ガゼルマンの突然の変化に観客が驚いた。対し、ミスターノアは冷静であった。
「ほう、プライドだけは私にも負けぬようだな。しかし、お前がそうなったのは自身に原因があったからではないのか?」
この発言でガゼルマンは不機嫌そうな顔になった。
「ちぃっ! しゃくだがその通りだよ! 俺はヘラクレスファクトリーNo.1の男だった! 他の正義超人の奴らなんて格下さ! なんて自惚れちまった結果が今の自分さ……トレーニングなんか必要ないと堕落しちまい、力は落ちていった……。いつの間にか、後輩にも追い抜かれちまって、今の正義超人TOPはケビンマスク、俺より遙かに格下だった万太郎でさえ今では正義超人の主力だ……今の俺は戦力外の扱い……無様過ぎて笑えてくるぜ……」
「なるほど、確かにお前は落ちぶれた鹿男だ。だが貴様は自身の挫折と向かい合い努力した。現にミスターUSBが貴様に倒されている事からそれがよく分かる。何度も言うが、自身を必要以上に恥じるな」
「あんたが言うほど俺は立派な超人でもねえ。なんせ俺は皆が過去に旅立つ時にへたれちまって、現代に残る選択肢をとっちまったんだ。家族がいるやつだって過去へいったのに……俺は……」
「貴様の闘う理由がなんとなく分かった。自身のプライド、そして仲間への贖罪といったところか」
「正解さ!」
そう言ってガゼルマンは高速でミスターノアに向かった。
『ガゼルマン! ミスターノアとの距離を縮め、勢いのついた右ストレートを放った!! しかし、ミスターノアいとも簡単に左手で受け止めた! そのままガゼルマンの右手を掴み、一本背負いのように投げ飛ばした!!」
ズダァン
「ぐわぁ!」
「やめておけ。貴様はサタンがのりうつっていた時よりもスピードもパワーも落ちている」
「へっ! 俺はお前の仲間を倒した、いわば敵討ちの相手だろ! 遠慮なくぶっ殺しに行けよ!」
『ガゼルマン! ミスターノアに組み付き、首相撲に持って行った! そのまま膝蹴りを連打!』
「悪い子だ! 悪い子だ! 悪い子だ!」
『ガゼルマン! 得意の悪い子だ! 戦法だ! しかし高速の膝蹴りがミスターノアのボディに突き刺さる!!』
しかし、ミスターノアの表情が変わらない。
「では少し、本気を出してやろうか」
ミスターノアも負けじと、ガゼルマンに膝蹴りを一撃放った。
ドゴォン
「ゴハァ!」
そのすさまじい威力にガゼルマンの体が宙へ吹っ飛んだ。そのままガゼルマンはダウンした。ミスターノアはガゼルマンを見ながら言い放つ。
「これが平均以上の超人と、神との差だ」
観客達は二人の実力差を目の当たりにし、ガゼルマンの敗北を予想した。このまま闘う超人がいなくなってしまうのではという絶望の気持ちで、全く言葉が出なくなっていた
「てめえら!! お通夜じゃねえんだぞ!!」
観客席に向かって大きな怒鳴り声が聞こえてきた。その声の主はネプチューンマンであった。
「観客なら観客らしくうるさくしねえか!! 試合が盛り上がらねえんだよ!! ブーイングの一つぐらいかましやがれってんだ!!」
大半の人がネプチューンマンの突然の怒号に驚いたが、キン肉マンが何かを悟り、顔に笑みを浮かべていた。
「ガゼルマン! ガゼルマン!」
キン肉マンがガゼルマンに応援の声を飛ばした。近くにいたテリーマンやロビンマスクも応援を送った。
「ガゼルマン! ガゼルマン! ガゼルマン! ガゼルマン!」
やがて、観客席にもガゼルマンコールが感染していった。ネプチューンマンがその様子を見て、軽い笑みを浮かべた。
『ご覧下さい! 先程まで静かだった会場から、けたたましいガゼルマンコールです! あっ! ガゼルマンも応援の声を聞いたからか、立ち上がってきました!!』
「不思議だな、観客の応援を聞くと自然と力が湧くぜ!」
「お前の根性は認めよう。しかし、サタンとの闘いで貴様のムエタイベースの戦法は見切った。お前にできるのはせいぜい私の体力を削るくらいだ」
