『なんと! サタン直々にミスターノアへ宣戦布告だ――――――っ!』
会場の人達はサタンの動向に注目している。
「ほう、貴様がやるというのか。なかなか楽しめそうだと言いたいところだが、貴様の本体はどうするのだ。お前のとこの超人を使うのか?」
「いいや、こいつらは万が一を考えて、万全の状態に回復するまで闘わせないつもりだ」
「では、誰をお前の身体として使う気なのだ?」
二人の緊張感漂う会話と別に、会場の一部の人間が空の異常に気付いた。
『ややっ! 突如空から物体が高速でこちらに向かってきました!』
ズドォン
『大きな物音を立てて、得体の知れない物体が落下してきました!!』
砂埃が舞ってよくみえないが、落ちた物体は人のようなシルエットをしていた。
「いちち、OKANの野郎、もっと優しく投げろってんだ!」
落ちてきた物体は、超人ガゼルマンであった。
「ガゼルマン! どうしてここに! 派手に落ちてきたが、怪我は大丈夫なのか!」
ガゼルマンのもとに、ジ・アダムスがすくま駆け寄ってきた。
「心配すんな。メディカルサスペンションカプセルで体力はばっちり回復してきた。それに、ミートが過去の世界に持って行った超人大全の予備も念のため持っていたんだ。だから、ネプチューンマンがこの場にいることや、ブロッケンJrが隻腕になっていたことも既知の事だ」
「しかし、ガゼルマン。一体どうやってここまで来たんだ? まさか大砲でも使ったのか?」
「同じ病院にいたOKANが俺をここまでぶん投げ飛ばしてくれたんだ。ちょっと膝をすりむいたけどな」
「ガゼルマンよ」
突然サタンがガゼルマンに向けて言葉を発した。
「俺と手を組むのだ」
ガゼルマンは一瞬聞き間違いかと、自分の耳を疑った。疑ったのはガゼルマンだけでなく、周りの超人や観客達もだ。
「聞き間違いかと思ったか? ならば確認としてもう一度言おう。俺はそこにいるミスターノアを倒すため、闘う事を決意した。そのために俺の身体となる超人の存在が必要なのだ! だから、ガゼルマン、俺と手を組むのだ!」
『なんと! サタンがガゼルマンに思わぬ提案をしてきた! 史上初の悪魔と正義のタッグ結成か――――――っ!!』
誰もがサタンの発言に驚いた。
ネプチューンマンがサタンに疑問をぶつけた。
「サタンよ、なぜガゼルマンを選んだのだ?」
「簡単な事だ。こいつの身体を借りるのが、ミスターノアを倒す可能性が一番高いと思ったからだ。ただし、身体を借りるのはこの一戦のみ。誰が好き好んで正義超人の身体等借りるものか」
「おいサタン!」
このタイミングでガゼルマンが口を開いた。
「こっちもその提案乗ってやっても良いぜ! もちろんお前同様悪魔に身体貸すなんざ好き好んでやらねえけどな!」
「ガ、ガゼルマン!?」
そばにいたジ・アダムスが驚いた。会場の人間達も同様の反応である。
「ゲギョゲギョ、話が早くて助かるぜ!」
「ガゼルマン!!」
突如、ハラボテが二人の話を割ってやってきた。
「委員長緊急代理として、言わせて貰う! お前が良くても、わしは許さんぞ! 正義超人が悪魔と手を組むなんて言語道断! お前がその気なら正義超人を脱退して貰う!」
「なんだ、その程度の事か。いいぜ」
ガゼルマンは軽い感じで言った。
「……ガゼルマン、本気なんだな?」
「委員長、そもそも、俺はこの闘いで酷い死に方をする姿しか想像できんのさ」
「酷い死に方じゃと?」
「相手のミスターノアは強敵だ、サタンが味方とは言え、この闘いで命を落とす可能性だってある。仮に闘いに勝っても、サタンに肉体を支配されたまま悪魔となってしまう可能性だってある。そうなったら、同じ正義超人の仲間に殺して貰うしか方法はないだろう」
