ゾーリンゲンの鈍色刃で脳天を鉄柱に叩き付けられたヒカルド。苦痛に顔をしかめる姿から、相当のダメージがうかがえる。ブロッケンJrが手を離すとヒカルドはダウンした。
『ヒカルドダウン! ブロッケンJr! 見事アラーニャクラッチから脱出し、反撃のゾーリンゲンの鈍色刃を決めた――――――っ!』
「フ、フィギュ~、まだまだ俺は元気だぜ~!」
『しかし! ヒカルドがよろめきながらも立った――――――っ!』
「速攻あるのみ!」
ブロッケンJrは宙を飛び、ヒカルドの顔面に蹴りをかました。
「レッグラリアート!」
「フィギャ!」
『これは意外!! ブロッケンJrがラーメンマンを彷彿させるレッグラリアートを放った――――――っ!!』
これを見ていたキン肉マン達も驚きの表情を隠せない。
「あれは、全盛期のラーメンマンの技と遜色がない! ブロッケンJrはラーメンマンを師のように思っているところはあったが、いつの間にあれだけの蹴りを出来るように……」
更にブロッケンJrが追撃をくわえていく。
「心突錐揉脚!!」
ズゴォォ
「フャギャ!」
強烈な蹴りをくらったヒカルドがまたもダウンした。
『次々と華麗なる蹴り技が出ます! これはもはや若き頃のラーメンマンがブロッケンJrに乗り移ったといっても過言ではない!!」
ヒカルドはダメージが残ってはいたが、それでも立ち上がってきた。
「てめえ、そんだけの蹴り技をいつの間に習得しやがった?」
「教えてやるよ。過去のタッグトーナメントで隻腕になっちまってから、戦力ダウンしちまった分、足技の鍛錬を長年行っていたんだ! ちょうど、そのときの闘いでラーメンマンも命を落とした。だから奴の技を誰かが受け継がねばならないと思った。ならばブロッケンJr、ラーメンマンの歴史を背負ってやろうと思った! あいつが死んでも闘将魂は不滅だ――――――っ!!」
ブロッケンJrがヒカルドに蹴りを連打していく。
「そんなに蹴りを出すとな、寝かせやすい状態になるぜ!」
ヒカルドがタックルにいくようにして、ブロッケンJrの蹴りを避けた。ブロッケンJrは脚をとられて、リングに倒れた。ヒカルドが素早い動きでブロッケンJrを関節技の形にとらえた。ブロッケンJrはうつぶせの状態で両手をヒカルドに踏まれている。ヒカルドはさらにブロッケンJrの体を曲げるように両脚をきめた。。
「フィギュ―――ッ!」
『これは、かつてヒカルドがキン肉万太郎との試合で出したズッファーラだ!!』
グキ グキ
ブロッケンJrの体がきしむ音が聞こえてくる。
「冷静で的確な判断力を持ってすれば、こんな技なんてことはない」
『あ――――――っ! 何を思ったかブロッケンJr! 自分から体を曲げていくぞ――――――っ! これでは自殺行為だ――――――っ!』
ミシ ミシ ゴキ
「よし! 今だ!」
ブロッケンJrは、ズッファーラの状態からヒップアタックをくらわした。その威力は意外にも高く、ヒカルドの体が吹っ飛んだ。
「そうか! ブロッケンJrは弓矢の原理を利用したんだな!」
テリーマンはブロッケンJrの技の脱出法方の解説を始めた。それを近くにいたキン肉マンやロビンマスクが聞く。
「弓矢の弦は普通はまっすぐな状態だが、矢を放つときは力をかけられ弧の形となる。そのとき弦が元に戻ろうとする力が、矢を放つ威力となるんだが、ブロッケンJrは自分の体を弦に見たてて、ヒップアタックの矢をくらわしたんだ!」
「なるほど、流石テリーマンだな」
「うぅん、分かったような、分からないような~」
説明に納得したロビンマスクと、説明を理解しきれていないキン肉マンの姿があった。
「しかし、ブロッケンJr強いのう。奴が今までのレスラー人生で培ってきた事が十二分に出ておる。だが、ブロッケンJrのやつ、優勢に試合を進めているはずなのに、何か不満そうな顔をしておる」
「お前もそう思うかキン肉マン」