「体力を削るか、じゃあとことん削ってやるよ!」
『ガゼルマン! やけになったか!? 無策でミスターノアに突っ込んだ!』
ガゼルマンは両手を前に出す動きを見せた。
「タックルか? そんなものきってやろう」
バシィン
「な!?」
ガゼルマンは両手をミスターノアの前で力強く拍手するように合わせた。ミスターノアが一瞬のスキを見せたところでガゼルマンは掌底を当てた。
「おら! おら! おら! おらぁ!」
バシィィン バシィィン バシィィン
『なんとガゼルマン! 相撲の猫だましを繰り出し、虚をついて張り手の連打だ!!』
その動きにヘラクレスファクトリーで観戦中のウルフマンが反応した。
「ありゃあ、俺のルービックキューブ張り手じゃねえか!! ヘラクレスファクトリーでは少しだけ皆に相撲は教えたが、あんにゃろう、見事に俺の技を盗みやがったぜ!」
ウルフマンは嬉しそうな顔をしている。
「俺様の張り手よりは威力は落ちるが、その分、スピードと手数が俺よりも勝っている。あいつなりに俺の技を昇華したってわけか!」
ガゼルマンの高速の張り手がミスターノアの顔面に何発も当たっていた。
「お次はこれだ!」
ガゼルマンが両の手をミスターノアの首に合わせた。そのままミスターノアの体を回転させようとする。
『ガゼルマン! 今度は合掌捻りだ! 今のガゼルマンはウルフマンを彷彿させる相撲ファイトであります!』
しかし、ミスターノアの体が少し回転したところで止まった。
「初戦は猿まねだな。貴様は力士ではない、ゆえにこの技は使いこなせぬ!!」
『あ――――――っ! ミスターノアがガゼルマンの合掌捻りを止め、そして自らも合掌捻りでおかえしだ!!』
ギュルルルルルル
ミスターノアの合掌捻りの回転の勢いがすさまじかった。勢いがある程度つき、ガゼルマンを地面に叩き付ける直前のタイミングであった。
「そう来ると思ったぜ!」
ガゼルマンはミスターノアが地面に叩き付けるタイミングで、両腕を両手でつかみ、両脚をミスターノアのボディに絡めて、自分の後方に投げ飛ばした
ガガン
「ぐぅっ!」
ミスターノアはその勢いで、リングのコーナーポストに背中からたたきつけられた。
『お――――――っ! ガゼルマン! ミスターノアの合掌捻りであわやダメかと思われましたが、巴投げでお返しだ! 思っていたよりも強いぞガゼルマン!』
「うるせぇぞ! 実況!」
ガゼルマンは実況の一言の多さにきれた。
さて、ガゼルマンのこの動きでヘラクレスファクトリー観戦中のジェシーメイビアがリアクションを見せた。
「オー! あれは私の得意な返し技のムーブデース! ミスターノアの勢いのついた合掌捻りを元にしていますからベリーストロングな技になりマース! 皆には返し技のコツをちょっとだけレクチャーしましたが、あの合掌捻り破りはお見事なものデース!」
観客席のロビンマスクが、ガゼルマンの健闘ぶりに感心した。
「流石、ヘラクレスファクトリーNo.1の男だ」
横にいたテリーマンがロビンマスクに話しかけた。
「そういえばロビン、第一期生がヘラクレスファクトリーにいた時は、カリキュラムの成績だけで見れば、セイウチンとガゼルマンは互角で優越をつけられなかったみたいだな」
「そうだ。互いに互角の成績であったが、一点違うところがあった。ガゼルマンは
キン肉マンも会話に加わった。
「え~? あのプライドの高い高慢ちきなガゼルマンが~?」
「いや、奴はそれを皆に隠すために、あえてそういう態度をとっていたのだ。誰よりも、古くを学び、新しくを知るを実践した男が奴だった。私がガゼルマンをNo.1にした理由はそういう事なのだ!!」
リング上のガゼルマンは好調な感じであった。
「これがヘラクレスファクトリーNo.1の男の強さだ――――――っ!!」
第三の主人公誕生!!