「お、お前!?」
「俺の気が変わらん内に、許可してくれよ委員長」
「最後に確認をする? 本気なんだなガゼルマン」
「ああ!」
ガゼルマンは堂々たる態度であった。
「お前がそうまで言うならわしはもう何も言わん。そしてな、タダのひねくれじじいとして独り言を言わせて貰う」
そう言って、ハラボテはガゼルマンの肩に手を乗せた。
「生きて帰ってこい」
「ハラボテ……」
「さっ! お前達の試合の段取りをせねばな!」
ハラボテはスタスタと立ち去っていった。代わりに、ジ・アダムスがやってきた。
「ガゼルマン!」
「アダムスか、なんだ?」
「こんな事を言うのはあれだが、お前と話す最後の機会になりそうだと思ってな」
ジ・アダムスは不安な顔をしていた。
「俺がサタンと手を組もうっていうのに、相変わらずいいやつだな。思えばお前はヘラクレスファクトリーにいた頃から良い奴だった。そういや、あの時の礼もまだだったな」
「あの時?」
「入れ替え戦の時さ。事の発端は俺を含む四人組の不真面目な生活態度でさ、自業自得だったのによ、同じ一期生で応援してくれたのはお前だけだった。今更だけどよ、ありがとうな」
「当たり前じゃないか! 俺達は同じヘラクレスファクトリーで共に苦しみ励まし合ってきた一期生の仲じゃないか!」
「そんなお前だからこそ、俺の本音が言えそうだ」
ガゼルマンの雰囲気が重々しくなった。
「俺は今とても怖い」
ガゼルマンは冷や汗を流しながら語る。
ジ・アダムスは何も言わずに黙ってガゼルマンの話を聞いている。
「サタンと組むとは言え、ミスターノアは強敵だ。過去に万太郎が倒してきた敵達よりも強いだろう。いつも万太郎を弱虫と馬鹿にしながら発破をかけて応援していたが、あいつ、いつもこんな恐怖と向かい合いながら闘ってきたんだって実感したぜ」
「ガゼルマン……」
「でもよ、仮にこの勝負勝って、万が一俺がサタンに身体を支配されてもよ、俺を殺してくれる仲間がいる。万太郎やケビンマスク達が俺を殺してくれるんだって思うと、この闘いに安心して望めるんだ」
「しかし……過去の闘いがどうなっているかは」
「大丈夫だ。まだ極秘事項だが、既に超人史に万太郎とケビンマスクのコンビが時間超人を倒して優勝しているという事実が刻み込まれている」
「ほ、本当かそれは!!」
ジ・アダムスが喜ばしそうな顔をした。
「そんな顔するな。正直な奴だな。すぐに気付かれちまうだろ」
「おおっと」
ガゼルマンはサタンの方を見た。
「じゃあ、そろそろ行かないとな……」
「ガゼルマン! 生きてかえって来いよ!」
「ああ! その時はお前が俺を殺してくれよ!」
ガゼルマンはジ・アダムスと別れの挨拶をし、サタンの元へ向かった。
「くくく、お別れの挨拶はすんだか?」
「ああ、とっととおっぱじめようぜ!」
「ゲギョゲギョ、それではしばらくおとなしくしてろよ」
辺りの雲行きが怪しくなり雷が降り始めた。周りに邪気が満ち、獣の鳴き声や、逃げ惑う様子がうかがえる。
ドガラッシャン
雷がガゼルマンのもとに落ちた。辺りに砂埃が舞ってよく見えない状態となった。
『突如辺りの天候が悪くなり、ガゼルマンの元に雷が落ちた! ガゼルマン大丈夫か!!』
砂埃が消え、やがてガゼルマンと思われるシルエットが見えた。
ガゼルマンの姿は変わっていた。
目は白目となり、暖かみのある茶色い毛の肌も黒くなり、身体に禍々しい模様も増えた。
「くくく、なるほどな。すこぶる良い気分だ」
ジ・アダムスが何かに気付いた。
「あれは、ガゼルマンではない!」
「そうとも、こいつの魂はこのサタン様が乗っ取った!」
サタンに支配されたガゼルマンは、ミスターノアの待つリングに降りた。
デビルガゼルマン誕生!?