コーナーポストに叩き付けられ、倒れたミスターノアが起き上がってきた。
「やられたな。お前の技は効かないが、私の力を利用した技であれば幾分かダメージがある。良い師の元で学んだようだな」
ガゼルマンがにやりと笑った。
「お褒めいただき光栄だぜ、お次はこれだ!」
ガゼルマンがリングロープに背中から勢いよく突っ込み、強い反動をつけてミスターノアに突進する。
ドォォン
「フットボールタックル!」
カナディアンマンがその動きに反応を見せた。
「あ、あの動きはまさか!?」
ガゼルマンは間髪いれずにミスターノアを持ち上げた。
「リビルトカナディアンバックブリーカー!!」
ミシィ ミシィ ミシィ
ミスターノアの体から軋む音が聞こえてくる。
「どうだ! この技の使い手が俺と同じ超人強度100万パワー! 猿まねじゃねえ事を教えてやるぜ!」
ガゼルマンはさらにミスターノアの体を曲げていく。
「流石俺様の技だ! 超人の神相手にもよく効いているぜ!!」
カナディアンマンは調子に乗った態度をとっている。
「なかなか良い技だな。しかし、この技は実戦で決まらなかったんだったな」
ググググ
ミスターノアは自身の体に力を入れて、ガゼルマンの技のクラッチから外れようとしている。ガゼルマンも懸命に力を入れるが耐えきれそうにない。
「ぐぅ! な、なんてパワーだ!?」
「貴様の超人強度は100万パワーだったな、非凡なる値ではある。だが」
バッ
『ミスターノア! リビルトカナディアンバックブリーカーから力尽くで脱出した!!』
「私の超人強度は1億パワーだ!」
「なんだと!?」
「そろそろお遊びはおしまいといこうか!」
ミスターノアは鋭く体を反時計周りに回転させて、左手刀をガゼルマンの顔面に当てた。
ゴガァァァン
『ミスターノア! 左手刀のバックハンドブローを繰り出した! ガゼルマンたまらずダウン!」
ガゼルマンの顔面には手刀の跡が残っている。ガゼルマンの意識はあり、起き上がろうとするが起き上がれない。
「私が本気を出せばこんなもんだ。さて、忠告にもかかわらず、貴様は自らこの闘いにあがってきた。ならば、私の仲間を倒した責任として、貴様が死ぬまでこの闘いを続けようぞ!」
ミスターノアがガゼルマンに向かって左手刀を大きく掲げた。
「待った――――――っ!!」
突如リングに乱入者が現れた。その乱入者はジ・アダムスであった。これにはミスターノアも攻撃を中断した。
「お前はガゼルマンの仲間だったな。助太刀すればこいつの反則負けになるぞ!」
「そうだ! 私はガゼルマンを助けに乱入した!」
「その男は闘いに対してプライドが非常に高い。貴様が仲間とはいえ、助ければ酷く怒るだろう」
「そんなことは分かっている! 例え嫌われてでも、仲間を守りたいんだ! さあミスターノア! 私が相手だ!」
「しからば、貴様の漢気を尊重する事にしよう。そのかわり、お前がガゼルマンの代わりに死ぬ事になる!」
『ミスターノア! ジ・アダムスに左手刀を突き刺しにいく!』
「そうはいくか!」
ジ・アダムスはミスターノアの左腕に関節を決め、首を絞める体勢をとった。
『ジ・アダムス! ミスターノアに三角締めだ!』
「これで終わりじゃない!」
ジ・アダムスはその状態から、脚の力を利用してミスターノアの体を投げ飛ばしに行く。
ドガァ
『おお! ジ・アダムス! 三角締めを決めつつフランケンシュタイナーでミスターノアの体をリングにたたきつけた! なかなかの高等技術を見せてくれます!』
「ほう、貴様が生み出した技か。なかなかの複合技だ。殺すには惜しいな」
ミスターノアは勢いよく左腕を払い、強引にジ・アダムスの体を引きはがした。体勢の崩れたジ・アダムスに間髪いれずに、組合いにいった。
ガシィ
「組み合っても、安心せぬ事だな」
ミスターノアは組み合った体勢で、軽い物を持つかのようにジ・アダムスを持ち上げ、リングに叩き付ける。
