ケビンマスクは己の経験からくる考えを話した。やがて、ミスターノアが口を開いた。
「ケビンマスクよ、その考えは貴様にしか合わない考えだ」
「何だと!」
「貴様の言う分かり合うための闘い、それは否定しない。むしろ肯定しよう」
「肯定するのに、なぜダメなんだ!」
「その考えは貴様のような強者だからこそ成り立つ考えだ。しかし、皆が強いわけではない。闘えば潰されるやつらが大半であろう。現に私の同士達の多くが、自らよりも強い存在に潰されてしまい、一度命を無くした人間、か弱き戦士達だったのだ……」
「くっ!」
ケビンマスクは反論ができなくなり、言葉につまった。
「それなら答えは簡単だよ」
その言葉を発したのは万太郎であった。
「弱き者を助けるために僕達正義超人がいる。だからミスターノア! 僕達を信用してくれないか! 僕を含め、新世代超人はまだまだ発展途上国だ。でも、日々成長している! いつしか、世界の人間を丸ごと守れる男にきっとなる!」
ミスターノアがため息をついた。
「それなんだよ」
万太郎はミスターノアの言葉の意味がよく分からなかった。
「万太郎よ、貴様の言うとおり、私は長い歴史、正義超人達の成長を見込み、あえて傍観してきたのだよ。悪なる魂を持つ超人や人間がいても放置してきた。きっとお前達自身で解決できる力がつくとな。しかし、それはお前達正義超人に多大な負担をかける事になった」
「負担だなんて思ってはいないよ!」
万太郎はミスターノアの意見を強く否定する。
「万太郎よ、貴様のその傷は時間超人との激闘によるものだろう。さらには、悪行超人との闘いの日々が多く、怪我をしている時の方が多いのではないのか? それを負担と言わずして何と言うか?」
「う……」
万太郎も言葉に詰まってしまった。
「そして、そこにおるセイウチンとやら」
「お、おらだか?」
唐突に名前を呼ばれてセイウチンは驚いた。
「貴様の超人としてのポテンシャルは高い。真面目にトレーニングすれば、強豪にもなり得る可能性があるのだ。しかし貴様は生来の優しさで、自身の強さよりも人間達の平穏を重視している。トレーニングの時間を割いてまで、人間の生活を監視し、貴様の可能性が潰されているのだ。これもいわば、人間を守るがための負担なのだ」
「そ、それは……」
セイウチンも言葉に詰まった。
「このように放置していた事は私の罪である。人間同様、お前達超人も、私は愛しているのだ。だからこそ、お前達の負担を減らす計画として悪しき人間の排除を考えたのだ!! もうメンバーは私とアヌビ・クレアの二人しかいない! しかし、それでも我が計画は止まれないのだ!!」
「お前の言っている事はただのわがままじゃねえか!!」
どこからか大声が聞こえてきた。大声の聞こえた方向を見ると、ガゼルマンの姿があった。ミスターノアが感心した態度をとった。
「ほう、かろうじて立ち上がってきたか。しかし、先程のわがままとはどういう事だ?」
「一つ勘違いしないでもらいたいが、俺は皆がわがままで結構と思っているさ! むしろわがままでいた方が良い! 自分の人生、自分にわがままに生きた方が気持ちが良いってもんさ! あんたはあんたなりの正義を貫けば良い! 俺だって人類の平和よりも、自分の名誉のために闘っているんだ! でもな、わがままってのはな、皆に納得する形で示さねえといけねえんだ!!」
「そうだな。ならば私のわがままを貫くために、貴様にとどめを刺すとするか!」
「その答えを待っていたぜ!!」
ミスターノアが再びリングに戻り、ガゼルマンも臨戦態勢をとる。しかし、ガゼルマンの体は誰が見てもこれ以上闘えないと判断できる状態であった。。
「ガゼルマン! それ以上やったら死んじゃうよ!」
万太郎がガゼルマンを心配してきた。それに対し、ガゼルマンは笑みをうかべた。
