「キュピピ、もう貴様は戦えない状態だが、私に歯向かった者がどうなるかを知らしめるために、死んでもらう!! 貴様はなかなか骨のあるやつだった、せめてもの敬意だ、楽に死なせてやろう」
ミスターUSBはリングに頭から刺さった状態のガゼルマンを引き抜いた。
かろうじて息はあるが、すでに瀕死に近い状態だ。
ミスターUSBはガゼルマンの角をつかんで、ガゼルマンを無理やり持ち上げた。
そして、ガゼルマンの両腕をもって、ひねりを加えていった。
ガゼルマンは微かに反応を見せた。
「ピキュー!」
『ガゼルマンが回転しながら空中に放り投げられたぜよーーーっ! ガゼルマンさらばぜよ~』
与作さんが泣きながら実況している。
ガゼルマンを追うようにミスターUSBも空中にジャンプする。
「さあ、お前がエリート街道を外れるきっかけとなったこの技でお前の転落人生を終わらせてやろう!」
「こ……ここだ、ここで行かなきゃもう……俺に活躍のチャンスはねぇーーーっ!」
ボアァ
ガゼルマンの体が発光した。
『ガゼルマン生き返ったーーーっ!しかしガゼルマン何を思ったのか、回転している体に自ら更に回転を加えるぜよーーっ!』
「キュピピ、頭を強打してエラーでも起こしたのか?」
「仲間達から託されたんだ! 現代は必ず守っていくってな! そして、俺の落ち切った名誉を挽回するためにも、勝つ! 勝ちてえ!」
『ガゼルマン! 回転しながらミスターUSBに突進する!』
「キュピ!?」
「くらえーーーっ!
「ギュピャーーーーーっ!」
ガゼルマンの右手に着けたアントラーフィストにより、ミスターUSBに無数の傷が出来た。
『決まったーーーっ!ガゼルマンの新必殺技クレイジービースト!既存技サバンナヒートを改良し、回転により相手のダメージは数倍に増えたぜよーーーーっ!』
ミスターUSBの体からは火花が出ている。
完全にKOされた状態だ。
与作さんはどこからか鐘を取り出し、ゴングを鳴らした。
カン!カン!カン!カン!
「ガゼルマーーン!お前の事見直したぜ!」
「私から今日からファンになるわ!」
「強いぞガゼルマン!」
廃墟のビルに入ってきた一般人が口々にガゼルマンをたたえた。
「んっ!人がいたのか? しかしこうやって人から賞賛されるのは初めてな気がするぜ」
「キュ……ピ、なぜビッグベンエッジを……やぶれた」
ミスターUSBが今にも息絶えそうな様子でガゼルマンに話しかけた。
「腐れ縁のやつが大事な試合にこの技で敗れてな、よっぽど悔しかったみたいで俺に特訓をお願いしてきたんだ。無理やり付き合わされた特訓だったが、おかげで俺も攻略法を身に着けたんだ。もしお前がこの技を出していなかったら俺が負けていた可能性が高かった。お前は本当に強敵だった」
「なるほどな……もしもお前がサバンナヒートを出していたらお前は私に負けていた……データとしてお前の技があるからな。それにしても……プライドの高いお前が……よくそこまで褒めてくれるもんだ。もう一つ聞きたい、瀕死のお前の体が発光して力が復活したように見えた。一体あれはなんだ?」
「さあな、俺にも分からない。ただ、過去に行った仲間のことを思った瞬間、自然と力が溢れたんだ。さて、質問に答えたからにはお前にも俺の質問に答えてもらいたい。お前は
「ふん……死ぬ身ではあるが……我が主に不利になるようなことは言えん。だが、勝者への贈り物として私の秘密を教えよう」
「秘密?」
「私は元人間だ」
「なんだと!? 」
「ああ、私は元々はIT企業に勤めていたエリート社員だった。自分で言うのもあれだが、かなりできる男で出世街道まっしぐらだった。しかし、年々私への負担も大きくなり、サービス残業、上司からのパワハラ、そして結果を出しても認めれない毎日が続き、ある時私は過労死した。死んだ後にその会社はブラック企業として評判の会社という事が分かったよ。その会社に私は奴隷のように使われたのだ。」
「そうか、だからここ最近会社の社長を狙った襲撃が多かったのか。お前は復讐のために」
「ちがうのだ! 私は……これ以上私のような者が生まれてほしくないと思いやったのだ! 私はもっと社会の役に立ちたかった、私が生きてきた証を残したかった……このUSBのようにな……だからこそ、可能性のある人間を潰す会社を許せなかったのだ……」
「俺は正義超人としてお前の意見に反対の立場をとるが、もし俺もお前の立場だったら同様のことをしたのかもしれないな。ったく、俺らの敵ならもっと悪人らしい考えをしやがれ。調子が狂うぜ」
「ひねくれた……やつだな……最後に、人生の先輩として言いたいことがある……お前はこの戦いでエリート街道に戻れただろうが、つまりはこの先の戦いの負担は大きくなる……今日のような命がけの戦いが増えるだろう……が……仲間を大事にしろ……潰れそうになったらきっとお前の助けになる……私が独りぼっちで生きてきたからこそいえるアドバイスだ……分かったか小鹿よ。いや、ガゼルマン……ギュパ!」
ミスターUSBは息絶えた。
しかし顔は満足そうな笑みを浮かべていた。
「ミスターUSB、俺はお前との今日の試合を永久に記憶にとどめておくぜ」
ガゼルマン、戦いのダメージが時間差で効いてきて、唐突にその場に倒れた。
「ガゼルマン! 今KO病院に連絡したからすぐに救急車が来るぜよ!」
「感謝するぜ……ついでですまないが頼みごとがある……河川敷の俺のガゼルハウスにある分厚い本を持ってきてくれ……ちょいと調べたいことがあるんでな……」
「おうまかせてくれぜよ!」
「まだ分からないことは多い状況だが、……それよりも……勝てて良かった」
ガゼルマン、笑みを浮かべながら意識を失った。
おめでとうガゼルマン!