った命だ! よほどの事じゃ脅しにはならんぞ!」
キン骨マンはひるまず、むしろ堂々とした態度でバンデットマンに発言した。
「おいじじい、本気で俺は殺しに行くぜ!」
バンデットマンの目が血走り、顔つきがより冷徹になった。
「おい! 俺だって、親父のアドバイス通りに闘って勝ってもうれしくねえんだ! この俺一人の力で十分お前は倒せる! だからそのナイフをしまいな!」
ボーン・コールドは興奮気味に発言した。
「……交渉成立ってとこだな」
バンデットマンは悪そうな笑みをした。
「バンデットマンよ、せめてもの慈悲で一つだけアドバイスを許可してくれないか!」
「よし、いいだろう」
「では、ボーン・コールドよ。お前の力を信じよ。キン肉マンを苦戦させたわしの血、そして、偉大なる母親の血も受け継いでおるのだからな」
「偉大なる母親の血? なんのこった?」
「アドバイスはここまでじゃ。慈悲に感謝するぞバンデットマン」
「な~に、感謝する必要はねえ。そのアドバイスは無駄になるだろうからな――――――っ!」
バンデットマンはバンデットナイフをバンデットロープに結びつけた。
「おれの盗賊七つ道具はこういう使い方もあるんだぜ! バンデットナイフウィップ!」
『バンデットマン! ロープの先にナイフをつけて、まるで鞭のように使いこなす!』
ボーン・コールドはバンデットマンの手の付近の動きをよく見ている。ボーン・コールドは自分に迫り来るナイフの乱舞を触れるかどうかというところでかわし続けている。
「当たらねえ! 何故だ!」
ボーン・コールドは乱舞するナイフを右の手刀ではじき飛ばした。ナイフはバンデットマンの右肩に命中した。
グサァ
「ぐわぁっ!」
バンデットマンが苦痛の表情を浮かべた。
「親父ができるなら、俺だってできねえとな」
ボーン・コールドに試合開始あたりの余裕の表情が戻ってきた。
さあお遊びはここまでだ!!