「万太郎よ、これ以上やったら死ぬ事は先刻ご承知さ。なんせ自分の体なんだから、自分がよく分かっている」
「じゃあ尚更すぐにリングをおりなきゃだめじゃないか!」
「至ってしまったんだよ! 闘って死ぬ事よりも、目の前の奴を倒せない事の方がよっぽど嫌だっていう境地にな!!」
「ガゼルマン……」
テリー・ザ・キッドが駆け寄ってきた。
「万太郎、ガゼルマンのあんな姿を見るのは初めてじゃないか。応援してやろうぜ」
セイウチンもそばに駆け寄った。
「よ~し、久々にチームAHOの絆をみせるだよ」
万太郎とテリー・ザ・キッドが思わぬ言葉が出てきて、呆気にとられた。少しして、テリー・ザ・キッドが笑い始めた。
「はははは! そうだなセイウチン! 俺達はアホ! アホだからこそ、奴の無茶な頑張りを応援しようじゃねえか!!」
万太郎も決意を決めた顔となった。
「決めたよ、僕もガゼルマンが勝つ事を信じて応援する!」
「ありがてえぜ」
ガゼルマンがそう言うと、身体に黄金の光が灯った。
ボワァ
そんなガゼルマンに、ミスターノアが興味のある態度をとった。
「ほう、これが慈悲の力とやらか。かつて悪魔将軍がゼウス(ザ・マン)を破った時に使われた力、是非とも正面から受けて見せよう!」
ドドドドド
ミスターノアがガゼルマンにものすごい勢いで突進し、組み合った。
ガシィィ
ミスターノアは全力をこめて組み合っているが、ガゼルマンの体がびくともしない。予想以上の力に驚き、冷や汗をかく。
「な、なんだこの力は!?」
ミスターノアはガゼルマンの後ろにいる何者かの存在に気付いた。
(私も微力ながら協力するぞガゼルマン!)
シュボォ
ミスターノアに倒されたジ・アダムスが亡霊としてガゼルマンの背中を支えるように加勢していた。
「サンキューな、ジ・アダムス!」
シュボォ
さらにもう一人亡霊が現れた。かつて、レックスキングに惨殺された
(久々だな生意気野郎め、しばらく見ねえ内に大層出世したじゃねえか! 俺様も力を貸してやるぜ!)
「では、俺の出世ぶりを見せてやるよ、バーバリアン!」
シュボォ
また一人亡霊が出てきた。かつてボーン・コールドに惨殺されたジャイロに姿であった。
(俺達だけじゃあ、寂しいからな、応援をさらに呼んできてやったぜ!)
「応援? どういうことだジャイロ?」
観客席から、ガゼルマンの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ガゼルマン! ガゼルマン! ガゼルマン!」
ゴージャスマン、アポロンマンといった、他の一期生達が駆けつけ応援していたのだ。
「こんだけ舞台を整えてもらったなら、勝たなきゃあいけねえなぁ!!」
ガゼルマンに気合いが入った。
「俺にはもう俺自身のオリジナル技がねえ、だからここから先は、仲間を信じて闘っていくぜ!! これが最初で最後のガゼルマンの絆の技だ――――――っ!!」
ガガゴォン
ガゼルマンは組み合った状態から、ミスターノアに思い切り、右膝蹴りをかました。
「ぐおぉっ!」
「これで終わりじゃねえ!」
ガゼルマンは更に、右膝をミスターノアの顎に引っかけ、両手でミスターノアの頭部を持ち、バックドロップのように宙返りし、そのままミスターノアの頭部をリングにたたきつけた。。
「ガゼル・ブランディング!!」
ガガァァン
ガゼルマンの体重ののった膝がミスターノアの頭部に大きなダメージを与えた。
「ぐおはぁ!」
その技はテリーマンの必殺技、カーフ・ブランディングと類似したものであった。
「悪いなキッド! お前の技を俺流に使わせてもらったぜ!」
テリー・ザ・キッドは喜ばしそうな顔をする。
「ガゼルマン! テリー家に代々伝わる必殺技を、グレートに昇華させやがって! 嬉しいぜこの野郎!」
馬と鹿から天才的な技が生まれた!!