ガガァァァァン
「ぐほぁ!」
ジ・アダムスが血反吐を吐いた。
『ミスターノア! 圧倒的なパワーでジ・アダムスにブレーンバスターを決めた!!』
「ただのブレーンバスターでも私にとっては必殺技になる。私が神だからだ」
ジ・アダムスは立ち上がってきたが、ダメージは大きい。
「もう少しやろうとは思っていたが……ここまでか……」
「話は変わるが、ガゼルマンはミスターUSBと闘った時の力を出していない。慈悲の力と呼ばれるもの、つまり人のためを思ってこそ発揮される力のようだ。貴様を殺せば、ガゼルマンはその力を出すと思うか?」
ジ・アダムスは数秒ためて応えた。
「彼が私をどう思っているかは分からない……だが、彼が私との間に友情を持っている事を強く信じている! 私を殺せば、彼がきっとお前を倒してくれるはずだ!」
ジ・アダムスは自身の死を決意した。
「ならば」
ミスターノアが瞬時にジ・アダムスとの距離を詰め、左手刀でジ・アダムスを突き刺しにいった。
グサァ
ミスターノアの左手刀が、ジ・アダムスの心臓ごと、体を貫いた。
「ガハァ!」
ジ・アダムスは大量の血反吐を吐いた。もはやだれがみても即死の状態であった。
『もはやミスターノアを止められるのはケビンマスク、万太郎だけか!! 早く来てほしいと心から願っております!!』
ミスターノアは自身の後ろにいる超人の気配に気づいた。
「ほう、ようやく起き上がってきたか」
ガゼルマンが足下がおぼつかないながらも立ち上がり、ジ・アダムスの元へ駆け寄った。
「アダムス、お前、なんてことを!」
「私はガゼルマンという素晴らしい超人を助けられたのだ……悔いはない……」
「アダムス……」
「頼んだぞ……本当は誰よりも一番……強いんだろ……」
そう言って、ジ・アダムスは事切れた。ガゼルマンはジ・アダムスの死を追悼する。
「ジ・アダムスに感謝するんだなガゼルマン、お前が死ぬ予定だったが、代わりにその男が引き受けたのだ」
ガゼルマンは何も言わない。
「闘う気がなくなったか腰抜けの鹿め。もう貴様への興味は失せた。この世界へかえって来るであろうケビンマスク、万太郎の二人を倒して、改めて私の計画を実行するか」
「なさけねえ……」
ガゼルマンの口から小さな言葉が出てきた。彼は今、自分が闘ったミスターUSBの言葉を思い出していた。
「俺はあんたの仲間のミスターUSBに、「仲間を大事にしろ」って言われたんだ……それなのによ……」
ミスターノアは真面目な面持ちでガゼルマンの言葉を聞いている。
「俺がふがいないばっかしに、良い奴が死んじまってよ……」
「むっ!」
ミスターノアはガゼルマンの異変に気付いた。ガゼルマンの目が白目となり、血の涙が出てきている。さらに、ガゼルマンの体の筋肉が発達し、血管が体のあちこちに浮き出てきた。
「グオワアアアアアアア!!!!!」
ガゼルマンの雄叫びが強い風となり、砂埃の混じった強風が観客にふりかかった。
『どうしたことだ!! ガゼルマン突然の変化だ!! これまでにない姿を露わにした!!』
ガゼルマンが今までの倍以上のスピードでミスターノアに襲いかかった。勢いをつけた右のハイキックを繰り出した。
ドガァァァァン
あまりの威力に、ミスターノアの体がリング際まで吹っ飛ばされた。ミスターノアも予想以上の威力に驚いている。
「慈悲の力とやらを引き出そうと思ったが、思わぬ力が顔を出したようだな。ガゼルマンとの試合、まだまだ楽しめそうだ」
ミスターノアはガゼルマンの強さを期待し楽しそうな顔をした。
ガゼルマンが闘っているアララトから少し離れた場所に、突然異変が起きた。空間に歪みが生じ、あたりに強い風や電撃が発生する。やがて、宇宙船のような大きな構造物が現れた。
その宇宙船にはソースせんべい用のソースで書かれた「ケビンマスク号」の文字が記されていた。
ついに主人公帰還!!