「ミーもそんな風に見える。このまま勝っても、ブロッケンJrは自身がこの先どうすれば良いかという答えが分からないかもしれない」
リング内ではヒカルドが肩で息をしている。一方、ブロッケンJrには余力がある状態だ。
「俺はこれまでのレスラー人生で多くの仲間から多くの事を教わってきた。正義、残虐、悪魔、完璧だの関係なしにだ。しかし今のお前には仲間が誰もいない。それがお前と俺の差だ」
「フィギュ~、俺には仲間なんて者がないがな、仲間がいるから仲間に甘えてしまう。それが自身の弱さを生み出す。その甘さは結局、お前の弟子の敗北につながった! だから、俺は自分一人の力で闘うさ! 真の強者を目指すなら仲間はいらねぇ!」
ヒカルドは強がってみせるが、ダメージもあり、肩で息をしていて弱々しく見えた。
「ヒカルドさ――――――ん!!」
突然聞こえた大きな声。ヒカルドがその声の主はだれかと見回すと、ヒカルドを慕っていた二人のブラジルの超人だった。一つ目の超人と、色黒の白目の超人が大声をあげている
「お、おめえら! なんでこんなとこに!?」
「ヒカルドさんが心配で来たんですよ!」
「そうとも! ヒカルドさんが万太郎との試合後にいなくなって心配したんだぜ!」
「お、おめえら……」
「あんたは一人じゃねえ! 俺達がいるさ!」
「俺達じゃあ力になれないかもしれねえ! でも、できる事はやる! だからあんたを応援するさ!」
「うるせぇ! 俺は無様に万太郎に負けた男だ! そんな男について行く必要も応援する必要もねえ! それに俺は、正義超人を名乗りながらも正義超人らしくねえ男で、それが結局は万太郎に負ける理由になり、迫害される理由になった。こんな男についていっても修羅の道しかねえぜ!」
「だからなんだってんですか! それでいいんですよ俺らは!」
「そうとも! どんな集団にもアウトローな奴がいる! 正義超人でも正義超人に馴染めない奴がいる! 悪魔超人にだって悪魔超人になりきれなかった奴もいる!」
「俺達だってこう見えても、正義超人! 粗暴なのは認めるが、正義の心は本物だ! だから自分らしく生きていこうと思っている!」
「だからヒカルドさんも自分のスタイルを恥じないでくれ! むしろそれを誇りにおもってくれよ!」
「俺のスタイルを誇りに思えだと?」
「そうとも! あんたの野性味と獰猛さが溢れた闘い方が好きなんだ! こんな風になりてえってなって思ってんだよ!」
「そうだぜ! だからあんたはあんたらしく闘えばいいんだ! 正義とか悪魔とか関係なしに思いっきりいきな!!」
いつの間にか会場に来ていたバッファローマンがつぶやいた。
「ブロッケンJrが若返って敵方にいるから注目していたが、ヒカルド陣営の方もまた注目すべき存在であるな。それにしても悪魔になりきれない悪魔か、ちょっとひっかかる表現だぜ」
バッファローマンは頭をかきながら苦笑いしていた。
また、魔界においてもアシュラマンとサンシャインが試合を観戦していた。
「自分らしく生きろか、私もそういう生き方をしていれば、違う人生があったのかもしれんな……」
「グォフォフォ、わしもど底辺な人生を送ってきたが、その人生でお前さんに出会えた。それが人生で一番良かったと思える出来事じゃ」
「ふ、奇遇だな。私もだ」
アシュラマン、サンシャインが互いに微笑んだ。
さらに、キン肉星において、かつて超人血盟軍をまとめていたソルジャー、その横にいるニンジャの亡霊も試合を観戦していた。
「……」
「……」
二人は無言でモニターを見ていた。
取り巻き二人の激励を聞いたヒカルドに元気が出てきた。
「そうか……こんな俺を認めてくれる奴もいたんだな……」
ボワァ
「こ、これは!?」
ブロッケンJrは驚いた表情をした。
目の前に、金色に輝くヒカルドの姿があったからだ。
悪魔にだって友情はあるんだ!!